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005 開拓村での初開拓

 剣吾の朝は早い。

 まだ空がほんのりと白んで来たばかりの早朝。

 より鋭く、より早く剣を振るための鍛錬から剣吾の朝は始まる。

 当然、不幸にも勘違いされてしまった二人(匹?)も道連れとなる。

 軽いジョギングから始まり、身体が温まったところで、

腕立てやスクワットなどの基本メニューをこなす。

 そうして軽く疲労した所で、父に叩き込まれた剣の型に沿って素振りをする。

 こうして小一時間ほど朝のルーティーンをこなした一人と二匹は、

凍えるどころか命の危険を感じるレベルの冷たい川で火照った身体を清める。

 剣吾は転生した時の制服しか服を持ち合わせていなかったが、

ルオリ隊長から貰った、若干… いやかなりサイズが厳しい予備の服へと着替えた後、

テントへと帰宅する。


 テントへと戻る道中、ガタガタ震える布にくるまれた芋虫の様な物を

小脇に二つ抱えて歩いていた剣吾は、うんうん唸りながら険しい顔を見せる。

 早朝なので開拓予定地を歩く人々はまばらではあるが、全く居ない訳では無い。

 凶悪な顔の大男が、パツパツの衣装に身を包み、

震える子供サイズの布を抱えて練り歩く。

 その異様な光景は何らかの凶行に映らないほうが難しい。

 しかし、幸いにも昨日の夜の集会での周知がよほど上手く行ったのか、

度胸のある者が居なかったのか、剣吾の歩みを止められることは無かった。


 剣吾はテントの前に着くと、二人をそっと地面に降ろす。

 そして、二匹の肩に手を置いて正面から向き合う。

 視線だけで人を殺せるんじゃないかと思わせるような、

迫真の剣吾の表情に二匹は息を呑む。


「ゴブリン殿、コボルト殿、大事なお話があります」


「コ…殺サレル……」


「くぅ~んくぅん」


「む? これからお二人の名前を相談して決めようと思っていたのだが」


「ナンダヨ、名前カヨ」


「うむ、エマ殿にもお願いされていたゆえ、朝の鍛錬中からずっと考えいたのだが。やはり己には名付けの才能など無い。苦肉の策として昔飼っていたペットから名前を拝借しようと思う」


