31話 僕はもう耐えられない
「吾輩は毎回初回だ、合言葉を決めよう」
僕はもう、助けたい。・・・落ちると分かっていて、・・・分かっているのに何もしない。
いや、跳べるのに救えない。
「彩先輩の恥ずかしい処と、・・・お尻の狭い領域に、・・・縦にホクロが、二つあります」
時間を遡っても、助ける事が出来ない。
「なっ、彩、吾輩は信じていたのに、・・・いや、彩が瀬楠などになびくなどあり得ん」
「一先輩、僕は、助けたい。許を救いたい」「瀬楠、…何回目だ。情報を教えろ」
「百回まで数えてんですが、僕は、許が落ちるのを数えないといけませんか」
「すまんな瀬楠、他に方法が無いんだ」一先輩が申し訳なさそにうつむく。
「耐えきれなくて、抱き付こうとしたんです。でも、許の方が早くて」
「条件が分るまで、耐えろと言っただろう。しかしその口ぶりからすると跳べたんだな」
「落ちると分かっていて、見ているだけなんて」
「ダメだ、瀬楠。今事象を改変してはいかん。もう少し耐えるんだ」
「距離を詰めて止めようとしたのに、違うんですよ。立ち位置が、毎回少しずれるんです」
「止めるんだ、瀬楠。これ以上変えるな。この時点に戻れなくなったら、もう終わりだぞ。神楽坂君を救いたければ、今は耐えろ、それしかない」
「時間帯がずれる事も、・・・どうしたら止められんです。どうしたら救えるんです」
「耐えろ、今は耐えろ」
「目の前に許がいて、その先の事が分かっていて、何故救えないんです」
「タイムリープは生体の持つ能力だ。所謂超能力だ。その中でも時間移動は最強だ。自分にとって都合の悪い事はやり直せるんだゲームの様に」
「出来てないじゃないですか」
「瀬楠、今言っただろ、ゲームだ。自分の持っている能力の性質や有効範囲を知っていないと失敗するだろう。焦るな見極めるんだ」
「でも」
「落下を食い止めても、レイプ犯の子供を宿したままでは、神楽坂君が納得しないだろう。別の方法、別の場所、違う時間帯で試みる」
「しかし、一先輩」
「瀬楠は特別な力を手に入れた。神楽坂君を救えるのは瀬楠、君だけだ。瀬楠に出来ないならもう誰にも救えない。それでも諦めるのか」
「諦められる訳ないでしょう、僕が助けます。必ず、必ずです」
「うん、良し、吾輩も全力で挑む、今は耐えてくれ」僕は頷く、それ以外の選択肢はない。
「でだ、…問題は距離だ。現状でどのくらい跳べるんだ」
「今は最長3日です。それに戻るには、かなりはっきりとしたイメージが必要でした」
「3日、か。・・・戻った時、体は何処にあった。空か、地中か、移動してなかったか」
「いいえ、そう言う事はなっかたです。それも許を助けるのに必要な情報なんですか」
「う~ん、吾輩が考えるタイムリープは、二種類考えられる」
「二つですか」「そうだ。物理的なものと情報的なものだ」
「何が違うんですか。それが許を助けるのにどう関係するんですか」
「そうだな。物理的跳躍は、多くの者が想像する、身体ごと跳躍するものだ。情報的跳躍は、現在の情報を過去に送り、過去の自身にその情報を受け取ってもらうのもだ」
「それ、許を助けるのにどう関係するんですか。どっちでも良いじゃないですか」
「落ち着け、聞くんだ。物理的なものだった場合、少し厄介でな」「どう言う事ですか」
「瀬楠、物理的跳躍で時間軸だけを遡ると、不具合が起こる」「不具合とは何ですか」
「瀬楠、日はまた昇る、どんな人の所にも、昇る。何故だ」
「それは、・・・地球が自転しているからでしょう」
「そうだ、地球は動いているんだ。とてつもない速度で。さすがに太陽が動いているとは言わなかったな」
「そのぐらい僕も知ってます。それがどうしたんですか」「分からないのか、これを見ろ」
一先輩が軟式テニスのボールの上の方に、マジックを押し当てる。
「このボールが地球だとしよう。マジックを押し当てる。ここが現在地だ。さて、12時間遡ってみよう」
一先輩が軟式テニスのボールを半周回す。そこには球面に沿って、一本の線が描かれた。
マジックは、初めの位置の真反対の位置に移動した。
「時間軸だけを遡るとこうなる。更に地球は、太陽の周りを公転している。太陽系は、天の川銀河の中を移動している。銀河は大宇宙を移動している。物理的跳躍を行う場合、宇宙空間に飛び出したくなければ、これらの軌跡をたどらねばならない」
「最初に教えて欲しかったです」
「教えても制御出来なければ、宇宙空間に飛び出す。神楽坂君を助けたいのだろう」
「勿論です」「なら今回は確めて見よう。イメージについて、一週間前をイメージできるか」
「結構、曖昧です」
「そうか、なら4日前の出来事から、少しずつ一週間前にイメージを近づけて、跳べるか確認しよう。できるか」
「やってみます」
「うん、跳べたらその結果を次の吾輩に教えてやってくれ、吾輩が全身全霊で瀬楠の能力を解明する」
「え~~~、ここは僕を支えると言う処じゃないですかね」「同じ事だろ」
「そうなんですけど」「だいたい、彩以外を何故支えねばならんのだ」
「彩先輩呼びますから、もっかい言ってあげて下さい」
「瀬楠、準備しろ」「お願いします。一先輩だけが頼りです」
僕は跳んだ。結局3日前に、許が落ちるのを見ている事しかできないのか。
今は、一先輩を信じるしか道はない。




