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 魔物討伐隊

「突撃っ!」 


 跨った軍馬の横腹を軽く蹴り、前方へと走らせる。

 俺の意思に応えるように、馬はどんどんスピードを上げる。


 さらに、俺は前傾姿勢を取り加速を促す。


「俺に続けぇええッ!!」


 俺の後ろには、槍を構えた騎馬隊二十名が追走してくる。




 俺達の攻撃目標は、この辺りの村々の畑を荒らしていた魔物の群れだ。

 俺はその中でも特に大柄の個体に狙いを定めて、槍を構えて突撃する。



 この地を治める領主から魔物の討伐要請が届いたのが五日前。

 救援として俺が、部隊を率いてやって来たのが三日前。

 敵戦力の把握と討伐を二日かけて行い。


 そして今日一日かけて、魔物の掃討作戦を行っている。


 魔物の発生が小規模であれば、各地を巡回している平民中心の傭兵団が対応して、今回のように大規模な群れを成している場合は、俺の率いる騎士団と、最寄りの傭兵団で協力して対処に当たっている。




 魔物の姿かたちは、群れによって異なる。


 今回討伐する群れは、緑色の人型の魔物。

 大きさは人間の子供サイズから三メートルにもなる大型まで様々だ。


 この辺りを荒らしていた魔物の数は大小合わせて、おおよそ二百三十程だった。

 それを二日かけて削っていった。





 俺が率いているのは騎馬二十、傭兵団が弓二十、歩兵五十、工兵や輸送の後方支援百で編成された部隊だ。


 ちなみにこの世界には、戦闘で攻撃魔法を使う魔法使いはいない。

 



 最終日の決戦は、小高い丘の上に簡易な防衛陣地を構築し、生き残りの魔物の群れを挑発し誘い込んだ。

 柵や堀などの障害物を利用して敵を足止めし、後方から弓で支援する。


 そちらに敵の注意を引き付けておき、俺が率いた別働の遊撃部隊が突撃する。


 それで魔物の群れを殲滅した。





「アレス王子、前に出過ぎです」

「そうですよ。王子様に万一のことがあれば――」



 魔物を倒し終えて天幕の中で休憩していた俺に、親衛隊の女騎士レイラとリィーネの二人が、小言を言ってくる。


 突撃の先頭を駆けたことを言っているのだろう。

 いつものことなので、俺は軽く聞き流して外へ出る。


 外には今回の討伐隊に参加していた、女戦士ミランダとミリザそれと弓兵のシーネがいた。俺の無事を確認しに来たらしい。


 心配するのは解かる。

 何せ俺はこの国の第一王子だ。


 王位継承権第一位の王子が従軍して戦う。

 それも最前線に立つとなると、前代未聞のことだ。


 国王である俺の父親も遠回しに辞めるように言ってきているが、昨今の政治情勢では強くも言えず、俺が無理を押し通している格好だ。


 この国の正妻の子供は、俺一人だ。

 俺が戦死すれば、次に継承順位の高い者が王となる。

 順位は身分の高い側室の順に決められている。


 その場合は、順位が決まっているとはいえいざこざは起こるだろうし、下手すれば内乱になる。俺には大人しく安全なところに居て欲しいというのが大勢の意見だ。


 しかし、そうも言っていられない。


 俺が戦場に出て戦う。

 これは必要なことなのだ。




 戦場の後始末は周囲の村人にも手伝わせて、魔物の死体を集めて焼いている。

 兵士用の天幕では、医療部隊が戦闘で傷を負ったけが人の手当てを行っている。


 幸いなことに今回の遠征で死人は出なかった。

 俺も含め、兵士たちは戦闘を行うたびにレベルが上がっている。


 部隊を編成した当時と比べ、確実に強くなっている。 





 弓兵が放った矢と敵の前進を阻害する柵は、まだ使えそうなものは再利用する為に輸送部隊が回収する。

 貧乏くさいが予算も限られているので仕方がない。 




 食事の炊き出しをして、夕食は近隣の村人と一緒に飲んで食べて騒ぐ。


 ちょっとした祝勝会だ。


 

 情報ギルドに所属している輸送部隊の人員が、村人たちに交じって俺の武勇伝を吹聴している。情報ギルドには、俺が戦場に出て魔物を討伐している話を広めるように依頼している。



 魔物討伐依頼を出した領主やこの辺りの集落の村長たちが、俺に挨拶とお礼を述べにやって来た。


 領主たちは次々に俺の武勇を褒めちぎった。

 しかしその後に『しかし、聖女様さえいらっしゃれば、このような苦労はせずに済んだのですが……』などと嫌味を言うことも忘れなかった。





 聖女ローゼリアを国外追放してから、三年が経過した。


 一年目から徐々に農作物の収穫量が減っていき、小規模ながら魔物が発生しだした。リーズラグド王国の貴族の間では、あの時、追放したローゼリアが本当は聖女だったのではないかと囁かれ始める。



 追放から三年目を迎えた今では、『聖女を追放した無能な王だ』と国王を公然と非難する者まで出てきた。


 国民の間にも王族が、聖女を誤って追放してしまったという話が広まっている。


 父上やダルフォルネは生きた心地がしないだろうな。




 俺は魔物の討伐任務を完了して、帰路につく。


 行軍の列の丁度中央にいる俺のところへ、前方から早馬が駆けてくる。



 ――何かあったか?




 伝令用の通信兵は、俺の姿を見つけると馬を急停止させる。


「緊急の伝令にて馬上より失礼! ゾポンドート侯爵に謀反の兆しあり。兵を集め王都に向けての進軍を計画しています!!」


 魔物退治の次は、反乱軍を相手にしなければいけないようだ。

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