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芸術

作者: 残像

第一章:日常の観測者



 毎朝七時二十三分、後方から三両目、進行方向左手のドアのそば。

 僕、木村宙の世界は、その座標に君が立つことでかろうじて意味を成していた。世界は一枚の巨大な透明フィルムで、君という存在だけがそこに焼きつけられた唯一の像だった。他の全てはピントの合わない、ぼやけた背景に過ぎない。

 僕の高校生活は、娯楽を誤楽と言い蔑視してしまい、友人も到底面白みも得られないものである。教室という閉鎖空間で交わされるクラスメイトたちの会話は、水面を滑るアメンボのように軽薄で、僕の意識になんの痕跡も残さずに通り過ぎていく。休み時間になれば、彼らは磁石のように引き寄せあって小さなグループを作り、僕には到底理解できない熱量で、昨日のテレビ番組やSNSの話題に興じる。僕はと言えば、窓際の席から、校庭の隅で風に揺れる名も知らぬ雑草を眺めている方がよほど有意義な時間に思えた。校舎一階にある僕の教室から見る景色は、対等な目線からしてもかなり低く感じた。窓枠という額縁で観覧する景色、自分が雑草よりかは優位に立てるこの時間に浸る。時折、食物連鎖界の頂点に君臨する人間との比較対象が雑草という事実に、心が悲しみ嘆くこともある。

 部活動にも所属していない。放課後のチャイムは、僕をこの息苦しい水槽から解放する合図だ。誰に声をかけるでもなく、かけられるでもなく、僕は足早に校門を抜け、自宅へと続く道を歩く。家につけば、最小限の挨拶だけを交わして自室に籠る。両親との関係は、冷え切っているわけではないが、燃え上がることのない常温の水のようなものだった。彼らは僕に食事と寝床を与え、僕は彼らに「問題を起こさない息子」という役割をまっとうし返す。それだけの機能的な関係である。

 僕はまるで、自分の人生という物語に名前すら与えられていないエキストラのような気分だった。カメラは決して僕に焦点を合わせない。僕の感情も、思考も、この世界の筋書きにはなんの影響も与えない。だから僕は、他人に興味を持つことをやめた。期待することをやめた。傷つくことを恐れるあまり、僕は自分から世界との間に分厚いガラスの壁を築き、その内側で安全に息を潜めていた。

 そんな僕にとって、朝の通学電車だけが唯一の聖域だった。そして、その聖域の中心に君臨していたのが名前も知らない、君だった。

 二年に進級して間もないまだ肌寒い春の日。僕は初めて君を意識の中に入れた。他の誰もがスマートフォンの小さな発光体に魂を吸い取られている中で、君だけが、まるでこの世に自分一人しかいないかのように、静かに窓の外を眺めていた。流れていく景色を映すだけの、感情の読めない黒曜石の瞳。その瞳が、僕の空虚な心に杭のように打ち込まれた。

「君は何を見ているのだろう。何を考えているのだろう。」

 その問いは僕の中で無限に反響し、僕の無色透明な日常を侵食し始めた。僕は、僕自身の人生を生きる代わりに、君の人生を想像で生き始めたのだ。君の視線の先に広がる平凡な住宅街では、僕の想像力の中では、君が主人公の壮大な物語の舞台装置となった。君がふと眉を顰めれば、その物語に悲劇の影が差し、君の唇が微かに綻べば、世界は祝福の光に満たされた。君は僕の世界の天候を支配する、絶対的な存在になった。

 ある日、僕は衝動的に画材屋に寄り、一冊のスケッチブックと鉛の筆を買った。その夜、僕は自室の机に向かい、記憶の中の君を紙の上に蘇らせようと試みた。最初はお世辞にもうまいとは言えない、ただの稚拙な線画だった。だが僕は諦めなかった。来る日も来る日も、電車の中で君の姿を網膜に焼き付け、夜ごと紙の上で再構築する。その作業に没頭している時間だけが、僕が「生きている」と実感できる瞬間だった。

 観察を続けるうちに、僕は君の些細な癖に気づき始めた。電車が大きく揺れた時に、決して吊り革に掴まらず、足を踏ん張って耐えること。時折、ガラスに映る自分の姿にハッとしたように視線を伏せること。駅に停車する直前、ほんの少しだけ唇を固く結ぶこと。それらの一つ一つが、僕にとっては解読すべき暗号であり、僕だけが知る君の真実だった。

 スケッチブックのページが埋まっていくにつれて、僕の中の君の像もまた、より鮮明に、より理想的に構築されていった。それはも早、模写ではなく創造だった。僕は神になった気分で、僕だけのミューズを紙の上に顕現させていた。僕の描く君は、決して笑わない。決して誰とも話さない。ただ、崇高なほどの静寂を纏い、窓の外の、僕には見えないどこか遠い世界を見つめている。それが僕にとっての完璧な君の姿だった。

 僕は、この聖域が永遠に続くものだと、何の疑いもなく信じていた。僕が観測者であり、君が被写体であるという、この完璧な均衡。僕はこのガラス壁の内側から、君という美しい絵画を眺め続けるだけでよかった。それだけで、僕の空っぽの心は満たされていたのだ。

 話しかけたい、と思ったことがないわけではない。だが、その欲望は、僕の築き上げた聖域を汚す冒涜的な行為に思えた。言葉を交わしてしまえば、君は「僕のミューズ」から、ただの「現実の女子高生」に成り下がってしまうだろう。僕の知らない話題で話し、僕の知らない表情で笑うかもしれない。そんな現実は、僕には必要なかった。僕が愛していたのは、生身の君ではない。僕が作り上げた、「窓の外を見つめる少女」という、完璧な幻想そのものだったのだから。

 だから僕は、今日もドアのそばに立ち、数メートル先の君を盗み見る。ガタン、ゴトンと刻まれる規則正しいのか正しくないのか分かりずらいリズムが、僕の鼓動と妙に重なる。君が一つ先の駅で降りていく、その背中を見送るまでの短い時間。それが僕の一日の中で、唯一色が与えられる瞬間だった。



第二章:聖域の亀裂



 季節は春から夏へと移ろい、車内に差し込む日差しの角度が変わった。じっとりとした湿気が肌にまとわりつき、人々の首筋には汗が光る。僕の聖域にも、じわりと、逃れられない現実の熱が浸透し始めていた。

 最初の亀裂は、本当に些細なものだった。

 その日、僕はいつものように君の姿を網膜に焼き付けていた。半袖になったセーラー服から伸びる、白く細い腕。僕が何度もスケッチブックに描いてきた完璧なライン。だが、その左手首に、僕は見つけてしまった。薄紫色の、指で押したような痣を。

 心臓が嫌な音を立てて軋んだ。

 何だ、あれは。どこかにぶつけたのか?それとも、何かスポーツでもしているのだろうか。僕の頭は、その異質な染みを僕の物語に都合よく組み込むための言い訳を、必死に検索し始めた。そうだ、きっと彼女はちょっとおっちょこちょいなところがあるんだ。それもまた、彼女の人間的な魅力の一つに違いない。僕は自分にそう言い聞かせた。その夜、僕はスケッチブックに、一点の曇りもない、完璧な肌を持つ君の腕を描き加えた。見たくない現実は、僕の鉛筆が消し去ってくれる。僕の世界では、僕がルールなのだから。

