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永劫の勇者  作者: 竹羽あづま
第3部泡沫アクアリウム
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第30話:水底を覗く

 淡い青と白いモザイクタイルで出来た通り、街に入ってきた人を歓迎するように通りに沿うように飾られた花々。白い家屋の上品さと静かな雰囲気に反して、葵達の歩いている道を当たり前のように泳いで生活をする人魚達がそこにはあった。空を覆う水の色彩から漏れる水面がまるで木漏れ日のように暖かく、優しく、眩しい。

 この街の外から見ていたよりも、やはり中に入って見る景色は幻想的で、美しいと純粋に感じられた。この世界の景色で初めてかもしれない。


「私達が泳がなくて良いのが不思議なほどです……」

「な、なんか住人が住人なら街も透き通った美を感じるなぁ……」

「ですね、地球でもこんな場所来た事ないです!」

「俺も。地球にもこの街並みのような場所があるんだっけ?」

「ありますあります、私見に行ってみたいなぁって思ってたんです。白を引き立てる綺麗な青、太陽や月に照らされてより輝く家、非日常感を与えてくれる街並み、憧れだったんですよ♪」

「地球にもこんな場所があるのね。知らなかったわ……地球ってそういう所が多いの?」

「こういう場所ばかりじゃないけれどね、俺の故郷とかだと場所によっては歴史ある木造建築だとか、お城とか、色々あるよ」

「へぇ、木で出来た家が何年も保てるなんてすごいじゃない」


 非日常的なのに、どこか地球を連想させるこの街に思い出話が花を咲かせる。混じるはずのない世界、地球と異世界。そんな中でもこうした場所があったり、砂漠という概念があったり、不思議と地形等に地球の名残を見せるこの世界は何故なのだろう。地球と全く異なる理を元に出来た世界ではない事に違和感を覚えてしまうのだった。

 この世界は何故、生まれたのだろうか。ミアとリンドが話の続きに盛り上がる中、葵はそれが頭の中で回っていた。


「お2人とも、こちらです」


 エリアに案内された先の建物は、吊り下げられた看板の文字を読み取るにどうやら酒場のようだった。


「酒場、ですか?」

「丁度、人手が足りていなかったのでミアさんには滞在している間はここで働いて頂こうかと思っています。ここは宿にもなっているので、お2人には滞在中はここに泊まって頂くことになります」

「地球にいた時に飲食店でバイトをしていた事があるのでお任せください!腕が鳴ります!」

「俺の方は……」

「タキザワさんには街の警備をやって頂くことになります。あまり事件は頻発しないんですが、時折悪い事を企んだりする人もいるので」

「つまり、アオイは外で怪しい奴を探しつつ、ミアは酒場で情報収集ってわけね。悪くない案だわ」

「うん、そうだね。俺も頑張るぞ!」

「でも、この街を見慣れていなかったら怪しい奴ってどんな奴なのか分かるものなのかしら?」

「うーん……ねぇ、エリア」

「はい?」


 辺りを見回してから小声で彼女に耳打ちするように声を潜める。


「怪しい連中って人魚だった?違った?」

「えぇっと……違ったと思います、道の上を歩いていたので」

「じゃあ、姿を見かけたらある程度は分かりそうかも」

「この街の大半は人魚だものね。でもそしたら門番のあのゴリラ女が通した人間がそんな事を?彼女がそんな失態を犯すかしら」

「どうだろう……ヴィルガの目利きを疑うわけじゃ全くないけれど、見た目で邪な事を考えてるかどうかなんて結局のところ普通は分からないからなぁ」

「それはそうだけれどね」

「あの、タキザワさんは誰と話しているんですか?」

「えっ、えーと……俺って考え事する時に脳内の事がつい口に出ちゃうタイプで……また、出てた?」

「滅茶苦茶出ておりました。意外と独り言が多い人なんですね、静かそうな見た目なのでわたくし的にギャップを感じました」


 幸いな事に大きい独り言を口にするタイプの人間だと思われた(?)ことで事なきを得て胸を撫で下ろす。少しばかり形のない何かが失われたような気がするが、安いものだろう。恐らく。横でリンドが何か言いたげに見ているが、事情が事情だから黙している。視線は痛いが。


