19話 愛しき君
月が変わり、夏休みが終わり、学校が始まった。
残暑は厳しく、女子の薄着は相変わらず素敵だと思う。
でも、以前の様に写メを取りまくる様な事はなく、大人しいものだ。
とはいっても、日記みたいなもので、日に一回は写メをとる。被写体は適当だ。
スマホを小6の時に買ってもらってから、女の子の素晴らしい写真を毎日撮り溜め、現在に至る。
けど、それは許と出会う前までの話、今はどんな好機も逃してしまう。
あれからあいちゃんも、気を使ってくれているのか、家に帰ると寝る前に必ずパソコンの中のあいちゃん悩殺ポーズを撮らされる。
嫌じゃない。あいちゃんは可愛いし、毎日日記を付けていると思えなくもない。
1Tのハードディスクには小6から毎日、撮り溜めた素敵な写真でいっぱいだ。
「はあ~ぁ~」ゆ~き~。「ぉーぃ、なんだよぉ~、望、その変な溜息は」
椅子に座ってると、悪友の隆が前に座る。
「しかし、今年も無事に夏を乗り切ったか。で、どうよぉ」
「何が」「お前、休み前に言ってたじゃん」
「何を」「とぼける。彼女つくる為の、『超現実的な方法を部活で検討中』って」
「そうだったかな」
「まっ、さっきの溜息が答えの様な気はするが、一応聞いてやんよ。彼女、出来たか」
「ダメっだったよ」「あああぁぁぁ~~~、望、おまえもか」
「隆、突き刺して良い」「止めろよ。そう言う表現は、彼女、彼女探せよ」
隆はお尻を押さえながら、自分の席に戻っていった。
そして始業式も終わり、普通に授業が始まり、ぼぉ~~~~~~っと、しているうちに、時間だけは変わらず過ぎ去って、ひと月近くが経とうとしていた。
「はぁ~~~」ゆ~き~。
「あーーーっ、もうっ、いい加減にしてよ、望君。報われない想いは私も分かるけど、毎日、毎日、毎日、まぁ~~~いにちっ、その溜息するの止めて」
「でも、彩先輩」「何、二日間、恋人気分だったんだからいいじゃない」
「むん、我が後輩が実質的な成果を上げた事は実に喜ばしい」
「ねっ、一がそれを言うの。一が私に告白すれば直ぐに成果が出て、今頃、私のお腹に赤ちゃんが入るはずよ」
「うーん、それはどうだろうか、天羽君」
「いィィィィィィー、言いなさいっ、言いなさいよぉ~、赤ちゃんつくるのぉ~」
「彩先輩も、それ、毎日言ってますよ」
「一に言って。ねぇ~、あいちゃん、望君に教えてあげなよ」
「ダメですよぉ~、守秘義務ですぅ、約束なんですぅ、私がいるですぅ」
「その子、経済的に困窮しているんでしょう。原因はよく分からいけど」
「彩先輩は、・・・許の事、非難しないんですか」
「何で。その子、ゆきって言うの。普通人はそうかもねぇ。口は出しても、何もしない。
自分がその立場になると一転、悲劇の主人公。私は思うの、ルール上誰も助けない、ルール通りだから。見て見ぬふりをする。誰も助けてくれないなら、自分以外の人間、全てから『死ねっ』て言われてる様なものよ。それでも『生きる』って決めたら、誰も助けてくれなかったルールから、外れるに決ってるじゃない。『生きる』事を完全否定されているんだもん。自分たちで社会の外にはじき出しといて、一生懸命生きようとする人を非難するのは可笑しいわ。私、この手の奴等大っ嫌いっ。救えないなら、せめて口を閉じなさいよ。ゆきって子、自分で生きて行こうとしてる、私はそう言う子好きよ。保護されているのが普通、数が多いから正しい、それは一つの指標でしかないの、全てに当てはめるのは完璧な間違いよ。生物の中で、普通、数が多いと言う事は、最も今の環境に適応しているって事、この人達は、環境が変われば真っ先に死滅するわ。私が助けてあげられるなら、そうしたいけど、望君の話を聞く限りきっと、『施しは受けないわ』ってタイプよね、あいちゃん」
「内緒ですぅ」「何この子、融通の利かない子ね、誰に似たの」
「聞きたいかね、天羽君」「・・・いらない、知りたくない」
「私のビジネスプランでは、人を雇う余裕はないし、これをクリアしないとその子、納得しないと思うわ。一自称天才なんだから、何かないの」
「吾輩、金稼ぎはよく分からん。故にここを立ち上げた」
「望、バイトの時間ですぅ」「あら、まだバイトしてたの」
「働いている時は、気が紛れるんですよ」
「私も考えてみるけど、期待、しないでね。・・・早く二人にしてぇ~」
「彩先輩、声、漏れない様にして下さいね」「分かってるぅ~」
「こっ、こら、天羽君、はっ、離れたまえ」
彩先輩が、ソファーに座る一先輩に伸し掛かって行くのを横目に部室を出た。