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永劫の勇者  作者: 竹羽あづま
第4部オルフェウスの挽歌
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第63話:訃音は福音へ

「走って飯を届ける競技なんだよな?帰ってくんの遅くね?」

「爺さん達の茶飲み話に付き合わされとるのかのぉ」


 手をかざしながら2人の走って行った方に目を凝らすライ、その隣で首を横に振るオーサー。

 この2人だけではなく、勇者対勇者による決闘に興味を持ったという理由で見にくる者も多く、葵か轟の帰還を待っている人間が集まっていた。


「まさかブランの姉さんまで観戦しに来るとは、暇なんすか……?」

「私はこういうのは嫌いではないからな。観戦の酒がない事だけが惜しまれる限りだよ」

「あーー金が仕事する世界なら賭けとかやっても良かったかなぁ」

「未成年には早い遊びではないかな、うん?」

「はーい!ここに法はありませーーん!!」


 そんな2人のやり取りを聞きながらオーサーは微笑ましそうに目を細めていた。


「小屋の爺さん達が喜ぶ話じゃな」

「酒と賭博好きなのかよ!?」

「大人の娯楽じゃよ、かく言う儂も好き♡」

「おい、長のオーサー」

「それ親父ギャグみたいじゃから並べて言わんで欲しいのじゃ」

「ライ、その辺にしとけ。ペースに合わせると会話が多分前進しないぞ」

「美人なのに手厳しいのぉ……で、そうそう。爺さん達の事じゃ。中でもな、これまたけったいな髭を持つ爺さん、ヨシロウがな、そういう物が好きでな。賭博と言っても、友人同士でやる麻雀で負けたらつまみを奢るとか、そうした物だった様じゃがな。それを理由に古い付き合いの友人と会って、頭使って、酒飲んで、それが小さな楽しみだったとよく言っておった」

「なのに、こんな世界に来ちまうとはな」

「本当にそうじゃよ。皆が我慢しておる事は分かっていても、この世界に付き合い切れんかったのじゃろう。無論、寝る時にはここに帰ってくるし、薪だとか、色々持って来てはくれるんじゃが……あまりここには馴染めんようでな」

「ここにいるよりは、同じ感覚や不満を持ってる人で集まって普段はそこでやり取りを完結させている方が、心のギャップが少ないんだろうね」

「心のギャップか、爺さんぐらいになると、その辺りも付き合い方が分かるのかと思ってたんだがよ」

「歳をとっても人によりけりさ。特に、お年寄りだろ?長い時を仕事でいっぱいいっぱいにして来た中で、彼等はようやく好きな事が出来る様になった。だが、仕事に使っていた時間の使い方も分からない。そんな不安と嫌な退屈感に襲われる事だってある。この世界ではその不安の部分が嫌でも抽出された上で無期限でそれ付き纏うんだから、不満も生まれるってもんさ」

「成る程、それを解消する大人の娯楽や趣味が出来ない以上、その記憶や感覚を共有する以外やる事もないってわけか。この世界やっぱつまんねぇな」

「特に、トマリ爺さんは病で亡くした奥さんのな、名残の残る家で静かに過ごすのだけが支えだった中で、異世界へと連れて来られたもんじゃから、新しい生活に対する忌避感は強いもんじゃったよ」

「……この世界にも、そうした奇跡はないものだからな」


 死んだ者が蘇る事はない。それは地球から続く絶対的な法則であり、生物にとっての永久の試練とも言える。

 邪神の作った夢の世界で、もし例外的に許された蘇りがあるとすれば、それは望んだ感動の再会や、優しい奇跡ではなく。その先にあるもっと悍ましい目的の為の道中に過ぎないのだろう。そもそも、誰か1人にのみ許される優しい奇跡ならば、それを受けられなかった人達はそれに足る人ではなかった事になるのかと、そんな理不尽さが生まれる。

 トマリの様に身近な人を亡くした人には酷な話だが、この世界で彼が妻と再会していないのは、妻を冒涜されていない証左と言えるだろう。それは、結果的には良い事なのやもしれない。


