16話 あいちゃんのERROR
それから僕等は、互いに求め合った。(まぁ、ほとんど、…全部僕だけど)
「お願い、・・・はぁ、お休み、・・・はぁ、させて、・・・はぁ」
「御免、ゆき、…余りにも可愛くて、夢中になって、辛かったなら本当に御免」
許がそっぽを向いた。
「・・・それは違うから。その、今何時かしら、時間の感覚が無いの」
僕は体を許の横に移しスマホを見た。
「あれ、あいちゃん」「どうかしたの」
隣のベットの掛け布団を引っ張って、自分に纏わせながら許が尋ねる。
「ほら、ERROR出してのびてる」「やっぱり望の所為よね、これ」
「えー、どうしてさ」「ばかっ」
「あ~でも、スマホの時計は動いてるみたいだ。ほら、9時半」
「さすがにご飯を作ってる余裕はないわね」「あっ、僕、遅くても大丈夫だよ」
「私自身に余裕がないの。・・・私、シャワーを浴びるから」
許がベットの布団を引っ張りながら、ベットの縁に行き、立ち上が、…れなかった。
とん。「大丈夫っ」僕は慌てて傍に行き支える。
「有難う、はうっ、タオル、タオル持ってくるから、腰に巻いて」
耳たぶを赤くした許が、バスローブと布団を引き摺ってシャワーへ向かった。
奥のベットは、そのままでは寝れそうにないので、下に落ちている掛け布団を拾って、隣のベットに掛け直した。
「うーん、暇だ、あいちゃん、…あいちゃん、…修復出来ないのかな」
あっ、また落ちた、画面真っ黒、どうも再起動しるみたいだ。やっと帰って来た。
「あいちゃん、起きたぁ~」「う~~~ん、望、・・・ちゅうして」
シャワーじゃない、残念。
「寝ぼけてるの、エラー出してたよ。シンクロ、してないの」
「う~ん、マジでとんじゃたですぅ、はぁぅ」
「壊れたの」「ある意味、壊れたですぅ~。あんなに凄いなんて、・・・想定外ですぅ」
「どうしてエラーになっちゃたの」「カオス関数の見直しが必要ですぅ」
「分かる様に言ってよ」「いえません、女の子の秘密ですぅ~」
「また何か揉めてるの」バスローブ姿で、お布団を綺麗に畳んで帰って来た。
「あい、直ったの」「う~っ、許、凄かったねぇ~」「何、何の話、分からないは」
「許がとぼけたぁ~」「望、早くシャワーに行って、洗濯物を乾かさないといけないの」
「あ~、僕、許のおしっ、いひゃい、いひゃい、いひゃい、いひゃい、いひゃい」
「それ以上先を言ったら、口が裂けるからっ」
許は一瞬で間合いを詰め、僕の口に両の手の人差し指を挿し込んで、両側に引っ張った。
「いひゅ、いひゅかや、はやしてぇ、・・・いたぁーい」
「はっ、はいタオル、バスローブも持って行って」
「許、痛い」「・・・」ちゅっ。「なっ、直った」「えー、何それ、許ずるぅ~い」
僕は口元が綻ぶのを自覚しつつ、浴室へ向かった。
僕が帰って来ると、部屋の奥、ベランダ側にある椅子に許が座ってた。
許の前の丸いテーブルに、水の入ったコップと、僕が買って来た菓子パンが4つ、内一つは今、許が食べている。
その横にあいちゃん(スマホ)を置いて、話しをしている。
「御免ね、僕の好きなのばかり買って来て」
「いいえ、とても嬉しい。久ぶりに食べたわ。これを食べ終わったら、洗濯物を乾かすから、干したらお薬を飲むわ。あいが追跡してくれたので安心してるの」
「どこか悪いの」「・・・そう言うのとは違うわ」
許は、パンをテーブルに置いて、手を一旦お腹の辺りに降ろした。
「出会ってはいけないからよ」「僕は、…横にいて良いかな」
「副作用が少しあって、…手を、握っててくれる」
「出来れば、抱きしめたい」「それは暑いから嫌っ」「私はきゅっ、を希望しますぅ」
「じっ、じゃぁ、ちょっとだけ。それとあい、時間、ちゃんと教えてね」「任せてぇ~」
食べ終わった許は、洗濯物を乾かしにいった。手伝うと言うと激しく拒否された。
「パンツ見たい、触りたい、ブラも」「望、…素直すぎですぅ」
僕は部屋を少し整えて、封を開けたジュースでパンを食べた。
予め許に尋ねたら、チョコレート系のパンは置いておいて欲しいと言ってたので、苺のパンを選んだ。
許が帰って来て、さっきの席に座る。
「乾燥機能があると助かる。あい、一つ目を飲むから」
「私も女の子だから、ちゃんと教えますぅ。今からだと、チェックアウト前だから慌てなくていいですぅ」
それを聞いて、許は錠剤を一つ、口に入れ水を飲む。
「それじゃお休みしましょう。あいは充電大丈夫」「もう一度、挿してぇ」
「分かったわ」許がナイトテーブルの処へ行きスマホを充電する。
「望、目を瞑って」「うん、こうかな」
三歩ほど走る音がした。
「目を開けて、玄関の戸締りを再チェックして、明かりを落として」
バスローブが椅子に掛けられていた。
「分かりました」「あっ、それから、…濡れた物を着てベットには入らないで」
「うへへへっ、OK」
玄関、施錠OK、鎖OK。
「明かりは」「ナツメ球にして、オレンジぽい色の明かり」
僕は、エアコンの温度を下げて、照明を落とした。
バスローブを脱いで、ベットに入る。
「ゆ~き」許にぴったり引っ付く、温度を下げて正解だと思った。
許が僕の手を握って、胸の上に置く、とてもやわらくて暖かい。
お互いに顔を向き合わせて、ちゅっ、と軽くキス。
「襲っちゃいやよ」笑って上を向く、僕も天井に視線を移し、目を閉じた。