「オレガ言ウノモアレダケド、ペットカヨ…」


「ぬぅ、本当に申し訳ない」


「スキニシロヨ」


「かたじけない! それでは、ゴブリン殿には昔飼っていた犬の悟朗(ゴロウ)の名を。コボルト殿にはハムスターの小太郎(コタロウ)の名を付けたいと思う!」


「オ…オレガ犬ノ方ナノカ……マァイイケドヨ」


「わん!」


 こうして名無しだったゴブリンは悟朗(通称:ゴロウ)と。

 コボルトは小太郎(通称:コタロウ)と名乗ることとなる。

 ゴロウとコタロウ、開拓村でもちょっとした名物に成るのだが、

それはもうちょっと先の話し。


 剣吾がテントの入口をくぐると、食欲をそそられる匂いが漂って来て鼻孔を刺激する。


「只今、稽古から戻りましたぞ!」


 朝から元気一杯の剣吾に対して、

エマはちょっとだけげんなりした様子で朝食の準備をしていた。


「ケンゴさん、今日から開拓の作業をお手伝いして貰う予定と、昨日の夜お話したと思います」


「間違いなく聞いておりますぞ」


「私も又聞きですけど、男の人の開拓作業ってかなり大変見たいですよ。朝から鍛錬何てして、今日一日でへばっちゃっても知りませんからね」


「た、確かにそうですな。むぅ、何も考えておりませんでした」


「はぁー、ケンゴさんはまぁ元気そうですから良いんですけど。ゴブリンさんとコボルトさん死にかけじゃないですか。ケンゴさんが責任持ってペットの面倒見て下さいね」


 特大の溜息を洩らしたエマは、床代わりの布の上でぐったりする二匹を見る。


「お二人はペットでは無く剣の道を志す仲間ですが、己が倒れてしまわぬようしっかりと見張っておりますのでご安心下され!」


 一つも安心できない宣言に、二匹は助けを求めてエマを見つめる。

 エマは哀愁漂う表情でボソッとごめんねと呟くと朝食の準備を再開する。

 救いは無い、二匹は今日という日が絶望に彩られた素敵な時間であることが確定した。

 緑と犬は仲良く布に突っ伏して、現実逃避することにした。


 食事の準備が整う。

 昨日の夕飯も二匹は床で良いと申告したが、

剣吾の力強い説得によってテーブル代わりの木箱に全員顔を並べて食べていた。

 なので、最初から四人分の食事が木箱に並べられた。

 体躯が小さいゴロウとコタロウにとってテーブルの上に乗せられた食事は大変食べ難く、

ありがた迷惑も良い所ではあったが、剣吾にそこまで考える能力は無い。


「流れ人の名前の響きって、なんだか独特ね」


 朝食の合間に二匹の名前が発表される。


「飼っていたペットの名前をお借りしました!」


「やっぱりペットと思ってるんじゃない…」


「むむ。一応、己も案は考えたのですが。ゴブリン殿はグリーンソードキングムサシと、コボルト殿はキングエンペラーハチコウです。お二人はこちらの方が良かっただろうか?」


 エマはピタっと食事の手が止まり、二匹は首を全力で横に振る。


「貴方のお母さんは正しかったわ、ケンゴさんは名付けを生涯に渡って自戒した方が良いと思う」


 打って変わって二人は首を全力で縦に振る。


「やはり、名付けのセンスは無いみたいですな。将来、子供ができた時はエマ殿に相談しましょう!」


「ゲホッ ゲホッ」


 エマは口に含んでいたスープを吹き出しかけて、ジロッと剣吾を睨みつける。


「急に変なこと言わないで下さい。何も考えてないって、逆に恐ろしいわ」


「はて?」


「何でもないです。食べ終わったら片付けは私がやっておくので、中央広場に行って下さい。開拓作業班の人に指示を仰い下さいね」

 

「かたじけない」


 食事が終わった一人と二匹は身支度を整えて中央広間へと向かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 開拓作業員らしき人が集まりつつある広場に剣吾が到着すると、

人々のざわめきが少しだけ大きく成る。


「アンタがケンゴかい? いや、聞く方が馬鹿だったな」


 剣吾に歩み寄って来た中年の男は、

剣吾傍にいた二匹を一瞥する。


「うむ! 己は剣吾と申す、剣神スレイド様の信徒で剣士である!」


「あー… 開拓村の中でその名乗りはもう要らないと思うぞ。もう全員、ケンゴのことを知ってるからな」


 服越しにも引き締まった肉体が垣間見える中年の男は、

ポリポリと頭を搔く。


「俺はサベージ、今日一日ケンゴの指導に当たる。よろしくな」


 サベージと名乗った男は両手の手の平を上に向けて剣吾の方へと差し出す。

 

「宜しく頼みまする! えーとこちらの手はどうすれば?」


「あぁ、そういやそうだったな。両手を手の平を下に向けながら俺の手に重ねれば良い。それがこの地方での挨拶だ」


「おぉ、そうでしたか」


「やらかす前に釘を刺して置くが、俺の手は握るなよ。それは俺に対する求愛に成っちまうからな」


 剣吾とサベージはこの世界ならではの挨拶を交わす。


「早速だが今日は開拓予定地の周囲の木を伐採する作業を手伝って貰う。剣士様とは言え、冬前の今は男手を遊ばせて置く余裕はねぇからな」


「多少は経験がありますぞ。精一杯お手伝いいたしましょう!」


「まぁあんまり張り切り過ぎなくてもいいぞ。伐採作業は成れて無いと平気で死人が出るからな」


 サベージは今度は声を張り上げて周りの人間に呼びかける。


「村の北側の伐採から始める。普通の森と違って魔領の中だから魔獣が出るかも知れねぇ。三人組を作ってお互い離れるんじゃねーぞ。物見の(やぐら)もまだねぇ、魔獣に遭遇したら声張り上げて護衛の連中を呼ぶことを忘れんなよ」