「あぁ、しかし……トマリといえばアレじゃな」

「お?」

「最近は妙に楽しそうな顔をしておったな。何か目標が出来たのか知らんが」

「良い事、に思えるが。何かキッカケとか、思い当たる事は?」

「確か……そうじゃ!お告げを聞いたとか言っておった!何かしらすれば奥様と会えるだとかなんとか……?」

「何だそりゃ?何かしらって?」

「はて……像みたいなのを彫っておったのは見たのじゃが。何の生き物を彫っておるのかと聞いたが、ものすごい剣幕で怒られたものじゃ。お前如きが触れるな〜とかの!思い出したら腹が立ってきたわい!」

「はぁん。そりゃ、ただ事ではなさそうだな。普段からそんだけ神経質ならともかく、そうじゃなさそうだし。像……お告げ、何かの儀式か?そろそろ生き血でも出て来そうじゃねぇか」

「儀式……儀式か……」


 ライの言葉を反芻し、しばらく考え込む様に黙していたブランだったが、その思考の時間を割いたのは周囲のざわめきだった。

 集落に向かって戻ってくる人影がついに見えたのだ。


「どっち!?どっちだろう!」

「オレ達の轟さんに決まってるだろ!!」

「私はあっちのポニテの方の子に賭けるわ!!」

「見えて来たぞ!!」


 決闘の結果に湧き立つ集落。そこに姿を現したのは轟の方だった──


「よっしゃあぁぁぁ!!」

「やっぱり轟さんが勇者だったんだ!!」

「くそぉ!!賭けに負けたかぁ!!」


 喜ぶ者、悔しがる者、どちらにせよその場所の空気は祭りのようだった。どちらが本当の勇者か、その主題も無論忘れているわけではないが、活気が彼らは欲しかったのだろう。そして、その為のキッカケ自体は何でも良かったのかもしれない。

 歓声を浴びながらの帰還、本来の轟からすれば、まさしく勝利の凱旋といっても良かっただろう。


 だが、その場の空気に反して、轟学の足はもつれ、気候以上の汗を纏い、その表情から見ても余裕のなさが目立っていた。余裕がないを超えて、憔悴しきっていたという方が正しいだろう。

 明らかに異常なその様子に、戸惑う人々と、何かが起きたのだと理解する人、先程までと一転して集落は緊張感に包まれていた。


「ミア!こっちに来て!トドロキ君、大丈夫?怪我はない?」


 1番最初に飛び出したのはエレンだった。この決闘に許可を出し、民間人が結界外に自主的に出る事を認めた立場として、何かあったのだとしたら責任を取らなければならないだろう。

 その考えもあって、彼女は誰よりも早く飛び出した。それは保身というよりも、民間人たる彼自身の安全をただ考えて。


「け、けが……怪我は、して、ないけどよ……」


 いまだ混乱冷めやらぬ轟の返事はどうしても要領を得ない。息が整わず、膝をついた後は地面の方を見つめ続けている。エレンは彼の背をさすりながら、彼が落ち着くを待っている。

 一方、ミアは轟の怪我の有無を確認をした後、彼に付き添っているリンドの方に視線を向けた。彼女も轟ほどではなくとも、平時と比べると明らかに表情に陰りが見える。彼女が轟の側にいて、葵がいない状況自体は、彼が轟を保護する目的で彼女についててもらった可能性もあるだけに、まだ断定はしきれない。

 あるいは、ミア自身の不安が杞憂であってほしいが故の発想なのかもしれない。そう思いながらも、リンドに答えを聞く。


「リンドさん、何かあったのですか?」

「……」


 一度だけ来た道を振り返り、そこからまだ少しの間を置いてからリンドはようやく口を開いた。


「まず、小屋にいたお爺さん達なんだけれど、皆亡くなって……いいえ、殺されていたわ」

「っ!?そ、そんな、何で」

「それは、ごめんなさい、分からないの。でも、小屋の地下では邪神に近い存在を呼び出す準備がされていた事だけは分かったわ。私自体はその証拠を掴んだわけではないけれど、私達を追いかけて来た何かの気配で、大体の予想はついたわ……そうでもないと、彼等のテリトリーとも言えるこの世界だとしても、手順を踏まずに顔を出せる邪神やそれに近い存在なんていないもの」

