表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/40

 打倒できる化け物

 ゾポンドート領の南方にある、守備の要ニアレット砦。 


 そのニアレット砦に、常駐していた守備隊が百人。


 そこに俺が送った五百を足して、六百がこちらの戦力。

 対して敵軍は、三千と報告されている。


 敵の数は五倍だが、防衛戦である。

 戦えないことは無い。


 要塞を攻略するのに必要な数は、敵の三倍だったか十倍だったか――

 書物や記事によって数字は変わるので、正確には判らないが……五倍の敵を相手にした防衛戦は、無謀な戦いというわけではないだろう。


 敵味方のどちらにとっても、勝ち目のある戦いになる。


 敵は遠征軍だ。

 故郷を離れてここまで来ている。


 遠慮容赦なく暴れ回る危険がある一方で、劣勢になれば士気の崩壊は早いだろう。




 懸念材料はあと一つ。 

 

 敵兵の装備からピレンゾルの軍隊だということは分かっている。

 ピレンゾルといえば、聖女ローゼリアを追放した国だ。

 


 聖女とダルフォルネが、手を組んだのか――?


 だとすると、あの中に聖女がいる可能性が高い。





 俺には、この世界の元ネタ小説に関する知識がほぼない。

 そのため聖女というのが敵軍にいた場合、どの程度の脅威になるのかが解らない。

 


 まだいるかいないか分からない聖女だが、いる前提で戦った方がいいだろう。


 まずは敵の能力――

 何が出来るのかを把握する必要がある。



 少なくとも、敵方に聖女がいると知れたら、味方の士気は低下してしまいそうだ。

 まあそれも、戦ってみなければ分からない。


 敵軍が隊列を組んで、向かってくる。

 こちらは迫りくる敵を迎え撃つために、迎撃態勢を整える。





 戦闘開始、初日。


 聖女の軍勢というのはどれほどのものか、まずは観察しよう。


 敵軍約三千は砦から一キロほど距離を置いたところに陣を構えている。

 そこで部隊を大きく三つに分ける。


 そのうちの一つ、千人規模の部隊が何の工夫もなく、ただひたすらに砦に向かって進軍し、砦に張り付いてきた。


 大掛かりな攻城兵器などは、特に用意していない。


 弓兵が矢を放ち、けん制をしてくるくらいだ。

 梯子を立てかけたり、鉤爪の付いたロープを放り投げたりして、砦の壁に取りつきよじ登ってくる。


 こちらは弓や投石で応戦し、まれに城壁を登りきった敵兵との白兵戦があったが、危なげなく普通に撃退に成功した。






 昼には敵の先陣は撤退して、後詰めの千の部隊が交代で砦に攻勢をかける。



 そのタイミングで傷つき倒れ込んでいた敵の兵士たちが、突然光り出した。


 光が収まった時には、傷だらけで戦闘不能状態だった敵兵の傷が、完全に治っていた。傷の治った敵兵は、次々に起き上がる。


「――ゾンビかよ」


 俺は思わず、突っ込みを入れる。



 戦闘不能から回復した敵兵だけではなく、軽症の奴の傷も治っているようだ。


 エリアヒールという奴か……。

 替わりに現れた後詰の部隊が、攻城戦を仕掛けてくる。




「聖女のヤツが居やがるのは、間違いないな――」


 ローゼリアがどういうつもりでこんな戦いを仕掛けてきているのかは謎だが、奴の回復スキルは相当に厄介だ。

 敵兵には怪我を負うことへの恐れが無い。




 味方の兵士たちに、動揺が広がる。


 自軍の士気のケアは、後回しだ。

 俺は敵の能力を詳細に把握しようと、戦場を観察する。



 聖女の回復能力から取り残されて、転がっている敵もチラホラいる。


 流石に死んだ奴は、復活しないようだ――

 どうやら聖女の能力でも、蘇生はできないようだ。


 復活できるのは重傷者までだ。



 敵を即死させれば、数を減らすことは出来る。




 問題はこの世界の武器では、鎧で防御を固めた敵に対して、即死レベルのダメージを与えることは難しいことだ。

 攻城戦で敵との距離がある分、なおさらだ。


 当たり所が悪ければ死ぬ――

 という攻撃しかできない。


 敵にあの回復が無ければ、それでも十分なんだが……。

 重傷者にとどめを刺して回ることも難しい。



 加えて敵側に聖女がいることは、もう疑いようがないだろう。

 この事実は自軍の士気を、低下させ続けてしまう。





 敵側の弱点は、死んだ者は蘇生できないこと。

 そして、聖女の力も無限ではないということだ。


 回復の力を使い続ければ、必ず枯渇する。 




 だがそれがいつになるのかは、俺にはわからない。

 それにこちらも、弓矢や投石に使う石には数に限りがある。


 消耗戦になると――

 聖女を敵に回しているという、心理的負担があるこちらが不利か……。




 戦闘開始から三日が経過した。

 

