3話 先輩達はのろける
僕は部室の扉の前に来ると、開けるのを躊躇する。
四月から三か月余り、僕でなくとも学習すると思う。
「ねぇ、一、今は二人だけ、いいでしょう、ほぉ~らぁ~」
「待ちたまえ、天羽君、もう直ぐ瀬楠が来るはずだ」
「いいじゃない、告白しなさい。そうすれば私を一が好きにしていいの」
「いつも思うんだ、うん。とても魅力的な提案だ。しかしね、吾輩は告白など出来ないよ」
「何でよ。一が立ち上げたこの部活、表向きは『社会に貢献し、如何に成功するか』を研究する事になっているわ。で、私がその表向きの活動を担ってあげているの、分かってる」
「そうだね、天羽君、君のお陰で新入部員も入った。予算も獲得できた」
「だから、お、も、て、む、き、って言ってるでしょう」「なっ、何の事かなぁ~」
「私に告白すれば、裏の目的が完遂されるでしょう」
「吾輩が何故、天羽君に、告白なる行為を行わなければならないのかな」
「いィィィィィィー、言いなさいっ。言いなさいよぉ~、赤ちゃんつくるのぉ~」
もう、入っていいかなぁ~、先輩達はお互いに好きなんだから、告白してあげればそれで丸く収まるし、裏の目的も達成できるのに。
こんこん。「彩せんぱぁ~い、もうは入っていいですかぁ~」
この部活の本当の目的、裏の活動は、『性交をなす為には、どの様にすれば良いか』これが真の活動内容。今の僕に、いや全国、違う全世界の男にとって、共通にして最大の難問。
一部の男子を除いて。
「彩せんぱぁ~い、入りますよ。僕は嬉しいですけど、パンツ、穿いて下さいよぉ~」
「ちょ、ちょっと待って、・・・パッ、パンツ穿いてるわけじゃないからね」
僕は学習している。薄い黄緑色の引き戸に手を掛け、一気に開く。
がらがらがら。一歩遅かった。
「そぉ~ぅ毎回毎回、一以外にお尻を見せたりしないから」
「やっぱり、脱いでたんですか、ここ学校ですよ、ラブホに行って下さい」
「じゃぁ~、望君から一に言って」
成功研究部、副部長、天羽彩二年生。
腰まで伸びる艶やかな黒髪、神秘的な雰囲気と顔立ち、素晴らしいボディライン。
全校男子の注目を集めている女の子に、子作りをせがまれている。
拒む理由が何処にあるのだろう。
部活の発起人である部長、才籐一、二年生。
いつもドクターコートを着ている。髪はバサバサ、ぱっと見、さえない感じの天才。
しかし、天は二物を与える。不公平だ。
ドクターコートや制服で隠しているが、マッチョなのだ。
バサバサの髪を上げると、超イケメンだし、この人ずるい。
それでいてこの部活の発起人、天才の考える事は分からない。必要ないじゃないか。
そしてこの人は、凡人の僕には理解できない事を真剣に研究している。
凡人でない人は天才だ。
まぁ~、自分の趣味趣向に合わなかったり、利益相反する時は奇人と言う人もいるけど。
そして才能に恵まれたこの人は、部の活動の成果として買った、レザーのソファーに腰かけ、そしてその上に彩先輩が、どっかりと跨り座っている。
何て羨ましい光景、やっぱりこの部活要らないじゃん。
何てことを思いながら、僕は足を踏み入れた。
「はぁ~、僕、何処に座ったらいいです、彩先輩」
「ここはダメ、私達二人でいっぱいだから」
「ですよねぇ~、分かってました。で、部長、どっちします。裏ですか、表ですか。僕的には裏を希望します」
彩先輩の括れた腰をしっかりと掴み、少し横から顔を出す。
「そうだな、吾輩も新入部員である君には是非、真の成果を上げてもらいたい。ちょっ、こら、止めないか天羽君、そんな事をしたら、上下するんじゃないっ」
「ほぉ~ら、言っちゃえよぉ~、ねぇ~ってばぁ~、先に刺ちゃうかもぉ~」
また、いちゃつき始めた。
と思ったら、一先輩が彩先輩の足を掬い上げ、かなり強引に足を揃え、横向きに方向を変え、お姫様抱っこをして立ち上がる。
「もおぉ~」彩先輩の抗議に怯まず。
ソファーに対面する様に向き直り、彩先輩をそっとソファーの上に降ろす。
パイプ椅子を取りに行き、長机の処に陣取ると、僕に向かって手招きする。
「天羽君、吾輩は彼に、成果を上げさせたい。真剣にそう思ってるんだ」
「分かったわ、急用が出来たから私は帰る」と、言うと両手を広げて一先輩に催促する。
「う~ん」と言いながら、立ち上がり彩先輩の許へ行く。
彩先輩は一先輩の首に手を回し、一先輩が抱き上げお姫様抱っこをして扉まで運ぶ。
何これ、新婚さんでもしないと思うなぁ~。
「すまない瀬楠、天羽君のカバンを持って来て、扉を開けてくれないか」
僕は言われた通りに先輩のカバンを持つ。
もぉーなんなんだよっ。見せつけたいだけじゃないかっ。
部室を出た所で彩先輩を降ろす。僕からカバンを受け取ると、彩先輩に渡す。
「帰っちゃうぞぉ~、他の男と。いいのかぁ~、本当に帰っちゃうぞぉ~」
「・・・また、明日だ。天羽君」
「襲われたら望君の所為だから」「じゃぁ、僕が送りますよ」「一以外はダメよ」
「さっきと言ってる事と、違ってますよ」「はいはい、また明日ね」
彩先輩は帰路に着いた。一先輩と僕は見送った後、部室へ戻る。