「じゃ、邪神に近い存在を呼び出す準備……え、エレンさん!」

「彼女から何か聞いたのね。何があったの?」


 リンドを介してミアは伝えた。ミア自身にはどういう事なのか把握しきれていない内容もあるから、出来る限りリンドの言った通りに正確に。

 そこまでの時間が経過してないはずなのに腐敗していた遺体、召喚されたであろう邪神に近しい存在、そしてそれの突然の沈静化。リンドは葵と違って轟の側についていたのもあって、日記の事や祭壇の事は知らず、それを共有する間もないまま事件は起きてしまった。既に起きていた、という方が正確かもしれないが。


「おい、じゃあよ。トマリって奴が聞いたお告げってそれに関連する事なのか?」

「ライ、ブラン。そういえば貴方達はオーサーさんから何か話を聞いてらしたわね」

「ああ。なんでも、妻を亡くした人が妻と再会出来るというお告げを聞いて像を彫ったりとか、忙しそうにし始めたらしい。恐らくトマリのみではなかったのだろうな」

「だとしたら、彼等は何のお告げを聞いてしまったのかしら」

「リンドさんの予想では、彼女達が見た当の何かに呼び出されたんじゃないかって」

「邪神そのものではなく、そっちが?」

「余程復活の寸前じゃないなら、言っては悪いけれど、邪神を呼び出すとなるとあの数の生贄じゃ呼び出せはしないわ。多分その配下でしょうね、強い存在になる程復活や顕現にはもっと重い条件が伴うものよ」


 だとすれば、結界内が安全だと思い込んでいただけになるのではないか。ミアはその言葉を堪えてエレンに耳打ちだけする。民間人達が話を聞きに来ている以上、公にして良い話とそうでない物の取捨選択をしなければならない。

 だが、それはそれとして、その事実を知った上で対策をしなければならない側としては、厄介な話である事に変わりはない。そのお告げという物を実際に聞いておらず、それが脳内に直接何らかの言葉が届くような物ならば、どうしようもない。ましてや、それに洗脳するような効果があるとすれば?

 超常的な力をある程度行使出来る世界なのだとしても、人々に出来る事には必ず限りがある。


「──落ち着いて、それならもっと早くこの混乱は起こせたはずよ。それに、嫌がらせならともかく、私達への妨害工作なら船の方を狙ったはずよ」

「それは、そうですけれど……彼等にどこまで思惑という物があるのかも分からないので、つい不安になってしまって」

「気持ちは分かるわ。でもね、彼等は大きすぎる存在故に縛りを受けるの、私だってそうなんだもの。キッカケを作った何かがあったはずよ。そうした存在を広めた者や、何らかのマーキングをした者が」

「そっか……邪神にも魔王や使徒が必要なように、それ連なる存在にも、私達に接触する為の何かが必要って事ですね?」

「なーんかパラパラと聞こえる話の範囲だからアレだけどよ。コソコソ事を進めるのに丁度良い面々だったわけだろ、今回のそれは。そこまでの内部事情をトンデモ存在が完全に理解してるってんなら、もっと俺等のやる事は妨害されて来たはずだろ。だが、そうじゃないならよ、それを知ってる範囲に絞ったら何か分かる事もあるんじゃねぇの?」

「考えたくはないものだが、集落の中で企んでる者がいる可能性もある、か──」


 深刻な顔で話し合うノアの人々の様子を見ながら、轟は一連の出来事に対する動揺から喉を震わせながらも、ゆっくりと口を開く。


「お、オレは……滝沢に、助けられた」


 それを聞いたエレンは、想像がついていただけに驚く事はなかった。轟だけがそんな状況で戻って来れた理由はそれしか考えられず、彼だけが戻って来ていない理由もまた、エレンはそれしかないと思っていた。


