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006 魔獣との遭遇

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 サベージとメイスンは男に案内されて、

魔獣の足跡を調査していた。

 足首程の高さまで雑草が生い茂っているにも関わらず、

その足跡はくっきりと草を踏み抜き地面に刻まれていた。


「このサイズの足跡だとこりゃあ大物ですね。形からいって猪系の魔獣だと思います」


 屈んで足跡を観察していたメイスンが推測を述べる。


「竜のたぐい何てこの世の終わりを引かなかっただけマシと思うべきか。で、その猪系とやらはどれ位危険なんだ?」


「サベージさん、まず前提として魔獣は種族とかの型にはめて考えるべきじゃねぇ。魔領の中心にある魔霊峰に近い場所で過ごした魔獣ほど強力なのは知ってると思います。ゴブリンだって魔霊峰の近くで育った個体は一匹だけでも脅威になる。そんで、その魔霊峰の麓ですくすく元気に育った奴が魔領と人領の堺に出てくることもあります」


「とんでもねぇ猪の可能性だってあるのか。初日から参ったな。それで、対魔獣組合の冒険者として今日の作業は切り上げるべきだと思うか?」


 サベージの問いにメイスンは立ち上がって

腕組みをして暫し唸る。

 魔領とは人の安全圏とはかけ離れた場所だ、

これしきのことで毎回作業を中断していては

開拓が進まなくなってしまう。

 それに、魔霊峰に近い領域に縄張りを持つ魔獣が魔領の外苑まで出張ってくることは、

一部例外を除いて滅多にない。


「大物ではありますが、猪系なら冒険者二人で全く歯が立たない個体の可能性はかなり低いでしょうな。作業範囲を小さくして俺とハイアンで不測の事態が起きても対象できるようにしましょう」


「わかった。休憩がてら一度作業員達を集めてその辺りの説明するか。近場に居る奴は俺が対応するから、離れた場所はメイスンとハイアンで伝令を頼めるか?」


「わかりました。ハイアンの奴に声を掛けてきます」


 脅威への対応の打ち合わせも終わり、サベージとメイスンが行動に移ろうとした時だった。


「魔獣が! 魔獣が出たぞー!」


 絶叫にも近い叫びがやや離れた場所から聞こえてくる。

 その方角に視線を向けると、遠目でも慌てふためく作業員と

猪のような黒の巨躯が駆ける姿が見て取れる。

 そんな光景にメイスンは慌てることなく冷静に対応する。


「サベージさん、まわりの奴だけで良いんで、声かけて広場に避難して下さい。それ以外は俺がやります」


 メイスンはサベージの返事すら待たずに颯爽と乗馬して、

魔獣のもとへと駆ける。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 サベージ達が魔獣出現の知らせを受ける少し前、

