27話 又お金
大急ぎで病院へ向かった。
「すみません、神楽坂 許さんの病室は、こちらに運ばれて来たと聴いたんですが」
「少々お待ち下さい」カチャカチャ。
「お待たせしました。緊急手術が終わって集中治療室に今移されました。西棟4階にどうぞう」
「有難う御座います」
走りたいが、ここには色々な病状を持つ人が行き交っていて、そうはいかない。
チ~ン。エレベーターを降りる。お母さんと恋ちゃんの姿が見えた。
「お母さん、許は、許は」「・・・望君、まだ」「お義兄ちゃん」
白衣の人が近付いて来た。
「神楽坂さんのご家族の方ですか。担当医の伊集院です」
「現状をお話しますのでこちらへ」
僕等は会議テーブルのある部屋へ案内された。
そこには担当医と言う人と、背広の人がいた。
「皆さんご家族ですか」「あっ、僕は」「娘の結婚相手です」
「そう、・・・で、す、か」なんだ。その目は、言いたい事があるなら、言えよ。
「えー、頭蓋骨骨折、肩の骨折、打撲などが見られます」と画像を見せてくれた。
「手術は無事、終了しました。奇跡的に脳や脊髄に、後遺症が残る様なダメージは有りませんでした。しかし、意識が回復しないと、はきっりとした事は分かりません。容態が安定し次第、精密検査を行いたいと思います」
「有難う御座います、よろしくお願いします」皆、頭を下げる。
「それから、お腹の胎児ですが、残念ながら、助ける事は出来ませんでした」
僕、お母さん、恋ちゃんの表情が強張る。
「・・・今まで、人に死ね、死んで欲しいと思った事は一度も無かった。死にましたか。それは良かった」
「何を言ってる、君の子供だろう」
「あれはなぁー、僕の大切な人を汚し、貶めた奴の子供なんだっ」
「しかし、子供に罪は無い」
「だから何だっ、偽善者めっ。許が産むのが当たり前とでも言いうかっ。僕と許にそんな奴等の子供を育てろって言うのかっ」
「そう言う事は」
「やかましいっ、処置をしたのはこの病院じゃないかぁ。くそがっ、・・・そんな事は、解ってるよ、解ってるんだぁ」
「望君、御医者様は事情を知らないの」「お義兄ちゃん」
背広の人が慌てて、何かを調べて、医者に耳打ちをする。
「私の配慮が足りませんでした。申し訳ない。医者として全力は尽くしますので」
「すみません、取り乱して」「…後は、こちらの事務員がお話ししますので、私はこれで」
医者が出て行き、背広の人が話し始める。
「では、費用の概要につて、お話させて頂きます」「お願いします」また皆、頭を下げる。
「まず今のICUですが、1日当たり、7日以内までは136500円、8日以上14日以内は121260円です」
「そんなにですか」
「あっ、保険が利きますので、7日以内までは40950円、8日以上14日以内は36378円、掛ける日数になります。病室は4人部屋が1日当たり、西棟が3780円、東棟6480円」
と、良くも悪くも現実的な話しで、僕達をお金の柵世界に引き戻した。
「今、居る所に7日間いたら、それだけで30万、そんなに沢山のお金」
「お母さん、それは僕が少しづつ貯めた分を使いますから、心配しないで下さい」
「これ以上望君に迷惑を掛けられない」「僕のお嫁さんだから」
「御免なさい」許のお母さんは深々と、腰を折ってくれた。
やっと救いだせると思ったのに、何て無力なんだ。又お金だ。
そうやって、項垂れていると恋ちゃんが袖を引く。
「どうしたの、恋ちゃん」「お義兄ちゃん、こっちに来て」
「恋、何処行くの」「トイレ」「すみません、お母さん、僕もトイレに」
恋ちゃんは僕を非常階段に連れて行った。
「お義兄ちゃん、あいちゃんは」僕はスマホを見せた。
「まだ姿を見せない」スマホは、ごく普通のスマホのままだった。
「そう、手伝ってもらうつもりだたのになぁ」「何を」
「今までお姉ちゃんが私達を助けてくれた。・・・そしてお義兄ちゃんを連れて来た」
「今度は、私が助ける番、…だと思うの」
「恋ちゃん、許の今までを無駄にするつもり、そんな事僕が許さないよ。一生懸命頑張った、許の今までを、否定する様な事は絶対にさせないから」
「でも、お金はいるでしょう」
「僕がちゃんと働くから、僕の父さんと母さんにも相談しようと思うんだ」
「それはだめだよぉ」「きっと大丈夫、解ってくれる」
「それに、もう許の事も気付いてて、僕が何時連れて来るか、そわそわしてるんだ。恋ちゃん、有難う」
僕は恋ちゃんを抱きしめた。「望は、・・・ずるいなぁ~」「さぁ、行こう」「うん」
「許は必ず帰って来る。目が覚めないのは今頃、神様の口に指を突っ込んで、おっもいっきりっ、引っ張るんだ」
「『こんなの納得いかない、やり直しなさい』って」「本当だ、お姉ちゃんぽっい」
「帰って来たら、お姉ちゃんの目の前で寝とっちゃう」
「それは無理だと思うよ。僕は許しか見えないから」
「そうかなぁ~、ほらぁ~、お義兄ちゃんの好みのスタイルだと思うけどなぁ~」
「う~ん、確かに、やっぱりダメだよ。許にチョッキンされちゃう」「あ~そうかも」
束の間、気が紛れた。




