誰でも良かった
取調室。
中年の刑事がコンビニ強盗未遂の男を取り調べていた。
30代半ばの細身の男だ。
「私はひどい両親、いわゆる毒親に育てられました。大学は出ましたが就職に何度も失敗して、職に就いても長続きせず。なんだか何もかも嫌になって……それで犯罪を犯して誰でもいいから人を殺せば死刑になれると、そう思い立ったんです」
「はあ、そうか」
「でもそういうタイプの犯罪が起こるとネットでは「弱い者ばかり狙っている」とか「やるならヤクザの事務所でも襲ってみろよ」って書かれるんです。さんざん馬鹿にされるんですよ」
「ああ、そうみたいだな」
「で、思ったんです。ヤクザって弱者から搾取してて、オレオレ詐欺とか特殊詐偽の黒幕だとかも言われてますよね。なら世間的にとても悪い奴だ。同じ傷付けるなら、善良な一般人より悪い奴らのほうがいいなと。もう捨て身です、だからやってやらあと奮起しましてね」
「え? それで」
「乗り込んだんです、暴力団事務所に」
「え、コンビニじゃなく?」
「ええ。組長は不在で、構成員っていうんですか? 5、6人いましたが、とりあえず全員を半殺しにはしました。相手の脅し方はさすがにサマになってましたが、まあ腕っぷしは大したことなかったです」
「え、あの襲撃事件を君が!? あの人数を君1人でやったというのか!?」
「はい。実は厳しい父から、男たる者強くあれと、幼い頃から武術や軍隊格闘技などあらゆる戦闘技術を習わされまして。体質なのか体格はあまり良くならず、見た目は弱そうだと言われますけどね」
「悪いけど、たしかに強そうには見えないな」
「このまま、この中の誰かしらを殺して警察に行こうかと。そう考えていると、そこで拳銃を見つけたんです」
「拳銃を」
「これで暴行及び拳銃等の不法所持です。武器を見つけてしまったし、もうどうせ捕まるなら、もっと大物をやってやろうかと」
「君、最終的に死刑になるのが目的だったよね? なんか目的変わってない?」
「どうせ最後なら、やれるだけやってみようかと」
「変なところだけポジティブで前向きだね」
「私は車を走らせました。事件化する前なら車も、警察のナンバー自動読み取り装置、Nシステムには掛からないだろうと」
「詳しいんだ、そういうの」
「推理小説とか警察小説とか好きなんで。いいですよね、こう、主役が犯人を追いつめるところとか」
「今は君が立派な犯人側だけどね」
「そう、私は犯罪者です。なんせそこから、暴力団の幹部クラスを何人も続けて射殺したんですから」
「なに!? あの事件も君の仕業だったのか!?」
「はい。初めて人を殺しました。最初は重い罪悪感がありましたが……相手も極悪非道なことをやってのし上がったんだと考えたら、殺されても文句は言えないだろうし、まあいいかと。こちらは引き金を引くだけですし、慣れれば気分は正義の味方ですよ」
「え、軽っ。まあ、分からなくもないけど。いや、刑事として共感しちゃいけないな」
「でも、さすがに幹部が何人も死ぬと周りがピリピリしてきまして。1度は自首も考えましたが、パスポートやら着替えやら必要なものを支度すると、空港からとりあえず海外へ行こうと」
「怖くなって海外逃亡か。でも君、言葉は」
「実は母が過剰な教育ママで、数ヵ国語はネイティブくらいに話せるんです。ほかの言葉も日常会話くらいなら」
「なんでそれだけ能力あって就職に失敗するかなあ」
「私はなにやら強い正義感が芽生えたようで、悪者をやっつけようと思うようになりました。そこで頭に浮かんだのが麻薬。そうだ、麻薬組織を叩こうと某国へ飛んだんです」
「おい、おいおいおい、ちょっと、思考が飛躍しすぎだ。いきなり麻薬組織なんて」
「だって悪いでしょう。ダメ、ゼッタイ」
「そりゃそうだけど。でも海外の麻薬組織っていやぁ、その資金で国中を買収して、軍隊並の装備をそなえた私設部隊まで持っていると」
「ええ、倒した奴らから銃を奪っては戦ってました。マシンピストルからアサルトライフルまで現地調達できて。あ、あの、これって窃盗になるんですかね」
「暴力団事務所から拳銃盗んだ分際で、今さらなに気にしてるの。そんなことより、ずっと戦いを?」
