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 婚約

 ――聖女の力の検証をしてみましょう。


 という俺の提案を聞いたダルフォルネが、顔を真っ青にした――



 そして……

 本物の聖女ローゼリアの養父、ゾポンドートも様子がおかしい。

 わなわなと震え出したかと思うと、真剣な表情で必死に何かを考えている。


 どうしたんだ、あいつ?



 俺が不思議がっていると、突然ゾポンドートが大声で話し始める。



「も、申し訳ありませんでした。本物の聖女様がいらっしゃるとは露知らず、このような小娘の虚言に騙されてしまいました。しかし、私も詐欺師に騙された被害者です。どうか、寛大なご処置を!!」



 なんと本物の聖女を連れているゾポンドートが謝り出した。


 どうやらあいつは、自分の連れてきたローゼリアが本物であると確信が持てずに、ここで切り捨てにかかったようだ。

 



 ダルフォルネは誠実で有能な政治家だ。

 対してゾポンドートは評判のよろしくない。


 悪徳貴族――そのことを自分でも自覚しているのだろう。

 加えて国王夫妻もダルフォルネ寄りだ。



 自分の主張に自信が持てずに、ローゼリアを疑い……自分に責が及ばないように、ダメージコントロールに走ったわけだ。



 聖女がどちらか分からないうちは、自分の連れている娘こそが真の聖女であると主張していてもいい。

 たとえ偽物であったとしても、自分の養女を王子の嫁に出せる。

 どちらが本物か分からなければ、両方を嫁に取るしかない。


 しかし検証されて真偽がはっきりすれば、偽物を連れてきた方は重罪になる。

 リスクが発生したことで、ゾポンドートは賭けから降りたようだ。



 

 そこからはダルフォルネが主導する形で、『偽聖女ローゼリア』の国外追放が正式に決まった。どうも『本物の聖女を追放する』という小説の根幹は、ちょっとやそっとでは揺るがないらしい。





 だとすると、俺とこの国が破滅する運命も揺るがないことになる。

 この先、何をやっても無駄なのではないか?

 そんな暗澹たる思いに包まれる。


 いや……まだ諦めるのは早いだろう。

 俺はメアド神から転生特典を貰っている。

 運命を変えられず『嫌われ役王子』の人生を歩むだけなら、わざわざ俺に特別な力を与える必要は無い。


 きっとなにか狙いがあるはずなんだ。

 恐らくは、だが……。



 俺はふと聖女偽証の刑罰が、禁固刑や死刑でないことに疑問を感じた。

 なんで『国外追放』なんだろうか?



 試しに『見せしめとして、死刑にした方がいいのではないか?』と聞いてみたが、それにはダルフォルネが慌てて『国外追放』を押し通した。


 このような不届き者を、この国に留め置いたり処刑したりすれば、地母神ガイア様の不興を買うことになってしまうかもしれない。

 というのが国外追放の理由だった。



 理由としては少し弱いように思う。

 それにあの慌てぶりは、何かおかしいと感じた。


 だが――

 なぜか、急速に気力が減少していく。



 もともと聖女の追放は織り込み済みで、予定通りだ。

 もういいじゃないか。


 国王や有力貴族の居並ぶこの場では、王子に出来ることなどたかが知れている。


 受け入れよう。


 



 『偽聖女』とされたローゼリアは衛兵によって拘束され、パーティー会場から摘まみ出された。



 少し意外だったのは、衛兵に拘束される際に手荒に扱われたローゼリアが、ヒステリックに暴れて叫び出したことだ。 


 罪人が拘束されるのは当然だろうに、『話が違う』といって怒っていた。

 丁寧にエスコートされるとでも思っていたのだろうか?



 偽聖女と疑われても、涼しい顔をして反論一つしなかったのに。

 ……やはりあの女は、どこか妙な感じがする。

 

 追放されない様に自分の能力をアピールするとか、もっと……

 まあもう、どうでもいいか――


 今日は疲れた。


 


 その後――

 ローゼリアとの婚約破棄が成立した。

 そして俺は『聖女』ソフィと、正式に婚約することになった。



 俺たちはお互いに定型文で、無難に挨拶を交わし合う。


 ソフィは地味な見た目で、跳ねたくせっ毛以外はこれといった特徴のない少女だった。彼女の立ち居振る舞いは、俺に気に入られようと言い寄ってくる女たちと大差なく、特に興味を引かれることはなかった。

 

 俺の女好きは貴族社会で知れ渡っているらしく、こういう手合いは結構来るのだ。



 一方、罪人として拘束されたローゼリアは、リーズラグド王国の南の国境を任されているダルフォルネの領地に移送され、その後で隣国ピレンゾルへと追放された。

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