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36 死に戻り令嬢、行動方針を決める

 ちょっと情報を整理してみましょう。

 色々、予想だにしない事態が起こりすぎて混乱しているからね。


 幸いまだ怪我は治らず、ベッドから起き上がれないで思考する時間は充分にあるわ。

 いや、それを幸いと呼んでいいのかどうか……。


 まず、何より重要なのは意識不明の間に見た夢のことね。

 確実にただの夢ではなかったけれど。


 あれは、私の無意識下で精霊が私に交信してきたものなんでしょう。

 人に魔法を与えたモノとされる精霊。


 しかも、世には知られていない六番目の属性を統べる闇の精霊。


 聞くところでは闇の精霊はすべての精霊の頂点に立つ者……精霊王といっても過言ではない位置にいるとか。


 その精霊の長が、人に魔法を扱う資格があるか……それを問うための試練として生み落とされたのが私。


 長年……それこそ前世から私は魔法を使えない女だと思っていたけれど、どうやら違うらしい。

 私には唯一『闇の魔法』を使うことができる。

 精霊の中で最高の存在であるという闇の精霊に加護された私には、他の精霊たちも遠慮するのだろうかしら?

 だから他の属性魔法を使うことはできない。


 一般的な魔法使いなら得意属性こそあれ、他の属性魔法も不得意なりに最低限は扱えるのに。


 そして使用に特殊な条件を持つ闇魔法は、ついに最近まで扱われることもなく、よって私は魔法の使えない『魔力なし』の烙印を押されてきた。


 闇魔法が使えるようになる条件は……光の御子から愛されること。


 闇は光があって初めてその存在を定義される。

 光なくして闇はない。


 そして私は……きっと愛されているんでしょうね、光の御子に。

 その名はキストハルト王太子殿下。


 光魔法を使う、この国でもっとも輝かしい貴公子。

 扱う魔法の属性以前に、あの御方の存在自体が光だわ。


「……あの方にプロポーズされたのよね、私」


 負傷による意識不明から目覚めた直後、あの御方はたしかに私へ愛を告げた。

 妃になれ、と。


 一時の気の迷いかと思ったが、この病床にも伝わってくる噂話で、王太子がもう王太子妃選びを終了すると宣言しているなんてことが喧しい。


 本気で私を選ぼうというの……?


 そう思うと頬が熱くなるのを止められなかった。


 どういうことなの? 私はもうとっくに希望を捨てたはずなのに。


 それはかつて身も焦がすほどに激しく希ったこと。

 王太子から選ばれ、王太子妃の地位に就けば『魔力なし』の自分でも認められるって。


 だから前世での私はどんな手を使ってでも王太子妃になろうとした。

 騙し、陥れ……卑劣な手段のすべてを総動員して。


 その因果応報ということで最後は罪を暴かれて処刑されたのだけれど。


 あの時の反省をもとに、もう過ぎたことは望まぬようにしようと誓った。

『魔力なし』の私に、王太子妃の地位も輝かしい御方からの愛情も相応しくない。

 身の丈に合った慎ましい立場から、この世界この社会、様々な人の助けになることで前世の罪を償おうと思っていた。


 それなのに今になって、すべてが手に入ろうなんて……。


 王太子妃の座も、王太子からの愛も、魔法も。


「本当に今さらね……!」


 思わず声に出てしまった。


 望めばすべて得られるというの。

 あの日望んだすべてのものが。


 でも私は今、望まないことを望んでいる。

 自分に罪があり、そして卑小なものであることを知った今、身に余るものを手に入れたいとは思わない。


 でも……。

 闇の精霊に言われたもう一つの言葉を思い出す。


 これは試練であると。


 魔法を手に入れ傲慢になった人間が、なおも魔法を使い続ける資格があるかどうかを闇のいとし子をもって試す。

 表向き、魔法の使えない能無し女を、最高の地位に就く光の王子の下へ迎えられるか。

 すべての国民が認められるかどうかで人のうちにある謙虚さを見極める。


 人の謙虚さが精霊のお眼鏡に適わないなら、容赦なく魔法を取り上げられる。


 魔法は、スピリナル王国のみに与えられた特別な力。

 力を失った獣は、食らい尽くされるのみ。

 それを証明するのは夢で見せられたあのヴィジョン。


 戦火に蹂躙され、皆殺しにされた王族。

 あれを今世で繰り返すことだけはしない。

 絶対に。


 あの景色を現実としないために私がすべきことは何か?

