第31話:楽園の創造主
水仙区、3つに分けられた区の中で最も表の雰囲気を持っていると思える場所だ。賑わう露店、雑談しながら宙を泳ぐ人魚や、音楽を演奏する人魚達、活気のある通りという空気感をこの世界で味わえるとは思わず、こうした平和な光景こそ珍しいと感じてしまうのだった。
夜までに地理を把握しておこうと思い、リンドと2人で葵はここを回っていた。
「そうそう、だからこの前は少し砂糖を多めに紅茶を飲んでしまったのですわ」
「ふふふ、私はお砂糖多めでいつも飲むからお揃いになったわね」
上品に笑い、歌う人魚を見ていると、こうした警備というのもどんな風な状況で必要とされるのだろうか、そう思いもするが、元の世界の自分の周囲も事件と言えるほどの事はあまり起きていなかった。事件もテレビの向こう側の話だった。
きっと近くにあるものなのだろう、死角にあるから気付いていないだけで。そう念頭に置きながら、葵は視線を巡らせる。
「何だか、不思議だよ」
「どうしたのよ、いきなり」
「この世界での死も本物であるわけだけれど、この世界で姿が人ではなくなるのって、それってどうなるんだろうって。 」
「でも、ここの世界の命は心の核とすら言える。それが本当の形を忘れていると考えたら、危ういんじゃないかしら」
「それは、そうだけれど」
空を飛ぶ魔術はなくとも、この街の中でならば、水で出来た街ならば、彼女達は街を自分の肉体のみで見下ろせる。その喜びと、自由を浴びる感覚そのものはやはり本物ではあるのではないかと感じる。
「だけど、なぁに?」
「現在の充実感、そういうものもあるものだから。刹那の物であったとしてもさ、そうなりたい程の何かがあったのだと思えば、幸福ではあるのかもって」
葵が初めて刀を握った時の身体が軽く感じられた時の高揚感や、巨大な魔物相手に勝利した時の達成感も、紛い物ではない気がした。それを言葉にすれば、リンドの思想とぶつかりそうだからあえて何それ以上に何か言う事はなかったが。
「…………そうね、貴方とかね」
だが、あえて言葉にしなかった部分も彼女には読まれていたのか、それを明確に突かれて苦笑を浮かべる。笑って誤魔化された事が不満だったのか、それとも葵の考えている事で気を悪くするかもしれないと思われたのが不愉快だったのか、リンドは葵の頬を突く。そこで切ることでお互い済ませる事にした。言い合いをしたいわけでもなければ、お互いの考えを尊重したいのもまた事実だ。
そうしていると、2人を残して周囲の空気が突然変化する、ざわめきは1つの方向に一斉に向けられ、真ん中に通り道を作るために道の両端へと引いていく。加えて、少しそれに異常を感じさせたのは葵達の見える範囲の人魚は皆同様に緊張感を混ぜた尊敬の眼差しだったのだ。
「な、何だろうこの様子」
「アオイ!あっちから誰か来るわよ」
皆の開けた道の中央の奥から、1人の男が周囲に護衛の人魚を従えて姿を現す。無造作に伸ばした色素の薄い灰混じりの紫の髪、垂れ目に濁りきった黒い瞳。ケープと一体になってる灰色のマント、黒い貴族服。美形とは言い難い顔立ちだが、不思議とその服装がサマになっている。
靴音を鳴らしながら辺りの群衆に笑みを向けている様子は高貴な人間の様子だ。しかし、人魚達がここまで崇拝に近い顔をするのは、この街にまだ不慣れな葵達にはよく分からず、目を丸くするばかりだ。
「貴方はまだこの街に来たばかりですわよね?」
そんな葵の様子を横目で見ていたのか、1人の人魚が声をかけてくる。
「はい、今日来たばかりで……あの人、誰ですか?」
「この街のご主人様ですのよ。彼の方のおかげでわたし達はこの様な人魚になれたのです」
(人を人魚に出来る……?そんな大それた事って魔術でも出来るのかな)
(やろうと思えば出来るけれど、普通はやれるとは思えないものね)
「それに、この世界に来て、逃げる先も見つからずに怯えていたわたし達をこの街に誘って下さったのですわ。あの方がいなかったらきっと……今頃わたし達はもっと早く、あの化け物達の餌食になっていましたのよ」
「この街に……この街はあの人が作った物なの?」
「そうですわ!すごいでしょう?」
人を人魚に変え、この世界の中に安全の約束された街を作り出す。明らかに魔術で可能な領域を超えている。可能性としてだけで言えば、魔術で可能とするだけの己の脳内を盲信出来る力があれば可能だろう。だが、体系化する為のものが魔術なのだとすれば、自分だけの盲信、自分だけの形を出し、自分の根底を暴き、それを鍛え、より深度を深める物が葵達の使う特殊な装備だ。
そう、どちらかと言えばそれはエレンの言う武器に近い性質と言える。それをこんな形で、この規模で使える人間をノアが把握していない事があるだろうか?
