第80話:幕は開かれて
使徒ギュンターは分かっていた、帰りの分の魔法陣は既に破壊されている事を。小屋の地下の更に下の存在がバレる事は想定の範囲内、そこに陣があって、それがどんな物かまではバレずとも、勇者勢力にとって不都合なものであることがバレるところまで含めて。分かっていた。
そして──
『今、お前は試されている。信じるか、否か。己の望みを、あるいは我々を。願いに達する為の執念に貴賎はなく、それは勇者とて同じ事。天秤を傾かせるだけの重さがあるか否か、己を試して来ると良い。等しく秤はより強く願う者に傾くだろう』
それが魔王から聞いたお告げだった。試練であるとなる以上はつまるところ、|他者の助けを期待するな《・・・・・・・・・・・》という意味合いだ。1人で成し遂げなければならない事も分かっていた。魔王や使徒自身がどう考えているのかは置くとしても、更にその上に立つ者がそう言う以上はそうする他ない。
無条件に救済の手を差し伸べてくれる存在ではない事に今更驚きも、理不尽さも感じはしない。あくまでそうしたものなのだから。ギュンターとて、その存在に頼る以外に道はなく、向こうもそれ故にあえて洗脳の類を使徒に施さない。そうせずとも戦う事が分かっているから。邪神が何を考えていようとも。
それを最初から分かっていて、自分に可能な限りの罠を用意した。クライルの様な攻防共に汎用性の高い能力を持ち合わせているわけではなかったから。それでも、不発に終わった。これが発動しなかった事を1番の失敗とするならば、ギュンターはノアの側に時間的猶予を与えた事は最も間違いだったと言えるだろう。
集落の住民を避難させ、脱出路となる地下の破壊工作にはライが心器の力を放ち、マーキングである手作りの像の撤去はブランの弟子達が。そして、最も懸念されていた召喚の儀に使う陣を崩したのはブラン。そうして、各々でエレンからの指示通りに敵に気づかれない様に、忍耐を要する作業を彼等は成し遂げた。儀式を崩す様な行いは、半端なやり方をすればどの様なしっぺ返しが来るか分かったものではないから尚更だ。
「──だがな」
しかし、その罠が発動出来なかった事も、その理由もギュンターはこの瞬間に理解していた。そして、そうなる可能性は既に分かっていたのだ。
「あれ程に規模の大きい物など、見つかり、その対策に追われてもらうところまで含めてその罠だ」
そうして、彼の侵攻は開始される。いや、既に始まっていた──
*
「!!」
大盾を構え、密集した陣形で構えて待つダルガ達の防御隊は、最前線故にその光景を最も早く見ていた。
「だ、ダルガ隊長、アレは……ッ」
「ああ、悪趣味なモンだぜ……」
彼等の眼前に広がるのは、皮はパッチワークの様に、瞳はこの世界の様に全員が片目ずつで色とりどり、口は表情を目一杯形作れる様に裂けている。そんな人体を継ぎ接ぎにくっつけた様な生物が大量に迫ってくる図だった。
しかし、その気味の悪さをより強める要因になっていたのは、そのどれもが裂けた口で笑顔を作っていたからだろう。嬉しさというよりも、客を前にした様な愛想の良い笑みが張り付けられている。
「B級映画の様ですよこれじゃ……真っ先に犠牲になる警備員とかみたいな気分ですよ」
「現実的じゃないから1番に躍り出る事のなかった死因が達成されるってんなら悪い冗談だ、ゾンビに襲われて死ぬなんてよ」