 だが、一度入った亀裂は、塞ごうとすればするほど、その存在を主張してくるものだった。

 数日後、僕は見てしまった。僕の聖域を根底から揺るがす光景を。

 君がいつもの駅で降りた後、僕は無意識にその姿を目で追っていた。すると君は改札へは向かわず、ホーム端にある柱の陰へと吸い込まれていった。そこには、一人の男が待っていた。年は三十代後半から四十代くらいだろうか。着古されてくたびれたスーツに、疲労と苛立ちを滲ませた顔。君と並ぶには、あまりにも不釣り合いな存在だった。

 二人の間に流れる空気は、僕が君に抱いていた清らかなイメージとは程遠い、重く澱んだものだった。男が何やら強い口調で捲し立てると、君は怯えた容易俯いた。その仕草は、僕の知らない君の姿だった。僕のミューズは、誰かの前で萎縮したりなどしない。

 やがて男は苛立ちを隠しもせず君の腕を掴み、無理やりどこかへ連れて行こうとした。君は抵抗しその手を振り払った。その瞬間、君が見せた拒絶の表情。それは僕が今まで見たことのない、剥き出しの感情だった。電車がゆっくりと動き出し、僕にはそれ以上のことは見えなかったが、その光景は僕の網膜に、熱した鉄印のように焼き付いて離れなかった。

 あれは誰だ…?父親か?それにしては雰囲気がおかしい。恋人…?いや、それだけは断じてあり得ない。

 僕の物語は、予期せぬ登場人物の乱入によって、激しく混乱をきたした。僕は必死に、この出来事を物語の中に再配置しようと試みた。そうだ、あの男は、君の物語における「障害」なのだ。君は、複雑な家庭の事情を抱え、それに健気に耐える悲劇のヒロインなのだ。そうに違いない。そして僕は、そんな君の苦悩を遠くから見守り、真に理解する、世界で唯一の存在。僕の役割は、より重要性を増したようにさえ感じられた。

 しかし、僕の心は僕自身の作った物語ではもはや制御できない程に、黒い感情に蝕まれ始めていた。あの男の、汚れた手が君に触れた。その事実が、許せなかった。僕だけのミューズが、僕の知らないところで、あんな下劣な男に汚されている。それは、僕の聖域そのものへの冒涜であり、僕自身への侮辱だった。

 僕の君に対する感情は、静かな崇拝から、どす黒い所有欲へと静かに変質し始めていた。君は、僕が想像した完璧な芸術品だ。誰にも触れさせてはならない。ましてや傷つけるなど、絶対に許されない。

 手首の痣の意味が、恐ろしい確信となって僕の胸に突き刺さる。あれは、あの男がつけた傷なのだ。

 その日から、僕の視線は変わった。僕はもう、君の美しさを観察するだけの観測者ではいられなかった。僕は、僕の芸術品にこれ以上傷がつかないよう、監視する看守になった。君の表情に浮かぶ僅かな疲労の色、日に日に増えていくように見える手首の痣、それら全てが、僕の聖域が外部から侵略されている証拠だった。

 どうすれば、君を、僕の芸術品を守れる?

 以前は冒涜的だとさえ思っていた「声をかける」という選択肢が、全く別の意味を帯びて僕の頭に浮かび上がってきた。だが、それは救済のためではない。汚れた現実から君を切り離し、僕の管理下に置くためだ。僕の、完璧な世界の、完璧な一部にするために。

 僕はまだ、具体的な方法を知らない。だが僕の中で、何かが決定的に変わってしまったことだけは確かだった。僕の聖域はもはや、静かな祈りの場ではない。いつ破られるかわからない、緊張に満ちた守るべき領土へと変わってしまったのだ。



第三章:半網膜の世界で



 私の固有名は、木村心結。そして、この周期的な振動を続ける鉄の箱の中だけが、私が「木村心結」という記号の主体性を、かろうじて維持できる唯一の空間であった。家と言う名の閉鎖系において、私はあの男の所有格に組み込まれた客体であり、学校という共同体では。周囲との相互作用を最小限にとどめるためのペルソナ、「物静かな木村さん」を演じている。だが、ここだけは違った。窓の外を流れて行く風景の連続体――その運動に意識を同期させている間だけ、私はあらゆる役割から解放され、定義されない、純粋な「私」へと回復することができた。

 窓ガラスは、現実と非現実を分離させる半網膜だ。私はその向こう側に、あり得たかも知れない自己のパラレルワールドを投影していた。平凡な住宅の屋根瓦の連なりは、私が享受することのなかった家庭の平穏なアナロジーであり、送電線を渡る鳥の群れは、私が渇望してやまない自由のメタファーだった。それは、不可逆な現実に対する、細やかで無力な精神的抵抗運動。私が毎朝、強迫的に車窓を凝視し続ける理由の全てが、そこにあった。

 現実。その二文字は私の舌の上に、酸化した金属の味を再現する。私の日常という領土は、母が招き入れた男によって不法に占拠され、私の主権は剥奪された。彼の感情の揺らぎは、領土内の天候を支配する絶対的な気圧配置であり、私はその下で息を潜めるしかなかった。彼の発する言葉は、言の葉も枯れてしまうような、私の自尊心を少しずつ削り取る酸性雨であり、その手は、私の体に支配の地図を痣として刻みつける。

 だからこそ、この電車という物理的な移動手段は、私にとって精神的なシェルターとしての機能を果たしていた。ここには、あの男の不機嫌な低周波音も、母の諦観に満ちた沈黙もない。

 ――ただ、一つの視線を除いては。

 いつからだったか、毎朝、同じ車両の、規定された座標から、私に向けて放たれる視線の存在を認識したのは。感情というノイズが完全に除去されたような、無機質な貌。彼は決して、視線を逸らさない。まるで、私が観察対象の天体か何かであるかのように、ただひたすらに、その網膜に私の像を結び続ける。当初、その視線は私にとって認識論的な暴力だった。それは私の人格を構成する複雑な要素を全て捨象し、単なる現象としてデータ化するような、冷徹な科学者の眼差しだった。私は彼の認識の中で、生身の人間から、研究対象のプレパラートへと変質させられる屈辱を感じた。彼の視線は、私のシェルターの壁を透過し、私をこの車両という名のパノプティコン(―望監視施設)の囚人へと貶めていた。

 しかし、矛盾していると自覚しつつも、その視線に一種の拠り所を見出し始めている自分もいた。あの男の支配と、学校での希薄な人間関係。あらゆる他者からの無関心という名の完全な孤独の中で、彼の執拗な観測は、私がこの世に物理的に存在していることの、唯一の証明になっていたのだ。デカルトが「我思う、故に我あり」と看破したように、私は「我見られる、故に我あり」という、倒錯した実存証明に依存し始めていたのかも知れない。