剣吾達は次の獲物となる木の前に居た。


「それでは、この木は己にお任せあれ!」


 剣吾は愛犬ポチを抜刀して、木に向かって剣を構える。


「ぬん!」


 気合を入れて一切り入れると、浅く幅広い傷がつく。

 しかも、斧とは違い、木の幹に剣が食い込んでしまった。


「むむ、思ったよりも上手く切れないな」


「ソリャ、剣ダカラナ…」


「わん…」


 若干呆れ気味の二匹は、剣吾を止めることなく見守ることにしたようだ。


「ぬん! こんな感じか! せいっ!」


 それでも、流石は剣を振ることに生き甲斐を見出して

鍛錬を積んで来ただけはある。

 やや不格好ではあるが、何と剣で切っているにも関わらず、

ちゃんと木の幹には受け口ができあがりつつあった。


「やはり剣ですな。剣は全てを解決するのですぞ! ワハハ!」


「凄イノカ、アホナンダカ」


 受け口が完成すると、剣吾はそのまま追い口の形成に取り掛かる。


「フンヌ! よっ!」


 水を得た魚成らぬ、剣を得た剣吾は活き活きと木を伐り刻む。

 追い口の完成も間近だ。

 そんなタイミングで、魔領の森から巨大な影が飛び出してきた。


「ヴゥ~、わんわん!」


「オイ、魔猪ガキテンゾ!」


「マチョとは何だろうか?」


「アレダヨアレ!」


 ゴロウとコタロウは必死に剣吾へと危機の襲来を伝える。

 剣吾はゴロウの指差す方向を見る。

 森の中から、大人の背丈に近い巨大な図体に雄々しい牙を携えた黒い猪が、

猛烈な勢いで剣吾達に突っ込んで来る。

 ようやく剣吾の脳は警鐘を鳴らして、

のほほんモードから実用西洋剣術試合モードへと切り替わる。


「下がってくだされ!」


 剣吾はいつの間にか抜刀している二匹を自分の背後へと隠す。

 既に猪は牙で剣吾達を串刺しにせんと猛進して迫りつつある。

 剣吾ははっと思い付いて、目の前の木に蹴りを入れる。


「どっせーい!」


 綺麗にケンカキックが決まった木は、メキメキと音を立てて猪に向かって倒れる。

 猪は木の直撃を避けたため、剣吾達向かっていた突撃の方向を若干ずらす羽目になった。

 更に葉が生い茂った木は猪と剣吾の視線を一瞬だけ遮る。

 木が倒れきると、剣吾には真横を通り抜けきり、

方向転換を始める猪が視界に入る。


「コタロウ殿、助けを呼びに!」


「わん!」


 コタロウはすぐさま剣を放り投げて、

四足歩行でサベージが向かって行った方角へと駆け出す。

 猪の注意がコタロウに向く。


「うおおおおぉぉーー!」


 剣吾は己に猪を引き付けるべく、凄まじい気迫の咆哮をあげた。

 狙い通り、猪は剣吾へ向きなおる。


「かかってこいやぁー!」


 挑発を続け怒気を放つ剣吾が、猪の眼にある程度は脅威に映ったのだろう。

 『ブフッー』と威嚇らしき鼻息を鳴らした猪は、

我武者羅(がむしゃら)に突っ込もうとはせず剣吾と暫し睨み合う。


 先に動いたのは剣吾だ。


 左後ろにゴロウが居る状況で突進を受けると、

二人まとめてなぎ倒されかねない。

 ゴロウからより離れる形で右前へと身体を傾けて、

猪に対して間合いを詰めるような動作を見せる。

 猪も剣吾に向かって突進で迎え撃つ。

 剣吾は衝突の直前に身体をより前傾させ瞬間的に加速して、

牙を突き刺さんと振り上げた猪の横をギリギリで避けることに成功する。

 すれ違い様、猪の勢いを利用して左前足の付け根を流し切りするカウンターのオマケつきだ。

 とはいえ剣吾の必死の一撃は、魔獣の毛皮・脂肪・筋肉と肉の鎧に包まれた猪には対した傷は与えて居ないだろう。

 剣吾も剣から伝わって来た感触からそう判断した。

といっても、叔父に連れられて猪の解体を

手伝った時の経験から予測しているだけなので、

なんとなくといった曖昧なモノではあるが。

 

「GUGIGI、PIGYAAAA!」

 

