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004 邪神スマイル、開拓村に立つ!!

 ガタゴトと揺れる馬車の荷台は、当然の如く開拓村で使う予定の物資で満載だった。

 剣吾はこの世界で初めて獲得した稽古仲間と共に、荷物の上に腰掛けていた。

 剣吾の向かいに座るのはルオリ隊長だ。

 開拓予定地に到着が目前まで迫って、

事情聴取がようやく終わりを迎えそうだった。


 いや実は、馬車に先に乗っていたミズルの妻と娘が、

剣吾と愉快な魔物と手下を見て狂乱しかけたハプニングもあったりしたのだが。

 これからの話し合いに同席させるのは(はばか)られるため、

二人には軍馬の戦士と相乗りして貰った。

 腰も据えて落ち着いたところで、開拓予定地までの道程を進む最中、

ルオリ隊長は剣吾の事情聴取を進めた。

 長い長い問答が終わり、まとめ発表へと至る。


「つまり、こことは全く違う世界のチキュウと呼ばれる世界に住んでいて。幼少の頃から父親と父親の経営する道場の門下生と剣の腕を鍛えていて。十六歳でコウコウなる学院に通っていて。学院の帰りに同じ村の親子がトラックとやらに轢かれそうだったのを庇って死んで。筋肉神マルス様に最期の生き様を見惚れられて。筋肉神マルス様、剣神スレイド様の加護を貰って。開拓村の助けになって欲しいとの神託を拝命して。キャラバンの馬車がゴブリンとコボルトに襲われている所に駆け付けたと」


「おお、その通りですぞ!、ルオリ隊長殿は話上手であるな!」


「はぁ、ケンゴ殿の実情はよーくわかった。異なる世界から転生して来た人は、この世界では【流れ】。あるいは【流れ人】。一部では【神託受の勇者】などと呼ばれている」


「ふむふむ」


「流れ人はこの世界にはまだ生まれていない高度な技術を授けたり、加護によって強大な能力を保有していたりと国家同志の揉め事にもなったりする」


「ふむふむふむ」


「まぁケンゴ殿にもわかり易く言えば、流れ人を巡って戦争が起きたりする程度には難しい立場だ。立ち振る舞いにも気を遣う必要があるのだが……」


「うーむ、ルオリ隊長殿はもうすでにわかっていると思うが、己は頭の出来が余り良くないので立ち振る舞いと言われても。どうしたものか」


「自覚があるようで何よりだ。相手の立場を考えて腹芸するなんてのはケンゴ殿には無理だろうな。ケンゴ殿にはこれから自己紹介する時に必ず、『ケンゴと申す、剣神スレイド様の信徒で剣士である』こう名乗ってくれればそれだけで良い。後のフォローは俺が何とかしてみる」


「おお、それだけだったら己でもできそうだ」


 うんうんと満足げに頷く剣吾とは対照的に、クソデカ溜息が漏れて項垂(うなだ)れるルオリ隊長。

 間もなく、二人は開拓予定地へと足を踏み入れるのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 剣吾がゴブリン殿とコボルト殿を連れて馬車から降りると、

開拓予定地はちょっとした騒ぎとなった。


「隊長、戻られましたか! なっ、ゴブリンにオーガ!?」


 駆けよって来た青年は多分、自分とゴブリン殿とコボルト殿を視認すると、

驚愕の表情を浮かべて槍を構えている。

 というか、こちらの世界に来てからこんな感じばっかりだ。

 イケメンじゃない自覚はあるが、化け物扱いされて過ぎて流石にヘコみそう。


「静まれ! 慌てずに聞いてくれ。これから極めて重要な知らせをみなに伝える必要がある。十分後に中央広間に集まってくれ」


 ルオリ隊長殿はリーダーシップに優れるらしい。

 騒動を迅速に終結させると近くに居合わせたエマという女性を捕まえて、

何やら打合せをしている。

 話しが終わるとそのままエマさんを連れて来た。


「私の名前はエマと申します。ケンゴさんに生活して貰うテントに案内しますので、三人……三人とも着いて来て下さい」


「かたじけない、己は剣吾と申す、剣神スレイド様の信徒で剣士である」


 うーむ、先程なにやらルオリ隊長と打合せ後、

死人のように目の精気が無く成ってしまったエマさんが案内してくれるらしい。

 ゴブリン殿とコボルト殿と一緒にテントへ向かった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私の名前はエマ、二十二歳独身、そばかすがコンプレックス。