「トドロキ君、怖い事を思い出させて悪いのだけれど、アオイ君を最後に見た時の状況は言える?」

「……オレを、突き飛ばした後、アイツは」

「うん」

「あ、アイツはッアイツは……!!ッゔ、おえぇっ、ぐ、え゛ぇっ」


 轟とリンドしか見ておらず、そしてそれ以上他の人間には見せられない惨状。

 轟にとって初めての死の光景だった。テレビや教科書や、触れない世界にあった死。そうでなくとも、綺麗に整えられた遺体が棺の中にある。そのイメージだった中で、初めて見たのは質量と衝撃に悲鳴すらあげる間もなく、押し潰され貫かれた遺体、の破片が詰まってる様子だ。普通に生きていれば見る機会もない凄惨な死がそこにあった。そうなると分かってまで何故自分を逃がしたのか、轟からすれば不思議を超えて理解不能の域にまで達するレベルの事だ。


「お、オレのぉ、ゔ、ぐぅっ、オレの、せいだぁ!!」

「落ち着いて、無理して喋ってはいけません。喉を詰まらせてしまいますよ。一旦吐き切って下さい」


 言葉こそ平静を保っているが、彼の反応とこれまで濁されてきた事から、ほとんど確定した様な葵の現状に、ミアの心臓がまるで答えを急かす様に早くなっていた。

 そして、その轟の異様な様子と動揺は民間人達にとっての不安として伝播していた。


「お、おい。対戦相手の兄さん、もしかして」

「轟さんしか帰ってきてねぇもんな……」

「えっ、なに?人、死ぬ感じ、なの?え?」

「いや、ちょっと、勘弁してほしいんだけど……もしそうだとしたら──」


 口々に出される不安は共通の嫌な予感に変わり、どちらが本物の勇者かという始まりは忘れ去られ、ノアに属する勇者を名乗る存在が命を落としたという情報のみが問答無用で叩きつけられる。そうであった場合に、それがいかに大きな損失なのかは誰でも理解は出来る。

 故に、暗雲が立ち込める。この世界の終わりというゴールが遠ざかる気配に。


「ミア、これから私の言う事を皆に聞こえるように言って」

「え?」

「こうなっては、彼の身体について明かさなければ最悪の状況を招く。アオイが演説で言ってた不滅が、比喩ではない事を広めるしかないわ」

「──わ、分かりました。教えて下さい」

「ええ、彼はね……」


 それでもなお、リンドは一瞬の躊躇を経てからでなければ口には出来なかった。それを悟らせる事はなかったが。


「彼は、死なないのよ」

「!?な、なんで、そんなっ、彼に最も持たせてはならない類の力じゃっ──」

「でも、事実よ。初めてノアと合流した時だって、本当はあの時点で彼は一度息を引き取っていたわ。でも、貴方が見た時にはもう怪我は治っていた。無事ではない彼を見たのは、真っ先に単身で降りてきたエレンぐらいよ」

「あの時、どこも悪くはなさそうなのに意識があんなに戻らなかったのって……じゃ、じゃあ、本当に彼は」

「言ったでしょ、皆に聞こえる様に伝えて」


 有無を言わせない言い方だが、表情に覇気はなく、葵の事をリンドがよく考えているのも知っているミアは、それ以上の事は文句すらも言えるはずはなかった。ただ、黙して頷きながら、皆の方に向き直るのみだ。


「…………皆さん。動揺は大きいと思いますが、まずその動揺の1つを落ち着かせる為にも、お伝えしたい事があります。滝沢葵、我々ノアの仲間の身に関する事です」


 本当なら我々の勇者に関する事、と言うべき時だった。それを強調する為にも葵はノアの中で演説を行った。集落での決闘を受ける事にした理由だって、その名の意味を強める為の物でもあった。