「うん、とりあえず……ありがとう、エリア。良い情報を得られたよ」

「いえいえ、わたくしもこの件を解決したい一心なので、もし気になる事があったら何でも聞いて下さいまし!」

「心強いよ、その分俺達も尽力する。折角ここまで来たんだしね」

「ありがとうございます。見ず知らずのわたくし達の為に……」

「見ず知らずだけど、1人でも多くこの世界を生きて帰れたらって思ってるから。当たり前の事だよ、同じ地球人なんだから」

「そうです。人の身に何か起きたり、最悪死んでしまうところなんて、見たくありませんからね。だから、私達は助け合いましょう。同じ言葉と同じ世界、1つの大地の上繋がっている者同士」

「ちゃんと、俺達が日常に帰れるように」


 目の前で誰かが血を流すのも、命を落とすのも、純粋に悲しい事で怖いというのはあるが、見ていたら自分がどうしようもなく苦しくなって、辛くて仕方なくなってしまう。葵はそんな自分のそれをエゴみたいに思えるのだが、それがエゴだというならば、人が人を助ける事にそうした思いが混ざると偽物になるというのだろうか?簡単な話、彼はただ考え過ぎなのである。助けられた側には助かったという事実のみがあり、助けた側もその人が助かって良かったと思えるなら、それで十分なのかもしれない。それを理解としている彼のこれは、ただの自己否定の延長線であるだろう。

 事実として、エリアは嬉しそうに、あるいは差し伸べられた手に対して安心感を得たように、笑みを浮かべているのだから。


「……はい!」

「よーし!じゃ、その為にもお部屋まで案内してもらおうかな」

「はい、どうぞ中へ!」


 それもこれも含めて、使徒との戦闘で感じた悔しさと苦しみを返上出来る様に、この件を宙ぶらりんにはさせないと決意を固めるのだった。



 宿に荷物を置いた後、葵達は滞在期間中の持ち場となる場所に向かう事になる。ミアはそのまま一階の酒場に降りるだけで良いが、葵の方は警備隊の詰め所まで行く必要があった。だが、ミアの挨拶に知ってる人がいた方が安心だろうと考えて、エリアはミアの方についてもらい、葵は地図を片手に詰め所へと向かっていた。その最中にも、物珍しいのか人魚達が葵を見ながら小さく噂話をしている。


「見て、新しいお客様かしら?」

「綺麗な子ね、勿論私だって負けてないけれど」

「声をかける?でもびっくりさせるかしら」


 エリアのみならず、人魚の女性達は皆それぞれ美女揃いだ。そんな彼女達がこちらを見ながら噂をする声が聞こえてきたら、高校生男子である葵は照れ臭い様な、恥ずかしい様なといった気分にどうしてもなる。顔が微かに赤くなっている葵の頬を横から突きながらリンドが小さく笑う。


「……アオイ、何だかモテモテじゃない?」

「モテモテっていうか……シンプルに興味津々って感じじゃないかな」

「まぁ、そんなとこよね……でも、おかしな話ね。彼女達も元々は普通に2本の足で歩いていたのに。人魚姫とは逆ね、人魚の姿にならないと会えない程の愛おしいものでもあったのかしら?」

「…………」

「どうしたのよ?」

「あ、いや……リンドって人魚姫は知ってるんだなって」

「え?あぁ、そういえばこれも地球のお伽噺よね……確かに、不思議ね」

「リンドはプリンも地球の家屋についても知らなかったけれど、地球について知らないわけではない微妙なラインだよね」

「なんだか中途半端だわ。それならいっそ、人魚姫?人と魚のキメラのお話?なーんて、言ってみたかったぐらいだわ」

「確かに本人としてはモヤモヤするかもしれないね、だけど……」

「だけど?」

「俺やミアや、エレンさん達ノアの皆もそうだけれどさ、皆はそれぞれ知らない人から始まっていても地球って共通の思い出を持って話が出来る。なのに、リンドだけそれが出来ないのって仲間外れみたいでさ、俺ちょっと寂しかったから……なんか、それが嬉しいかもしれないなって」


