第33話:灯火を握れと謂う
警備隊の詰め所の地下には、クライルの屋敷の地下に繋がるルートがある。その行き先は監獄となっており、地下側から屋敷に入るには鍵が必要とされさる。つまり、牢の鍵のみが警備隊と共有されているものだった。
現在その地下の監獄にて、葵達は不審者と対峙していた。不審者は、2人となっているが。
「えぇっと、つまり彼は貴方の友人で」
「わたくしに襲いかかってきたのはこっちの大柄な人なんです」
「す、すみません……そんなところです」
「だから散々言ってたろ、俺の方は怪しい奴じゃないって」
「いや、テメェも十分不審者だろ。後ろから女の口塞ぐとかヤベェだろ」
「女の口を塞ぐってお前……言い回しがなんかちょっと変態チックだな」
「不審者2号に言われたかねぇよ!!」
「あ、アオイさん大丈夫ですか?わたくしのせいで……」
「仕事だからそれは気にしなくて良いけれど、あの不審者2人はちょっとキモいなって思ってる」
「俺もかよ!!」
「だから最初からテメェも俺共々不審者として捕まってるだろうが!!」
「いい加減になさい、不審者同士いがみ合わない!でも実際貴方はどうやってここに?お屋敷でも見かけなかった人だけれど」
「おいおい、そりゃないぜ。ほら、許可証も持ってるぜ。これ持ってない男は入っちゃダメ、そんなの当たり前だろ?」
人魚とエリアとリンドがそれぞれ驚きの声をあげた時に葵も思わず一緒に声をあげそうになったが、ライが葵の方に視線を向けて小さく頷いているところを見て、出そうになった声を抑えて頷き返す。
その間に人魚はライの出した許可証を確認していた。偽造されるケースはやはりあるのだろう、とても慎重かつ細かくチェックしている。だが、本物である事が分かったのか一礼の後に両の手でライに返却をした。
「失礼しました。ちゃんと許可を得ていた方相手に冤罪を……」
「良いって別に、俺が怪しいってのも仕方ないからな。仕事ってのは大変だねぇ。アオイもアオイだぜぇ、水臭いぞ〜こぉんな綺麗な街に来るってんなら俺も誘ってくれりゃ良かったのに」
「ご、ごめん。相談もせずに出てきちゃって……あ、いや!色々と聞きたい事はあるんだけれど、俺持ち場に戻らないと、ですよね?」
「待って、貴方まだ新人でしょ。ヴィルガを呼んでから現場をちょっと見てくるわ。貴方はここでその不審者さんから色々聞き出しといて!」
「えぇぇ!?そっちの方が難しくないですか!?」
「文句言わない!!こっちの方が安全なんだから!!」
槍を片手に兜を深く被り直した人魚は、葵達を取り残して弾ける様に地下を出ていく。幸いな事に牢に入れられた男は何かしようという気を起こしていない様だった、この世界ならばここからでも反撃のしようは幾らでもあるだけに、それでも緊張を解く事は出来ないが。
この場には自分達しかいない事を確認してから葵は口を開く。
「えぇっと、実際のところライはどうやってここに?許可証も持ってるけどまさかクライルに取り入って……?」
「そのクライルって奴は知らねぇが、許可証ならわざわざ発行してもらう必要なんてないさ」
そう言い、横目で牢の中の方に向いた視線に気付いて、葵は思わず溜め息を漏らした。ライはあの騒動に紛れて男から許可証を盗んだのだ。手段として必要だったのも分かれば、お陰で彼も合流して今後行動が出来るのだから結果は良いが、なんたる手癖の悪さかと元の世界の常識から呆れずにはいられなかった。
今この場においては正しさを説くことの方がズレている事は頭のどこかで理解している葵は首を振って、それ以上は何も言わなかった。
「んでよ、ここにどうやって入ったかってやつだろ?」
