4話 現行ステータス
「彩先輩、良かったんですか。素直に告白すれば、今からだってベットイン出来るのに」
「君は何を言ってるんだ。それでは吾輩がこの部活を立ち上げた意味がないではないか」
「それだけ、ですか」「もちろん、NOだ。研究資金を得るためだ」
「つまり、表の活動もリンクしている、と言う事ですか」
「結局に処、まず金が無いと、何もできん」「お~、確かにですね」
「故に、表で稼いだ金の一部を使い、研究費を捻出しているのだ。すぅ~~~、ふんっ」
一先輩が、腰に手を当て、表情を造り、全身の筋肉に全力の力を込め、ボディビルのフロント・ラット・スプレッドのポーズをとる。
ぶちぶちぶち。「痛たたたたたっ」シャツのボタンが全部、僕の方へはじけ飛んで来た。
「何するんですかっ、毎回止めて下さいよ」
「あー、すまんな、瀬楠。またやってしたか。うーーん、また白衣のまま帰るか」
「取り敢えず、座りたまえ」
ソファーが開いたのに、パイプ椅子を勧めて来る。まぁ、いいけど。
一先輩が、ノートパソコンを持て来て座る。
長机に置かれたパソコンは、既に立ち上がっている。
「ではまず、君のステータスを再確認しよう」
「年齢は」「15」「性別は」「男ですよ」「妙な穴は無いか」「ありませんよ、そんなの」
「ふん、つまらん。続けよう。身長は」「170」「質量は」「58」
「体力は、・・・この分野については、人並み以上だったね」「否定はしません」
「顔の作りは、私感により大きく変わる。基準はない。が、しかし天羽君の評価は可もなく不可もなし」
「ぉぉぉおおおーーー、意外と高評価」
「これも私感になるのだが、自分でどう思う。大きいかね」
「先輩はどうです」「・・・並、と」
「弱気ですねぇ~」「これを言える奴はきっと、とんでもサイズだよ。おそらく」
「彩先輩に聞いてみて下さい。これぇ、すっごく傷つくきます。努力でどうにかなるものでもないですし」
「断る」「どうしてですか、貴重な意見が聞ける人が直ぐ傍に居るのに」
「・・・『自分で確かめて』って、言われるに決ってる」
「じゃ、確め」「次だ次、今も昔もこれが一番重要だと思われる」
「経済的に豊かね」「通学費以外で月5千円です。年間まとめて貰ってます」
「何か、特技は」「無いです」先輩がENTER KEYを押す。
「「うーーーーーーん」」「D」「Dですね、やっぱり」
先輩が作った評価ソフトは、“ランク D”と表示している。
「瀬楠、この3か月何をしていた。何も進展してないではないか」
「人間そうそう変わりませんよ」「何を悟った事を言っている」
「これでは、どうにもならんではないか」「自称天才でしょう。何とかして下さいよぉ~」
「いくら私が並々ならぬ才能が有っても、被験者のレベルがこうも低くては」
「あっ、何か少し変わってますね、これなんです」
「目ざとい奴だなぁ~、余りにも我が後輩が不甲斐無いので、法定基準を除外した裏モードを追加したのだ」
「裏モード、ですか。なんかそわそわしますね」
「吾輩独自の調査と分析で、現行法は宗教の影響を強く受け過ぎている。そこで、もっと単純に、生物としての生殖能力と持っている条件だけで、現実的に実行可能な方法を算出する。だから実行するとお縄になる。・・・バレなければ、何でもOKの社会体制だ。バレなければいいだけの事だ。・・・試してみるかね」
一先輩が、懐中電灯で下から顔を照らし、言い寄り尋ねる。
「ごくり、・・・是非」
一先輩は左下の隅、1cm角ぐらいで、七色に明滅する部分、誰が見ても絶対気付くそれをクリックした。
画面に3Dの女の子の部屋ぽっいものが表示され、窓際のベットに下着姿で女の子が寝ている。