結界内で発生した以上は倒す他なく、結界内で仕込まれていたのならば、この不気味な、どんな攻撃をするのかすら分からない化け物を相手に本格的に戦わなければいけないらしい。どのみち、結界が弾く要素を持つ者であったとしても、常に結界の外にこれが張り付いていては住民も安寧など得られようはずもない。
偵察隊も今頃双眼鏡越しにその相手に思わずウンザリしている事だろう。
「お前ら!ビビっても良いし足が震えようが好きにしろ。だがよ、退くなよ!退く、逃げる、それは俺等の役割じゃねぇ!もっと怖い思いをしてる奴らが俺等の後ろにはいる、むしろ、ここで立ち向かいやぁ俺等はヒーローになれちまうぜ!格好付けて、いつも通り励もうや!!手に持ってる重い相棒はへっちゃらって顔してんだからよ!!」
ダルガの激励を聞いた隊員は不安げな顔から、少しずつ隊員は皆戦士の顔に戻っていく。異形達と違い、使徒が出した存在であるという情報はこの世界の中でも恐れるに足るのは事実だが、未知の敵以外と戦う経験の方が少ない世界なのだから、そんな物は今更だということもまた、1つの事実だった。
加えて──
「今だ、水を撒け!!」
水、そう文字通りの水が化け物のいる場所に向けて上からぶち撒けられる。出来る限り満遍なく。無論、この行動だけで終わるわけではない。
「想撃砲!凍結、撃てぇ!!」
号令と共に想撃砲達から放たれる轟音。着弾地点に白い結晶がぶつかり、それが内側から弾けて化け物達に襲いかかる。化け物達が現時点ではギュンターの差し金である事しか分かってない中だと、未知の耐性や体質を持っている可能性はあっただろう。
だが、目論見通りにことは進む。
「っし!足は止めたぜ!!」
想撃砲から放たれた物は氷の術式だった。クロエがいつも使っている様な爆破を使えば集落を焦土にしてしまう、集落そのものへの被害を小さく、しかし化け物の大群の足止めをするにはどうするか。その結果、シンプルな手段だが水を撒いて凍らせるという手にした。
化け物本体を氷像にするのは難しくとも、水を多く撒く程に足元には水が溜まる。それを凍らせる事で足を地面に一時的であれ縫い付けられる。
しかし、それを実行するにあたって技術班の苦労は多かった。想撃砲は大砲とは異なり、火薬を利用して砲弾を放つ形ではない。だからこそ、1つ難点があったのだ。例えば、下にいる大群を爆発させたいとして、爆破の工程が宙で終わってしまえば、悪い意味で思った結果とは異なる物と言えるだろう。ならば大砲として使用する際に離れた位置の相手に着弾した時に想定の効果を出すにはどうするか、それが課題だった。
しかし、その課題はひとまずクリアされた。
「魔石に術を込めて、魔石が着弾した時の衝撃による破裂で術を放つ。その魔石に込める術を想撃砲自体で装填させるから無駄もない」
「これで問題解決ですね!ミハエルさん!」
「解決、なぁ」
ミハエルに言わせれば雑なやり方で、改良の余地がある物だ。そもそも発射の衝撃に耐え得る大きさの魔石を使うとなるとコストパフォーマンスが悪いという大きな欠点を抱えている。今回の様にただ長距離に垂れ流せば良いわけではない場合への、とりあえずの対処に等しい事が分かっている彼は内心歯噛みしていた。
もっとも、それはあくまで後の課題であって、今欲しい効果を安定して発揮出来ているのならば、それで今は良いのだ。
そうして、凍結が成功した後はダルガの背後で構えていた弓兵隊が、化け物達に向けて一斉に矢を放つ。足が凍っているか避けられないという前提はあるが、そもそも彼等には恐怖心や、回避行動や防御という思考はない。ただ前進、それのみなだけに、この対処は上手くはまったと言えるだろう。