「そう、そうそれそれ!どうやって?人魚のあの術でないと来れないだろうし……エリアじゃない他の人魚の力を借りたのかい?」
「泳いできた」
「こ、この深さを!?い、いくらこの世界とはいえ素潜りにも無理があるんじゃ……」
「これだよ、これ」
ライが翻して見せたのは彼の着ている外套だ。飛鳥連理との戦闘時にも着ていたが、それがどの様な効果のあるものかは分からない。首を傾げた葵を見て少し得意げに外套から細い糸を引っ張り上げる、それだけだとただほつれた糸にも見える。だが、ライが外套のフードを被るとその力が明確になる。
目の前にいるライの存在が希薄になる。いや、正しくは気にならなくなるというべきか。歩いてる人々の中の1人ぐらいに、注視しない存在として気配が当たり前の中に紛れた。
「えぇっ!?何それ何それ!?すごくかっちょいい!!」
「っは!すげぇだろ、これ。いわば俺専用防具ってところだ」
「いいなぁ!専用防具、黒い外套が!?滅茶苦茶ファンタジーじゃん!良いなぁ!」
「欲しいか、6万ドルぐらいでならやるぜ」
「ドル?俺は為替とか分かんないだけど現在の円にするとどれくらい?」
「細かい数字は知らん、お前じゃ無理って事は間違いないけど、まぁ現在進行形で上下してるから便利な薄めの端末とかで後で調べといてくれ」
「その便利な薄めの端末があれば苦労してないんだけど!?」
「魔術ってのは便利なんだろう〜?ほれほれ、魔力豊富な勇者殿よ、その辺の石から作っておくれ。ついでにちゃちゃっとお金も作っておくれ、レートを知る事よりシンプルにお金が欲しいので」
「お黙りなさいこの犯罪者!!!」
「貴方達、アホなコントしてないでとっとと話を進めなさいよ」
これが仮に、2人ともがリンドを認知出来ない人間だったらこの益のないやり取りを黙って見ていなければならなかったのだろう、それを思うと葵に言葉が通るのは不幸中の幸いと言うべきだろうか。彼女に苛立っている様子はないが、その紅玉の瞳が呆れた様に細まっているのは確かだ。
彼女の抗議の視線を浴びた葵は小さく両の手を上げ、話を戻す様にライに促す。明らかに横道に逸れている事を本人も分かっていたのか可笑しそうにしながら数度頷いていた。
「あ〜悪い悪い。で、えーと、これこれ、これの話ね。貴重な情報交換の時間にもなりそうだから、一旦これの原理については置かせてもらうぜ。今アオイが俺に感じてる感覚がこの外套の力でな、この世界ならではのデタラメ迷彩と理解してくれりゃあ良い。これの糸をお前達を案内した人魚のお嬢さんの鱗に引っ掛けたんだよ」
「そ、それで実質引っ張ってもらったって事!?」
「そそっ、だが当然潜れたのはコレとは無関係だがな」
「じゃあどうやって……」
「これも俺にしか出来ない技でね。だから言っておくが応援は俺だけだ……試しに俺に防壁を張ってみてくれよ」
「えぇ?構わないけれど……折れし先で刻まれる物、その跡は不滅にして不治。欠け、削れ、果てに残るは新しき物、原点たる銘の亡失。拒む、抗え、その意志が私の盾となり、顕現する。“不変の殻”」
この世界に来てから最も使った術だからか、防壁の詠唱はスムーズに口から紡がれた。以前よりも脳内のイメージが整頓され、洗練され、強固に。確かな手応えと共にライの前にレンズ状の防壁が展開される。思わずその満足感に口元が緩みそうになるが、場にそぐわないので必死に堪えていた。
「んじゃ、次はそこの小石を俺に向けて投げてみてくれ」
これはまだライの実演の途中であって防壁はその為の小道具だ。しかし、この防壁に石を当てる事の意味はよく分からず、ライに展開された防壁はどう特別になるのか、どんな反応が出るのか。そう考えながら拾った小石をライに向けて投げ──