 先日、ホームであの男に補捉された時もそうだった。彼の所有物であることを示すように腕を掴まれ、その引力に抗っていた時、私は電車の窓の中に、彼の姿を認めた。ガラス越しに、彼は私を、あの無機質な貌で観測していた。その瞬間、私の意識は彼の視線を介して外部委託される可能性を夢想した。私の苦境というテクストを解読し、介入というアクションを起こす他者の存在。それは、論理的にはあり得ないと知りつつも、魂が渇望せずにはいられない、デウス・エクス・マキナへの祈りだった

 もちろん、彼は不動だった。ただ、観測を続けるだけ。予測されたしかるべき結末だ。彼が私の物語に介入する主体になどなれるはずがない。私と同じ、この世界の巨大なシステム前では無力な、人の高校生に過ぎないのだから。

 それでも、私は彼の視線を忘れることができなかった。あの時、彼の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、激しいノイズ――それは怒りか、あるいは別の何か――が走ったように見えたのは、私の願望が生み出した光学的な錯覚だったのだろうか。

 彼の視線は、私を客体化する暴力であると同時に、私の存在を証明する唯一の外部参照点となりつつあった。もし、この参照点さえも失われたなら、私は本当に、誰にも認知されることなく、この情報と物質の世界から蒸発してしまうのかも知れない。

 私たちは、決して交わることのない座標軸にありながら、互いの存在を規定しあう、奇妙な共犯関係にあった。彼は私の苦悩を消費することで自己の空虚を埋め、私は彼の視線を浴びることで自己の輪郭を辛うじて保つ。それは、ガラスという半透膜一枚隔てただけの、歪でしかし均衡のとれた牢獄であった。



第四章:凍てついた存在



 前述したように、私は彼の視線を、自己の存在を証明する唯一の外部参照点として認識し始めた。それは、暗闇の中で唯一灯る、遠い灯台の光だった。だが、季節が容赦なく冬へと深まるにつれて、その光の意味合いは、私の内面で静かに、しかし決定的に変質していく。

  吐く息が、鈍色の空を映す車窓の硝子の上で、乳白色の儚い像を結んでは、次の瞬間には跡形もなく消えていく。まるで、ここにいる私の存在そのものみたいだ、と自嘲めいた思考が頭をよぎる。冬がその深さを増すにつれて、世界から色彩という色彩が失われていくようだった。私の身体に、まるで醜い地図のように刻まれた痣の数々は、厚手のセーラー服とコートの下に隠すことができるようになった。しかし、それは問題が解決したことを意味しない。むしろ、あの男――継父の支配は、物理的な痕跡を残さない、より陰湿で冷たい形態へと移行していた。目に見える暴力は、目に見えない暴力へと形を変え、私の精神の奥深くまで、その氷のような根を伸ばし続けていた。

それは、言葉の刃であり、沈黙の圧力だった。家族が揃うはずの食卓では、私だけが存在しないかのように扱われる。母と継父の間で交わされる当たり障りのない会話。その中で、私の席だけが、ぽっかりとくり抜かれた真空地帯のようだった。私が何かを話そうと口を開けば、すべてを遮るように響く、わざとらしい舌打ち。すれ違いざまに、吐き捨てるように囁かれる、「お前がいるだけで、この家の空気が澱むんだよ」という呪いの言葉。彼の存在そのものが、私の部屋の空気を薄くし、私の精神をじわじわと凍らせていく絶対零度の冷気となっていた。私の思考は、彼が立てる小さな物音一つで凍りつき、自由な発想は、その根を伸ばす前に枯れていった。母は、ただ俯いて、そのすべてを見て見ぬふりをしている。彼女もまた、あの男の支配下にいる、か弱き共犯者なのだ。

 学校へ行っても、その息苦しさから完全に解放されるわけではなかった。最近、教室での話題はもっぱら、来年から導入される新しい制服のことだった。ブレザーに、チェック柄のスカート。誰もが、まだ見ぬ未来の自分の姿に胸をときめかせ、どんな着こなしをしようかと、楽しそうに囁き合っている。その輪の中に、私は入れない。

 母は「まだ着られるものを買い替えるなんて、もったいない。」と、私の分の新制服の申し込み書を、目の前で破り捨てた。それは、もちろん、あの男の意思でもあった。

 クラスメイトたちが未来の話で輝いている間、私だけが、この古びたセーラー服と共に、現在に取り残されることが確定した。この制服は、やがて「旧制服」と呼ばれるようになり、私という存在は、学校の中で、歩く過去の遺物となるのだ。その疎外感は、痣の痛みよりも、じわじわと私の心を蝕んでいった。

そんな窒息しそうな日々の中で、後方車両の定位置から私を見つめる彼の視線――私が、心の内で密かに「灯台」と名付けた光は、私の世界の、唯一の外部参照点だった。私がここに「存在する」ことを証明してくれる、ただ一つの座標だった。

 今日も、彼はそこにいる。後方から3両目、進行方向左手のドアのそば。私と同じように、決して誰とも交わろうとしない、孤立した惑星。彼が着ているのは、流行り廃りとは無縁の、黒い詰襟の学生服。その身体の線はまだ細く、少し大きめの制服が、彼の頼りなさと、世界に対する武装の両方を際立たせているように見えた。その貌には、まだ少年らしい幼さが残っているというのに、彼の瞳だけが、不釣り合いなほどに深い闇を宿していた。

 だからこそ、私は彼を私の世界の観測者として選んだのだ。彼は、表面的な世界のノイズには惑わされない。物事の本質を、その奥にある痛みを、静かに見つめている。そう信じたかった。彼は、私が継父から与えられた役割――「出来損ないの娘」というレッテルや、やがて過去の遺物となるこのセーラー服を透かし見て、その奥にいる本当の私を認識してくれるはずだ、と。

 耳には、雪の結晶の形をしたピアスをつけている。校則違反の、ささやかな反抗。凍てつく冬の世界で、それでもなお固有の形を保ち続ける、脆く、美しい抵抗の証。彼なら、この小さな結晶に込められた私の声なき言葉を、その意味を、読み取ってくれるはずだと信じていた。

 だが、私の心は、もう限界だった。あの男の支配は家の外にまで及び、友人との些細な長電話さえ許されなくなった。私の世界から、少しずつ、しかし確実に色彩が奪い去られていく。灯台の光は、あまりにも遠い。そして、観測者は、決して介入者にはならない。その冷たい真実に、私はもうとっくに気づいていた。

 私は、最後の賭けに出ることにした。この声なき対話に、終止符を打つ。私がこのまま海の底に沈むか、あるいは、あの光が奇跡的に私を掬い上げるか。どちらに転んでも、この停滞した時間からは抜け出せる。

 私は日記の最後のページに、震える手で、祈るように書き記した。

 「もし、明日、あの光が私を見つけてくれなかったら。きっと、私はもう、水面に浮かんでいられない。」



第五章:白紙の免罪符



 外は、昨夜から降り続いた雪で、世界から色が消えてしまったみたいだ。音も、分厚い雪にすべて吸い込まれて、しんと静まり返っている。私の部屋の窓から見える景色は、まるで一枚の古いモノクローム写真のようだった。この静寂が、私の心を不思議と落ち着かせてくれる。もう、何も叫ばなくていい。何も、聞かなくていい。階下から聞こえてくる、あの男の不機嫌な咳払いも、母の怯えたような足音も、今は厚い雪のカーテンに遮られている。

