52話 校舎の屋上 0年7月
許がなかなかお小遣いをくれない。
「ダメよ、直ぐに無駄遣いするから。それにいっぱいお金持っていると、浮気するから」
「僕は、僕は許しか見えないよう。ほら、見て、この澄んだ瞳」「嫌っ」
「嫌って、そんな一方的な、酷いよ。それに僕の財布にお金が入ってないと、ケーキ買えないよう、ドーナツも、羊羹も」
「う~~~ん、仕方ないわね。じゃぁ、これぐらい」
「えー、もう一声、ケーキって最近高いんだよ。小麦の値段が上がって、それに一度上がると下がらないし」
「ぅ~~~、じゃぁ~、このぐらい」
と交渉してやっと、2万円/月、定期代別をゲットとした。
う~ん、僕、結構稼いでるんだけどな。
そして7月、やっとこの日が来た。
許の両親から承認を得ている僕は、許がOKしてくれれば、何の問題もなく結婚できる。
本物を買うお金がないから、5千円のジルコニア、僕に買えるのはこのぐらい。
部活のOB訪問に恰好付けて、これを渡す、許を迎えに行く。
職員室を出て、部室へ、きっと喜んでくれる。また泣いちゃうかな。
部員は女の子ばかりだから、無暗に開ける訳にはいかない。
コンコン。うん、返事がない。
ガタガタ、ガタガタ。あれっ、部室が閉まってる。
嘘だろ、どうして、どうして何処にもいないんだ。
残っているのはまた、・・・校舎の屋上。
何故だ、僕は助けた。助けたじゃないか。・・・そんな。
「ゆ~きっ」許が向かいの壁側に立っている。
ここは直射の日差しに晒され、輻射熱によってそこにいる者を焼く。
許は待っていたかの様にこちらを見ている。
僕は、ゆっくりと近付く。「ゆき~」「近付かないで」
「どうして、ここは暑いよ、熱中症になっちゃうよ」
「そう、でも、さっき補水液を飲んだわ」
「下に行こう。許。あいちゃん、いる」僕はスマホを手にした。
あいちゃんが入って来た。
「じゃっじゃぁ~んヒロイン登場っ」「あい、黙って」「ぶぅーーー」
許が壁の上に上り、外を向いて座る。
「止めて、・・・待って、ダメだよ、待ってよ、待ってぇーーーっ」
許が、すぅーっと、・・・落ちた。
「あっぎゃ~、やられたあぁ~」スマホからあいちゃんの、変な台詞が聞こえた。
僕は膝を突き、項垂れる。
「うっ、・・・どうして、・・・助けたじゃないか。・・・うっうううっ、ゆきぃーーーっ」
「「おっ、お疲れ様でぇ~すっ」」「のぞむぅ~、上げてぇ~」「へっ、ひっく、ゆきっ」
「先輩、許は大丈夫ですよ、本気で泣かないで下さいよ」
「許を引き上げるの手伝って下さい。あそこ、増築部分の屋根があるんです」
僕は一気に立ち上がり、許が落ちた壁に駆け寄る。下をのぞき込むと許がいた。
「のぞむぅ、これ、紐、投げるから。はしごを立てるの手伝って頂戴」
そして予め降ろして置いたはしご。それに強く結んであるロープを投げてよこす。
それを引き上げてゆく。許は下ではしごを押さえている。
はしごがかかると、許がゆっくりと慎重に上って来る。
はしごが落ちない様に、女の子二人がロープを必死に持っている。
カツ、カツ、カツ。もう少し、カツ、カツ、カツ。
許の上半身が壁の上に、僕は待ちきれずの、両脇の下から腕を入れる。
後ろで指を組み、力の限り、引き上げようとするが、力が足りない。
僕は頭を前に倒し、体を後ろに倒し、体重をかけて強引に引き上げる。
がたっ。「あっ、靴、靴が脱げた」
「あっち、あっちのカメラ動いてるっ」「動いてる、撮れてるはずっ」
僕は夏の太陽に焼かれたコンクリートの熱を、背中に感じながら許を抱きしめる。
「ゆきぃ~、どうしてこんな酷い事をするの。僕は数えきれないぐらい、助ける事が出来なかった。やっと、やっと助けと思ったのに、酷いよ」
「・・・御免なさい。でも、…胸の処で口を動かさないで」
「ぱっく、ってして良い」「ばっ、ばっか、いい訳ないでしょう。離れなさい」
「うん、そうだね。背中 火傷しそう」「御免なさい。片付けて下に降りましょう」
「許、靴落ちたでしょう」僕は上半身を起こし、許を膝に乗せる。
「摑まって、階段降りるから出来るだけ引っ付いて」「このぐらい」
「もっと」「んん、こう」「立つからね」許の背中と膝を両腕で掬い上げる。
「おー、ちょっと、先輩、ふらついてますよ。大丈夫ですか」
「きっと、でも足元見えにくいから、先に降りて、見てくれない」「「はぁ~い」」
「それとはしご。3~4人、誰かに手伝って貰って。一人5千の高額バイト」「「はいっ」」
僕は何とか部室に辿り着いた。
がちゃがちゃ、ガラガラがラ。「開きましたよ」
許をソファーに降ろす。「せんぱぁーい、許の靴、取ってきましたよ」「有難う」
「はしごは今、弱小クラブの子達が降ろしてくれてます。10人」
「えっ、・・・ゆきぃ~」「はぁ~もぉ~、経費に計上します」
「Yeah~~~。せんぱぁーい、お土産は」
「忘れないんだね。部室が閉まってたから、職員室にケーキを預けてきた。取って来て」
「取に行こう」「私達、出ていきますからねっ、ぐふふふぅ~」「お願いするわ」
「で、許、どうしてあんな事したの」
「だって、まだ活動らしい事、何もしてないから、映画を撮ってたの」
「僕が来ること予想して」「御免なさい。もし、…もして」
「分かった。帰ってから仕返しをする」「なっ・・・何をする気なの」「言わない」
僕は許の前で膝を突き、ポケットから指輪を出す。
「許、結婚して、こっ、これ、5千円だけど、今度、一緒に本物を買いに行こう。今はこれで、・・・受け取って」
許は両手で口を押え、ボロボロ、ボロボロ、涙を流している。
「うん、しゅるぅ」「許、手を出して」
許が左手を僕に差し出す。僕は薬指に指輪をする。
「ゆ~き~っ」「・・・のぞむぅ、・・・うぅ~ん」
「「あーーーっ」」「ひっぐ」「あっ、扉、閉めて無かった」
「見て、・・・見て見て見てっ、許が指輪してるっ」「これ、ビデオ動いてるっ」
「勿論、あの奥のはちゃんと撮ってる」「えっ」「これは良い映画になりそぉー」
「ダメ、絶対ダメェーーーッ」許が帰って来た二人に飛び掛かる。
「許止めて、ケーキが」「「いやあーーーっ」」




