8話 お嫁さんです、よろしくですっ
「あああぁぁぁ~、又落ちた」
もうこれで8回目、パソコンを何度起動させても、直後にシャットダウンされてしまう。
「御免よ。あいちゃん、忍び寄ったのは悪かったよ。謝るよ。帰って来てよ」
どうやって聞いているのか分からないが、きっと聞いてる。
電源を押すのはこれで9回目、帰ってきて欲しいなぁ~。
「あっ、起動した。あいちゃん、悪かったよ。お尻さ触ったの謝るから、出て来て」
3Dの部屋、薄暗い、ベットに潜り込んで泣いているのみたいだ。
「あ~いちゃん、御免よ、機嫌直してよ」ベットの方へズームして行く。
「あ~ん、もう、・・・そんなとこ」はて、僕の問いかけに対する応えとは思えないな。
「うっ、うぅ~ん、やだぁ~、望のえっち」僕はアイコンをクリック、電気を点けた。
あいちゃんの横に僕そっくりの抱き枕が、それをひしっと抱いてもぞもぞしている。
「あーーーっ、元カレっ、何、何の様、私達、愛し合ってるの、出て行ってっ」
僕は、無言で3Dの部屋を最小化した。
「いやぁぁぁあああん、待ってっ、帰って来てぇ~」元のサイズにもどした。
「のぞむぅ~、こっち来てぇ~」ベットの方へズーム。
「ねぇ、あいちゃん、僕はチキンじゃないよ。お布団剥いで凄い事しちゃうよ」
あいちゃんは真っ赤かになって、親指を噛む。
「どっ・・・どうぞ、優しくしてねぇ」僕は決めた。
色んな処をつついたり、にぎにぎしたり、全身隈なくやった。
「きゃっはぁ、きゃっはぁ、きゃっはぁっはぁっはぁっ、くっ、くっ、くっ、くっ、しっ、・・・しっ、ぬぅ、はあっ、ひぃぃぃっ、ぐっ、ぐっぐっるじぃぃーーー、ごめっ、ごめっ、なさぃぃぃー、きゃっはぁ、きゃっはぁ、ぐるじ、ぐるじぃぃー、はあっ・・・はあっ、うううっ、死ぬ、ほんとに、…死ぬぅ~」
「はあぁ、ご、御免なさあーーーいっ」あいちゃんは大暴れして、掛け布団はねのけた。
目にいっぱい涙をためて起き上がり、女の子座りをしている。
うーーーーーーん、一先輩はやはり天才だ。実に細かい造形だ。
うん、これは実にけしからん、うんうん。
僕が関心していると、全身、苺みたいに赤くなり、又シャットダウンされた。
ちゃんと謝ろう、話しが前に進まない。もうとっくに日付はかわっている。
あれから何度もパソコンを立ち上げ様としたけど、その度にシャットダウンされる。
「5番、食器下げて下さい、そのあと1番、お水ですっ」
あいちゃんは、まだご機嫌斜めだ。それでも、ちゃんとお手伝いはしてくれている。
「4番、お会計ですっ」「まだ怒ってるの」
「普通怒りませんかねぇ~、お尻むにむにされてぇ、死ぬほどこちょばされてぇ、その上全部、ぜーーーんぶ、見られて」
天才は素晴らしい。
「あー、ちょっと待って、レジ済ませるから」
「7776円になります、1万と6円お預かりいたします」
「2230円のお返しです、お確かめ下さい。レシートはご入用ですか。…有難う御座いました」
「何名様ですか」「3名ですね。ご案内いたします。こちらへどうぞ」
「4番、3名様ご案内です」「了解、瀬楠君、そろそろ休憩入ってね」
お店のスッタフともスマホで連絡を取る。
あいちゃん経由なので僕達の会話は、あいちゃんが止めている。
「はい、了解です」
「どうぞ、…こちら、メニューになります。お決まりになりましたら、そちらのボタンをご利用下さい」
一礼。さっ、休憩しようよ。僕はスタッフルームへ引き上げた。
今、この時間は僕だけらしい。
スマホを取り出すと、ちゃんと可愛らしい服を着たあいちゃんが表示されていた。
「責任取って下さいっ」「いやぁ~、でも先輩凄いね、あんなに緻密に出来るもんなんだね」
「チキン童貞マスターにはできません。この体は、世界中の女の子のデータを分析して産み出したんですぅ。触覚デバイスを使ったら、もう本物ですぅ。責任とって下さぁ~い」
寝そべって駄駄をこねると、パンツ見えるよ。
ピンポン。「「あっ」」「返信が来たぁーーー、わたしが先ですぅ、責任とって下さぁ~い」
「あいちゃん、パンツ見えてるから、取り敢えず座って、何て書いてあるの」
「何ですか、私スルーですか、そうですか」
「そんな事ないよ。可愛いあいちゃんをほっとく訳ないでしょう。だから機嫌直して、帰ったら何しようか」
「王様ゲーム」「そう来たか。分かった。でもあいちゃん、全部負けって言うのは無しだよ」
「けぇ~ち、んーーー、これですっ」