 口にしながらさまざまな苦い経験がよぎる、あまり上手くいったとは言い難い人間関係の様々が。だからこそ、彼女には同じ思いをさせたくはなかった。そこにいながら、一部の話せる人としか話せず、人々の中にいながらそこにいるだけで認識されない。そんな彼女を見ながら胸が痛くなる。しかも、彼女は自分から輪に入る方法がないのだから尚更だった。


「……随分と気を使うのね。アオイったら人使い荒いくせに」

「い、いやぁ、それは悪いと思ってるけど……君も、俺達を守る為に力を貸してくれてる。そんな君にとっても、良い場所だと思ってもらえたらなって……」

「!」

「そんな場所に行ってみたいなって、思えるような所を知ってもらいたい。だから、君が地球の物語を知ってくれている事が嬉しい。悲しい話も多いけれど、あの世界は夢を生み出すのもすごく上手な世界だから……もっと、それを教えてあげたいな、君に」


 嬉しそうに語る葵を見ながら、彼が図書館があればと言っていた事を思い出す。そして、彼が勇者になりたいと口にしていた事、彼の記憶を夢で見た時の事。純粋に物語が好きだったのやもしれなければ、その方が大半を占めるだろう。だが、彼は元から空想や想像を隣人としていた可能性を感じた。

 そんな彼がこの想像で構成されたような世界よりも選びたい現実がある事はやはり意外だった、何が彼をこう思わせるのか。それは彼の自我なのか、あるいは超自我の検閲を経た、社会的な彼がそうさせているだけなのか──


「あっ、ほら詰め所が見えてきたよ……って、あれ、リンド?」


 葵の袖を引っ張って引き寄せて後ろから耳に口元を寄せる。


「私も、貴方の見てきた物をもっと知りたいわ」

「え……」

「あのプリンとはまた違う美味しい物も、苦労も、人魚姫以外のお伽噺も、貴方の生きる街も、この目で、この肌で。本物の世界を知りたいし、触れたいわ。貴方のせいよ、私が俗っぽくなってしまったわ」


 皆が集まる中で食べたプリン。地球に似た光景の住居、魔力のない風。偽物の世界のような煌めきはなくとも、リンドにはそれこそが求めた物だった。


「だから、私にとってこの世界は変わらず本物ではない。美しいけれど本物ではない。貴方の勇気に背を押すから、私に本物を頂戴」


 最初から口にしていた望みの中身が今ようやく納得出来た、いや完成したのかもしれない。地球を知る為に、本物を知る為に、美しい偽物を壊してしまおうと。彼女のスタンスはより確固たるものとなったと言える。

 そう言い終えたリンドは微笑みながら袖から手を離し、葵も笑みを返しながら頷く。


「勿論、あげるさ。俺の為に命を賭けてくれてしまう君に」

「それはお互い様よ」


 お互いをそうして見つめ合って、そして──


「なぁにやってんだい」


 詰め所の入り口で呆れた顔をしているヴィルガに見られていたのだった。


「ヴィ、ヴィ、ヴィルガさん!?」

「よっ」


 葵は勿論、リンドも珍しく恥ずかしげにしながら距離を離す。だが、距離を取ってからヴィルガの目から見れば奇妙な事をしている様子になると気付き、少しフラついたふりをして大丈夫だと主張するように両の手をあげる。笑顔が少し苦しいが、これで誤魔化しは効くだろう。


