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50 死に戻り令嬢、迷いを指摘される

 この騒動、二人の後継者以外は皆黙って見守るだけだったわね。


 キストハルト様の上のお立場である国王陛下も。

 その他同盟締結を見届けるために集まった重臣官僚たちも。


 私も。


 もう一人の当事者であるセリーヌ嬢も、途中少し口出しした程度ですぐに傍観者へと戻った。


 二人だけの世界。

 未来の支配者たちによる、臣民には踏み込めない領域って感じだったわ。


「話がまとまったところでもう一つ聞きたいのだが……」


 二人の会話はまだ続いていた。


「もし我が国がどうしても認めなかった場合はどうするつもりだった、お前とセリーヌ嬢との結婚を? もちろん腹案はあったのだろう?」

「その時は四の五の言わず、この国を滅ぼしてセリーヌをさらっていったまでのことだ。別にこの国が存続する必要性もなかろう。私の邪魔になるなら消え去ればいい」


 その言葉を傍で聞いて、多くの人たちが蒼褪めた。


 デスクローグ帝国の侵略国家としての本質。

 欲しいものは奪い去ればいい。

 自分たちがその標的になっていたと、すべてが終わってから知ったのだから。


「最初からそうしてもよかったが、私も愛する女性に誠意を見せたかったからな。それに祖国が残っていた方が、後々セリーヌの役に立つやもしれん。本当に何の価値もない小国だが、我が妃の生まれ故郷というたった一つの価値の下に生存を認めてやろうと、な」

「傲慢だな。さすがは野蛮な侵略国家だ」

「しかし今はもう一つの価値をこの国に見出している。お前が次なる国王となれば、私は楽しい隣人を持つことができそうだな」


 終わってみればキストハルト様とフリード皇太子は和気あいあいと話すようになっていた。

 なんか色々心が通じ合ったのかしら?


「父上」

「はいッ!?」


 キストハルト様から呼びかけられて国王陛下、やっと人の言葉を思い出す。


「そういうことですので、セリーヌ嬢の出国許可を正式にお願いいたします」

「ああ……いや、しかしセリーヌ・シュバリエスは国内でも屈指の魔法使いであり……!」

「それと彼女の将来とは何の関係もないでしょう? それとも父上は、帝国の要求を突っぱねて戦争に突入してもかまわないと?」

「ひッ!?」

「恋路を邪魔していいことなど一つもありませんよ。この際国を挙げて祝福してあげようではありませんか、ねえ?」


 もはやノリに乗っているキストハルト様。

 ついにはここにいる全員へ向けて高らかに声を張り上げる。


「愛し合う男女こそが、将来を共にすべきだ! 我ら王族貴族にはしがらみもあるが、それをもって愛ある二人を引き裂く理由にしてはならない! このオレとエルトリーデの仲がそうであるように、フリード皇太子とセリーヌ嬢の想いも、広い心で祝福してやるべきだ! そうは思わぬか!?」


 辺りに衝撃と沈黙が広がる。


「同意する者は拍手をもって応えよ! 祝福の拍手を!」


 するとまばらながらに鳴りだした拍手は、すぐさまボリュームを上げていき、ついには怒涛の響きで室内を覆い尽くした。


 私も思わず手を打ってしまった。

 見事な人心掌握。キストハルト様の王家の血筋を感じさせるわね。


「……ふふふ、抜け目のない御方」


 いつの間にかセリーヌ嬢が私の隣に立っていて、同じように手を叩いている。


「今、どさくさに紛れてご自分とアナタの仲まで認めさせましたわよ。私あの方とはご縁がありませんでしたけれど、ああいう目端の利くところは好感が持てますわね」

「セリーヌ様……」


 結局この件、すべて彼女の思い通りに事が運んだってことね。


 隣国の皇太子と想い合い、添い遂げるために恋人を国賓として招き、ついには本国に結婚を認めさせた。


 思えば、私に国賓招待の協力を求めたのも、この魂胆があって。

 私はセリーヌ嬢が王太子妃となることを後押ししたかったのに、それをチラつかせてまったく逆の結果になるよう協力させたんだから大した人だわ。


 まさに未来の皇妃に相応しいわね。


「私、結局アナタには勝てないのかもしれませんわね」


 前世でも、今世でも。

 本気で王太子妃を目指したあの時は、彼女を排除しようとして逆に罪を暴かれた。

 今回も彼女の目的のためにまんまと利用されたし……。


「たしかに、今回のアナタは精彩を欠いていましたわね」


 セリーヌ嬢が、視線を両王子から外さぬまま言う。

 群衆の中心では、キストハルト様とフリード皇太子が飽きもせずに握手し合って仲よしぶりをアピールしている。


「状況に流されるばかりで、能動的な行動というものがありませんでした。だから私にも利用されるし、キストハルト殿下にも出し抜かれるのです。おかしいですね、私の見立てではアナタはそんなにつまらない女ではなかったはずですが」