 もっとも簡単なのは、キストハルト殿下の求愛を受けて王太子妃になることね。


 それで人間は精霊からの試練をクリアしたことになり、これからも引き続き魔法を使えるようになるんだから。


 でも。

 私自身はそれを受け入れられない。

 王太子妃の席は私には荷が勝ちすぎる。

 資格がないと言えばその通り。

 一度不合格の判断を下された私は未来永劫その椅子に座ってはならない。たとえ何度生まれ変わろうとも。


 しかしそうなると精霊からの試練を果たせないという問題にブチ当たるのよね。

 あちらを立てればこちらが立たず。


 試練を乗り越えなければこの国の人々は魔法を失い、滅亡のヴィジョンは現実のものとなる。

 それだけは絶対に避けないと。


 私は前世で充分に罪を重ねすぎた。

 今世では逆に徳を積まないと天国に行けなくなってしまうわ。


「結婚はできない……でも滅亡は嫌……」


 両立させる方法はないものかしら?


 ……そうだわ。

 キストハルト殿下はこの国の統治を、魔法に頼らない路線へとシフトしようとしている。

 それが叶えば、たとえ魔法を失っても他国の侵攻にも倒れない強国にできるのでは?


「キストハルト殿下の政策を支援できれば、この国は生き残れるわ……」


 魔法がなくても存続できる国。

 本来それこそが正当なのよ。


 スピリナル王国をあるべき形に戻すため、この地に住む多くの人々を戦火に巻き込まないために王太子の考えを後押しする!

 それが必要なことだわ!


「具体的には……!」


 そう、彼に理想的なパートナーを添わせること。


 いまだキストハルト殿下の妃は未決のまま、王太子妃選びも宙に浮いている。

 ここで魔法に盲従的ではない、開けた考えを持った女性を娶せることができれば、キストハルト様の治世に大きな助けとなるはずだわ。


 問題は、そんな開明的な考えを持った王太子妃候補がほとんどいないってことだけど……!


 なにせスピリナル王国はいまだに保守的な魔法国家だから。

 政治の中枢から魔法を取り除こうなんて、聖地で無神論を唱えるようなものでしょうね。


 いるかしら?

 魔法に傾倒しすぎず、他様々な広い知識を持ち、反対勢力にも負けない心の強さをもって最後までキストハルト様に尽くせる女性は……。


『……ねーちゃんじゃね?』


 何よ?


 まだ部屋にいたグレムリンたちが、私に胡乱な視線を向けている。

 アナタたちまだ森に帰らないの?


『さっきからブツブツ言ってっけどさー』

『今言った条件に当てはまるナオンがいまーす、誰でしょー!?』

『デーデン! そこのねーちゃん!』


 私!?

 だからそれじゃ意味ないって言ってるでしょうが!

 愚にもつかないこと言ってないで遊ぶことしかしないなら森に帰れ!


『観念して結婚したらー?』

『その方が精霊様も喜ぶってー?』


 煩いわね。

 いるわよ他に、もっと王太子妃に相応しい人物が……。


 ……。

 そう、かねてからの評判で本命と噂される王太子妃候補が、まだ残っているじゃない。


 その中の一人。

 本命中の本命がいるわ。

 その名は……。


 辺境伯令嬢セリーヌ・シュバリエス。


 国土の外れ……隣国と境界の接する部分を領地とする辺境伯。

 その辺境伯を父と持つのがセリーヌ嬢。


 田舎領主などとバカにはできない。

 隣国と接しているからには、戦争が起こった時真っ先に攻め込まれるのは国境からであり、侵攻を食い止めるためにも強力な防ぎがないといけない。


 そのため辺境伯の地位は侯爵あるいは侯爵に匹敵するほど高い。


 地位においては本命候補の中で、辺境伯令嬢であるセリーヌ様こそが最高でしょうね。

 加えて国境沿いに領地を持つがゆえに国内外の文化の流れも活発で、それを考えれば魔法に囚われない考え方も身に着いているはず。


 その上、魔力もトップクラスとなればすべてを兼ね備えた理想の花嫁。


 本命候補の一人と言っても、実際には彼女が本命中の本命、大本命でしょうね。


 前世でも、だからこそ私は彼女を最も警戒した。


 セリーヌ辺境伯令嬢こそ王太子妃になるための最大の障害と思って、何が何でも排除しようとした。

 無理をして暗殺計画を立て、それが元でキストハルト殿下に尻尾を掴まれ処刑台まで追いやられた。


 いわば私の前世の終焉。


 皮肉なものね。

 前世で絶望のゴールであった存在に、今世では希望を見出すなんて。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今言った条件に当てはまるナオンがいまーす ナオンって??
[良い点] 行動力があって肉弾戦もできるヒロインが良かった あとツンツンのフランソワーズ嬢がかわいい [気になる点] 論理矛盾が多いような。 例えば王家の婚姻なんて王族同士で行うのが普通なので貴賤結婚…
[気になる点] うーん、思考プロセスにちょっと無理がありますかね~。 感情移入しづらくなってしまいますわ・・・
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