 軽症ながらも手傷を負わされた猪は、

より一層興奮して牙を左右上下へと

でたらめに振り回して暴れながら剣吾へと迫る。

 剣吾は咄嗟にたまたま足元に転がっていたコタロウの剣を掴み、

猪の頭に向かって投擲する。

 剣吾は武器を投げる訓練は特に積んでいない。

剣は回転しながら猪の頭向かって飛んだが、

勢いも無いし致命傷を与えるような業の鋭さも無い。

 猪は頭を大きく振りかぶって牙で剣を弾く。

 そう、剣吾はダメージを与える目的で剣を投げた訳では無い。

牙の乱舞を狙ったタイミングで大振りにさせただけだ。 


「チ゛ェストォ゛ーー!」


 剣を投げると同時に駆けだしていた剣吾は、猪の左側に素早く駆け込み、

そのままの勢いで剣を喉元辺りに突き刺し引き抜く。


「PIGYU!」


 完全に狙い通りとは行かなかったらしい、猪の喉から微妙に呼気と血が滴り漏れる。

 猪は反射的に体を(よじ)って頭と振り回し、剣吾を弾き飛ばす。

 牙こそ刺さらなかったものの、猪の一撃で剣吾は地面に仰向けに寝そべる羽目になる。

 そんな隙を猪が見逃してくれるはずも無く、

止めを刺さんと牙を剣吾へと向け頭を突き込もうとする。


「ウリャ!」


 そんな剣吾の窮地を救ったのはゴロウだった。

 がら空きだった猪の尻にゴロウの剣の突きが入る。

 

「GIGI」


 魔獣とは言え動物の本能に近しいものはあるのだろうか。

猪は痛みが走った尻の方へと頭を向けてゴロウを睨みつける。


「ウゲッ、コッチ向イタ…」


 そうすると今度は剣吾の方へと無防備な尻が向けられる。

 この一連の短い戦闘だけで、剣吾の息は大分上がっていた。

 初めての命のやり取り、一瞬たりとも集中を切らせることもできない。

 このまま猪と戦闘を長く続ければ、

いずれ牙が刺さって命を落とすだろう。

そんな予感が剣吾にはあった。

 勝ちを得るには何とか短期決戦に持ち込む必要がある。

そう瞬時に判断した剣吾は素早く立ち上がり賭けの一手に出る。


「ぬーーーん!」


 剣を身体に密着させて全力で突貫して、

尻の中でも取り分け柔らかい肛門へと剣を突き入れて手放す。


「PUGYUAAーー!」


 明確な致命傷を貰った猪は、

反射的に後方からの脅威から逃れるべく前へと駆け出す。

 ゴロウは急な突進に奇跡的に咄嗟に剣を盾にして牙から身を守るが、

剣吾よりも遥かに小さい体躯のため、

当然の結果として押し倒されるどころか空中に弾き飛ばされた。

 今度はゴロウの窮地に剣吾はなけなしの力を振り絞って、

猪の臀部へとショルダータックルを当てる。

 渾身の当身だが、不整地で日々を過ごす四足獣にとっては、

少したたらを踏むだけに終わるはずのものだったが、

致命傷を負って狂乱する猪の体制が悪かったのも功を奏した。

 猪は横倒しに転倒してしまい必死に立ち上がろうとするが、

肛門付近に突き刺さった剣吾の剣の刃が、

もがく猪の体内の臓腑を急速に傷つけていく。

 結果として激しく自傷した猪はどうにかこうにか立ち上がったものの血を失い過ぎたらしく、

フラフラと揺れながら転倒する。

 そのまま小刻みに痙攣して間もなく絶命した。


「終わったか。ゴロウ殿、助太刀感謝いたしますぞ」


 剣吾は肩で息をするどころか、完全に足腰が震えてしまって地べたに座り込んだ。


「うーむ、初めての命を賭したやり取りとはいえ、己の未熟さが不甲斐ないものですな」


 そして、此度の戦闘が運が味方した上に、

ゴロウ殿が助けてくれたから勝てたとしかいえない結果に激しく落胆する。


「シヌカト思ッタゼ…」


 ゴロウも剣越しとはいえ、牙と強靭な振り回しを当てられて満身創痍なのか、

草の上で大の字に成りボソッと感想を述べた。


 こうして、異世界に来てから初の試合ならぬ死合いを終えた剣吾だった。

またしても更新が開いてしまい申し訳ないです。


以下定文

初作品なので、拙い文になるかも知れません。

それでもお付き合い頂ければ幸いです。

週末に一話ずつ更新を目安に頑張ってみます。

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