「いでっ」
当たった場所をさすりながら、ライは肩をすくめていた。防壁をすり抜けて、彼には石が当たったのだ。そう、防壁が割れたり歪んだりしたのではなく、ただすり抜けたのが異常なのだ。
「あまりに俺の魔術の理解の出来なさ、そして幻想への理解のなさに邪神様が呆れなすったのか、防壁が抜けちゃうんだよ俺。防壁無意味なんだわ。この街の外から半魚人が突っ込んできたら俺だけ命中するってぐらいには」
「ま、マジで!?適性が低いとこんな事があるの!?」
「つまり、信じる力が低ければ低いほど、こんな風にこじれた感じになる。クロエも高くないが、恩恵は受けられる範囲だからなぁ。そういう点でも俺は特殊な人間ってわけ。魔術無効化とかって便利な力ならともかく……そういうのではないからな。俺の肌と価値観に合わないから効かない。だから、その為補助術も俺の場合効かんのよ、今回はそのお陰でここまで来れたが」
「それが一体どうして──」
「そんな俺の困った特性 を滅茶苦茶小さくしたバージョンとして作る為に指の皮の一部をリソースにして弾丸を数発作った。呼吸が必要になる度にお前達の防壁の一部に穴を開けてそこから息を補給してたんだよ。穴は瞬く間に修復されっから中に被害もないし」
「えぇえぇ……時に水圧は……」
「根性。」
「嘘じゃん……」
「いや、マジマジ。なんか変なところで都合が良いんだよこの世界は」
「た、確かに俺もそう思う事はあるけど……」
「正直1番の難点は門を越える時だよ。門番の姐さんのとんでもない目つきは忘れられないったらありゃしねぇ……」
(絶対ヴィルガだ……)
「なのでこう言ったのさ、滝沢葵の勢力の人間だって。通してくれたさ、それで」
「言葉にするとすんなりって感じだけれど、俺の勢力って言葉に意味があるの?」
「滝沢葵の勢力ってのは、要するに“勇者”の勢力ってわけだよ。これでダメだったらどうするかと思ってたが、それで理解してくれる人だったんでね、幸いさ。これが罠であろうとなかろうと、中に入ってお前と合流出来たら俺は大成功だし」
「ま、まま、待って待って!この街だと勇者のゆの字も全然聞かないのにヴィルガは何で……」
「この街を歩いてる人間は少なくとも知ってるはずだろうよ?」
「あ、それは、確かに……」
「んで、そっから後はこの街の中でお前の後をこっそり追いながら、ついでに情報も集めてたってわけ。そこで運良くお前がそこの男をとっ捕まえてたから許可証貰うついでに合流ってわけよ」
「む、無茶をしたね」
「無茶もするさ。ノアの動力が叫んでやがったんだよ」
その一言で葵の中の緊張感が一気に高まった。ノアには心があり、邪神、あるいは魔王や魔王の使徒の影響力の強い場所やその人がいる近辺では、怯えてしまう。そのまま無理にそのルートを通ろうとすれば、船が落下してしまうほどに。
つまり、ライの言葉から疑問は確信に変わったのだ。
「魔王の使徒……ッ」
「この街っつー箱庭が作れる規模の奴なんてそれしか思いつかねぇ。お前も思い当たる節があるって顔してるしな」
「うん、ほぼ間違いないと思う……けれど、それなら何でエミナさんが察知出来ていなかったんだろう?」
「山岳での戦闘だよ。あのお転婆ガールのせいで故障中、それもあって実質的な休暇が与えられたんだからよ。1番の技師であるミハエルが今ダウンしてるし」
「あぁ、そっか……まぁ、それが分かってたら俺達を行かせたりしないか。じゃあライも含めで、本当に俺達で何とかしないとなんだね」
「使徒が誰なのかはもう目星ついてるようだし。情報収集とやり合えるタイミングを見つけてやらねぇとだな。この街の一般人は使徒を慕ってる、下手なタイミングで喧嘩売ると俺達が圧倒的不利に陥る」