「──確かに、すごい人だね」
「でしょう!貴方にも分かって頂けて、嬉しいですわ♪」
機嫌良さそうに笑う人魚に微笑みを返しながらも、葵とリンドは男を少し警戒する様に見つめる。彼が敵である可能性と、そうでなくともその力がありながら味方をする者であるとは限らないことを考えて。
しかし、そんな中だった。男が辺り一帯に向けて笑顔を浮かべながら手を振っていたのが、一個人に向けてその視線が向いたのだ。そう、葵に向けてである。
「な!?」
警戒をしている相手だからこそ、目を付けられたくなかったはずなのに、目が合う。しかもそれだけで終わりじゃない。男は早足で真っ直ぐに、葵の方に歩いてくるではないか。今すぐにでも走ってこの場を逃れた方が良いが、それはこの街の治安に関わる側になる身としてはむしろ不自然かつ、この状況もいずれは起きていた事かもしれないと思えば動かない方が正常ではあるかもしれないだろう。
男は葵の前で足を止め、葵の瞳を真っ直ぐに見つめてくる。魅入る様に、確かめる様に、芸術品が贋作か否か探る様に。
「っ……あ、あの、どうかされましたか?」
当たり障りのない言葉でまずは先手を取る。知ってる様な口振りをされるなどして、街の住人を前に空気を先導されては圧倒的に会話としては不利だから。
「………あ……ね……」
「はい?」
「あかね、紅音なのかい?」
一瞬。一瞬葵の中の時空が止まった気がした。アカネ、あかね、紅音、滝沢紅音。自然とその言葉が繋がって、彼の中で姉の姿が浮かぶ。葵の髪を弄るのが好きで、友人も多くいて、母ともよく出掛けて、父と笑い話をよくしていて、そんな明るい、葵によく似た家族の姿が。
しかし、何故彼女の名前が葵の目の前の男の口から出てくるのだろうか?葵は戸惑いの表情を浮かべて、喉の奥を引きつらせて上手く返事を出せずにいた。だから代わりに小さく首を横に振る。
「え?だけどぉ、その顔──」
言いかけて、男は言葉を止める。姿勢を正し、葵の瞳から頭の先の方に視線を移した男は合点がいったのか目を細めた。
「……そうだったぁ、そうだったよぉ。いや、すまないねぇ。突然声をかけてしまって」
「い、いえ……あの、自分が知り合いの方によく似ていたのですか?」
「あぁ……よぉく、よぉく似ているよ。その瞳も、まつ毛も、髪の色も、口の形も、とっても、似ている」
「そんなにですか?それは、すごい偶然ですね」
「そうだねぇ、偶然ではあるね。確かにぃ……」
その視線がギョロリと忙しなく動いた後に、その目の動きをリセットする様に一度目蓋が閉じられる。
「失礼、お嬢さん。突然声をかけられてぇ驚かれた事でしょう。わたくしの名前はクライル。お嬢さんの名前は?」
「自分は──」
警備隊を前での自己紹介と同じように葵と普通に名乗りかけたが、彼が葵の思う紅音と同一人物を知っているのだとすれば、彼女が葵について話していて弟という事、男という事がバレるかもしれないと考える。だが、珍しい名前ではない事と、彼女達がこのクライルと会話をした時に名前の齟齬が発生したらそれこそまずいとも考える。
奇妙な沈黙を生んだ後に、口を開く。
「自分は……あ、アオイ、アオイです」
「アオイ、アオイかぁ。うん、良い名前だね。覚えておくよぉ」
マントを翻しながらクライルは満足したように葵の前から立ち去る。葵はようやく彼の視界から自分の姿がなくなった事に安堵感すら覚えていた。毒を持った大蛇に睨まれ続けた末に、相手の気が変わって興味を失ってくれたかのようだ。
目の前にあるのはその男の背中だけだった。目が合わない、これほど安心する瞬間は葵にとってそうはないだろう。
