レイ(俺)は密かに、騎士団長(彼女)に恋をする。
俺は普通の男だ。
平凡で髪色も黒、瞳も黒、どこにでもいる一般市民。
名前はレイ。春のある空が綺麗に染まる夕日の時間に出会ってしまった。
それこそ運命の人。
かっこいい騎士団長のカレン様に。
俺、総菜屋の息子で配達していたんだ。
高台にあるお宅に、カツとかコロッケとか大量に。
届けた帰りちょうど夕方で、高台にちょうどいい景色が見える坂があってさ、たまたま眺めていたんだ。
そしたら坂の上の大きな木の下に、銀の髪をお団子にまとめたランニングシャツの美女が座っていたんだ。
夕日のオレンジ色がほほにさして、横顔もきれいで、髪もオレンジに色づいて、大きな目から流れる涙も染まっていたんだ。
思わず声をかけてしまった。
「大丈夫ですか?どこか痛いですか?」
突然声をかけたからびっくりしたみたいで大きな目からまた涙が溢れてしまった。
「すみません、いきなり声をかけて失礼しました」
勢い良く低姿勢になり謝った。
「いや、すまない。感傷に浸っていて気が付かなった」
立ち上がった彼女は俺より背が高く凛としていた。振り返った顔には涙はなかった。
「声をかけてくれて助かったよ。今日は母が亡くなってから1年すぎてね、同じような夕日がきれいな日だったんだ。私はカレン。君は?」
「俺はレイです。配達でこの辺に、初めて上ってきました。すごく綺麗な夕日ですね」
「母が元気な時によく訪れたんだ。さてと、暗くならないうちに戻らないと」
彼女が言うと、ではまた!と言い残して颯爽と走って坂を下って行ってしまった。
僕は涙が綺麗なカレンさんを目で追いつつ、日が落ちるまで眺めた。
数日後、また違う地区に配達にでた。
配達先で荷物を届けて帰る途中、ちょっとしたトラブルに巻き込まれていたんだ。
花束を持っていた小さな女の子が、ガラの悪い大人たちに囲まれていて、俺の悪い癖だ、また声をかけてしまった。
そうしたら俺が絡まれて、配達先で預かていたお釣りを取られてしまったんだ。
「返せ!」と叫んだ声とともに颯爽と女神が現れた。カレンさんが来たんだ。
部下数名を引き連れて、銀色の髪をなびかせて、騎士の銀色に輝く鎧を身に着けて、群青色のマントをまとって俺の前に膝をついた。
「これでいいか?」
手には数枚のコイン。
「レイ?ケガはなかったか?」
コインを見て、そのまま顔を上げたら、カレンさんがほほ笑んでいた。
知らなかったんだ。カレンさんがこの国の騎士団長様だったなんて。驚いた。
輝きすぎて目がくらみそうだった。
「彼は知り合いなんだ。調書を取りたいから一緒に来てくれないか」
ガラの悪い奴らは最近悪いうわさが絶えず警戒していて、たまたま見つけたらしい。
連絡を聞いて駆けつけたら俺がいたらしい。俺は
腕をつかまれて痣になってしまったが女の子は無事だった。
簡単な受け答えをしてから店まで送ってくれた。
「あのっ!今日はありがとうございました」
かっこいいカレン様を見られたし、おつりも取り戻してくれた。なにより助けてくれた騎士団長様は騎士団始まって以来の初女性騎士団長。
歴代最強を豪語しても問題なく、周りからも一目置かれる空の上の存在。
それがどいうして、町の総菜屋まで来ていただき、しかも目の前でコロッケを食べている。
母が感激しまくって、コロッケを大量に押し付けてしまった・・・。
「レイの母のコロッケは美味いな!毎日揚げたてを食べたい!」
そんなことを言うもんだから母も舞い上がっている。
「カレン様、コロッケは騎士団に届けに行きます!たまに買っていただけますか?」
「レイ、様はいらない。コロッケは買いに来るから届けに来る必要もないな。むしろ買いに来る」
ぽかんとしている俺を横目に、いい笑顔を振りまいている。
騎士団の方々もコロッケをたべて、にこにこしている。
母も喜んでいるから、まぁいいか。そんなことを思っていたのに、カレンさんの思惑はちょっと違ったようだ。
また数日過ぎたころ、また坂の上のお宅から注文が入った。
届けた後に、またカレンさんに出会った。
今度はランニング姿ではなく騎士団長としての格好で。
「レイ、待っていたぞ!君の店で待っていてもいいのだが、今日はこのへんが仕事場だったのだ」
きっと会えると思っていた。そう言われたら、きゅんとしちゃうじゃないか。
それから何度か、木の下で出会う日があった。
騎士団のお仕事の時もあれば、私服のこともあり、ランニングの時もあり
何度も何度も会ううちに気が付いてしまった。
俺に会うために、木の下で待っていてくれている・・・?
俺は・・・もしかしてお慕いしてしまったのかも、しれない。
そう勝手に思っていた勘違いも、もしかしたら・・・カレンさんも同じだったり・・・するのではないか。
騎士団長様が、ごく普通の俺を好きになってくれるだろうか。
季節を何回かすぎて、また春の日に、坂の上の木で待っていた。
「レイ!」俺を呼ぶ声が聞こえた。笑顔がまぶしい。
思い切って聞いてみたいことがあるんです!声を張って言ってみる。
「俺があげたコロッケを毎日たべてくれませんか?」
精一杯の告白だった。勢いで聞いてみたが、はっと気が付いた。
毎日は胃もたれするかもしれない。同じ揚げ物を毎日はきついか・・・。
気が付いた時にはもう遅い。やってしまった。血の気が引いた。
「やっと言ってくれか!待っていたぞ。」
え?きょとんとしてた俺を見つめてくれているカレンさん。
「レイのコロッケが大好きなんだ。レイ、好きだ。もちろん君のことが」
女性として男性から告白されるのが夢だったと教えてくれた。
もちろん顔を赤く染めて、恥ずかしさでいっぱいになった俺を抱きしめてくれたのはカレンさんだった。
立場は違うけど、騎士団長様の胃袋をつかんだ俺は、ずっとずっと告白を待たせてしまったらしく、季節をあと数回すぎたら、自分からプロポーズするつもりだったのを聞いたは、もうすこし後の話。