第十一話 レッドベリルのその瞳
俺の誕生日から数日過ぎたあとだった。わざわざルネ様の部屋に呼び出される。
「これ、誕生日プレゼント」
そう行ってルネ様が差し出したのは小さな箱。赤いリボンで丁寧に封をされたそれは、思っていたよりも軽かった。
「……ありがとうございます」
……誕生日プレゼント、用意しなくていいって言ったのにな。リボンを解いてそっと蓋を開ける。
「わあ……」
中に入っていたのはループタイだった。細い紐に、ちいさな飾り。装飾は控えめだけど、不思議と目を引く。中央には深い赤色の石がはめ込まれていた。かざしてみると、光の加減でわずかに色が揺れている。
「綺麗……」
思わず、そう呟いく。
「どう?気に入った?」
「はい!」
迷わず頷くと、ルネ様は少しだけ目を細めた。
「じゃあ、」
ほんの一拍、間を置いて。
「ここでつけてもいい?」
「え?今ですか?」
「そう」
軽い調子。けれど断る選択肢があるようには思えない。
「なら……お願いします」
小さく頷いた瞬間、距離が縮まる。
「動かないで」
低い声と同時に、肩にそっと手が置かれた。それだけで、体がぴくりと強張る。近い。思っていたより、ずっと近い。呼吸の気配が分かるくらいの距離で、ルネ様が手を伸ばしてくる。
指先が、首元に触れた。ひやりとした感触。けれど、すぐに体温に馴染んでいく。紐を通して、位置を整えていく動きがやけに丁寧で、逃げ場みたいなものがどこにもない。触れられている場所ばかりが、やけに意識に残る。
「……そんなに緊張しなくてもいいのに」
くすっと、笑う気配。
「してません」
反射的に否定するけど、自分でも説得力がないと思う。指先が、最後に軽く位置を整える。
「はい、できた」
するりと手が離れた瞬間、少しだけ息を吐いた。解放されたはずなのに、どこか名残惜しいような感覚が残る。
「鏡、見てみなよ」
言われて、視線を向ける。鏡の中に映っていたのは、首元に赤い石をつけた自分。普段と少しだけ違う姿。それだけのはずなのに、なぜか目が離せない。そして、その隣には。ルネ様が立っていた。自然と、視線が並ぶ。鏡越しに、目が合う。その瞬間、
「……あ」
気づいた。深い赤色。暗くて、どこか引き込まれるような色。――これ。ゆっくりと、ルネ様の瞳を見る。同じ色だった。
「……これ」
言いかけたところで。
「気づいた?」
先に、言われる。逃げ道を塞がれたみたいに、言葉が止まる。
「……はい」
小さく頷く。偶然じゃない。分かってしまう。この色を選んだのは、きっと。意図的だ。視線が、ゆっくりと落ちる。自分の顔から。首元の石へ。じっと、見られている。
まるでそこに印でもつけたみたいに。逃げ場がない。
「よく似合ってるよ」
静かな声。優しいはずなのに、どこか逃げ場を与えない響き。まるで、――逃がさない、と言われているみたいで。
「……っ」
心臓が、どくりと鳴る。少しだけ、怖い。けれど。嫌じゃない。むしろ。どこか、安心してしまう。この人の視線の中にいることが、当たり前みたいに感じる。
もう一度、鏡を見る。赤い石。視線を向ければ、すぐにそこにある。ルネ様の瞳と、同じ色。――これ、ずっとつけててほしいってことなのかな。
そんな考えが浮かんだ瞬間。胸の奥が、きゅっと締まる。その独占欲を、少しだけ、嬉しいと思ってしまう。――困ったな。そう思いながらも。その色から、目を逸らすことができなかった。