 敵軍の動きはワンパターンで、朝に第一陣が攻撃を行い、昼に聖女による回復が行われ、その後に入れ替わった第二陣が夜まで攻撃して、日が落ちる前に聖女の回復が入り、敵軍は自陣に戻る。


 時間外に、回復が飛んでくるときもある。

 戦術というよりは、聖女の気まぐれだろう。




 夜襲はこれまでの所は無い。

 要塞相手の夜襲は、嫌がらせくらいの意味しかないからな。


 夜通し攻めればこちらを疲弊させる効果はあるが、そこまでする必要もなく、こちらは精神的に疲れきっている。

 

 どれだけ撃退しても、復活して攻撃してくる。

 きりがない。


 まだ戦闘開始から三日目なのに、城内の兵士は憔悴し出している。




 聖女も死者を生き返らすことは出来ないので、敵軍も少しずつ減ってはいる。

 兵士たちの戦いは、無駄ではない。


 だが目の前で倒したはずの敵が、復活するインパクトが強すぎる。

 自分たちの命がけの戦いが、無駄に思える。


 それに、負傷を恐れずに向かってくる敵というのは、得体の知れない怖さがある。

 生物の理から逸脱している。


 味方の部隊には、早くも厭戦気分が出始めている。



 防衛戦ということもあり、味方の被害はそれほどでもないのが救いだ。

 しかし、このままではマズいのはたしかだ。


 そろそろ手を打つ必要がある。




 聖女による傷の回復も無限には出来ない。

 回復が一日に二度が基本なのは、使用制限か力の温存を考えてのことだろう。

 


 聖女はかなり厄介な敵だが、どうやっても倒せない無敵の存在ではない。


 倒しうる化け物だ。


 これから、それを証明してやる。






 昼になり、敵軍の回復と交代の時間になった。

 敵はいつも通り、入れ替わりを開始する。


 そのタイミングで、俺は要塞の門を開けて一騎で飛び出した。

 敵軍の真っただ中に騎馬で突っ込んで、左手に持った槍で周囲の敵を薙ぎ払う。

 




 俺は邪竜王との戦いで、大幅にレベルを上げている。

 特に左腕は、邪竜の呪いでさらに力が上がっている。


 人知を超えた怪力で振り回される槍は、鎧を着こんで重量の増している敵兵を、いとも容易く弾き飛ばしていく。


 予想外の襲撃者の登場に、敵は混乱し逃げ惑う。

 攻城戦の為か槍を持った敵は少なく、歩兵も騎馬も剣や弓装備が多い。



 騎馬で接近戦を仕掛けてくる敵の攻撃や、遠距離からの弓は、右手に装備している剣で捌き、対処しきれなかった分は鎧が弾いてくれる。




 俺の装備品は全て、邪竜王の牙や爪、鱗を使い作らせた特注品だ。


 生半可な攻撃では、傷ひとつ付かない。





 俺の戦いぶりを見て、味方の要塞から歓声が上がる。



 なるべく多くの兵士に、観戦しておくように命じてある。


 俺はひとしきり暴れまわってから、槍を天に掲げて大きく三回回す。



 それを合図に再び砦の門が開き、待機していた騎馬隊が出撃する。


 俺の二十一人の親衛隊だ。


 騎馬隊は敵軍に突撃を行い、俺が暴れまわって破壊した敵の陣形をさらに崩す。


 騎馬による突撃は攻撃力が高い。

 敵軍はこれまでの攻防とは比べ物にならない死者を出した。

 

 即死級の者が多いからか、回復を行ったばかりだからか――

 聖女による回復は来ない。



 俺は撤退の合図を出して、騎馬隊を要塞内へと引き上げさせる。


 最後に周りを見渡して、取り残された者はいないかを確認してから――

 敵と味方に見せつけるように悠々と、俺は砦に帰還した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