「ええ、敵部隊のメンバーは元特殊部隊、元軍人、元殺し屋と、まあそれなりに手強かったですね」
「君は素人だろ、なんで上から目線なんだよ」
「最後には機関砲とミサイルのついた装甲車まで出てきまして」
「なに、装甲車だと!? それで?」
「別に、ロケットランチャーで撃破したが?」
「なんで急にWeb小説の最強無双系主人公めいた、イキり中学生みたいな口調になるんだよっ!」
「ああ、すみません、つい調子に乗って」
「……いや、こちらも取り乱した、すまん。ところで、なんで君はそんな武器を扱えるんだ? まさか父親から」
「まさか。今はネットにそういう重火器のマニュアルとかが読めるミリタリー系のサイトがあるんですよ」
「ネットってのは本当に便利なもんだな」
「便利ですよね。スマホで検索して、なんとか間に合いましたよ」
「ええーっ!? 装甲車と戦いながらスマホいじってたの!?」
「ながらスマホはやっぱり危ないですかね」
「危険がどうのこうのより、そこまで行くともうギネス級のエクストリームながらスマホだよ!」
「それから敵を倒しても倒してもらちが開かないので、拾えるだけ武器をかき集めて、上級幹部の車を奪って孤独なランナウェイです」
「格好つけないで普通に逃走って言いなよ。ても追っ手と、それに現地の警察は」
「追っ手は半分は返り討ちに、残りはまきました。それとあの辺の警察は組織には下手に手が出せないようで、どんなにスピードを出しても、幹部の車だと見て見ぬふりをしてくれるんです。いやぁ助かりました、あの速度超過で捕まったらスピード違反で1発免停ですよ」
「免停どころじゃすまないよね、もう」
「そこから国境を越えて空港にたどり着き、遠くの国まで高飛びしようと」
「その状況で国外に出られたのか」
「チケット代のほうは、偶然トランクに詰まってた札束でまかないました」
「そうじゃなくて、パスポートや出国審査とか」
「いやそれがですね、以前ネットで、裏の仕事をしているという人と話す機会があって。自分は違法なパスポートとかを作っていると。冗談半分で依頼したら、本当に偽造パスポート数枚と各国の空港職員のIDパスを作ってもらえて。それを持ってきていたんです。言うでしょ、備えあれば嬉しいな、って」
「憂いなし、だ。君さ、ジョン・ウィックとイーサン・ハントと007とゴルゴ13を足して、3で割ったくらいのことするね。それもごく当たり前のように」
「まあ、偶然ですよ。そこからはもう正義感の暴走といいますか、ひたすら悪い奴らを倒そうと考えて、テロリストやら武装組織やらのアジトをしらみ潰しに破壊して回りました」
「最近、海外のニュースがやたらと騒がしいと思ったが」
「刑事さん、みんな私がやりました」
「自首する人間みたいに言うな。というか君、その行動を全部映画の脚本にでもして売り込めば? 主演ジェイソン・ステイサムあたりでさ」
「私日本人だし、主役は岡田准一はどうですかね」
「知らねえよ、冗談を真に受けるな」
「あ、はい。そんなアクション映画ばりに戦ってきて、日本に戻ってきたら最初の事件が全然騒ぎになってないんです」
「ああ、あれは対立する暴力団同士の抗争ってことになってるからな」
「だから仕方なく、逮捕されるためにナイフを持ってコンビニに強盗に入って。でもこのところの疲れでふらついたところを店員に押さえ付けられちゃいまして。まあ警察には捕まれたので、終わり良ければすべて良し、かなと」
「いや始まりから終わりまで、まったくもって何1つ良くねえよ、きれいにまとめようとしてるけどさ」
「ねえ刑事さん、ことの顛末は今の通り、すべてお話ししました。これだけのことをやったんです、私は死刑ですよね」
「さあ、国内ならまだしも海外でもさんざん暴れたようだからな。一刑事でしかない俺の手には負えない。懲役か極刑か、すべてを決めるのは、もっと上の立場の人間だ」
しばらくして、男は死ぬこととなった。
だが彼が望んだ形ではなく、戸籍上で。
過去の経歴を抹消された男はその能力を買われ、世界をまたにかける特殊工作員となった。
「毒親と縁を切れたし、就職もできたし、まあいいか」