 机の上の、古びた日記帳に手を伸ばす。これが、最後になるだろう。もう、ペンを握る力も、言葉を紡ぐ気力も、ほとんど残っていないから。この文字を書き終えたら、私の役割は、すべて終わる。

 ページをめくる指が、微かに震える。今日の朝の出来事が、まるで昨日のことのように、いや、もっとずっと昔の出来事のように、ゆっくりと脳裏に蘇ってきた。

 最後の希望を、あの光に託すために、私はいつもの電車に乗った。この賭けに負けたら、もう次はない。そう思うと、不思議と心は凪いでいた。期待も、絶望も、すべてが溶け合って、透明な無になっていく。ただ、事実だけを知りたかった。

雪のせいでダイヤが乱れているのか、いつもより車内は空いていた。それでも、私のすぐそばで、後輩らしき一年生たちが、来年から新しくなる制服の話で、声を潜めながらも楽しそうに囁き合っていた。「ブレザー、楽しみだね」「スカートのチェック柄、絶対可愛いよね」。彼女たちの声は、未来への希望でキラキラと輝いている。その光が、私にはあまりにも眩しかった。来年の春、彼女たちは新しい未来の象徴をその身にまとう。私だけが、この旧い抜け殻と共に、過去に取り残される。そのことが、もう、どうしようもなく、確定的な事実として、私の胸に重くのしかかっていた。

 そして、私はいつものように、後方車両に立つ彼を探した。

 彼は、今日も同じ場所にいた。後方から3両目、進行方向左手のドアのそば。雪明かりが窓から差し込み、いつもより少しだけ、その輪郭がはっきりと見えた気がした。彼の着ている詰襟の学生服は、流行とは関係ない。彼だけが、私と同じように、未来へと向かう時間の流れから、切り離されているように見えた。

 私は、彼のその瞳に、自分を重ねていたのかもしれない。先日、図書室で、隣の中学の生徒たちが話しているのを、偶然耳にした。一つ下の学年で、ひどいイジメにあっている男子生徒がいる、と。絵ばかり描いている、物静かな子なのだと。その時、私は確信したのだ。彼こそが、私の観測者なのだと。私と同じだ。私たちは、違う檻に入れられた、同じ傷を負った獣だった。だから、私は彼を観測者に選んだ。私の苦しみを、私の存在を、言葉を交わすことなく理解してくれる、世界で唯一の魂だと、そう信じていた。

 でも、それも、私の身勝手な幻想に過ぎなかった。

 今日の彼は、いつもと少し違った。その視線は、私を通り越して、もっと遠くの、何もない虚空を見ていた。そして、私は気づいてしまった。彼の頬に、うっすらと新しい痣があるのを。きっと、また、誰かに傷つけられたのだ。その痛々しい痕跡が、私の胸を抉った。まるで、私自身が殴られたかのような、鈍い痛みが走った。

 その瞬間、私は、すべてを悟ってしまったのだ。

 この灯台の光は、私を照らしてはいなかった。彼自身が、助けを求めて点滅させていた、か弱く、孤独な光だったのだ。私があの光に希望を見ていたように、彼もまた、私の姿に、何かを求めていたのかもしれない。だが、私たちはお互いを照らし合う灯台ではなく、それぞれの暗闇の中で、消えかけている別々の灯火だった。一つの灯火が消えれば、もう一つの灯火が、より明るく燃えるわけではない。ただ、闇が、少しだけ深くなるだけだ。

もう、いい。もう、疲れた。この賭けは、私の負けだ。でも、それでよかった。彼を、私の重荷から解放してあげられる。

 思考の海から浮上し、私は日記の最後の空白のページに向き合った。ペンを握り、インクの黒が、真っ白な紙に染み込んでいくのを、じっと見つめる。


 日付:二千二十年、一月二十四日。

 これが、最後の日記。

今朝、電車の中で、すべてを悟ってしまった。私が「灯台」と呼んでいた光は、私を照らすためのものではなかった。彼もまた、私と同じように、暗い海で助けを求めていた、小さな灯火だったのだ。彼の頬にあった痣が、そのすべてを物語っていた。

 私たちは、似ていた。だから、惹かれ合った。でも、傷ついた者同士では、お互いを救うことはできない。ただ、相手の姿に自分の痛みを見て、慰めを得るだけ。それは、救いとは違う。もっと、自己満足に近い、残酷な行為だったのかもしれない。

 私が彼に求めていたのは、介入だった。この息の詰まるような現実から、私を連れ出してくれる、強い力だった。でも、彼にそんな力はない。彼自身が、今にも消えそうな光なのだから。私の存在は、きっと、彼にとって重荷でしかなかっただろう。私という鏡を見るたびに、彼自身の無力さを、思い知らされていたに違いない。

 もう、いい。もう、疲れた。

 この日記を、誰かが読むことがあるのだろうか。もし、あなたがこれを読んでいるのなら。どうか、私のことは忘れてくれて構わないから、どうか、あの硝子の中の、孤独な少年を、覚えていてあげてください。彼が、彼自身の光を見失わないように、どこかで祈っていてあげてください。彼がいつか、自分の足で、自分の光で、暗い海を渡っていけるように。私のようにならずに、どうか、生き抜いて。


 木村心結

 

 ペンを置くと、インクが乾くのを待たずに、そっと日記を閉じた。これで、本当に、すべてが終わった。不思議と、涙は出なかった。ただ、途方もない解放感と、静かな諦めが、私の心を支配していた。

 窓の外を見ると、いつの間にか雪は止んでいた。雲の切れ間から、弱々しい月光が差し込み、真っ白な世界を、青白く照らし出している。

あまりにも、静かで、美しい夜だった。



第六章:不一致



 君が姿を消して、一週間が経った。正確には、八日が過ぎた。僕の聖域――毎朝の通学電車は、今や君の不在を証明するためだけの、空虚な祭壇と化していた。いつもの場所に君がいない。その事実だけが、絶対的なリアリティをもって僕の世界に君臨し、他のすべての感覚を麻痺させていった。車窓に映る自分の顔は生気を失い、周囲の乗客たちの無関心な表情が、僕という存在の希薄さを嘲笑っているかのようだった。

 焦燥感が、僕の喉をじりじりと焼く。このままではいけない。君という存在が、僕の記憶の中でさえも風化し、輪郭を失ってしまう前に、行動を起こさなければ。僕の部屋の壁を埋め尽くす君の絵は、もはや慰めにはならなかった。それは失われたものへの執着の記録であり、ページをめくるたびに、君の不在がより一層、色濃く浮かび上がるだけだった。

 唯一の手がかりは、僕が執拗なまでに描き続けた、君の制服だ。旧いデザインの、白いセーラー服。僕は震える指でスマートフォンを操作し、近隣の高校名を片っ端から検索窓に打ち込んでは、その制服を確認していくという、途方もない作業を開始した。しかし、画面に表示されるのは、どれも現代的なブレザーや、僕の記憶とはディテールが異なるセーラー服ばかり。襟のラインの本数が違う。スカーフの色が違う。スカートのプリーツの幅が違う。

