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私は頭の痛みで目を覚ます。
あの野郎、ふざけんじゃないわよ!
絶対に警察呼んで後悔させてやる!
私は興奮冷めやらず、目を開けると、知らない部屋にいた。
「ここ、どこ?」
もちろん自分のアパートでもないし、病院にしては内装が豪華でまるでホテルのように見える。
ホテルとしてもかなり高そうな部屋に、私は怒りを忘れて不安になってきた。
「え? まさか運び込まれたの?」
事件に巻き込まれてるんじゃないかと周りを警戒していると重厚感のある扉が開きメイド服を着た可愛らしい女性が入ってきた。
「お、奥様が!」
そして私を見るなり驚いた顔をして部屋を飛び出していく。
「おくさま?」
私は他に誰かいるのかと部屋を見渡す。
よく見ると品のいい高そうな家具が揃っていてそれなりに高貴な人の部屋っぽい。
私は間違えて入ってしまったのかとベッドから起きて移動しようと考えているとバタバタと部屋に人が来てしまった。
「奥様が目覚めました!」
先ほどのメイドさんがお医者さんらしき人を引っ張ってきたようで他にも数人引き連れてやってきた。
「あの、すみません」
私は言い訳をしようと声をかけるとメイドさんが私の体を支える。
「奥様、寝てください! 先生早く見てください」
私は再びベッドに寝かされてしまった。
「あ、あのなにか勘違いしてませんか? 私奥様じゃ...」
そう言おうとすると頭にまた激痛が走った。
「痛っ!」
頭を抱えると周りが慌てだし医師が私の様子を確認する。
「頭以外に痛いところは?」
「い、いえ...でもなんか体の感じが...」
なんとなく体に違和感があり手を見るといつもより綺麗になっている手に驚いた。
「え、なんで?」
仕事をしすぎてガサガサになっていた手がツルツルだった。肌もいつもより張りがあるように感じる。
「プルメリア様他に痛むところはございますか?」
「プルメリア?」
誰それ?
戸惑った顔をしていると周りが少しざわめき出す。
「きっと混乱されてらっしゃるんだわ」
「確かに3日も寝ていらしたんだ」
「3日!」
周りの言葉に驚いて思わず声をあげる。
「はい、プルメリア様は階段から落ちてしまい気を失っていたのです」
最初に来たメイドさんが説明してくれる。
「ま、待って! プルメリアって私?」
皆が哀れんだような顔で私を見つめてくる。
「違う違う、私は......あれ?名前...なんだっけ?」
何故か名前が出てこない、不安もあり必死に思い出そうと下を向くと髪が落ちてきた。
その髪色をみて思わず震えながら触る。感触は自分の髪なのに知らない触り心地がする。
私は真っ黒なストレートの髪なのに今頭にあるのは真っ白でパールホワイトに近い色をしている。決して白髪とかではなくツヤツヤとした美しい髪だ。
「だ、だれか...鏡を...」
嫌な予感に鏡を頼み、顔を映す、するとそこには見た事もない美しい女性が青白い顔をして不安そうな顔を見せていた。
「だ、誰?」
私はパニックと頭の痛みに再び気を失ってしまった。
その日私は夢を見た。
それはこの女性、プルメリアの夢だった。
彼女は裕福な家に生まれ何不自由なく過ごしていた、そして16歳になりある男性と結婚する。
恋愛結婚ではなく家同士の政略結婚だったがプルメリアはそこから愛が生まれると信じていた。
しかし夫は冷たく、必要以上に話しかけて来ない。
元々そんなに社交的でないプルメリアはだんだんと一人で過ごすことが多くなった。
ギクシャクした夫婦生活の中、子供も生まれた。
しかし夫に似た我が子をプルメリアはどうしても愛せなかった。
子供はプルメリア達親の愛を知らずに4歳になっていた。
そんな時、子供が階段で一人本を読んでいた。
プルメリアはそんな子供の横を居ないものかのように歩いていく。
そして最後の一段を上がろうとした時、子供が置いておいた本に躓き足を踏み外した。
唖然と空を掴むプルメリアの視線の先には驚き目を見開く子供の顔が見える。
子供はプルメリアが落ちるのを瞬きもせず、ずっと見つめていた。
「はっ!」
私ははぁはぁと息をあげて目を覚ました。
そこは先ほど起きたあの豪華な部屋だった。
ゆっくりと立ち上がろうとするが足に力が入らない。しかも足首に痛みがあるが何とか壁をつたい鏡の前までやってくる。
もう一度鏡を覗くとそこには不安そうなプルメリアの顔がある。
ぺたぺたと顔を触ってみるがやはり変わらない。
「私、死んだの?」
元夫に頭を殴られた所までは覚えている、あの後どうなったか何もわからない。
しかも自分の名前さえ忘れてしまった。
その代わりプルメリアとして生きてきた記憶が頭にあるのだ。
「うそうそ、私の優里亜は?ここどこ?私は優里亜の為にも頑張って生きようと...」
幸い最愛の娘の名前は忘れていない。
「優里亜に会いたい...」
どうせなら死んで天国で優里亜に会わせてくれればいいのに
私は冷たい床の上で涙を流し続けた。




