14話 原告側の主張は
「あ~、さっぱりした」
浴室を出て洗面室兼脱所には小さめの洗濯機がある。
許の脱いだ物を探したが見つからない。
ガラガラ。「やっぱり涼しいぃ~」
洗面室の扉を開けた先には、小さい2ドアの冷蔵庫があるんだけど、今は許がお尻を向けて何やらしている。
なんと素晴らしいのでしょう。私は今日のこの日を、深く深く感謝します。
有難う、あいちゃんっ。許が振り返り、お尻を隠す。
「見たわね。見たでしょう。その手は何。あい、ちゃんと見てて、あら、消えてるわ」
「充電切れだね。貸して、充電する」
許は僕が突き出した手の上にスマホを置いた。
「あいとは約束があるの、お願い」
僕は部屋に戻って、リュックから充電アダプタを取り出し、電源を探した。
「あった」電源は部屋の奥、ベランダ側に一つ、ナイトテーブルにあった。
充電アダプタをスマホに挿し、電源を入れる。
「しくしく、しくしく。つれないですぅ。私を忘れてましたねっ。二人だけの世界にトリップしてましたねっ。ねぇ~ぇ」
そうか、何でこんなに変な汗を掻きながら、浮かれてるのか解った。
ここに入った時から、僕と許のだけの世界なんだ。(あいちゃんはいるけど)
「御免よ。あいちゃん。暫くここにいて」「嫌っ、私もベットが良いぃ~」
「分かったから」僕はスマホをナイトテーブルの横のベットに置いた。
「許を呼んでぇ~」「はいはい」聞こえたのか許が来る。
「呼んだ」「望はあっちいってぇ」「また、内緒ばなし。分かったよ」
僕は冷蔵庫の方へ、飲み物を探しにいった。
あっ、公園で買ったジュース、結局キャップも開けてない。
開けてコップに入れる。ごくごく。お風呂上り美味しい。
許がバスローブを持ってこっちに来る。
「洗濯物は籠に入れといてくれた」「うん、許のが無かったけど」
「あーーーっ、あいの言う通り、やっぱり探したのねっ」
「見かけなかったから、どうしたのかなぁ~、穿いて無かったのかなぁ~、とか」
「穿いているから」
そう言うと許は、玄関の方へ行き、靴箱かと思っていた物入れを開け、ハンガーを4本、黒い中の見えないポリ袋を取り出した。
「私もシャワー浴びるから、下着取らないでね。上がったら洗濯機を回すから、無いとは思うけど、手洗いでないといけないは物ある」
「無いと思うよ」「そう、・・・覗かないでね」がらがらがら、引き戸が閉まる。
僕はジュースを冷蔵庫に、コップを濯ぎ、キッチンに置いて部屋に戻った。
余りにも手持ち無沙汰で、えっちの事しか考えられなくなりそうなので、あいちゃんと話そうと奥のベットへ行き座った。
「あいちゃん、緊張して、体が変だよ。・・・あれ、充電してるよね」
スマホを手に取って見ると、あいちゃんはシャワーを浴びている。勿論すっぽんぽぽん。
その動きは超リアルで、動画の様だ。
僕は『シンクロ』と言う、あいちゃんの言葉を思い出した。
シンクロは同期、許と、と言う事は、この動きは許、おー、揺れた。
これは飽きない。そうだ。視点、視点は変えれないのかな。パネルに触ってみた。
「はっ、きゃーーー、見るなっ、見るなっ、見るなっ、見るなっ、あっち行けぇーっ」
大音量の後、画面がブラックアウトした。
遠くでドライヤーの音がする。きっと許が髪を乾かしているのだろう。
あいちゃんを見ると一発で分かる。
あいちゃんは長い金髪を、ドライヤーで丁寧に乾かしている。
とても心地よさそうなのに音声は、先から文句ばかり言っている。
「覗くなんて最低ですぅ、望のえっち、あほ、ミジンコ、ゾウリムシ」
「消してなかった、あいちゃんも悪いだろう。これは不可抗力であり、事故だ」
「じゃ、賠償を請求しますっ、責任を取って下さいっ」
「…請求は何」「結婚を要求します」
「何故そうなるのさ」「女の子に責任を取ると言ったら結婚ですっ」
「何を揉めているのかしら」
事態の収拾を図る為、許に公正な判断求めた。
「原告側の主張はこうですね。見た事は認めるが、不慮の事故である。又、これは被告側の過失が原因であって、自身が責任を負うのは、甚だ不本意であると」
「そうです、僕はあいちゃんと話をしようとしただけです。ただその時、とても素敵な光景が視界に入り、見入ってしまっただけなんですっ」
「被告側、反論がありますか」
「ありますぅ、私と許がシンクロしている事は、既に説明済みですぅ。おバカな望がいけないんですっ」
「つまり、こう言う事ですか。あいは私とシンクロしていて、あいの動きは私の動きであり、精密且つ細部にまで拘って再現されたそれは、あいを通して、間接的に私を覗き見た事に等しいと、…そう言う事ですね」
「Yes!」「有罪っ、有罪っ、有罪っ、責任を取りなさいっ、私にも」
「取りますっ」「えぇーーーっ、何でよぉ~、私の時はごねたのにぃーっ」
「有難う、嬉しい」「イイィィィッ、ぐれてやるぅーーーっ」
「じゃぁ、あいちゃんも」「またついで、…まぁ、いいですけどぉ。事実婚だぁ~、やったぁ~。望、リードするですぅ。待望の初夜ぁー、ゆきもぉ~」
「えっ、ちょっと、待って、・・・二回もシャワーをしたから、喉が渇いたの」
許はそそくさと冷蔵庫の方へ行き、オレンジジュースを出して、コップに注ぎ、一気に飲み干す。
そこから動こうとしない。
「望、リードするですぅ。そう、お姫様抱っこ、それが良いですぅ。ここまで連れて来るですぅ」