「お嬢さん」
しかし、その足は一瞬止まるり、葵の肩は強張る。
「今度は、わたくしの屋敷へと招待させて頂くよぉ」
それだけを言い残して今度こそ立ち去る。周囲の人魚はそれを伝えられた葵を羨ましそうに、祝福するように一斉に拍手する。
「まぁ!主人様のお屋敷にご招待ですって!?すごいですわ」
「わたくしも行った事ありませんのよ、素敵な時間を過ごして下さいまし!」
「おめでとうございます!」
まるで宝くじにでも当選したかのような様子だが、宝くじに当選した者を見る顔というには、嫉妬のような感情は誰にも見られない。この街の人魚達は、祝福を共有出来る事を心から喜べるものらしい。人の幸福を祝福する感情は理解出来る、出来るが奇妙な感覚を覚えずにはいられない。
それが少し、綺麗すぎるように思えるからだろうか。穿った見方をしている気がする自分に呆れながら、人魚達が解散し始める頃にまた下見を再開する為に足を動かす。
「アオイ、今のクライルっていうの……」
「なんか、こう、不思議な雰囲気の人だったね」
「うーん、そうね。私もそう思うけれど……なーんか、面倒ごとがありそうな気がしてきたわ」
「ははっ、面倒ごとが起きてるから俺達はここに来たんじゃないか」
「そういう事じゃないわよ……ちょっと変よ?貴方」
「そうかなぁ……」
壊れた機械を原始的な方法で直そうとするように頭を軽く自分で小突いても、彼女の変という言葉がどの部分にかかっているのか葵には分からなかった。だが、彼女が心配してくれている事は間違いない。
「ありがとう、君が心配するほど俺はテンパってないから」
「貴方は貴方が思うよりいつもテンパってるわよ」
「えぇ……それは頼りないかも」
「頼りないわよ、それをちゃんと分かりなさいな」
「えぇぇ……」
肩を小さく落としながら2人は街を歩いていく。彼の中で起動させられた小さなざわめきが、頭の中で虫のように静かに存在感を放って蠢いていた──
*
「麦酒2つ、ジンフィズ、スクリュードライバー、お待たせしました」
スライスオレンジを差したカクテルのグラスが4人席に座っている人魚の前に出される。ミアのお世話になる事になった酒場は、通常の麦酒の類もあるが、人魚達という女性客が大半を占めているからかカクテルの種類が多くある場所だった。
ミアはカクテルの作り方は追々学ぶと意気込んでいたが、未成年である彼女にそれをさせるわけにはいかないという事で、ホール担当として入っていた。
「ミアちゃんこの街に来たばかりなのによく働いてくれてすごく助かるよ。初日だから知らない人だらけで緊張しない?」
「大丈夫です。皆さん優しい方ですし、こんな素敵な街で働けるなんてまさに夢のようですから♪」
「あら!も〜若いのに上手なんだから」
円滑な情報収集にはまずコミュニケーションだ。現地の人間からの信頼を得られたら、ある程度込み入った話もしてもらえる。それこそ、この街でヴィルガが感じていたようなきな臭い事柄についても。もっとも、ミアがそうした打算で交流をしているわけではないのだが、結果的に間違いなく後々役に立つ。
特に、女性がこの街に憧れ、客人として招かれて働きに来たとあれば素性としても怪しい点はない。
(と言っても、エリアさんがあれだけこっそりと相談しに来ていた以上はあっさり何か近い情報が得られるとは限りませんが……)
噂話や、酔っている客の会話に耳を傾けているが、あまり変わった話題は見つからない。そう、すぐに何か得られるのならば苦労はしないとは分かりながらも、失踪者が出ている事が伏せられているわけではないであろう事を思えば、当事者でもない限り話題には丁度良いはずだが。
