34.番外編 ユウリ
僕は公爵家の長男として生まれ厳しく育てられた。
父と母は僕のことが嫌いらしく笑いかけてくれた事が1度も無い。
特に母は僕が見えていないのか視線を合わせようともしなかった。
ある日階段で本を読んでいると母が横を通り過ぎた。
何か話しかけようかと思っていたら僕の本につまずき母は下まで階段を転げ落ちた。
そして若くして母は命を落としたのだった……
母が居なくなると屋敷の者たちは僕が殺したと噂した。
ないがしろにされ悪意を抱いたのだと、しかしそんなつもりはなかった。
今でも母が階段を落ちながら僕を見つめていた絶望の形相をたまに夢に見て飛び起きることがある。
いつしか僕は母殺しとして恐れられた。
父も相変わらず僕に関心がなく、話すことといえば家に関する事だけ。きっと僕の事をただの屋敷を受け継ぐだけの物と思っているのだろう。
そんな父も早くに亡くなり僕は若くして公爵家を継いだ。
若くして公爵家を継いだ僕に世間は冷たかった。
周りの貴族共は位が下のくせに馬鹿にしてきたりして僕は気を緩める暇もないまま日々を過ごした。
ようやく公爵という立場に慣れてきた時ある女性に出会った。
優しい女性はこんな僕にも対等に話しかけてくる。
僕は初めて人に興味を持った。
しかし人を愛すること、愛されることを知らない僕の思いはいつしか彼女を傷つける事でしかできなかった。
ただ彼女に笑って欲しくて、僕を見て欲しかった。
彼女を求める気持ちは僕に道徳を超えた行いをさせる。
気がつくと公爵家という身分も剝奪され僕の元には何も残っていない。
僕がこのまま死んでも悲しむものなんていない。
冷たい地下の牢屋の中、光のない真っ暗な場所で僕はその命が尽きるのを静かに待っていた。
「ハッ!」
ぼくは同じ夢を見て飛び起きた。
これまで何度も見た夢だ。
そしてこれは実際に訪れる未来だと思う。
ぼくはおとーさまとおかーさまに嫌われているんだ。
真っ暗な最後を迎えたような場所でぼくは膝を抱え込んで丸くなる。
もう目覚めたくない……このまま眠りにつけたら
そう思っていると声が聞こえてきた。
「ユウリ!」
必死に名前を呼ばれてぼくは力なく顔をあげた。
するとそこにはぼくと同じ黒髪の女の子が立っていた。
ぼくより少し大きいその子はぼくを見るなり涙を流した。
そしてぼくを抱きしめる。
初めて抱きしめられ困惑しているとその子は早口で喋りだした。
何を言っているのか半分もわからなかったが、どうやらぼくが幸せになる、幸せにしてくれるとか言っていた気がする。
優しいおかーさまが現れてぼくの願いをなんでも叶えてくれるのだと言う。
「そんなことあるの?」
そう聞くと女の子は力強くうなずく。
「なんてったって私のお母さんだからね!」
「君のおかーさまがぼくのおかーさま?」
「そう! 私も絶対会いに行く!」
そう言うとハッとして時間が無いと慌てだした。
「ユウリ、頑張って!あなたは絶対幸せになる」
その子はだんだんと薄くなり消えそうになった。
「待って! あなたはだれ?」
消えてほしくなくて手を伸ばした。
その子も手を伸ばしてぼくを掴もうとするがその手は空を切った。
「私は優里亜! あなたの妹よ!」
本当は姉になりたかったけどね……
なんか最後の方はよく聞き取れなかった。
ぼくはベッドの中で目を覚ました。
今のは夢?
しかし泣いていたのかベッドは涙で濡れている。
不思議な夢にのそのそと起きるとメイドがやってきて着替えを済ませる。
ぼくは本を抱えるといつもの場所で本を読み始めた。
階段の一番上のこの場所はおとーさまとおかーさまがよく通る場所。
今日も2人が通るかもしれないと待っているとおかーさまがやってきた。
しかしその瞳はぼくを見ようとしない。
ぼくは端に避けて身を硬くしていると夢と同じようにおかーさまが本につまずき階段を落ちる。
あっ……
落ちるおかーさまと目が合った。
しかしその目は夢で見た絶望の表情ではなく、ぼくを優しく見つめていた。
夢と違う?
「だから言ったでしょ!」
後ろから声が聞こえた気がして振り返るが誰もいない。
何かが変わった……
「だ、だれかー!おかーさまが!」
ぼくは大声を出して屋敷の者を急いで呼んだ。