ある程度の狙う猶予が与えられた弓兵隊は一斉射撃の後、次弾は急所となる可能性が高い頭を狙う様に放つ。それでも抜けて来た化け物の数は多くはなく、ダルガ率いる防御隊の槍に貫かれていく。
(第一波への対処は順調だが、アオイの坊主が倒したっつー使徒の攻勢を考えりゃ、これもまだ様子見に過ぎない気がするな……)
思いの外対応出来ている事は事実だが、その上でダルガはそう内心で考えていた。閉所での戦闘ではなく、全方位警戒しなければならない戦いにおいて、この軍勢の出る位置が視覚で捉えられる範囲に留まっている事自体がそもそも気味が悪かった。
だからこそ、頭を叩かなければいずれジリ貧になる可能性が高い。どこまで、いつまで、どれぐらいの数の化け物を出せるのか想像がつかないのだから──
*
「気配を感じたのはこっちか!」
「ええ、使徒の気配よ」
森の中を駆ける葵とリンド。使徒の持つ魔力の反応はレーダーでも取れるが、使徒本人の反応を拾うには心器の使用が条件になる事をノアの面々は理解し始めていた。無論、通常の魔力の使用でも探知は出来るが。そこに何がいるかまでは、その場合は分からない。
連理はそれでも紛れる必要があったのは、彼女は魔物に乗っていたとはいえ風を送って高速で襲撃しなければならず、心器の能力を使わなければいけなかったからだ。
(今は気配が薄くなり始めてるけれど、俺達には分かる。罠の発動の時より強い反応がさっき確かに──)
葵とリンドは中でも使徒の反応に対して過敏だった。それこそ、心器を使用してから少し経過しても小さな反応を残り香でも手繰る様に把握出来た。
「でも、さっきの反応から結構位置が変わってる気がする。早すぎないか?それとも、使徒ともなるとこんなもんなのかな……」
「実際おかしいけれど、前の小娘みたいに機動力があるって可能性も否定出来ないわ。どのみち、私達だけで抜け駆けしきれるものでもないんだし、仮に見つけたとしても、倒し切ろうと思わない事ね」
「うん。まぁ、それが出来る様な力があれば、苦労はないんだけれどね」
そう口にする最中、その反応が強烈に濃くなり、2人は同時に口を噤んでその方向に足を向ける。
「そこか!!」
そして、遠くないことが分かっているのならばと、刀を一振りして刃をその方向に向けて飛ばす。射程距離は遠距離武器と比較すればそこまで長くはないが、届くか、そうでなくとも奇襲には繋げられると考えてのものだ。防がれようとも、対応には必ず術よりも即座に使える心器に頼るはずで、それならば相手の手の内が少しでも読めるというのも葵の狙いだった。
だが、その返事は彼の想像していたものとは違った。
「っ!リンド!!」
「きゃあっ!!」
その音が聞こえた瞬間に、咄嗟に葵はリンドに覆い被さって回避行動に出ていた。これに覚えがなければこんな対応は出来なかっただろう。
「アオイ。今のって……!」
「ああ、間違いないよ。だけど、だとしたら、最悪だ」
リンドを庇う様に刀を構えて前に出る。葵の放った刃の影響で舞った砂埃の先で1人の高身長の男の陰が見え始める。
「テメェ、マゾの気でもあンのかぁ?それとも勇者勇者と祭りあげられて酔っ払ってるって所か。そういう年頃のガキがよく見る夢だなぁ、えぇ?」
その粗暴な喋り方に覚えがあった。忘れるには難しすぎる相手、リンドの次にこの世界で会った者──
「使徒ゼーベルア……ッ!」
「それ以外の何かに見えんならテメェの目が腐ってるだけだな、クソガキ」
言い終えるか否かのタイミングで左手の銃を向け、発砲。
(左手の方!!)