 だが、動揺しているのはミアだって同じであり、リンドから聞いた事を伝える役割で公の部分は既に一杯で、私としての部分が露呈する事は最早どうしようもなかった。幸いな事に、状況が状況だからかそこを突く者も、そんなゆとりのある者もここには居ない。


「彼は、彼だけは不死なんです。私も彼が運ばれて来た後に息を吹き返した所を見た事がありますから、決して気休めではありません。その原理自体は分かりませんが……彼は、勇者です。不滅だと皆に言っていたのは、比喩ではなかったんです」


 それを即座に信じろと言われたら難しいが、悪い知らせよりはまだ飲み込みやすいのだろう。何人かは安堵の反応を見せ始めていた。

 何やら自分達は危ない状況に立たされている様だが、何やらそれに対処出来る人間の1人が死なないらしい。危機に対する深度は一律化される事はなく、そうした考え方が最も普通の反応である事もおかしな事ではない。


「じゃ、じゃあ、大丈夫、かな?」

「確かにあの人は使徒と戦って生還し続けてるし……」

「邪神と戦う資格を持ってるんだもんなぁ、そういう事もあるものかもしれんな」


 各々で飲み込み、現状に対しても何とか平静を取り戻そうとしている。この中で混乱から疑念に繋がり、小屋の方に自力で調査に出向こうとされてしまうとまずい。エレン達の側に余裕がない状態だと思われない様にするには、確かにこれは良かったかもしれない。


(いずれは明かさないといけない話だったかもしれんし、結果的に勇者の響きに助けられてる人達からすりゃ朗報も朗報だ。そうなるのも無理はない)


 こう考えてるライとしても、彼がこんな形であっさりと亡くなってしまったわけではないのは朗報であるとは考えている。

 しかし──


(死なないって前提は、出来る無茶の範囲に制限がかからなくなる事でもある。少なくとも、無自覚にそう求めてしまう人間が出る可能性は高い。出来る奴にやってもらう、それの危うさをアイツがどこまで飲み込めるか……)


 それを分かっているから、ミアの表情にも無理があったのだろう。皆を安心させようと浮かべる笑顔も、どこか引きつっている。

 なにせ、死んでしまう程の痛みや苦しみを複数回経験出来てしまう体質などと、そう考えれば羨ましさなど少しも湧いてはこない。


 ましてや、からの本体とも言える地球での彼の肉体は、ここに来る前に既に息絶えているのだから、それを知っているライからすれば、これはボーナスでもサービスでもない事はよく分かる。

 それでも、安堵で少しずつ笑顔を見せ始める人々に水を差すようなことは言えない。言えるはずもない。葵が死なないと聞いた瞬間から、彼が生きている前提で次の動きについて考え始めている自分は、そんな彼の体質を利用しようとしていると言えるのだから。


「そうと分かれば、トドロキ君の無事は確認出来たのだから、ここで何が起きたのかの調査と、アオイ君との合流が必要ね。何がいるかも起こるかも分からないから、メンバーの選出は──」


 空気を変えるように手を叩きながら、次の方針について話し始める。考え過ぎる人、葛藤を抱く人、それ等も含めて頭を使うにしても、その考える先をエレンの側で決める事で少しは手助けになればという隠れた意図があった。身近な人間だと深読みをし過ぎてしまう事も、考え過ぎてしまうのも仕方ないと、エレンは理解している。だからこそ、今の優先順位を示すのだ。


(でも、本当にこれはどこから持ち込まれた異常事態なのかしら……しかも、民間人を狙うなんて。これは、悪意?)


 先代勇者が去ってから滝沢葵が現れるまで、この世界自体が静かになっていたのだと実感させられていた。それ程に、状況が大きく動き始めている。しかし、この世界における激動は人の命を支払わせる。今回の件だって分かりやすい例だろう。

 それに対する言葉に出来ない不安を覚えながらも、エレンはそれを飲み込む。艦長たる彼女もまた、勇者に次いで弱音を吐く事は許されないのだから。

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