「なぜだ…なぜ、見つからない…?」

 僕の記憶違いなのだろうか? 僕が描き留めてきたこの記録は、僕の願望が生み出した、都合の良い幻影だったというのか? スケッチブックに刻まれた鉛筆の線が、僕をあざ笑うように歪んで見える。自分の観測者としての能力に、初めて根本的な疑念が生まれた。 

 僕は検索方法を変えることにした。文字情報が駄目なら、視覚情報そのものに頼るしかない。制服の画像から、学校名を特定するというウェブサイトに、最後の望みを託した。スケッチブックの中で、最も鮮明に、最も正確に描けていると信じる一枚を、スマートフォンのカメラで撮影する。その画像を、祈るような気持ちでアップロードした。

 数秒の、永遠のように長い検索時間。そして、画面に一つの学校名が表示された。

「県立〇〇女子高等学校」

 聞いたことのない名前だった。だが、確かに存在する学校らしい。僕は渇いた喉を鳴らし、安堵のため息を漏らした。そうだ、僕の記憶は間違っていなかった。僕はすぐさま、その学校の公式ウェブサイトへとアクセスした。

 トップページには、真新しいブレザーを身にまとった生徒たちの、輝かしい笑顔の写真が大きく掲載されていた。友人たちと肩を組み、未来への希望に満ちた、まぶしいほどの光を放っている。その健全で、何の屈託もない世界観が、僕の薄暗い部屋の空気とはあまりにも異質で、胸がざわついた。

 そして、僕は気づいてしまった。その制服は、僕の知る君の制服とは、全く、似ても似つかないものだった。

 全身の血が、急速に温度を失っていく。混乱した僕は、サイトの中を幽霊のように彷徨った。「学校概要」「沿革」「部活動紹介」…ページを次々とクリックしていくが、僕が求める情報はどこにもない。まるで、僕の探している過去が、この輝かしい現在によって、完全に消し去られてしまったかのようだった。

諦めかけた、その時だった。「お知らせ」の項目に、古いアーカイブをまとめたリンクがあるのを見つけた。僕はそれに吸い寄せられるように指を滑らせた。過去の膨大な告知が、時系列に並んでいる。僕は、何かから逃れるように、ひたすらページを遡っていった。そして、ついに、探し求めていたものを、見つけてしまったのだ。

『^^〜⭐︎制服デザインリニューアルのお知らせ⭐︎〜^^』(2019/12/19)

 その記事をクリックすると、画面に二つの制服の写真が並んで表示された。左側には、現在のウェブサイトで使われている、見慣れないブレザー。そして、右側には…

『旧制服デザイン』という、冷たいキャプションと共に、僕が来る日も来る日も描き続けた、あの白いセーラー服と、特徴的なチェック柄のスカートが、無機質な証明写真のように、写っていた。

 僕の心臓が、氷水に浸されたように冷たく、硬くなった。

「三年前。」

 僕が見ていた君が着ていたのは、三年前に廃止された、旧い、過去の制服だったのだ。

「三年前」という言葉が、僕の頭の中で、不吉な反響を繰り返す。今まで信じてきた世界の、パズルのピースが、一つ、また一つと、合わなくなっていく。時間が歪むような感覚。僕が見ていた君は、過去の時間を、この現在に持ち込んでいたというのか?いや、違う。もっと、根源的な何かが間違っている。

 僕は、僕自身の外側にある、揺るぎない「事実」に触れなければならない。僕は、まるで何かに憑かれたように椅子から立ち上がり、震える足で市立図書館へと向かった。手がかりは、雪の結晶のピアス。そして、今、僕の脳に焼き付いて離れない「三年前」という、呪いのような言葉。

図書館の、古紙と埃の匂いが混じり合った独特の空気が、僕を現実へと引き戻そうとする。僕は新聞の縮刷版が保管されている書架へと、一直線に向かった。分厚いファイルを手に取り、閲覧席につく。乾いた喉を鳴らしながら、僕は、三年前の冬の新聞を、一枚、また一枚と、神経質にめくっていった。指先がインクで黒く汚れていく。静寂の中、紙をめくる乾いた音だけが、やけに大きく響き渡った。

 そして、僕の時間は、完全に止まった。

 社会面の、小さな、本当に小さな囲み記事。見過ごしてしまいそうなほど、その記事は世界の片隅に追いやられていた。だが、その記事に添えられた不鮮明でざらついた顔写真は、間違えようもなく、僕が来る日も来る日も描き続けた、君の顔だった。

『女子高生、自宅で死亡か 継父による虐待の疑い』

 記事に書かれていた名前は、「木村心結」という名前だった。苗字が一緒であることになんて驚きもしなかった。そして、彼女が通っていた高校は、やはり、あの「県立〇〇女子高等学校」だった。

 僕の視線は、記事の最後の一文に、釘付けになった。その言葉が、僕の頭蓋骨の中で、巨大な鐘のように鳴り響き、僕の思考を、僕の世界を、粉々に砕いていった。

 僕は、亡き存在に我を忘れ、没頭していた。

 その途方もない事実を前に、僕はただ、虚空を見つめることしかできなかった。図書館の窓から差し込む冬の光が、やけに白々しく、僕の頬を照らしていた。



第七章:宙の過去



 図書館の冷たく、無機質な静寂を後にして、僕の足はどこへ向かうでもなく、ただアスファルトを蹴っていた。沸騰した水のように激しく波立つ精神は、もはや制御不能に陥っていた。僕が愛したものは、死者の残像だった。僕が毎朝、祈るように見つめていた聖域は、ただの墓標だったのだ。蝉の声が、鼓膜を突き破って脳髄を直接揺さぶる。アスファルトから立ち上る陽炎が、世界の輪郭をぐにゃぐにゃと歪ませている。だが、僕にはもう、その灼熱の現実も、耳障りな生命の喧騒も、何の意味もなさなかった。僕の視界は白く飛び、思考は麻痺し、ただ一つの事実だけが、巨大な鉛の塊のように僕の意識の底に沈殿していた。

 ――僕は、過去に夢中になっていた。

 どれくらいの時間、彷徨い歩いただろうか。気づけば、僕は自宅の前に立っていた。まるで、傷を負った獣が巣穴に帰るように、僕の身体は無意識に、唯一の安息の地を目指していたのだ。震える手で鍵を開け、ドアを閉める。外界の音と光を完全に遮断すると、部屋は教会のような静寂と薄闇に包まれた。そして、僕の目に飛び込んできたのは、僕が作り上げた画廊。四方の壁を埋め尽くす、無数の「木村心結」の幻影が、薄闇の中から静かに浮かび上がる。春の光の中に立つ君。夏の雨に濡れる君。秋風に髪をなびかせる君。僕が想像で描き上げた、あらゆる時間、あらゆる季節を生きる君。

 しかし、今、その光景は僕に何の安らぎも与えなかった。壁の君たちは、もはや僕のミューズではない。彼女たちは、僕の愚かさを証明する、無数の墓碑銘だった。一枚一枚の絵が、僕の狂気を、僕の妄想を、静かに告発している。