(でも、不謹慎な話題ではありますからね……)
「ミアさん、考え事ですか?」
「どひゃっ!?エリアさん!?」
ミアの上からエリアが逆さまに現れた。幾ら人魚達が美しくとも絵面が心臓に悪い、お盆を持ったまま小さく足を浮かして驚き、周囲も何事かと見てくる。
「そ、そんなに驚かずとも……わたくしはこの酒場で歌を歌うのがお仕事なんですよ」
「す、すみません、つい……でも、エリアさんがここで働いてるって知らなかったです。エリアさんは歌が得意なんですか?」
「努力はしてます!」
「思いの外奥ゆかしい……」
それで何故か褒められたかのように自分の頭を撫でるエリアとそれを見ながら首を傾げる。ミアはどうやら微妙に天然が入ってる人間と接する機会が多いらしい、何かの縁なのだろうか。
「あら、エリアじゃない。夜まで時間はあるはずだけれど、お客さんとして遊びに来てくれたの?」
「店長さん、こんにちは。はい、わたくしにはやっぱりこのお店が1番落ち着くので」
「そうでしょそうでしょう〜そうだ!ミアちゃんそろそろ休憩でしょ?」
「えっ、もうそんな時間になってましたか!?」
「ふふっ、昼の時点でそんな時間感覚になってたら夜なんて一瞬かもしれないわね。さぁさぁ、休憩に入った入った!エリアと一緒に食事を取ると良いわ」
「良いですね、エリアさんから聞きたい事が色々あったので♪」
「わたくしも人とお食事をするのは好きなので、嬉しいです」
「じゃあ、あっちの席で待ってて。すぐ持って行かせるから」
「ありがとうございます。では、休憩入りますね!」
2人が向かい合う様に席に着き、お互いがどんな話からしようかと考え、先に口を開いたのはミアの方だった。
「エリアさん、この街のルールについてお聞きしたい事があるんですが」
「はい、何でしょう?」
「この街が女性しか入れないのは何でですか?」
「うーん……それに関しては、この街のご主人様の取り決めだからとしか……」
「じゃあ、ご主人様は女性の方なんですか?」
「いいえ、ご主人様は男性の方ですよ。定期的に自分の足で街の様子を見に来てくれるんです!」
「うえぇ!?男性の方!?」
「あぁ、後ご主人様が自分から呼んできた男性の方ならいらっしゃいますよ。少ないですが」
「えぇ!?」
綺麗な女性の人魚達と、それのみを集めている男性の主人。この世界の中に安全地帯を作っている人というだけの現時点での情報を考えれば、間違いなく良い人ではあるのかもしれない。だが、その構図に妙な下心を感じずにはいられないのは、自分が部外者の側だからだろうかと眉間を押さえる。
「ミアさんど、どうされました?」
「あ、いえ……少しだけ目眩が。でも気にしないで下さい!えぇっと、そう!女性なら無条件で入れるんですか?」
「いいえ、条件はあるんですけどぉ……ミアさん達とかもそうなんですが、綺麗な方であるのが基本ですかね」
「そ、そ、そうなんですねぇ!じゃ、じゃあ男性の方はどんな感じの方を選んで連れて来てらっしゃるんですか?」
「うーん……ちょっと怖そうな人が多い印象です。こう、視線の感じとかがちょっと……」
「そ、そ、そ、そ〜ですか」
挙げ句の果てに、周囲には自分の選んだガラの悪い同性を固めているらしい事を聞けば尚更に良くないものを感じる。
だが、人魚達もそれを知っていながら彼に対しての評価はむしろ好印象な事が気になる。それも彼女達にとって言わば救世主である事を思えばそれもおかしくない、この世界で日常と安全を保証されることはほぼ奇跡に近い事をミアはよく知っているから。