「何でアタイがここにって顔だな、門番は警備隊の仕事の1つなんだよ」

「今は交代の時間って事なんですか?あれ、警備隊の仕事の1つってことはヴィルガさんも……」

「ああ、そういうわけだ」


 鼻を得意げに鳴らしながら肩の大剣を担ぎ直す。これが警備隊に務める人間の姿であり、この高くも厚い壁を思わせる姿こそがこの街を守る為に必要なものだと見せるようだ。


「アンタも今日から警備に入んだろ?ま、つまり仲間であり、アタイは先輩ってわけだ」

「はい!よろしくお願いします、ヴィルガ先輩!!」

「いや、アンタ体育会系じゃないんだから……」

「俺帰宅部です」

「いやいや、そうじゃなくてだな!?く、ははっ!まぁ良いや!ついて来な、案内してやる」

「アオイって時々アホなんじゃないかと思うわぁ」

「うぐっ……は、はい、ありがとうございます!」



 詰め所も景観を崩さない白いレンガ造りの砦になっていたが、水光が届かないからか壁掛けの松明等で光源を作っている砦の中は少し暗く、冷たく感じられた。加えて、酒場の時は移動等の関係で忙しなかったから気付かなかったが、下半身が魚の形状な影響で家具が少し普通とは異なっている。椅子に背もたれはどれもなく、寝そべるぐらいの幅がある石造りの椅子、テーブルサンゴの様な卓、壁にかけられた武器も泳ぐ事による推進力を利用しつつ戦いやすいからか槍の様なリーチのある物が多い。人魚が泳いで上昇する前提の位置にある壁にそのまま付けられた扉に見張り窓、とにかく普通の人間が使う想定がされてない形状を幾つかしている。

 それもそうだろう、この街は人魚の為の街であり、この街の治安を司る者もまた人魚ばかりなのだろうから。本来普通の人間はあくまで観光客のようなものである事も思えば尚更に。だが、形式上としては観光客でありながら、そうではない立場として入れた葵はそんな光景を物珍しそうに見渡していた。


「おぉ、おぉお〜〜」

「ほらほら、あんまキョロキョロしてっと転ぶぞ。足元気をつけな」

「はい!」

「まずはアンタを皆に紹介する、今は街の中見て回ってる奴等とは後からちゃんと挨拶すんだよ」

「は、はい!!その、街の見回りとか、門番とかっていわゆるシフト制なんですか?」

「ま、そんなところだ。24時間見回りしないとだから、その辺り決めておかないと皆が潰れちまうからな」

「成る程、それも地球人ならではの知恵ですね」

「思えば、24時間も太陽の動きから決まってるって話よね。この世界でも24時間で通用するのって不思議ね」

「ん、それは確かに……邪神の作った世界、なんだよね……?ノアに置いてあった時計も24時だし……でも、こっちで勝手に決めちゃったんじゃないかな?時計の構造と動きは地球と同じにして、24時間を作った、とか」

「それもおかしくはない話だものね……」

「ほら、着いたよ。アタイが扉を開け終えるまでに裾とか直しておきな」


 その一声と共にヴィルガは1つの扉の前で止まり、ドアノブに手をかける。葵は大急ぎで髪の毛を整え、襟を整え、リンドも後ろからコートのよれた部分を伸ばし、扉が開き終えるまでになんとか身だしなみは整え終えた。

 扉が開き切ると、中は休憩所になっていたらしく。複数の人魚の視線が一斉にこちらを向く。長方形の石造りのテーブルの上にはヒレが羽の飾りの様に両側についた兜を置いている様子が数人分見られる。1人は驚いた様に、1人は珍しそうに、1人は面白そうに、様々な感情を向けて葵の方を見ている。当の葵は──


「ひぃっ」

「アオイったら今日だけで何回青ざめてるのよ……」

「休憩中に悪いな、新入りを連れて来たぜ!今日から臨時で警備に参加してくれる……えっと、コイツ、ほら、その…………アンタの名前なんだっけ?」

「そもそもまだ聞かれてないですからね!?」

「じゃあ、ついでに自己紹介しな!気の利いた一言とチャームポイントも添えてな!」

「ひぃっ!」

「また青くなった…アオイのアオはそこだったのね」

「余ったイの部分に謝れ……っ」


 しかし、門を通してもらった時に色々と世話になったのもあって、そこで自己紹介をしておけば良かったと同時に思うだけに、青くなってばかりもいられない。コミュニケーションや集団行動において第一印象はどこであっても大事である。とにかく元気な挨拶とハキハキと喋る事、これさえあれば最初はクリア出来るはずなのである。


「た、た、滝沢、葵と申しま、あっ、いや、葵です!!ま、まだまだ未熟なので、ご指導ご鞭撻のほど、よ、よろ、よろしくお願いします!が、がんばります!!」


 しかし、あがり症かつ人と目を合わせるのが苦手なのが滝沢葵少年であった。45度のお辞儀をしながら、体温を低下させつつ冷や汗を激しく滲ませている彼は、この世界に来てから何度目か分からない失敗の感覚を覚えていた。