「嘘だ…」

 絞り出した声は、自分のものではないように、か細く掠れていた。

「あんな記事、何かの間違いだ。君は、ここにいるじゃないか…」

 僕は、壁に貼られた一枚の絵に、救いを求めるように語りかけた。指先でそっと、鉛筆の線で描かれた君の輪郭をなぞる。紙のざらついた感触だけが、確かな現実として僕の指に伝わってくる。そうだ、君はここにいる。僕が、この手で君を存在させたのだから。図書館で見た、あのざらついた紙の上の、冷たい活字の方が嘘なのだ。君が死んだという、あの無慈悲な記録こそが、この世界が生み出した巨大な幻覚に違いない。

 僕がそう信じ込もうとした、その時だった。

 僕の頭蓋骨の奥深くで、永い間、固く錆び付いていた巨大な扉が、軋むような、おぞましい音を立てて開いたのだ。図書館で見た「三年前」という、冷たい活字が引き金だった。その言葉が、僕の脳が、自己防衛のために固く閉ざしていた記憶の保管庫の鍵を、力ずくでこじ開けてしまった。

 洪水のように、僕が「忘れていた」はずの光景が、僕の意識を飲み込んでいく。

 それは、映像というより、もっと生々しい感覚の断片だった。詰襟の、少し大きすぎる学生服が肌に擦れる不快感。僕の背中に叩きつけられる、雨に濡れたバスケットボールの、鈍く重い衝撃。下駄箱に押し込まれた、泥水に浸った雑巾の、鼻を突く腐敗臭。教科書という教科書に、赤と黒のペンでびっしりと書き込まれた、無数の罵詈雑言。「死ね」「キモい」「絵しか描けないゴミ」「消えろ」。休み時間のたびに聞こえてくる、僕を指差すクスクスという笑い声。教室の隅で、僕がまるで汚物であるかのように向けられる、冷たい軽蔑の視線。

 そうだ。三年前、中学生だった僕は、イジメられていた。

 僕という人間の尊厳が、毎日、少しずつ、確実に削り取られていく地獄。その中で、僕には唯一の聖域があった。毎朝乗る、通学電車。そこで、僕は、君を見つけたのだ。

 旧いデザインのセラー服を着て、いつも同じ車両の、後方から3両目、進行方向左手のドアのそばに、君は立っていた。君は、僕のことなど一切気にも留めない。ただ、窓の外を、何かを求めるように、じっと見つめていた。その完璧なまでの孤独が、僕にとっては救いだった。君を見ている時間だけ、僕は僕でいられる気がした。

 僕は、君を描き始めた。ノートの隅に、教科書の余白に、君の姿を刻みつけた。君こそが、僕の最初の、そして唯一のミューズだった。君を描いている時だけ、僕は無力な被害者ではなく、世界の美しさを切り取る、創造主になることができた。

 僕たちは、言葉を交わさずとも魂で繋がっている、特別な存在なのだと、勝手に信じていた。

 だが、あの日、記録的な大雪が降った、次の日の朝。君は、いつもの場所に、いなかった。

 その次の日も、そのまた次の日も、君は現れなかった。僕の聖域は、突然、その中心を失ってしまった。君の不在は、僕が耐えていた地獄の重さを、何倍にも増幅させた。君がいない電車は、ただの鉄の檻だった。

 そして、僕は見てしまったのだ。図書館で見た、あの小さな新聞記事を。三年前のあの日、僕はすでに、君の死を知っていたのだ。

 あまりにも残酷な真実だった。僕の唯一の光が、僕の知らない場所で、誰にも気づかれずに消えていた。その事実と、僕自身が受けていた暴力の渦が、当時の中学生の僕の心を、完全に破壊した。

 僕の心は、自分自身を守るために、すべてを封印したのだ。君の存在も、君の死も、僕が絵を描いていた理由さえも。すべてを忘却の彼方へと葬り去り、何もなかったことにした。そして、高校生になった僕は、無意識に、同じ儀式を繰り返していた。

 僕は、木村心結の幻影を、「新しく」見つけたのだ。それは、僕の失われた過去を、僕の魂が、無意識に修復しようとする、痛々しく、哀れな代償行為だったのだ。僕は、僕が忘れてしまった君を、もう一度見つけ出そうとしていただけだった。

 ああ。ああ、ああ、ああ。僕は、なんて愚かなんだ。僕は、君を二度も見失っていたのか。

壁に貼られた、君の絵が、ぐにゃりと歪む。高校生の君の横顔が、僕の記憶の底から蘇った、中学生の頃の君の面影と重なっていく。救いを求めるように窓の外を見つめていた、あの悲しげな瞳。もう、逃げ場はない。

 過去が、現在を飲み込み、僕の自我を粉々に砕いていく。ならば、もう、終わらせるしかない。この、終わりのない円環を。僕自身の手で、断ち切るしかないのだ。



第八章:画廊。あの時僕は、



 肉体という檻が、悲鳴を上げていた。心臓は肋骨の内側で暴れ狂う獣のように脈打ち、肺は灼熱の空気を吸い込むたびに焼け付くようだ。だが、僕の意識は、その肉体的な苦痛から、奇妙なほどに乖離していた。まるで、壊れかけの人形を、遠くから操っているような感覚。僕の足は、僕の意思とは無関係に、アスファルトを蹴り、陽炎の向こう側にある一点だけを目指して、機械的に動き続けている。世界は、白く飛んだ光と、意味をなさない音の洪水だった。僕の影だけが、まるで別の生き物のように、黒く、長く、僕を引きずるようにして、あの部屋へと向かっていた。

 ドアを開け、鍵をかける。外界の音と光を完全に遮断した瞬間、僕の身体を突き抜けたのは、静寂ではなく、圧倒的な存在の圧力だった。四方の壁を埋め尽くす、無数の君。その一枚一枚が、もはやただの絵ではなかった。彼女たちは、呼吸をしていた。薄闇の中、鉛筆で描かれた無数の胸が、僕の鼓動と呼応するように、ゆっくりと、しかし確実に、上下している。部屋の空気は、真夏の密室であるはずなのに、まるで霊安室のように冷え切っていた。それは、窓から差し込む光が冷たいのではない。壁に貼られた何百枚もの紙、そのすべてが、一斉に冷気を吐き出しているのだ。紙と黒鉛の匂いに混じって、鼻腔の奥を、忘れられた地下室のような、湿った土と枯れた花の匂いが微かに掠めた。

 僕の視線が、壁の一点に吸寄せられる。僕が最も気に入っていた、君の横顔の絵。その絵の中の君の瞳が、ゆっくりと、こちらを向いた。黒鉛で描かれた虹彩が、ぬらりとした光を帯び、僕という存在を、値踏みするように、見定めるように、射抜く。

「…寒い。」

 僕の口から、僕のものではないような、か細い声が漏れた。

――そう、あの部屋はいつも寒かった。あの男が暖房をつけることを許さなかったから。吐く息が、いつも白かった。

 僕のものではない記憶が、僕自身の体験として思考に流れ込んでくる。頭の中に響く声ではない。僕の感情そのものが、誰かの感情に上書きされていくような、冒涜的な感覚。僕は、壁の絵に、震える指を伸ばした。指先に触れた紙は、氷のように冷たく、湿っていた。そして、僕の指が触れた瞬間、絵の中の君の瞳から、一筋、インクの涙が流れ落ち、その黒い雫は、紙の上で、まるで生きているかのように、ゆっくりと君の頬を伝っていった。