「うん、幸い俺は接触の機会があるから……それと」
「うん?」
「そこの人に聞かれてるのって良いのこれ」
鉄格子の向こうにいる男が2人を凝視していた。葵達が潜入の為にこの街に入ってる事が発覚し、その目的がこの男の主人を倒す事である事が発覚し、確かにこれが主人に伝えられたら非常にまずいだろう。その疑問に対して、ライとリンドの両方が同時に口を開いた。
「それは問題ないと思うわよ」
「そりゃ心配ないだろ」
「な、何故に?」
「そんなの奴さんは織り込み済みだろうからな」
「既に分かっている事を聞いたところで意味はないわ。わざわざアオイを指名して屋敷に招待する時点で探りに来てるのは間違いないもの」
「それは確かに」
「だろ?」
偶然ながら、違和感のない会話がライと葵の間でも成立したような形になった事に内心安堵しつつ、改めて葵は牢の方に向き直る。警備隊の仲間としての葵の仕事はライとの会話ではなく、彼から話を聞き出す事なのだから。紙を手に取り、ペンを片手に仕事に取り掛かるのだった。
「えぇっと、貴方の名前は?」
「あ?答えてやる義理があると思うのか?」
「義理とかなくても聞くものだと思うんだけど……」
「ちっ、そういう話じゃねぇよ……シグヌスだ。んなモン聞いたって無意味なのによ」
「シグヌス……と、何でエリアさんに襲い掛かろうとしていたの?」
「綺麗な姉ちゃんがあんな時間に能天気に歩いていたから」
「じゃあ、そういう人を狙って待ち伏せしていたの?」
「そうだよ、食いやすそうな奴が多いからなぁ、この街は」
「君以外にもこんな事をしようと思っていた人とかいる?」
「いねぇよ。俺の思いつきだ」
「…………」
その時の様子を思い出す。男がエリアの腕を掴んでいた時に感じたのは下卑た雰囲気ではなく、怒り?いや、ヤケクソめいたものだった気がする。葵は他人の顔を伺う。他人の心の動きと流れを読んで、角が立たないようにしながらいつも生きてきた。だから何となく感じるのだ、この男は何か隠している、と。
「この街の男の人はクライルに連れられてやって来ると聞いたんだけれど、君の不祥事はクライルにも降りかからないの?」
「あ?そんな事関係あんのか?」
「ないわけないじゃないか、彼の連れてきた男の人達が君のように人魚達に手を出す可能性があったら一般人は唯一許可を得た君達すらも受け入れなくなると思うよ?」
「どうだろうな、そんな事知らねぇよ」
「君が仮に然るべき罰を受け終えてここから出られたとしても、関係ないって顔出来る?」
「ああ、知らねぇ」
葵の眉間の皺が深くなる。このままでは引き出せない、だが引き出せるだけの何も持っていない。今男にとって隠し事を口にするだけの餌を持っているか?金か?女か?ここから出る権利か?そのどれもをすぐに用意出来るか否かは置いたとしても、それが彼の口を緩めるとは思えなかった。
「……この街に入れる男の人って時点で君が何も知らなかったり無関係なわけがない」
「あ?」
「だから、君がそうした事を言う時はそんなはずがないんだって感じで……つまり、君は俺に対して返事をする限り。本当が隠れてるんじゃないかなって思う、わけで」
「お前は何でいちいち俺を訳アリにしたがるんだ?脳みそに蛆でも湧いてんのか?」
「そう思うなら、こんな怖くない見た目の奴相手にわざわざそんな怒った風にしなくて良いじゃないか。君はただ黙ってたら良い、その方が君の望むように出来るはずなんだ」
「……何が言いてぇんだ」
「君は捕まるところまで考えて動いたのかもしれないって。抵抗も大してしなかったし……ほら、この街の外ではさ、即死するような攻撃仕掛けて来る人が多かったからさ」