 だが、彼の想像上では凍った空気が生成されていたからか、恐ろしく長く感じた時間は実際には瞬く間で──


「よろしく!私はシエルよ」

「そんなに緊張しなくて良いわよ、アオイ」

「わぁ〜可愛い子ですねぇ〜ヴィルガと同じぃ、2本の足のぉ、人が入ってくるなんてびっくりですよぉ」


 休憩所にいた人魚達の声が聞こえて、ようやく様子を伺うように顔を上げる。そこで見えた皆の表情は年下を見守る様な顔だった、身体から力が抜けて肩が微かに下がるが、その肩を勢いよく叩かれて安堵は驚きに変わった。無論、叩いたのはヴィルガだ。


「ほらほら!シャキッとしな!コイツら皆超フレンドリーだろ?」

「は、はい……皆さん、その、とても優しくて」

「ふんふん!そうだろそうだろ!」

「ヴィルガは力が強くって困ってるでしょ?」

「た、逞しくて憧れます!」

「まぁ、お上手な子ねぇ。でもでもぉヴィルガのぉ、せいでぇ、怪我をしたらぁ、いつでもこっそり言ってねぇ」

「アンタらはアタイを猛獣か何かだと思ってないかい……?」


 和やかかつ、互いに完全に馴染んでいる様子を見て、ノアの皆を思い出す。既に完成された関係性の輪の中に入れようと頑張って手を引こうとしてくれる人々、それを見る度に彼等は精神的に大人で善良なんだろうと純粋に感じる。それが心から嬉しくて、そういう人に救われながら、葵はそういう人を少しだけ眩しく思っていた。

 その最中にも好き勝手言われ続けていたヴィルガが手を叩いて話を修正する。


「はいはい!!新入りとアタイで遊ぶのはそのぐらいにして、だ。今確か人数調整キツい時間帯って夜中から朝にかけてだったよな?」

「そうそう、この前まで入ってた子が突然いなくなったじゃない?それ以来夜の子が時間延長したり、ヴィルガが入ってくれてるもの。かなり無茶な感じになってるわ」


 突然いなくなった、その言葉を聞き逃さなかった。恐らくエリアが言っていた件とは無関係ではないはずだ、しかもその時間帯に警備も被害にあったのだとすれば、そこが空いてるのは葵にとっては都合が良かった。


「俺……じゃなくて自分、その時間帯に入りたいんですけど、良いですか?」

「私達としても助かるけれど、大丈夫?いきなりその時間帯をフルって……私達先輩が一緒についてあげられる時間の方が良いんじゃ──」

「大丈夫です。って言っても大丈夫な証明ってなかなか出来ませんけれど……でも、やります!騙る者と戦った事とかならあるんで!」

「げ、アイツと!?ふーむ、それならこの街の警備ぐらいなら問題なさそうね」

「アタイとしても後押ししたいところだね、やる気満々な奴だし」

「ヴィルガが言うなら尚更心配は不要かもしれないわね」

「賛成ぃ、なんだかぁ、その方が面白そうだしぃ」


 思いの外、すんなりと受け入れられたのはヴィルガの人望の影響だろうか。彼女の後押しが何よりもの証明となってくれたのならば、この街に来てから既に何度世話になっている事だろう。

 意外そうに目を丸くする葵に幾つかの紙と、互いの声を届けられる不思議なホラ貝を渡される。


「アンタの今日頼む水仙区の見回りのルートと詳細な地図とマニュアルだ。時間までにしっかり読み込んでおくんだぞ」

「ありがとうございます」

「アンタの分も入れた予定表は後で書くから、今は臨時のやつで我慢な」


 いよいよ、事件の捜査に動き出せる。被害例をこうして近いところで聞いた以上、尚更に少しでも早く解決に向けて動かなければならない。

 その拉致の背後は、この街の奇妙なところは、謎はまだまだ多い中での調査初日。この時までは葵達が思う以上に事が大きくなるとは、まだ誰も知らなかった──

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