 そうだ。僕が間違っていた。僕は、この完璧な世界に、汚れた現実の君を迎え入れようとしていた。だから、間に合わなかったのだ。順序が逆だった。

 僕が行くんだ。

 僕が、この完璧な世界の一部になる。そうすれば、僕たちの物語は、誰にも汚されることのない、永遠の芸術として完成するのだ。それは破壊ではない。究極の創造行為だ。僕は、僕という不完全な器を捨て、君と共に、完璧な記録そのものになる。

 僕は、机に向かった。そこには、まだ何枚も空白のページを残した、最後のスケッチブックがあった。僕は、新品の鉛筆を、まるで儀式用のナイフのように、恭しく削った。カッターの刃が、木製の軸を薄く削ぎ落としていく。ひそやかな音を立てて、黒鉛の芯が姿を現す。その先端が、鋭利な針のように尖るまで、僕は息を詰めて刃を滑らせた。この黒い先端に、僕の魂が宿る。

 僕は、最後の仕上げに取り掛かった。

 僕が描くのは、いつもの電車の中。後方から3両目、進行方向左手のドアのそば。僕たちの聖域。僕の指先から、まず、硬質な直線の群れが生まれる。窓枠、吊り革を支えるポール、座席の背もたれ。世界を区切る、冷たい檻。その無機質な空間に、僕は命を吹き込んでいく。床に落ちた光の反射、窓に映る風景の滲み、誰かが忘れていった雑誌の、丸まった角。

――違う。もっと、汚れていた。床には泥水の跡が乾いていて、窓は手垢で曇っていた。希望なんてどこにもない、ただ、時間が過ぎるのを待つだけの、鉄の箱。

 君の絶望が、僕の腕を動かす。僕は、美しい情景ではなく、ありのままの現実を紙の上に刻みつける。鉛筆の芯を紙に押し付け、擦り切れた床の質感を、曇った窓の向こうの、ぼやけた絶望を描き出す。

次に、僕は、君を描き始めた。窓の外の、存在しない景色を見つめる、静謐な横顔。旧いデザインのセラー服。僕の記憶と記録のすべてを注ぎ込み、僕は紙の上に、君の魂を再構築した。

――私の髪は、もっと、ぱさついていた。あの男が、お風呂の時間を許してくれなかったから。私の瞳は、もっと、虚ろだった。何も見ていなかったから。ただ、そこにいるだけの、人形だったから。

 君の言葉が、僕の鉛筆を導く。僕は、完璧な美しさとしての君ではなく、傷つき、凍えていた、ありのままの君を描く。セーラー服の、少し擦り切れた袖口。栄養失調で、少しだけこけた頬。諦めと、ほんのわずかな期待が入り混じった、複雑な光を宿す瞳。そして、耳元で揺れる、雪の結晶のピアス。

――あれは、私の最後の抵抗だった。こんな世界でも、私は、私だけの形を保っていたいという、声にならない叫びだった。あなただけは、気づいてくれると信じていた。

「気づいていたよ」僕は、声に出して答えていた。「ずっと、見ていたから」

 完璧だ。今までで、最高の出来だった。紙の上で、君は確かに呼吸をしている。三年前の、あの冬の日に。

 次に、僕は、君の隣の空間に、鉛筆を置いた。そこに描くのは、「僕」だ。しかし、それは、現実の、無力で卑屈な斉藤海斗ではない。僕が、僕の物語の中で創造した、君を救うためだけに存在する、理想の僕。君の孤独に寄り添い、その痛みを理解できる、唯一の存在。

 僕は、線を引いた。一本、また一本と、自らの魂を紙に転写していくように。詰襟の学生服。君と同じように、誰とも交わろうとしない、孤高の観測者。

――あなたの頬にも、痣があった。私と同じだ。あなたも、誰かに傷つけられていた。だから、あなたは私の観測者になった。あなたは、私という鏡を通して、あなた自身の痛みを見ていた。

 そうだ。僕は、君に救いを求めていた。僕の地獄を、君だけは理解してくれると信じていた。君の孤独が、僕の孤独を慰めてくれた。

 僕の指先から、生命が流れ出ていくのを感じた。外で鳴り響いていた蝉の声が、次第に遠のいていく。肌を焼いていた夏の熱が、すうっと引いていく。僕の身体は、急速に熱を失い、石膏像のように冷たく、硬くなっていく。意識が、薄れていく。

 僕の視界は、もう、この薄暗い部屋を映してはいない。僕は、紙の上に広がる、モノクロームの世界の中にいた。隣には、君がいる。君が、ゆっくりと僕の方を振り向く。その瞳は、もう虚ろではない。確かな意志を持って、僕を、まっすぐに見つめている。

そして、君は、僕がずっと見たかった、あの花が綻ぶような、はにかんだ笑顔を、僕にだけ見せてくれた。

――やっと、会えたね。

ああ、やっと会えたね。

 僕は、完成された世界の中で、君の手をそっと握った。その手は、冷たかった。でも、もう孤独な冷たさではない。僕の熱が、少しずつ、君に伝わっていく。

――ありがとう。ずっと、私を見つけていてくれて。

「君こそ」僕は答える。「僕を、見つけていてくれて、ありがとう」

僕たちの周りを、雪が舞い始める。紙の上の、音のない雪だ。それは、君が死んだ日の雪であり、僕たちが初めて出会った日の雪であり、そして、僕たちが永遠に共に生きる、祝福の雪だった。

――なんで私のこと、ずっと見ていたの?

「君が生きている証を、誰よりも見届けたかったんだ。」

 僕は続ける。

「君を見てたら、この世の終わりさえ、終わらせることさえ、美しく思えると信じてたんだ。」

 「これからはずっと一緒だよ、お姉ちゃん。」

 心結は悟った様に笑った。


 数日後。何の連絡もない息子を心配した両親が、合鍵を使って部屋のドアを開けた。

部屋の中は、異様な光景だった。壁という壁に、同じ少女の絵が、まるで巨大な蝶の標本のように、あるいは熱心な信者が描いた聖人の肖像画のように、びっしりと貼り付けられている。その中心で、息子は、机に向かって椅子に座ったまま、動かなくなっていた。

その表情は、穏やかだった。まるで、至福の夢を見ているかのように、口元には微かな笑みさえ浮かんでいる。ただ、その瞳だけが、何も映してはいなかった。ガラス玉のように、虚ろな光を浮かべているだけだった。

 母親が、彼の膝の上に置かれたスケッチブックに、恐る恐る手を伸ばした。開かれた最後のページ。

 そこには、驚くほど緻密に描かれた、電車の中の光景があった。

 窓の外を見つめる、一人の少女。そして、その隣に立つ、一人の少年。

 二人は、そっと手を繋ぎ、お互いを見つめ合って、静かに微笑んでいた。彼らの周りには、無数の雪の結晶が、祝福するように舞っている。それは、ただの絵ではなかった。そこには、確かに、一つの完成された世界が、永遠の静寂の中に、息づいていた。

