18話 我の心は醜《しゅう》怪《かい》なり
僕も脱衣兼洗面室で服を着た。
許が乾かしてくれた服を持って、部屋に行こうとしたら、許がベランダ全開でお掃除をしていた。
ベットのシーツは剥がされ、掛け布団と同じように折り畳まれていた。
「ねぇ、望、その、…冷蔵庫の食材は貰っていいかしら」「無駄にするよりいいよ」
「封の開いた飲み物は、勿体ないけどキッチンに流すわ。いいかしら」
「うん、そうして。パンはどうする。僕は今食べれないけど」
「私も要らない。少し吐き気がするから」「えっ、どうしたの」
「心配いらないは、お薬の所為なの。・・・あの、貰っても」「勿体ないから」
「有難う、なっ、何」「ゆ~き~」「またぁ~、いい加減にして、窓もあいているし」
許が髪の毛を、耳たぶの後ろに回して目を閉じる。Yes。
細い腰を引き寄せる。「「・・・」」
「そう言えば、許、毛がな」バッチン。腕を思いっきり叩かれた。
「どうしてそれを今言うの、台無し。・・・家系なの」
暫く、許も、あいちゃんも口をきいてくれなかった。
僕等は忘れものをチェックして、少し早めにチェックアウトした。
許が辛そうなので、僕が許の荷物も持つ事にした。
「重くない」「大丈夫、許は、まだ吐き気とかする」「有難う、大丈夫よ」
「あいちゃん、電車は」「え~とぉ、13分ですねぇ、一回乗り継ぎですぅ」
最初に乗った電車は座れなかったけど、乗り継いだ電車で座れたのは幸いだった。
「着くまで、肩を借りて良いかしら」「勿論、是非、そうして」そうして、許はまどろんだ。
「許、次だよ、ゆき」
「えっ、ええ、大丈夫、ちゃんと起きれるわ。夢を見ていただけだから、少し良い夢」
僕と許は駅に降り立ち、許を始めて見た公園に向かう。そこで僕等は別れる。
許は、体調が優れないのか、終始俯き気味で、歩調も遅い。
「何処か、お店に入って休もうか」許は頭を振る。
「いいえ、行きましょう」ただ別れるだけなら、ここでいいはずなのに。
「着いちゃった」待ち合わせをしていた、国立南洋美術館、到着。
「だね」「荷物を頂戴、もう大丈夫よ。ママの体調も良くないの、早く帰らないと」
僕は背中を向ける許に、リュックを背負わせる。
「有難う」「許、許、僕の彼女になってくれないかな」
「・・・男の人は皆、同じ事を言うの。私可愛いし、こんな事、してるから。ただでしたいだけよね」
「・・・違う、違うよ」「私は、こんな女なの、もう会う事はないわ」
許は、足早に駅に向かう。
追いかけて、引き留めても、彼女を困らせて、傷つけて、結局、何も出来ない。
許の状況を変える事が出来ないのなら、好きになってはいけなかた。
中途半端な事をするから、許を傷つけた。
遠ざかって行く許を見ているだけで、そこから一歩も動けない。
許は時折、ハンカチで顔の汗を拭っている様に見えた。
でも僕には、泣いているのでは、とそう思った時、僕がどれだけ利己的で、傲慢なのかを漸く悟った。