 身体も別にナイスバディじゃないし、顔もまぁ普通レベルだ、髪もありきたりな赤茶髪。

 これまでの人生も平凡だ。

 職人の家の三女に生まれて、女で家業は継げないし、

出会いを求めて酒場の店員を務めていた。

 二十歳を超えて独身だと行き遅れだと後ろ指を刺されるのに、

この前ついに二十二歳を迎えてしまった。

 賃金が少ない酒場の店員勤めから一発逆転、

開拓村の重役の妻を夢見て今回のキャラバンに志願した。

 勝算はある、ただでさえ過酷な開拓事業だ、志願する女性は基本的に居ない。

 夫に連れられて、もしくは国の指名を受けた女性は居るものの、

数は圧倒的に少ない。

 男だらけの厳しい環境、だけど夢は持てる。

 身の危険はあるが、上手く男どもを御しきれれば、

ちやほやされるのも夢じゃない。

 町から離れられれば、両親から口うるさく未婚を指摘されることもない。

 乾坤一擲(けんこんいってき)、ここで人生大逆転を決める!

 そんな夢想は開拓予定に到着して、早々に暗雲が立ち込めている。


「ル、ルオリさん、私に流れ人のお目付け役なんて荷が重すぎますよ!」


 ルオリ隊長からひとしきり説明を受けたエマは猛抗議する。


「わかっている、俺も大変心苦しい。しかし、越冬に備える必要があるのに男手が全く足りていない。えのケンゴとやらだって労力として捨て置くことはできない。冬が来るまでの間だけで良い、給金もみなには内緒で三倍出すから何とかやって欲しい」


「コボルトはともかくゴブリン何て女の敵とも一緒に過ごさなくちゃ行けないんですか!?」


「本当にすまない。しかし、剣神スレイド様の神託を授かった流れ人をないがしろにすることはできん。当然そんな奴が連れて来た奴がゴブリンでもだ」


 エマは絶望に自身の体温が急速に低下していくのがわかった。


「わかりました。これで命を落とした時はバンシーに成ってでもルオリ隊長を呪い殺しますからね」


「春に成ったらエマのお眼鏡に叶う男性と上手くことが運ぶように影ながら補助することも誓う。押し付けて本当にすまない」


 村が安定するまでの仮とはいえ、現最高責任者のルオリ隊長の命令だ。

拒否権はあってないようなモノだ。

 エマは我が身の不幸を嘆き、この世の全てを呪った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 剣吾は開拓予定地の中央広場からやや離れたテントへと案内された。