「感覚の麻痺じゃねぇのか、お前」
「それは、そうかも!」
「そうかもじゃないわよ!」
リンドに背中を叩かれ、そこをさすりながら苦笑を浮かべる。事情聴取の進展のなさに後ろで黙って呆れた顔を浮かべるライの姿もあって、シグヌスは何の集団なのかとため息をついた。気が抜けるというよりも、不気味にしか見えない。何を考えているのかが分からない。
その微妙な空気を1番最初に破ったのはライだった。
「おっさんよぉ、牢にぶち込まれた時に最初に思う事は何だ?」
「あ?何の話だよクソガキ」
「まぁまぁ、折角そんな居心地の良い場所にいるんだからよ。ガキの話にちぃとばかし付き合うぐらい良いだろ?なぁ、そう思わないか?アオイ」
「滅茶苦茶思う、滅茶苦茶思ってるから今すごく煩わしい」
「と、この通りこの姉ちゃんも憤慨ってわけだし。俺の質問に答えるぐらい良いんじゃねーの?」
「雑談したいだけかよ……」
「俺なら、とっととこんなクッセェ場所から出て好き勝手やりてぇって思うけど……他にもよぉ、お友達が同じように牢に入って来た時ったら気まずいぜぇ。先にヘマをやらかした奴を見る目と来たら、笑いが止まらねぇってもんよ!」
「は?何だそりゃ……」
「そして、刑期を終えて出されりゃ捕まってないお友達が待ってるんだ。今すぐにでもぶち殺してぇって顔で歓迎の準備をして、な」
そう言い終えると同時に鉄格子に音を立てながら足をかける。その暴力的な音に思わず葵は一歩後退り、男は困惑の表情を強める。
「死に方ぐらい自分で選べるようにしといた方が良いぜおっさん。魔王の使徒は気分でお前の命なんざ好きに出来る。お前は使徒の慈悲に縋るか、勇者の善意に縋るか、その2択しかない」
「……」
「トカゲは尻尾を切ると滅茶苦茶エネルギーを消費する。だがなぁ、俺達みてぇなのは切っても消費はされねぇんだよ、何も、痛みすらない、単なる有利な手段。しかも尻尾が無数にある。だから俺は求める物をもらえねぇなら俺も義理は果たさねぇんだ。お前はどうだろうな?お前にくだらん台本を寄越した奴はお前を義理堅いとか言うかね?」
「………………」
「祈りの言葉の代わりに情報を吐きな、この世界において祈りはただの邪神の栄養だ。お前が無欲で、邪神に祈るような奴なら、お前の首持ってお前のお友達から聞くだけだ」
「ら、ライ!!」
「勇者様よ、黙ってろ」
鋭い目つきと冷え切った声は、明らかに冗談を話していた時と様子が異なる。葵は実感させられるのだ、殺した経験のある人間は、この世界に来る前から正道を行けてない者の方がこの世界に向いているのだと。
事実として、あれだけ口の固かった男が、自分の中に存在した酸素を全て吐き出すような長い長いため息の後に口を開く。
「俺は、美女にそそのかされた」
「美女に……?」
「そして、主人にも。俺は必ず死ぬ、遠くない日に。俺達は死ぬ」
男の中にあった諦観の正体を聞いて、思わず葵は口元を覆う。ここで驚きの感情を見せるのは格好がつかない、平静を保て、と。
だが、男が諦めた顔で口にする言葉は、先程までの栄養溢れた大男のイメージを覆す、絶対的な言葉、死が紡がれた。
「その理由は、簡単さ。この街で悪い事をしたからさ。それだけになる」
人魚達の戻ってくる音と共に、それは中断される事となった。だが、葵の中の違和感と、葵の中のざわめきが、また大きな日々を作り始める程に、嫌な予感はストレス性の頭痛として発生する。
どうやったら死ぬ工程が作られてしまうのか。死を思ってしまう。死を思い、だが彼には死が重い。果たして、この街という試練を超えられるのか、否か──




