26話 彼女は神様に文句を言いに行った
今は七月、やっと休み目前。許と二人でいられるところに行きたいな。
卒業したのが3月、まだ数か月なのに、学校の正門は余所余所しい。
その日の部活が始まる頃を見計らって訪れた。
「お久しぶりです、先生」「お~ぉ、このくっそ暑いのに良く来たな」
先生が、妙な感じだ。やっぱり卒業した大勢の中の一人だとこんなものか。
その分、在校生に気を気張っているのだろう。許がここに入れて良かった。
「あーっ、・・・でっ、今日はぁ~、…どうした」「許は来てますか」
「おまえ、わざわざ学校に会いに来たのか。ここはデートをする場所じゃない、学び舎だ」
「分かってますよ、節度は守ります」「嘘つけっ。・・・そうか、そう言う事なんだな」
「許は部室ですか」「あっ、あ~、多分、・・・そうだ。札、・・・札だな」
何だろう。許の名前を口にしたと途端、職員室の空気が変わった。気まずい。
「先生、歯切れ悪いですよ。悩みですか。恋愛なら、超可愛い彼女のいる僕が相談に乗りますよ」
「バカもんが、うちの生徒を誑かすな。ほれ。なぁ~瀬楠、神楽坂と会って無かったのか」
「ええ、大学距離ありますし、バイトも。お金もいりますから、先生は知ってるでしょう」
「そうだよな、分かった。…行ってこい」「失礼しまぁーす」
職員室を出て部室へ。きっと喜んでくれる。また泣かしてしまうかもしれない。
部員は女の子ばかりだから、無暗に開ける訳にはいかない。
コンコン。「はぁ~い、開いてますよ。どうぞ」あれ、許じゃない。ガラガラガラ。
「あー、先輩。いらっしゃい。どうぞ、入って下さい」許がいない、友達の二人だけだ。
「あーっと」「許ですか。学校にまだいると思いますけど、ここには来てないですよ」
「ん~、じゃぁ、探してみるよ。有難う」「先輩、許と何かあった」
「ここんと、会えなかったけど、何も。許に何かあった」
「それがね、最近ひと月ぐらい休んでたから、てっきり先輩が孕ませたんじゃないかって、学校中の噂になってましたからねっ」
「違う違う、そう言う事したくても、会えて無かったから」
「うっわぁーーーーっ、この人引くわぁーーーーっ、どれだけストレートなんだ」
「なはははっ。じゃ、探しに行くよ。もし来たら、ここにいる様に言って」「「はぁ~い」」
僕はあっちこっち探し回った。
後、行ってないのは、普段人が立ち入らない、校舎の屋上。外の階段から上がる。
汗だくになって、許を探す日が又来るなんて、思いもしなかった。
「ゆ~きっ」許は僕が上がって来た階段の向かいの壁側に立って、空を見ている様だ。
ここは何もない校舎の屋上、周りは高さ120cmのコンクリートの低い壁があるだけ、7月半ばの炎天下、その日差しに晒されたここは、長くいられる場所ではない。
許は何も応えてくれない、こちらを見てもくれない。
僕の全く知らない許、ゆっくりと近付く。「ゆ~き~」「近付かないで」
「どうして、ここは暑いよ、死んじゃうよ」「そう、でも、ゆっくりは嫌っ」
「降りよう、許。あいちゃん、いる、許はどうしたの」僕はスマホを手にした。
あいちゃんが無音で入って来た。
「言えません」「何だよ二人共、どうしたんだよ」
「もう少しそっちに行って良い」僕は近付く。「…それ以上来ないで」
「分かったよ」許とまだ3mぐらい空いている。
「何しに来たの」早く下に、暑すぎる。
丁寧にちゃんとしたかったけど、僕は右膝を床に突き、左膝を立てて、ポケットから指輪を出た。
そして許の前に。
「許、結婚して。こっ、これ、5千円だけど、卒業して働いて、必ず本物渡すから、今はこれで、・・・受け取って」
許は両手で口を押え、目からボロボロ、ボロボロ、涙を流している。
コンクリートに落ちた涙は、陽に焼かれた床から見る間に乾いてしまう。
これ、・・・きっとOKだよね。
「どうして、私だけ、・・・幸せになっちゃいけないの、・・・どうしてよ」
許が後ずさり、更に壁に近付く、この不安な感じ、何だろう。
「望、私、・・・受け取る資格ないの、ないの、・・・ないのぉぉぉおおっ」
「そっ、そんな事無いよ。…いやいやいや、許、僕の事好きだよね」
「・・・うぅっ、赤ちゃんがいるの、お腹に」「やったっ、僕達の子供」
「全員、未成年だから、まともに罰せられる事も無く、更生させるそうですぅ、やり逃げじゃないですかぁ。あいつらの親、謝りにもこないっ。許は、被害者は、害された方は、どうやって更生するですかぁ」
「あいちゃん、何」「許は」「私、レイプされたの、5人から」
「何、…それ」「手足、抑えられて、順番、・・・全部中なのぉぉぉおおおおおおーーー」
「5月の始めの週、コンビニのアルバイトの帰り、車に、・・・連れ込まれたですぅ。直ぐに私が、警察を呼んだんですぅ。でも、シンクロしてて、許のが全部来て」
パンパンパン。許が下腹を叩く。
「この子、私の身を汚した奴らの子供なのよおっ」
「病院に」「警察が、・・・うぅぅぅぅっ、・・・証拠をとるから」
「洗浄も、お薬も、でも、着床してたら、・・・こうなるの」
「僕、許がいれば」「私が無理、・・・くっ、ひっぐ、望以外の子供はいらないっ」
「許、許っ」「来ないでね、私、こんな理不尽許せないの」
許が後ずさる。
「神様に文句を言いに行ってくる」
「待って、・・・待って、待って、待って、待ってっ」
許が壁を乗り越え、後ろ向きに落ちた。どすん。
ドシャ。スマホから水風船が割れたような、変な音がした。
「きゃーーー」「人が落ちた」「救急車、救急車だっ、早くっ」
「マスターに会うですぅ」あいちゃんが全機能を停止した。
どたどたどた。「どうしたっ。何が起きた、瀬楠っ」
きっとあの時だ。バイトが早く終わったあの日。許に迎えに行くと電話をしたあの後。
許の断りを無視して、迎えに行っていれば。愚かで傲慢なのに、何故行かなっかたっ。
僕が、警察で真っ先に疑われた。
許を犯した奴らが、これを聞いて高笑いしてるかと思うと、加害者を擁護する奴、罰を与えない者、皆殺してやりたい。