かつて、意識を失った連理をゼーベルアが救出に来た際、船を落とすと脅した際に向けていた銃も左だった。重力操作の能力、しかも彼の主観による格上格下でそのかかる負荷が変わるという物。彼を一度撃退した葵とはいえ、格下だと判断されているであろう中で、アレに撃たれればまともに動けたものではないだろう。
銃口が向けられた時点で足元の枝を蹴り上げた葵は、その枝をクライルの変異能力で板状に変え、弾丸は葵の身体に届く寸前でそれにぶつかり、軌道を微かに変えて吹き飛ぶ。無論、盾にされた板は強烈な重力の負荷で地面に落ち、真っ二つに割れた。
「なんだぁ?その猿真似はよぉ。使ってて心が痛まねぇのか?」
心のこもっていない、笑いを含んだ彼の言い方に眉を寄せながらも葵は展開した鏡に飛び込み、ゼーベルアに奇襲をかけに行く。それに合わせてリンドは葵に力を送り込む。
「散々話に聞いてたやつだ、あくびが出るぜ」
辺りの鏡に向けて銃を乱射し、葵が出てくる鏡を制限する。この鏡の耐久力自体は通常の鏡と変わらず、弾丸で貫かれれば容易く割れる。
だが──
「!!」
「っしぃ!!」
葵自身の能力で展開した鏡に視線を向けていれば死角になる様な位置で、変異を使って生成した偽物の鏡達も利用する事で本来同時に展開出来る量より多くの鏡を展開する事で、それらが目眩しとなり葵の姿を隠していた。彼は転移での接近ではなく、リンドの能力による奇襲を狙っていた。
彼の背後に当たる位置に転移してから、葵を中心としてゼーベルアという対象との相対距離をリンドが結合する事で、急接近して斬撃を食らわせに行った。
「くっ……!!」
「無駄が多い、道具の使い方を覚えだばかりの猿がよ」
しかし、彼はそれを銃で受けて防ぎ、もう片手の銃を葵に……否、リンドの方に向けた。
「リンド!!」
彼が叫ぶよりも早く、ゼーベルアは葵の刀を弾き、彼女に向けて発砲する。しかし、葵がそれで無策のまま彼女の元に飛び込めばそれこそ思うツボだ。だから、彼は身を低くして掌底でゼーベルアの銃を持つ方の手を打ち上げ、上半身ごと振るように逆手に持ち替えた刀を振り上げる。
彼がリンドを庇いに行くと考えていただけに一瞬反応が遅れたゼーベルアは、その一撃を腕に掠める。リンドに向けていた拳銃を葵の方に向けて牽制として撃ちながら、バックステップをする。
「背中がガラ空きよ!!」
「あン?」
気付けば彼女の手の中には葵の刀があった。リンドはその刀を横薙ぎに振り、ギリギリの所でスウェーで回避するが、その一撃で亀裂を入れられた木が倒れようとしてるのが見えた。距離を取らざるを得なくなったゼーベルアは舌打ちをしつつ、獣の様な動きでリンドから離れ、その間に葵は転移で彼女の前に戻り、刀を受け取る。
「前回私が鉛玉を受けてやったのだって、サービスみたいなもんよ。2度も3度も喰らうほど女神は甘くないの」
「リンド、怪我は?」
「ふふん、さっき言った通りよ」
リンドに弾丸が届く直前に、空間の結合能力を利用して自身の前に複数の空間を結び、実際の距離よりも伸ばす事で回避。
ゼーベルアの背後に見えた彼女の無事を認め、ゼーベルアがリンドの方に近付いたのを確認した瞬間に、咄嗟に葵はこの手段を考えた。斬り上げの行動を終えて刀からそのまま手を離し、刀を彼女の前に転移させたのだ。
「はっ、ちったぁ頭を使う様になったようだな?女に頼るところは変わっちゃいねぇ様だが」
「そっちこそ、ギュンターの囮を務めるなんて。前回の救出といい、仲間思いなところは変わらない様だね!」
腕から流れる血を親指で雑に拭っていた男は、葵の言葉に片眉を上げた。先に煽っておいて、先に怒るつもりかと葵は一瞬思ったが、相手が肩をすくめたのを見てそうではない事を知った。
