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女教師とのお約束

作者: ぴろわんこ

小川が中学一年生の時に出会った担任の先生の高山は、熱血教師を気取った女性だった。不美人だった。だがそれを利用して、飾りの無い天真爛漫な女教師だよとアピールしていた。


ほとんどの先生や生徒は、それに騙されて裏表の無いいい先生だなと好意を寄せていた。しかし小川は、その先生を嫌っていた。


小川は妙に鋭いところがあった。と言って勉強がよくできたというわけではない。全くできないというほどでもなかったが、成績は下位から数えた方が早かった。

運動がよくできたというわけでもなく、運動神経も悪かった。容姿がいいわけでもなく、要するにこれといった取り柄がなかった。


しかし時折、人が気づかないようなところを気づいたりすることもあった。だがそれを実践の場で、発揮することは滅多になかった。彼は大人しい性格だったので、自己主張が苦手だったのだ。


高山先生は、小川のような大人しい生徒は私のことが大好きなのだろうと、近づいてきた。小川にとっては、それがウザかった。と言って内申書の問題もあるから、無下にもできない。


その中学校は、生徒が先生に日記のような物を毎日出す決まりになっていた。それを毎日必ず出すようにと、家庭訪問の時に先生は小川に約束させた。


小川からしたら、毎日出せばいいだけの話だから学校で書いて昼に出してもいいのだろうという思いだった。

高山先生からしたら、当然家で書いて朝出すという約束のつもりだった。


ある日、小川は日記を学校で書いて昼に出した。彼は約束を破ったつもりはなかったが、高山先生の逆鱗に触れ約束を破る奴は大嫌いだと言われた。


小川はそう言われて顔を歪ませた。高山先生はにゃーあっと笑った。大好きな私に嫌われてショックと見えるな。ショック療法が効いたなと、内心ほくそ笑んだ。


小川は高山先生のことが大嫌いだったから、嫌いな人に嫌われるのは嬉しいなと内心嬉しかった。第一あんたおれの家庭事情を知らないだろう。両親とも約束を平気で破り、謝罪も償いもない家庭でおれは育てられたんだ。あんたは気楽でいいな。ヤクザみたいな手法で強引な約束を取り付けて、感情論をぶつけて一端の教育家気取りかい。おれみたいな大人しいタイプだと、点数稼ぎにはもってこいなんだろうなと冷めた頭で考えていた。


しかしショックを受けた振りをして、日記に約束を破ってすみませんでした。これからはしっかりやろうと思います、と書いた。高山先生のお気に召したようだ。


その後も高山先生から小川は、数々の誤解や非難を受けて自信喪失していった。ますます心を開かなくなった。高山先生は、他の先生たちの前でこんなに一生懸命やっているのに小川は心を開いてくれないと、大仰に嘆いてみせるのであった。もちろん自分が小川に対して、いかに心無い酷いことをしたかは一切言わずにである。


そうすると、他の先生たちはそんな先生のせいじゃないですよ。気になさらないで下さいと、高山先生を庇うのであった。全くこんな健気ないい先生に心を開かないとは、小川はけしからんと一段と彼のことを蔑視するようになるのであった。


どうにか一年間、小川は乗り切ることができた。二年生になって担任が替わった時は、心底ほっとした。もう一年高山先生の担任だったら、多分登校拒否になっていたか自殺をしていただろう。


高山先生は小川が二年生の時に、去年から両思いだったらしい他のクラスの担任と結婚した。彼は信じられなかった。おれは百億円もらっても、高山先生と結婚するのは御免だと思った。もっとも向こうもそう思うだろうが。


小川は高山先生をバカで、心無い人だと思っていた。しかしバカというのは取り消そうと思った。すごくしたたかで、腹黒い世渡り上手な人だ。だが見習いたくはない。

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