 そこそこ大き目のテントの中はまだ荷解きが終わっていないのか、

木箱や白い袋が散乱していた。


「とりあえず、適当に腰掛けて下さい」


「うむ、失礼!」


 床はまだ地面が剥き出しなので、適当な木箱を持ってきて四人は円を作る。

 コボルト殿は地面で十分なのか床に転がったが。


「ケンゴさん、ゴブリンさん、コボルトさん…。

呼びにくいんでゴブリンさん、コボルトさんのお名前をお聞きしても良いですか」


「名前ナンテネーヨ」

「わん!」


 剣吾はちょっとびっくりした。わんわんは犬っぽいからともかく、

ゴブリン殿に名前が無いとは思わなかった。

 事前にルオリ隊長とのやり取りでゴブリンというのは人種名だとはわかったが。


「そうですか。ケンゴさん、二人を連れて来た責任者として仮のあだ名でも良いので名付けは後で済ませておいて下さい」


「お二人の名前を!? うーむ、己は母にネーミングセンスが酷すぎると生き物への名付けは禁じられているのだが」


「ソモソモ俺ラヲ連レテキテ、ドウスンダ?」


「そんなの私が聞きたい位です。少なくとも生き延びたいならケンゴさんの言うことを良く聞いて、傍を絶対に離れないで下さいね」


「とにかく、この開拓村で過ごすからには色々とルールを守って貰います。まずは基本中の基本、仲間内での暴力沙汰は許されません。争いごとはルオリ隊長と神殿の神官の協議の上で調停されます。他にも……」


 エマ殿から色々な決めごとを説明されて、

そのままの流れでその他の注意事項を教えられた。

 何とか脳みそに叩き込んだが、

地球の文明に慣れ親しんだ剣吾にとっては辛い部分がいくつかあった。


「そうか、風呂は基本的に無いのかー」


「私も湯浴みはできるものなら毎日したいくらいですけどね。そんなことできるのは貴族様でもよっぽどの綺麗好きな方だけですよ」


「この世界は魔法が発展しているとは聞いたが、魔法のお風呂は無いのだろうか」


「あるにはあります。迷宮に潜って砂漠の砂の一粒にも等しい確率で温水の迷宮産魔導道具を引き当てるか。魔領の傍でも問題無く稼働する魔導道具を、三年は遊んで暮らせる大金を積んで魔導錬金術師に作らせるか」


「むむ、剣の稽古の後の風呂は欠かせぬジャスティス! 己がいつか迷宮から見つけて来てエマ殿にもお風呂を振舞いましょうぞ。ガッハッハ!」


「はぁ、そんな夢物語が叶った時は喜んでお背中だって流してあげますよ。今の時期は既に川の水も冷たいです。我慢して川で水浴びするか、井戸から桶に水を汲んで布で身体を拭いて下さい。年頃の乙女とは言いませんが、私も女なので、汗をかいた後は処理をお願いしますね」


「うむ、承知した! ゴブリン殿とコボルト殿と毎日の稽古が終わった後は川の水で洗って来よう! なぁ~に、ちょっと冷たい水程度で死にはせんとも!」


「マジカヨ…」


「くぅ~ん」


「それならこっちは助かります。後は開拓村のまさしく開拓作業が明日から始まるので、明日の朝に改めて打合せしましょう。晩御飯を貰って来るので、皆さんは待ってて下さい」


「かたじけない!」


 そこからは特に何事も無かった。

 エマ殿が運んできたスープと黒いパンと干し肉の食事を終わらせて、

冷たい川でゴブリン殿とコボルト殿とともに水浴びをして、

木の板に布を厚く敷いただけの寝床につく。

 布団を被りながら、剣吾は剣神スレイド様への恩を返すべく、

明日からの開拓生活に思いを馳せて、転生初日を終えた。

細々とした文のブラッシュアップと設定変更があります。

設定の煮詰め不足で申し訳ないです。

修正前↓

「あるにはあります。迷宮に潜って砂漠の砂の一粒にも等しい確率で温水の魔導道具を引き当てるか、数十年は遊んで暮らせる大金を積んで魔導錬金術師作らせるか」

修正後↓

「あるにはあります。迷宮に潜って砂漠の砂の一粒にも等しい確率で温水の迷宮産魔導道具を引き当てるか。魔領の傍でも問題無く稼働する魔導道具を、三年は遊んで暮らせる大金を積んで魔導錬金術師に作らせるか」


初作品なので、拙い文になるかも知れません。

それでもお付き合い頂ければ幸いです。

(ちょっと話のテンポが悪すぎるかも、すみません)

週一の週末に1話ずつ更新を目安に頑張ってみます。

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