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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう
聖女を追放した国の物語

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 王子ピレールの恋


「…………まだか?」


 僕は王都の中心にある、広場の噴水の前で『彼女』を待っている。


 昨日彼女の使いが来て、今日ここで待つように言われた。

 彼女の要請は、ピレンゾルの第一王子といえども無下には出来ない。


 だが――

 指定された時間はとうに過ぎているというのに、彼女はまだ現れる気配はない。




 四年前……僕が魔物討伐の任に就いていた頃に、偶然見つけた聖女ローゼリア。


 彼女からの呼び出しは、これでちょうど十度目になる。


 

 その度に、彼女は大幅に遅れてくる。

 そして悪びれもせず、僕を食事やら買い物やらに連れ回すのだ。




 僕には第一王子としての政務がある。


 少し、イライラが募ってくる。

 すると――


「聖女様も婚約者の殿下と会うのですから、支度に時間がかかっているのでしょう」


 隣に居るメイドのステファが、さり気無くフォローしてくれた。





 ……。

 そうだな。


 こんな不機嫌な顔で、聖女と対面するわけにはいかない。

 僕は深呼吸して、心を落ち着かせる。


 ステファは年上で、落ち着きのある女性だ。

 大貴族の娘だが妾の子で、僕のメイドとして働いている。


 聡明な彼女は身の回りの世話だけではなく、政務も手伝ってくれていて、半年前に第一王位継承者になった僕を支えてくれる。




 半年前……

 そう、半年前だ。


 第一王位継承者になったのは――





 兄二人が相次いで不幸にあったことで、僕が次期国王という立場になった。


 聖女ローゼリアが、この国に来た直後くらいに――

 正妻の子の一番上の兄が、そして半年前に弟の方も……


 何者かに、殺されてしまった。




 その後、当時の正妻が身を引き実家に戻り、僕の母が正妻の座についた。


 王子二人の死は、公式には病死とされているが――

 実際は暗殺だった。


 それは公然の秘密であり、みんなが知っている暗黙の事実だ。



 そのため僕と僕の母親は暗殺の黒幕だと、まことしやかに囁かれている。


 僕の母親の実家は力のある貴族だったが、五年前に大規模な魔物災害に襲われたことで、大幅に力を落としていた。


 実家への支援と引き換えに、僕は辺境の魔物退治に従軍して国への貢献を示さなければいけなかった。


 その条件を提示したのが、当時の第一王子だった。


 僕が国王になれば、傾いている母の実家は喜ぶだろう。


 暗殺の動機は十分にある。



 周囲からの疑いの目に、さらされ続ける毎日だ。

 聖女を見つけてきた功績で、調子に乗っていると陰口も言われている。


 ステファは、そんな僕を公私に渡って支えてくれている。


 とても頼りになり、信頼できる女性だ。






 僕がステファに感謝の言葉を伝えていると、そこにようやく聖女ローゼリアが馬車に乗って現れた。


 彼女は到着するや否や、僕とステファを見て不機嫌になり、今度から護衛は男を使うようにと僕に命令する。 


 そしてその場にステファを置き去りにして、買い物へと向かった。

 





 聖女ローゼリアがこの国に来て、四年半が経過した――


 聖女ローゼリアには感謝している。

 

 彼女の祈りと結界のおかげでこの国は豊かに、そして安全になった。



 彼女の贅を尽くした暮らしぶりには眉をひそめたくもなるが、彼女がこの国にもたらした恩恵を考えれば文句も言えない。



 だが最近の彼女の行動は、看過できないレベルになっている。


 なんと王国軍から人材を大量に引き抜き、そこに兵士を募集して自分の軍隊を創設したのだ。

 聖女という肩書を使えば、大抵の無茶は押し通せる。


 正面から文句を言える者はいない。

 例え国王であったとしてもだ。




 その積み重ねの果てに、三千人規模の軍隊を組織した。

 今はその軍隊を引き連れて、リーズラグド王国方面へ向かっている。


 いったい彼女は、何をするつもりなのだろう?

 リーズラグド王国は、ローゼリアを追放した国だ。


 まさかとは思うが、戦争でもする気なのか?

 三千程度であの大国と戦っても、勝ち目はない。


 そんなことは、彼女にもわかるはずだ。


 

 では何を……?





 周辺国や前正妻の実家で、きな臭い不穏な動きがあると報告があった。

 そんな折に、隣国といざこざを起これば――




 僕が聖女ローゼリアを、この国に招き入れた。

 だが、『聖女』という誰にも制御できない存在を招いたことは、国にとって本当に良いことだったのだろうか? 



 「はぁー」


 執務室で小さくため息をつく。

 そんな僕の前に、入れたての紅茶が差し出された。


「ありがとう。ステファ」


 僕のお礼の言葉に、ステファは慈しむような微笑みを返してくれる。

 その微笑みで、僕の心の中に溜まった不安と焦燥が少しだけ晴れていく――




 彼女と過ごす何気ない毎日の中に、心が満たされる瞬間がある。

 

 たぶんこれが、恋というものなのだろう。


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