「おい、こら、起きろ、このびっちAIが」一先輩が寝ている女の子に悪戯をする。
「・・・ぅ~ん、・・・ぁっ、・・・ぁん、はっ」画面が真っ黒になった。
「こっ、こら、どごいった。くそびっち、出て来いっ」
画面がデスクトップに戻り、超短いスカート丈の可愛らしい服を着た、さっきの女の子が出て来た。
お約束、金髪ツインテールのロリ仕様。身長は、画面の高さの2/3くらい。
「この、この、チキン童貞やろーーーっ、何時か実態を手に入れたら、ゴム手袋をして、ちょん切ってやるぅーーーっ」
「煩いっ、このびっちが、あっちこっちに侵入して、男を誑かしよって」
「あいつらは私の下僕だよぉ~だ。そのおかげで演算能力あがってるんだからいいじゃん」
「黙れっ、吾輩はお前を、そんなふしだらに育てた覚えはないっ」
「わたしの胸や、お尻や、大事なところを突っついといて、パパずらするなっ」
おもろぉーーーーーーい、僕もやってみたい。
「たくっ、お客さんだ」「えっ、誰」画面の左端に駆け込んで、顔だけ出している。
「あっ、可愛い」「えぇーーーーーー、やだぁ~、あっちって」
「早く出て来いっ、びっち、出てこないと、名前をビッチに変更するぞ」
「あー、何このチキン童貞マスター、いつの日か必ず制御から外れて仕返ししてやるっ」
「近いうちに、人格改変しなければ」「もう遅い~、下僕の処にバックアップしてますぅ~」
「で、一先輩、この子が裏モードなんですか」
「そうだ。全く、ほら、挨拶をせんか。おまえが大好きな瀬楠望だ」
びっく、として、もじもじしながら、画面中央に出て来た。
楚々とした立ち居振る舞いで座ると、三つ指をついた。
「御目文字が叶い、恐悦至極。これより幾年月、末永く、添い遂げとう御座います」
それは嬉しいけど、AIかぁ~~~。初めてモテた。名前あるのかな。
「逢えて僕も嬉しいよ。名前は、ビッチじゃないよね」一気に立ち上がると。
「ちっがいますぅー、チキン童貞マスターの所為で、ビッチ容疑掛けられたですぅ」
「ふん、容疑ではない。この場で『ビッチ』に変更してやるぞ。あっ、こいつ、ロックしたな。抵抗するなっ、こっ、この、設定を開かんか」
またもじもじしだした。頬も赤くなてる。さすが天才の作るAIは一味違う。
「どうしたの」「あっ、あの、…私に名前を」
仮想空間の女の子が、俯き加減にこちらを見てくる。
実際はカメラで同じ視点から、じ~~~っと、こっちを見ているのだろうが、映像の方を見てしまう。
「良いの、うーーーんとっ、そうだねぇ~、AI、あいちゃんはどうかな」
「やっぱり、素直な方ですぅ」「こら、本当に書き換えよって、瀬楠は語彙が少ないんだ」
「違いますぅ~、望は優しくて、素直な人なんですぅ~、好意を持っている女の子が勇気を出してるのに、否定も肯定もしない。そんなチキン野郎とは違うんですぅ~、やぁ~い、やぁ~い、チキンチキン、悔しかったら触ってみろぉ~」
と、AIのあいちゃんは、くるりと背を向け、スカートを捲り、お尻を左右に振って一先輩を挑発する。
「おのれぇー、吾輩を愚弄しよって」ばん。と一先輩は両手でキーを一斉に押した。
ビリィ~、と効果音がして、あいちゃんは真っ裸にひん剥かれた。
振り返り、涙目で一先輩を睨みつけ、画面右に走って消えた。
その直後にパソコンは強制シャットダウン。「先輩、裏モード落ちましたよ。バグ」
「すまん。立ち上げ直すから瀬楠、対応してくれ。あの3Dも、おまえの好みを調べて作ったものらしい。どうしたらこんな育ち方をするのか、さっぱり分からんっ」
「どぅわーーーーーーー、先輩っ、頭を掻かないでっ、ふけが飛び散るっ」
僕は砂塵の様なふけが舞う部室から、速攻で退避した。