「囮、囮だぁ?クライルのカスとはまた別ベクトルの陰気くっせぇ野郎の、囮を、オレ様が?はは!!ははははっ!!冗談が下手にも程があるぜ!!一周回って愉快が過ぎンだろうがよぉ、えぇ!?」
「なっ……!?ギュンターの襲撃に合わせて、しかも船から離れた位置の方に居るのは、結果的であれお前が囮を務めてるとしか思えないじゃないか!」
葵の疑問を置いて、戦闘中とは思えないぐらいに笑った男は、大きく息を吐いてから、突然銃をもう一度向け始めた。その目は先程よりも退屈に腹を立てている様な、不満と呆れに満ちた色が見えた。
相手がどう出ても動ける様に葵とリンドは構える。
「いいや、テメェの方が正しいゼ」
「は?」
「だからこそ、気に食わねぇンだよ。だからこそ、テメェがオレ様を嗅ぎつけてきたのは都合が良い」
戸惑う様に瞬きする葵とリンド、彼が何を言いたいのかが分からないのだ。気に食わない、までならばただ普通の事を言うのがつまらないから、と考察も出来たがその後に続いた言葉が難解にしていた。
「オレ様達の最終目標を考えりゃあ、閉じ込められてた期間とは訳が違うのに、何でこんな戦力の逐次投入なんて効率の悪い事しなきゃいけねぇんだっつー話なんだよな。使徒全員、総動員する方が早い。テメェらがわざわざ育つのを待つ必要もなけりゃ、戦力が増えるのを待ってやる義理もねぇ」
「……それが、お前達の崇める存在の望みだからそうしてるんだろう?」
「はっ、崇めてるもんかよ。クレイジーモンスターをよ。オレ様から見てもアレは邪神だ、あくまでな。だが、そうだ。奴の命令っての?気に食わねぇ」
その銃の向けられている先は葵であり、そして勇者に対して向けられていた。いつも見ていた粗野な雰囲気とは異なり、船を落とそうとしていた時の様な理性的な印象を受けるからこそ、葵にとって先程よりも恐ろしく感じた。
「答えろや。テメェしかねぇだろうがよ」
「俺しかって、どういう事だ」
「使徒に順番に戦う様に課す事で得をする奴。こっちからすりゃあデカい戦力低下と、テメェらの心器持ちに対する戦闘経験の蓄積っつーデカい損しかない。クライルのカスはあそこに引きこもってやがったから、運悪く各個撃破されたと考えてもまだ納得は出来たが、ギュンターの陰険野郎がそうなる様に仕向けられてるのは違いねぇ」
「心外だ、あまりに心外だ!!俺が君達に対して何らかの権限を持つなら、仲間や沢山の人達が被害に遭う様な行いなんてまずさせるわけがない!自分達の不利を他人の超常的な強制力に原因を置くなんて、みっともないぞ!!」
「じゃあ、テメェが勇者である事も偶然か?勇者を中心に、事が動き始めてる。現に、オレ様達は自由に動ける様になった代わりに、1人危うく死にかけて、1人は死んだ。邪神への道を開く鍵だ?この世界はアイツのテリトリーだ、何でそんな不都合な物が、なんでもないテメェが持っていて、開く様に舗装されてるみたいになってる。ましてや、テメェは出来んだろ、コンティニューがよ」
言い掛かりだと言ってしまえばそれまでで、事実として葵からすればただの言い掛かりだった。しかし、魔王にもそれに近い事は言われた。
事象が味方しているみたいだと。本当にただの偶然の重なりなのか、それとも先代勇者と言われているタキザワアオイから連なる秘密があるのか、葵には分からない事が多い。
「気に食わねぇ、他人が優遇される為の踏み台なんぞ、オレ様の性に合わねぇ」
こうしている間にもギュンターがノアを襲っていると考えれば、こんな突拍子もない話に付き合ってられないと葵は思いつつも、その話を無視は出来ずにいた。
「答えろや、舌があんだろうがよ?」
男の中に生じた疑問と不満、その末に生まれたこの遭遇もまた、何かの意図なのか、掌の上なのか。
葵の中で焦りと困惑は強まるばかり──