少年は、彼の画廊の中で、永遠のミューズと共に、完璧な芸術品として、完成していた。


 ーその後の世界ー

 

木村宙の死は、自殺として処理された。部屋に残された膨大な絵画は、警察によって押収され、その一部は好事家の手に渡ったとも、すべてが焼却処分されたとも言われている。鈴木美咲の事件も、すでに過去の記録の中に埋もれ、二人の存在は、世間から完全に忘れ去られた。

しかし、奇妙な噂が、まことしやかに囁かれ始めたのは、それから数年後のことだった。

 宙の部屋は、その後、何度か新しい住人が入居したが、誰も長続きしなかった。誰もが口を揃えて言うのだ。「あの部屋は、冬でもないのに、骨の髄まで凍えるほど寒い」と。そして、壁に、覚えのない黒い染みが、まるで人の形のように浮かび上がってくるのだ、と。

 また、宙の描いた絵を、偶然手に入れたというコレクターの間でも、不可解な現象が報告されるようになった。絵の中の少女の表情が、日によって変わるのだという。ある日は悲しげに、ある日は怒りに満ち、そして、ある満月の夜には、その瞳が、見る者の魂を吸い込むような、底なしの闇に変わるのだ、と。



最終章:真実



 宙が図書館で発見した心結の記事は「女子高生の自殺」というトピックであり、当時の平和な世界からしたらかなり大事と捉えられていた。

 深掘りされ、無様に書き連ねられる内情に、母の名前と自分の名前を発見した。そこで空は心結と血が繋がっていたことに気づく。

 一方、木村宙の母、木村佳乃は、息子の死後、抜け殻のようになった。夫はそんな妻を支えようとしたが、彼女の心はすでに、現実世界にはなかった。彼女は毎日、警察によって封鎖された息子の部屋の前に立ち、ドアに向かって、赤ん坊に語りかけるように、延々と何かを囁き続けるようになった。

「宙、寒くない?」「心結ちゃん、お腹は空いてない?」

 その姿は、近隣住民の憐れみを誘ったが、やがてそれは、不気味なものへと変わっていった。彼女は、どこからか手に入れた黒い絵の具で、自宅の壁という壁を塗りつぶし始めたのだ。「あの子たちが、明るいのが嫌いだから」と、虚ろな目で呟きながら。

 数年後、夫は心労で衰弱死し、佳乃は精神病院の閉鎖病棟に入院した。彼女の最後の言葉は、「やっと、あの子たちを、二人きりにしてあげられる。」だったという。

 彼女がそこまで狂ってしまったのには、理由があった。

 息子の遺品整理の際、彼女は、一枚の写真を見つけてしまったのだ。それは、彼女自身も忘れていた、二十年近く前の写真。赤ん坊の宙を抱き、幸せそうに微笑む若い佳乃。そして、その隣で、少し不安げに、しかし確かに佳乃の手を握っている、幼い少女。その少女の顔は、息子が描いた無数の絵の少女と、瓜二つだった。

 木村心結は、木村佳乃が、宙を産む前に、別の男との間に産み、そして、捨てた娘だったのだ。

 佳乃は、若い頃の過ちを、新しい家庭を築くために、記憶の底に封印していた。心結の父親に娘を押し付け、二度と会うことはなかった。心結の継父による虐待死のニュースも、どこか遠い世界の出来事として、彼女の意識を通り過ぎていった。

 しかし、息子の部屋に残された、呪いのような芸術が、彼女の罪を、白日の下に晒した。息子は、知らず知らずのうちに、自らが捨てた姉の姿を追い求め、その魂を、この世に呼び戻してしまったのだ。そして、その魂と、共に逝ってしまった。

 それは、偶然か、必然か。あるいは、捨てられた娘による、母と、そして、何も知らずに幸せに生きていた弟への、最も残酷で、最も美しい、復讐だったのかもしれない。

 そして、あの最後のスケッチブック。

 それは、今も、警察の証拠品倉庫の奥深くで、静かに眠っている。しかし、年に一度、心結の命日である、一月二十五日の未明。倉庫の警備員は、誰もいないはずの保管室から、若い男女の、楽しそうな囁き声と、鉛筆が紙を擦る、ひそやかな音を聞くのだという。

 そして、朝になって確認すると、スケッチブックの、最後のページの絵が、僅かに、しかし、確実に、変わっているのだ。

少年の表情が、より一層、苦悶に満ちたものになり、少女の微笑みが、より一層、深く、恍惚としたものに。そして、二人の背景に描かれた雪の結晶の数が、一つだけ、増えているのだという。

 まるで、少年が、自らの魂を削り、永遠に、彼女の世界を描き足し続けているかのように。

 観測者は、もはや存在しない。


 ただ、完成されることのない、永遠の芸術作品だけが、そこにある。

 こんばんは。残像という名の、石川晃右です。

 どうだったでしょうか、僕の殴り書きは。

 小説を普段全くと言っていいほど読まないので、かなり稚拙なものになってしまった可能性があること、まずは謝罪いたします。

 僕は、高校時代にいじめを受け、転校しました。高校受験時、高校と大学がくっついてるところに行こうと頑張っていたので、道がなくなってしまったことに対し、当時はかなり打ちひしがれていたことでしょう。

 こんなに他人事なのもおかしいとは思うのですが...

 それもそのはず、私は宙とおんなじように、軽度の記憶障害を患っていて。

 他にも同じような方がいるのかなと思い、二日間寝ずに短編小説を書き上げてしまいました、、というのはあまりにも綺麗事なので、単純に僕の頭の中をのぞいてもらおうというエゴから書き上げました。

 普段から創作をしているのですが、主に音楽の方向なんです。

 DTMに挑戦してるのですが、記憶障害のせいで毎回最初から。それで嫌になりました。

 なので、技術ではなく、自然と紡がれる言葉で表現しようかなと思い、小説を書き始めました。

 ところで、心結みゆうは、僕のひねくれた思想を解いてくれた人です。悪く言えば奪った人。

 きっと黒い過去のはずなのに、あの時の気持ちは忘れられないままで。なぜか海馬から手繰り寄せたくなって、埃被った記憶倉庫から必死にあの時片付けた何かを探しながら話を書いていました。

 ただ、今回も見つからなかったのでまだまだ先になりそうです。

 芸術家たちは、表現者なのにあらゆるフィクションを纏っているじゃないですか。

 「自分だけは違う。」って、思ってはいるけど、内情を探られたらホイホイ話してしまう自分語り人間にも成り上がれるわけです。

 自分は自分のことなんてベラベラ他人に話せなくて、芸術家になったら話せるようになれるのかもしれない。と思い始め、日々精進といえないほどの歩幅で一歩ずつ進んでいます。

 現にこの文章の序盤で色々な自分のことを話していますしね。あながち間違ってなさそうです。

 他にも色々話したいことはあるのですが、また違う世界線で、新しいページで、読んでくれたあなた方と出会えたらなと思います。

 ここに至るまで随分と蛇足を踏みましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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