32話 固有振動と重力波、そしてお宝画像
「吾輩は毎回初回だ。合言葉を決めよう」
「彩先輩の恥ずかしい処と、お尻の狭い領域に、縦にホクロが二つあります」
「なっ、彩、吾輩は信じていたのに、・・・いや、彩が瀬楠などにびくなどあり得ん」
「一先輩、僕は、・・・僕はもう見たくない」「瀬楠、…何回目だ。情報を教えろ」
一先輩は、僕が話す事を真剣に聴き、メモを取りまとめ、更に不明瞭な部分に対して問いかけをしてくる。
「ふむふむ、瀬楠。まとめると、何度戻っても、最大3日、それ以上は戻れなかった」
「そうです。それに戻るには、かなりはっきりとしたイメージが必要でした」
「ふ~ん、神楽坂君が被害に遭ったのは、5月の始めの週、距離が足りないな。・・・それに加え、明瞭なイメージ・・・か」
「一つ、質問だ」「何でしょう」
「何回飛んだか知らないが」「百回まで数えてんですが、・・・落ちるのを数えるのは」
「そうか、すまんな。で、飛んだ後、瀬楠自身に出会った事はあるか」
「それは一度もないです」
「ふーん。なるほど、物理的跳躍ではない、と言う事か。パラドックスは発生していない。情報だけか。・・・イメージが必要なのは、・・・検波器見たいな、いやいや暗号化に使っているか。と仮定すれば、納得がいく。・・・跳躍距離が最大3日なのは、・・・身体全体が同調器に係わっている、いやいや共鳴か」
「一先輩、僕は助けに行けないんですか。見ているだけですか」
「ちょっと、待ってくれ、・・・整理してる」
「おっ、・・・固有振動数と重力波か。これなら一連の流れに説明がつくかぁ」
「何か分かったんですか」
「ふむ。仮説を立てた、うん」「どんな仮説ですか」
「ふむ。まず瀬楠のタイムリープは物理的跳躍ではないと言う事だ。だから跳躍後に自分自身に出くわさない。故に物理的なパラドックを生じない」
「まぁ、跳ぶ直前に意識とびます」
「ここから情報だけを伝えていると推測できる」
「情報だけですか。幽霊みたいなものですか」
「そんな怪しげな物ではない。そうだな。分かりやすいのは無線機だ。ラジオ、テレビ、携帯電話、そういったものだと思って良い。これらは特定の電波に情報を乗せて空間全体に広がって行く。似たような事をしているんだ瀬楠は」
「僕、携帯端末ですか」「まぁ~そうだな」
「じゃぁ、僕から電波が出てるんですか」「いや、電波は過去には伝わらない」
「電波じゃないなら何ですか」
「重力波しかない。電波は紙の上に書かれた同心円の環だ。紙の厚みが時間だと思ってくれ、重力波は紙自体が波打つんだ」
一先輩はA4の紙の中心を両の人差し指で挟み上下させた。
かさかさかさ。「紙の厚み部分も波打っているだろう」「確かに」
「だから重力波は未来だけでなく、過去にも伝搬すると考えていた」
「考えていただけですか」
「そうだ。確かめようがなかったからな。しかし今、瀬楠が証明した」
「僕、ブラックホールになったんですか」
「別にそんなことはない。質量を持つ物が、空間を移動すれば必ず出る。極大質量のブラックホールに比べれば、小さすぎて、今の人類の科学力では検出不可能なだけだ」
「検出不可能なのに過去の僕はどうやって、そのちっちゃな波を捕まえてるんですか」
「おそらくその物体が持つ固有振動数だ。瀬楠は、自身の固有振動数の重力波に情報を乗せ、時空間に発信する。過去の瀬楠は、自身の固有振動数の波を受け共鳴を引き起こし、一定水準以上の振幅を得ているのだろう」
「はぁ、固有振動数の共鳴ですか。う~~ん、小さい信号を大きく出来るなら、3日より先に跳べないのは、おかしいじゃないですか」
「物体はそれぞれ固有の振動を持っている。吾輩も懐疑的だが、これしか思いつかん」
「何ですか、僕は身長、体重、ほとんど変わってませんよ」
「人は3日で、何処かの細胞が入れ替わる、らしい。もともと微小な信号だ。僅かな固有振動数の変化で共鳴出来なくる。…としたら、まぁ~それらしい説明は出来る」
「だとして、明瞭なイメージが無いと跳べないのはおかしくないですか」
「いや、是非とも必要なんだ。これも憶測になるが、イメージを使って、送りたい情報を暗号化しているか。或いは圧縮、う~ん、その両方と言う所か」
「はっきりしませんね」「そうだな、瀬楠の脳の働きだからな、いっそ解剖してみるか」
「嫌です、拒否します、死にます」
「まぁ聞け、結果的に軍事無線のスクランブルの様な働きをしているのだろう」
「スクランブル?」
「盗聴防止機能だ。世界中に瀬楠と同じ固有振動数を持つ者が必ずいるだろう。しかし瀬楠がイメージできる明瞭且つ、ユニークな画像となると」
「許ですっ」
「世界中にいる、同じ固有振動数を持つ者でも、スクランブルを解いて情報を取り出すには、予めカギとなるユニークな画像データを持っていなければならない。それを持っているのは過去、或いは未来の瀬楠だけだ。だから仮に共鳴しても情報は取り出せない」
「いや、でも未来には行けなかったですよ」
「瀬楠、見た事も聴いた事も無い未来の明瞭なイメージを持っているか」
「そんなの無理です」
「だろう。だから事象が確定している過去だけなんだ」
「問題は距離だ。…3日、明瞭なイメージが必要だと何故分かった」
「始めのうちは、許の落ちる瞬間しか戻れませんでした。しかも繰り返し同じポイントに戻ると、少しづつずれていくんです。60回飛んで1分、最後はそこには戻れなくなって、2~3日前にスマホで撮った写メを見て、ぼーっとしてたら、突然跳んで」
「他の写真は試したか」「それはもう、持ってる写真全部試しました」
「でもだめだった。どうやった」「写真を順番に」
「・・・イメージは明瞭でも、先に跳べない、・・・固有振動数か。だとしたら、・・・瀬楠、一度、3日過去に跳んでから、更にそこから先に跳ぶ事は試したか」
「いいえ、それは試してません。写真を順番に試しただけです」
「跳べる。跳べるかもしれんぞ、瀬楠っ。しかし、更なる問題は、イメージだ。都合よく3日毎の神楽坂君の写真など」「あっ、いやぁ~」
「瀬楠、3日前に跳んだ画像を見せてみろっ」僕は大学で撮った、お宝画像を見せた。
「瀬楠、神楽坂君でなくともいいみたいだな。大学で何をやっとるんだ」
「ここ数か月、許に逢えなかったし」
「ふむふむ、おっ、お~、興味深い。他にもあるのか。解析用のサンプルとして貰おうか」
「許のはあげませんよ」「うむ。神楽坂君は吾輩の範囲外だ」
「結構ありますよ。小6の時、スマホを買ってもらったのが嬉しくて、以来日記代わりに撮ってるんです」
「おーーーーっ、問題解決だ、瀬楠っ。助けてこいっ、神楽坂君を」
「・・・うっ、うっ・・・許っ、助けに行くよぉーーーーーっ」
「ちょっと待て、計画を立てる。それから解析用のサンプルの事は、天羽君には話さないでくれ」
「心得てます」




