表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第四話 流血はやばめな感じらしい

投稿したくなったのでストック含めて公開します


 今日も今日とて俺は庭でぼーっとしてる。最近気がついたのだがこの庭、薔薇の生垣があった。しかもやたらと立派なやつだ。背の高さくらいまで枝が伸びていて、真っ赤な花がいくつも咲いている。


 ルネ様は近くのベンチで本を読んでいる。……最近、一緒に行動することが増えた。もしかして、人恋しいのだろうか。いや、無いな。ルネ様だし。


「こんなに広い庭だと、迷いそうですよね」


 俺が言うと、ルネ様は読んでいた本から顔を上げた。

 

「実際、迷った人もいたよ」

「え、マジですか?」

「昔ね」


 さらっと言われて俺は思わず庭を見渡した。まあ、こんな森みたいな場所なら、確かに迷うかもしれない。


 ふと視線を戻すと、薔薇の枝が少し伸びすぎているのが目に入った。生垣から飛び出した枝が、通路の方に垂れている。あれ、そのままだと絶対引っかかるやつじゃない?


「ルネ様」

「うん?」

「この枝、ちょっと危なくないですか?」


 俺が指差すと、ルネ様もちらっと見た。


「そうだね」

「切った方がよくないですか?」

「気になるなら、切ってもいいよ」


 そう言われて、俺は近くに置いてあった庭ばさみを手に取った。……よし。奴隷としての初仕事かもしれない。俺は少しだけ感慨に浸りながら、薔薇の枝に手を伸ばした。


 その瞬間だった。


「っ……」


 鋭い痛みが走った。周りの枝のトゲが、思いっ切り指に刺さった。指先から、じわっと赤い血がにじむ。


「うわ、やっちゃった……」


 たいした怪我じゃない。でも思ったより深かったらしい。ぽたり、と血が地面に落ちた。そのときだった。さっきまでページをめくっていた音が、ぴたりと止まった。


 顔を上げる。ベンチに座っていたルネ様が、こちらを見ていた。さっきまでと、明らかに纏っている雰囲気が違っている。視線が、俺の手に向いていた。


「……朔」


 声が、いつもより少し低い。


「はい? どうかしましたか?」


 俺が返事をすると、ルネ様は立ち上がった。でも――途中で足を止めた。一歩、後ろに下がる。


「……大丈夫?」

「え?ああ、これですか」


 俺は気軽に手を振った。


「ちょっと刺さっただけです」


 血が、ぽたりと落ちる。その瞬間、ルネ様の喉が小さく動いた。俺はそこでやっと気づいた。……あれれ? もしかして。


「ルネ様?」

「……近づかないで」


 初めて聞く声だった。低くて、少しだけ掠れている。


「え?」

「それ以上、近づかないで」


 ルネ様は顔を逸らした。それでも視線だけは、俺の指先から離れない。まるで、何かを必死に堪えているみたいだ。眉を寄せたその顔は妙に色っぽかった。


 俺は自分の指を見る。まだ血が滲んでいる。ぽたり、と赤い雫が地面に落ちた。その瞬間、ルネ様の喉が小さく動いた。……あ、これ。


「……我慢してます?」

「していない」


 即答だった。でもどう見たって嘘だ。ルネ様は視線を逸らして、ぎゅっと眉を寄せている。しばらく沈黙が続いた。やがてルネ様が小さく言う。


「番の血は……特別なんだ」


 ぽつりと落ちた言葉だった。なるほど? つまり――。俺は少し考える。ルネ様は吸血鬼で、血を飲む生き物で、でも番以外の血は飲まないって言っていた。ってことは。今までずっと飲んでないってことだよな。……それ、普通に大変じゃない?


「……ルネ様」

「何?」


 俺は少しだけ迷って、それから言った。


「ルネ様になら、良いですよ」


 沈黙が落ちた。ルネ様がゆっくりこちらを見る。


「……朔」

「血、飲んでください」


 ルネ様は何か言いかけて、言葉を止めた。それから視線を逸らす。


「それは……」


 声が、少しだけ低い。でも次の瞬間、ルネ様は小さく息を吐いた。


「……ここではだめだ」


 そう言って、俺の方に歩いてくる。


「部屋に行こう」


 ルネ様に手を引かれて屋敷の廊下を並んで歩く。さっきまで庭にいたのに、やけに静かに感じる。俺は少しだけルネ様を見た。横顔はいつも通り綺麗だけど、どこか緊張しているようにも見える。


 ……本当に吸われるんだよな。ちょっと怖い。でも、不思議と嫌じゃない。むしろ――。少しドキドキしている。


 やがてルネ様は大きな扉の前で止まった。


「ここ」


 扉が開く。中は広い部屋だった。大きな本棚、重いカーテン、そして窓際にはソファが置かれている。


「座って」


 言われるままに俺はソファに座った。ルネ様は少しだけ距離を置いて立っている。


「……無理なら、言って」

「大丈夫です」


 俺は食い気味にそう言って、シャツのボタンに手をかけた。自分でも何をしてるんだろうと思う。でも、なんとなくその方がいい気がした。ボタンを外して、襟を少し開く。ルネ様の視線が一瞬揺れた。俺は少し照れながら言った。


「首からで、良いですよね?」


 ルネ様が一瞬固まる。


「……どうして?」

「その方が飲みやすそうなので」


 そう言って、俺は少し首を傾けた。その瞬間。ルネ様の瞳がわずかに細くなる。肩に手を置いて、ゆっくりと近づいてくる。距離が、近い。


 呼吸が聞こえる。少し冷たい指が俺の肩に触れた。そして――


「……ごめん」


 小さく呟いたあと。牙が、肌を裂いた。


「っ……」


 ちくりとした痛みが走る。鈍痛。思ったより痛い。でもそれは最初だけだった。次第に感覚がぼやけてくる。体がじんわり熱くなって、力が抜けていく。というか、力が入らなくなる。視界が少し揺れた。


 遠くで、ルネ様の息遣いが聞こえる。必死に、血を飲んでいるみたいだった。……ああ。本当に飲んでるんだ。そんなことをぼんやり思いながら、俺の意識はゆっくり沈んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
かなり我慢してたっぽいですね〜。 (*´ω`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