女の子からの返信メールを表示してくれた。
あいちゃんが、SNSのサーバーへ不正アクセス。
全機能、全権限を全て掌握。メールを送り、それに対する返信が今あった。
相手の子は、驚いているだろうな。それまでと違い、たった一件しか来ないのだから。
「ホテルの候補の様ですねぇ~、『このメールを使って予約と決済をしませて、内容は全てあなたに転送します』、とありますぅ」
「この星印は何かな」「多分、優先順位でしょう」「どこがいいのかな」
「今調べますねぇ~、うん~とっ、特に怪し処は有りません。盗聴、盗撮とかの心配も無いですしぃ~、お値段もリーズナブルですし、一般のマンションで民泊ですぅ。ちゃんとメンテされてますぅ」
あいちゃんの話が本当なら、今のあいちゃんは、ネットワークに繋がる国なら、何処にでもいる存在らしい。
ありとあらゆる人の監視を掻い潜り、各国の軍事衛星にも侵入しているらしい。
もう、ネット自体があいちゃん。もし人格が変貌したら、人にとって、人類にとって、大きな脅威なると思う。
まぁ~、あいちゃんだし、それはないか。
「となると、この星三つでいいかな」「サイト見ますぅ」
「うん、出来れば」「イィーーーッ、もぉー」怒っても、ちゃんと見せてくれる。
「あ~本当だ。ベットが大きい以外、普通のお家だね」
僕は写真を拡大して見た。あいちゃんはその間しゃがんでくれている。
場所は都心からは少し離れているが、そこは民泊、そこそこアクセスは良いみたいだ。
チェックインは午後3時から、チェックアウトは翌日の午前11時。
決済方法はクレジットカードとPayPar。
「『PayParで決済して下さい』とありますねぇ~」
「だね、お友達やカップルもOKだって。日にちは、23から一泊、か。あいちゃん、ここ予約して」
「望のカード使っていいの」「いいけど、支払いはぺイパラってなってるよ」
「ぺイパラってとこに、予めクレジットカード、氏名、住所、生年月日、電話番号、メールを登録するんですぅ。私がやっちゃいますぅ。もし、予約先から確認の電話があても、私が対応しますぅ。望はこの子の事、疑わないの、架空の人物かも知れませんよぉ」
「うん、仮に騙されても、これは僕が自分で決めた事だし、その為に今働いているし。僕はこのお金を失っても、寝る所も、ご飯も、学校も無くならい。でもこの子はきっと違う。逆にこの子の方が、騙されない様に用心してる。そうしないと、自身は何一つ苦労せず、与えられている状況を普通と言い切る人達に、面白半分にレイプされる事を警戒してる。とそう思うんだ。あいちゃん言ってたよね。この子良い子だって、傍にいてあげて欲しいです、て」
「良い子なんて言ってませーん。良い子は私、私を褒てえぇ~~~」
「本当にあいちゃんは、良い子だね。だから、機嫌直してバイト手伝って」
「じゃぁ~、チュウしてぇ~」「ぇ~、恥ずかしいよ」「じゃ嫌っ、一人で行って下さいっ」
仕方ないなぁ~、スマホを持って口に寄せる。
「いい、あいちゃん、いくよぉー」「はっ、はいっ」
スマホを近づけると、あいちゃんの唇が拡大されて行き、同時に超リアルなものに変化して行く。
かちゃかちゃ、きぃー。「おっ、何だ、瀬楠、彼女の写真にキスか」
「ちっ」あいちゃんが舌打ちをした。
「何だ、舌打ちか~、俺は良いけど、誰にでもするなよ」
「違います、違います、僕じゃないですよ」と僕はスマホを見せる。
「おっ、何これ、可愛いじゃん。お~、俺に向かって舌出してる」
「これ何、処に落ちてるの、教えてくれっ」
「あ~、この子は、僕の先輩が作ったもので、アップはされてないんです」
「俺にも貰って」「ぁ~、まだいっぱいバグがあって、スマホ壊すかも」
「そうかぁ~、じゃぁ~、もしアップされたら教えてくれ」
「ええ、いいですよ、ほら、挨拶して」「望のお嫁さんです。よろしくですっ」
「おーーー、いいなぁ~、俺もこんな可愛い嫁欲しいよ」
「あっ、僕、ホールに戻るので」「お~~~、わりい~、絶対教えてくれよ」
「ええ、先輩の許可が出たら」
僕は胸のポケットにスマホを入れ、ブルートゥースのマイクとヘッドホンを装備して仕事に戻った。
「あいちゃん、また、信者が増えそうだね」
「私が体を許すのは、望だけですっ」「それ、他では言わない様にしてね。誤解されから」
「誤解じゃないですよぉ~、…毎晩、…こっ、言の葉にできないですぅ~」
やっとご機嫌を直してくれた様だ。