(だけど、これは何らかの思惑がきっと絡んでいる……そうじゃなかったら、わざわざ選別して人を入れたりしないもの)
極力表情を崩さない様に質問の内容を選ぶ。エリアは疑問を抱いた側とはいえ、この街に救われた側でもあるのだから、ミアの内心を知られるのはあまり良くない。
「この街って私達の様なお客さんの出入りは頻繁なんですか?」
「うーん、入りはそんなに頻繁ではないですね。だからお客様が来ると皆さん興味津々って感じでして。出る方は尚更に見かけません。わたくし達が外に出るのもお客様を見つけてくるって前提がないと許可が降りませんから」
「け、結構厳しいんですね。この街」
「でもそんなに縛られてるって気はしませんよ、街は楽しいし、料理も美味しいし、皆優しいし、歌も歌えますから」
確かに、外で葵達がこの世界を終わらせる為に戦っている間、彼女達はこの街で静かに暮らす事自体は得策だろう。エリアは楽園だと言っていたのだから。
ミアが考え込む様に沈黙しているとエリアが組んでいる手で親指を回した後にミアを見つめる。
「あっ、すみません。黙ってしまって……覚える事がいっぱいでつい、えへへ……」
「いえいえ!わたくしは怒ってるわけではなく……その、あの、この街が好きなんです。わたくし」
「え?そうかなぁとは感じていますが──」
「多分ミアさん達が思っているよりも、です。わたくし、元の世界では事故のせいでマトモに声が出なくて……」
「それは……辛い経験ですね……」
「はい、わたくしは鈍臭いし色々下手くそだけれど、歌だけは大好きだからずっと挫折せずに頑張れました。だから、声が上手く出せなくなった時は本当に、わたくしは……何もないんだなぁって思ってしまって、辛くて」
それだけが得意だった、ではなくてそれだけが好きで頑張れた、だったのだ。彼女の中で彼女個人で成立する物の中でそれだけが無条件で楽しめて、大切な物だったのだろう。それが望まずして奪われた、彼女も10代の少女であろう事を思えば心臓の一部を抉られたに等しいだろう。意味を求めずとも楽しめるもの、それがどれだけ生きる上で大切な事か。
「でも、この世界では歌えたんです!以前の様に声が出たんです!」
「すごいです!中にはこの世界でも元の体質のままな人もいるものですから!」
「ね、ね、すごいでしょう!……でも、この世界は化け物ばかりで、人を見かけても目の前で食い殺されて……変に声を出せば、化け物に目をつけられてしまう。それが怖くて、結局その喜びも続きませんでした」
「そこに、ご主人様が?」
「はい。わたくしが自由に歌える場所を、そしてそれを沢山の人が聴いてくれる舞台をあげると、あの人はわたくしに歌をくださったんです」
人魚姫は声を代償に2本の足を手に入れた。だがエリアは2本の足を代償に歌をもらった。不幸な結末を迎えた人魚姫の逆ならば、彼女は幸福な結末を迎えられるのだろうか。
いや、その為にも──
(私達がここに連れて来られたんだ、今の時点でも葵さん達に使える話はきっとあるはず)
頭の中で情報を整理しながらも、幸せそうに緩んだ笑顔を見せるエリアを見て、思わず笑みを返す。
「私も、エリアさんの歌を聞くのが楽しみになりました。是非とも聞かせてくださいね♪」
「はい!喜んで♪」
不穏な気配だけを漂わせるこの街。そしてそれに救われた人々。ミアの中に微かな葛藤はあったがそれでもやるべき事を忘れる事は決してない。この街の事件を解決する、そしていずれはこの世界を終わらせる。どれもきっと人によれば同じ事なのだから。
そうして、楽園に夜が訪れる──




