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聖女を追放した国の物語  作者: 猫野 にくきゅう


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 案内状

 邪竜王ガルトルシアの討伐に成功した。



 討伐成功の際の合図である狼煙を上げ、脅威の終わりを知らせる。


 知らせを受けた親衛隊は、現場へと急行して疲労困憊の俺を回収する。


 疲労と痛みで動けない俺に代わって、親衛隊長リスティーヌが新生ゾポンドート軍を使い、邪竜王ガルトルシアの亡骸をイーレス城へと運んだ。


 邪竜王の亡骸の移送は、大々的に行われた。

 それを民衆に公開して混乱を収め、討伐した俺の名声を高めるためだ。



 イーレス城に邪竜王の亡骸が運ばれた時には、集まった民衆から歓声が上がった。

 巨大な竜の亡骸は、さながら祭りの山車のようなものだ。


 イーレス城の中庭まで運ばれた邪竜王は、解体されて俺が懇意にしてきた商人たちに優先的に売り払われた。

 これで俺個人の活動資金を、大量に確保出来た。




 それからの領地経営は順調に進んだ。

 早期に恭順した貴族の中から役に立つ奴を選び、側近や重役に据えて優遇した。


 特にゾポンドート弟の息子は優秀だったので、仕事を多く割り振ってこき使っている。順調にいけばそいつがこの領地を相続するのだから、遠慮の必要はない。

 周りから悪辣眼鏡と呼ばれていて、人格面で問題でもあるのかと危惧したが、今のところは大丈夫だ。




 前領主と仲が良く、俺に対して反抗的だった者に対しては、減俸したり、改易したり、当主をすげ替えたりして力を削いでやったが――


 反乱を起こす根性のある者はいなかった。


 これも、邪竜王を討伐した賜物だろう。




 邪竜王を討伐した俺の身体には、二つの異変が生じた。


 良い変化と、悪い変化が一つずつ。


 良い変化は、レベルが急激に上がった。

 邪竜王と戦い倒した俺は、とんでもない経験値を獲得することになった。

 レベルが上がったことで、身体能力が大幅に強化された。

 


 悪い変化は、邪竜王から受けた呪い。


 呪いを受けた時の痛みと熱は、数日で収まったのだが――

 左腕に漆黒の紋様が刻まれて、邪竜王の力が蓄積し続けている。


 力が強くなるのはいい事のように思えるかもしれないが、強すぎて日常生活がまともに送れない。

 しかも気を抜くと、邪竜王の黒の炎が溢れ出てくる。


 危なくて仕方がない。


 ――これじゃあ女の子を、抱きしめられないじゃないか。




 しばらくは左手を一切動かさず、人も寄せ付けずにいた。

 ロザリアを中心とした頭脳チームが、邪竜王の呪いの力を抑える封呪の包帯を作成してくれて、現在はそれを巻いている。


 日常生活でも左腕を使えるようになったし、黒い炎も出てこない。



 農業知識やノウハウの伝達も行われ、新設した軍隊と傭兵団とで連携して魔物討伐にも力を入れる。

 まだしばらくは苦しいだろうが、この東の地もこれで安定していくだろう。


 



 俺が新領主となり一年が経過した。


 凶作や長年の圧政、魔物被害や戦乱で荒れた領地も少しずつ回復し、農作物の収穫量も持ち直してきている。

 商人の流通網も正常化してきている。

 



 ようやく一息ついたなと、ほっとしていたが……『嫌われ役王子』の人生は、そう上手くはいかないらしい。


 ゾポンドート城の書庫にあった古文書を解読してる調査チームから、嬉しくない研究結果が報告された。



 このリーズラグド王国が今の体制になる前の時代。


 ゾポンドートがまだ独立勢力として王国の傘下に入っていなかった昔の記録。

 破壊神が封印されているとされるダルフォルネ領を中心に、現在のリーズラグド王都までが作物の一切育たない、死の荒野だった。



 ここまでは、これまでの研究でも解っていることだったが、さらに具体的な記録が発見された。 


 古文書の記録では――

 ゾポンドート王国およびその周辺国に、聖女の加護が無い期間が二十年続き、国土の半分以上が死の荒野になってしまった、とあった。


 今現在は一時的に農作物の生産能力を向上させることが出来ても、聖女の力無しではこの国の領土の大半が――

 数十年後に作物の育たない、不毛の地になることが予想される。


 そうなっては、小手先の農業技術ではどうにもならない。




 では、どうするか?


 一次産業がダメなら、二次産業で稼ごうじゃないか!

 だが俺には産業革命を起こす頭脳はない。

 蒸気機関車なんか、どうやって作ればいいんだ?


 とりあえず日用品を大量生産する機械を作って、工場を整備すればいいのか?

 出来る奴がいればいいんだが――




 

 この国は周辺国と比べて人口が多い――

 傭兵事業を拡大して、魔物討伐や戦争で稼ぐ。


 


 土地がほぼ使えなくなるのなら、他国への金貸しで金融業で稼ぐか――

 でも金貸しは嫌われるよな。





 いずれかの手段が成功しても――

 自国でほとんど食料が生産できないのは致命的だ。


 他国を侵略して食料を奪うか?

 食料が尽きればそういう選択もせざるを得ないだろうが――

 そこまで追い詰められた時点でもう、色々とおしまいな気がする。



 開墾作業が困難で、どの国の領土にもなっていない手付かずの土地を開拓するか?

 

 上手くいった後で欲張りな奴が、自国領だと言って領有権を主張してきそうだ。




 困難が予想される未来にどう対処すべきか、俺が頭を悩ませていると――

 耳を疑うような知らせが届いた。


 





 手紙の送る主はダルフォルネで……


 ダルフォルネ侯爵領にて『偽聖女ソフィ』の公開処刑を執り行う――

 という案内だった。

 



 ダルフォルネは偽聖女を擁立し聖女を追放を主導したことで、三年前に国務大臣の任を解かれ、現在は自身の領地で謹慎している。



 聖女を追放した割に軽い罰で済んでいるのは、それまでの功績を考慮したことと、大貴族という地位に配慮してのことだ。


 国王といえども大貴族に、重い罰を科すのは難しいらしい。



 だがそれでも、やりたい放題していいわけでもない。

 ソフィを処刑するとなると、放置するわけにはいかない。




 彼女が偽聖女だということは、状況証拠からもうすでに国中に知れ渡っている。

 しかし……それでもまだソフィは、俺の婚約者なのだ。



 次期国王の正妻となることが決まっているソフィを、現国王や俺に何の断りもなしに処刑する。


 そんなことを見過ごせば――

 俺の権威は失墜し、王国の秩序は崩壊する。


 そんなことは……ダルフォルネなら解っているはずだ。

 解っていて、こんな案内を寄こしやがった。


 俺を挑発しているのか?



 ――なめやがって。


 邪竜王に呪いを受けた左腕が、ひどく疼く……。





 なんとしてもダルフォルネは、俺の手で粛清しなければならない。



 俺はダルフォルネへの使者の用意と――

 親衛隊の出撃準備を命じた。


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― 新着の感想 ―
[一言] >ダルフォルネ 本性を現したなw 聖女が行った国に従ったか?
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