 開拓作業員の男達は真剣な表情で頷く。


「俺ら護衛二人は馬に乗って巡回するから、何かあったら声かけてくれや。女のケツ追いかける時よりほんの少しだけ早く駆けつけやるよ」


「ははっ、期待してるぜ。漏らしちまった時の替えの下着も頼むわ」


 軽口のやり取りで全員の緊張が良い感じに(ほぐ)れた後、

サベージは簡単な伐採場所の打ち合わせを行ってから出発の号令をかけた。


 村の北側、空けた開拓予定地と、うっそうとした魔領の森林の境目に、

(まば)らに木々が生えている。

 その木の一本の前に剣吾達は立つ。


「道すがら聞いたけど、背丈位の木の伐採と大きな木の伐採じゃ訳が違う。正しい手順を踏まねぇと木に潰されてぺしゃんこに成っちまう」


 サベージよっと掛け声ととも斧で木を削っていく。


「しかも木の成長の仕方に寄っちゃぁ狙い通りに倒れなかったり、木が腐ってて急に倒れてきたりする。ケンゴは伐る木を選ぶときはこの木みたいに背丈がそこまで育ってない奴にしとけ」


「なるほど、木の伐採とは実は奥深いモノだったのですな」


 二匹も自分の命がかかっていることもあり、

剣吾同様にサベージの言葉に真剣に耳を傾ける。


「こんなもんかな。これが受け口つって、倒したい方向に入れる切れ込みだ」


 十分程で、小さな木にくの字の様な切れ込みが入れ終わる。


「後はこの受け口の反対側の少し上に同じような追い口を切って倒すんだ」


 サベージは一息つくと、持っていた斧を剣吾へと手渡す。


「やってみな。上から斜めに切り込む。次は水平に切り込む。これを交互に繰り返すんだ」


 剣吾は斧を受け取り、見様見真似で斧を振り下ろす。


「どりゃあああーー」


 剣吾は腹の底から声を出し、持てる力の限りで斧を木へ打ち込む。

 ドゴッという鈍い音と共にサベージが振った時より遥かに多い木屑が舞い散る。


「ちょっと待てちょっと待て、そんな親の仇じゃねぇんだからよ。そんなに力むと狙いが外れるぞ」


「む、失礼した。こう何かを振るときは自然と力が入ってしまって」


 こんな調子でサベージの木こり講座は進んで行き、

ある程度の知識の伝授が終わった所で一人の男が歩みよって来る。


「サベージさん、ちょっと見て貰いたい物があるんだが。魔獣の足跡かも知れねぇ」


「そいつは良くねぇな、護衛のメイスンも呼んで見て貰うか。ケンゴ、俺は行くからよ。小さい木をその二匹と交代で伐っといてくれや。万が一魔獣が出たら迷わず声上げて逃げろよ」


「任せて下され!」


 こうしてサベージは離れていき、剣吾達は伐採に精を出す。

 ゴロウとコタロウが苦戦しながらも何とか一本ずつ伐採した所で、

剣吾はとあるアイディアを思いつく。


「斧は一本しかないが、己には刃引きされていないまごうこと無き本物のロングソードがあるではないか!」


 剣吾は愛剣ポチを抜刀して満面の笑みを二匹に見せた。


「ボス、木ニ剣ナンテブツケタラ折レルゾ…」


「くぅ~ん」


「心配ご無用! この剣は剣神スレイド様より賜りし、決して折れず切れ味が落ちぬ名剣。試し切りには持ってこい! お二人は斧を使って交代で木を伐ってて下され!」


「三人組デ作業シロッテ、言ッテタジャン」


 悲しいかな、剣吾の剣以外のことに割り当てられた脳の領域はゴブリンより少ない。

 ゴロウの指摘を受けてハッとする。


「そういえばそうだった。むむ、では次の木は己にお任せあれ!」


 とりあえず剣を使うことは確定しているらしい。

 剣吾達は次の木へと向かった。

大変申し訳ありません。

リアル激多忙と新型コロナを食らって一ヶ月近い期間更新が止まってしまいました。

また、週一のペースに戻せるよう頑張ります。

以下テンプレ文


初作品なので、拙い文になるかも知れません。

それでもお付き合い頂ければ幸いです。

週末に一話ずつ更新を目安に頑張ってみます。

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