「何を……」

「アデリーナ嬢の時も、ファンソワーズ嬢の時も、アナタの判断と行動は賞賛すべきものでしたわ。アナタならば、私が去ったあとのスピリナル王国の女社会を任せるに安心だと思っていたのですが……」


 何を好き勝手なことを言いだすのよ、この女は!?


 私が流れに身を任せていたのは、それが最善だと判断したからよ。

 それをアナタやキストハルト様が滅茶苦茶に掻き回すから……。


 私の悔しさも知らずにセリーヌ嬢は滔々と語り続ける。


「何故今回に限って、アナタが主導権を握れなかったのか? 周囲に流され続けて結局最後まで出し抜かれ続けたのか? それはアナタに迷いがあったからですわ」


 迷い……。

 ですって……?


「アナタにも心の中で、真に願い続けることがあったはず。しかしアナタはそれから目を逸らした、目を逸らして蓋をした」

「真の願いって……何だって言うのよ?」

「知りませんわ。アナタの願いなんだからアナタが一番ご存じでしょう? とにかく目を逸らしても心は望み続けているわけだから、すべてがちぐはぐになってまともな行動など起こせるはずがない。遅れを取り続けて皆から取り残されるわけです」


 それが迷いだって言うの?

 迷い続けて今回一歩も動けなかった。状況の変化に流されるしかなかった。


「さっさと受け入れることをお勧めしますわよ。私だって他国の皇太子に見初められて葛藤がなかったわけじゃありません。でも結局は受け入れました。あの人のことを心から愛してるって。そうすれば何だってできますわ。腹を括ってしまえるのですから」

「そうして私やキストハルト様を動かして、フリード皇太子との結婚をもぎ取ったと?」

「ここだけの話、達成感が凄まじいですわよ? 自分の心に従うというのは気持ちいいことですわね」


 そんなこと知っているわ。

 前世での私こそ心に従い、あらゆる他人を犠牲にしてでも自分の望みを叶えようとしたのだから。


 その結果得た者は激しい後悔、自分への絶望。


 心に従うことで喜びを得られるのは、清い心を持つ者だけなのよ。


「アナタが迷いを払えると祈っておりますわ。私も未来のデスクローグ皇妃として、賢明なスピリナル王妃と良好な関係を築いていきたいですからね」


 勝手なことばかり言うんじゃないわよ。

 この人だけは、何度時間が撒き戻っても苦手意識を払うことができないんだろうなと思えた。



 そこからはフリード皇太子とセリーヌ嬢の結婚について話が集中し、私は捨て置かれることとなった。


 今やあの二人が時の人ですからね。


 キストハルト様は率先してホスト役に回り、皇太子と自国令嬢の国際結婚に関する法整備に努めるとのこと。

 肝心の国王が、衝撃自体に放心してるらしいから仕方ないわよね。


『これが終わったら次はオレたちだからね』と去り際に言われたのが恐ろしかったけど。


 もー今回踏んだり蹴ったりだったわ。

 心もゲッソリしているし、してやられた感も凄いし敗北感も大きい。


 もうこんなクサクサした気分で過ごしていられるか。こういう時はふて寝に限ると上屋敷に戻ったら、そこには来客が待ちかまえていた。


「お嬢、ご無沙汰しておりやす」

「ガトウじゃないの」


 王都のゴロツキたちの元締め、ガトウ。


 私が王都や王城で活動するにあたり、情報収集などのサポートをしてもらうために雇い入れたアウトローよ。

 その能力は信頼に足るもので、既に何度か助けてもらっている。


 ここ最近は王宮での騒動が騒がしくて会えていなかったのよね。

 しばらく放置していた分の給金の催促かしら?


「やだなあお嬢、オレらの方から姿を現す時はいつだって、お嬢のお役に立つためですよ」

「ゴロツキが従順ぶったってロクなことはないわよ」


 王城でやさぐれてしまったせいで自然刺々しくなってしまう。


 しかしガトウが告げてきた情報は、私の心境すらもいっぺんに吹き飛ばしてしまうものだった。


「辺境伯令嬢セリーヌを、暗殺しようという動きがあります」


 またしても、前世での私の悪行が繰り返されようとしている。

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