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13 死に戻り令嬢、正面突破を指示する

 始まった。

 もう後には引けないわ。


 王太子に直訴した以上はもうなかったことにはできない、突き進むしかないわ。


 この場に至る前に私が授けた策はたった一つ。

 そしてごく単純なもの。


 王太子であるキストハルト様への正面突破。

 二人が結ばれるには多分これしかないわ。


 ただでさえ伝統に縛られなければいけない貴族。さらには権力者の言葉には絶対従わなければいけない。


 だからこそアデリーナ嬢も父親の前のめりな期待に逆らえないし、そして曲がりなりにも王太子妃候補に挙がったことで抜き差しならなくなっている。

 最高の権力者……王族が話に関わってきたのだから。


 ならばそこを逆手にとって、王族に話をつけさえすればすべてがすんなり片付くかもしれないわ。


 王太子キストハルト殿下に洗いざらいブチまけ、情けを得ることができれば……あるいはこの場で二人が結ばれることが許されるかもしれない。


 アデリーナ嬢のお父上も、さすがに王族の決定には逆らえないわ。


 ――『しかしそうすんなりと許されるでしょうか?』。


 私の策を聞いた夜空の下、不安そうに聞いたのはアデリーナ嬢の恋人の方だった。


 ――『色恋沙汰ごときで王族を煩わせることすら下手をすれば不敬になります。まして王太子の妃探しの真っ最中に、その候補の一人を求めるなど……!!』


 そりゃ当然不安にもなるわよね。


 だから私は噛んで含めるように教え諭した。

 そんなタイミングだからこそ、アナタたちの深刻な気持ちが伝わりやすいと思うべきだわ。


 色恋沙汰なんて個人的な問題だからこそ、王太子に直訴できるチャンスも今夜しかない。


 ――『しかし肝心の王太子殿下が、我々を許してくれるかどうか……!?』

 ――『そうです! あの御方にとっては婚約者を目の前で掠め取られるようなものではないですか!』


 侯爵子息に加え、恋人のアデリーナ嬢も不安の声を上げた。


 でも大丈夫よ、所詮アナタだって王太子から見れば、数百人いる候補の一人にすぎない。

 アナタのお父上が期待しているほど王太子はアナタを特別視していないわ。


 その上で、アナタたちが自分の真剣さをどれだけ訴えられるかが勝負の分かれ目。


 私は、上手くいく自信があるわ。

 キストハルト王子は、あれで見た目通りに優秀な御方。家臣の痛切な願いに耳を傾ける度量を持っている。


 ――『そこまでわかりますの? 凄いですわ、私など今宵はじめてお目にかかって人となりなどまったく存じませんのに』


 私だってそうよ、今世では。

 そして前世ではあの御方の優秀さを嫌と言うほど思い知った。彼の賢さ、実行力によって彼の隣に座ろうという野望を完膚なきまでに叩き潰されたのだから。


 ――『でも万が一……王子様がお許しいただけなかったらどうするのです?』


 その不安ももっともだろう。

 でも大丈夫よ、万が一にもアナタたちは引き裂かれない。


 あの王太子が気紛れを起こしたとしても次善の策を用意してあるから。


 もしも、万が一が起こってあの王太子がアナタたちの懇願を拒否したら、アデリーナ嬢のことをそれぐらい惜しんでるってことになるでしょう。

 周囲もそう思うはず。

 その事実を目の当たりにし、嫉妬に狂ったある令嬢がアデリーナ嬢に襲い掛かる。


 夜会の晩餐だからナイフなりフォークなりがどこにでも、すぐ手の届く場所にあるわ。


 それでもって顔を切り裂かれたアデリーナ嬢は美貌を失い、どの道王太子妃候補ではいられなくなるのよ。


 その『嫉妬に狂った令嬢』というのは、私のこと。


 ――『えッ!?』

 ――『まさか!?』


 驚き戸惑う二人。

 本当に結ばれたいならそれぐらいの覚悟がいるということよ。


 アデリーナ嬢だって本当に彼のことを愛しているなら、顔に一つや二つの傷を負ってもへこたれないでしょう。

 相手の男性だって、まさか顔に傷ができたぐらいで愛情が失せてしまうことなんてありえないわよね?


 ――『それはもちろん……オレが愛しているのは彼女の内面……いやすべてですから!』

 ――『私たちの覚悟はもとよりですが……でもアナタは? 今言った計画では、私の顔に傷をつけるのはアナタなのですよね』


 そうね。

 今のところアナタたちの協力者は私以外にいないのだから。


 彼らの言いたいことはわかる。

 普通に刃傷沙汰だからねえ。

 しかも事件現場は王家主催の夜会。罪はますます重くなりそうね。


 ――『落ち着いて推測している場合ではありませんわ。そんなことをしたらアナタの評判は地に堕ちます! 貴族令嬢としては致命的です!』


 私のことを心配してくれるのね。

 でも問題ないわ。この『魔力なし』令嬢、元から社交界での評価は底辺だもの。

 これより下がりようがない。


 唯一不安に思うのは、私がやらかしをすることでお父様たちまで被害を被らないかってことね。

 それは事件をおこしたあと迅速に連絡を取って、親子の縁を切ってもらうしかない。


 それで国外追放にでもしてもらえば公爵家にまで累は及ばないでしょうね。

 そもそも私が身を立てようと思えば国外に出るしかないと思っていたから、私的には何の被害もないってこと。


 それよりも最後の手段とはいえ顔に傷を負うことになってしまうアデリーナ嬢の方が被害は大きい。

 結局私は、そんな方法でしか人を救えないのね……。


 でもまだそうと決まったわけじゃないわ。

 王太子が二人の想いを受け止めて、仲を認めてくだされば暴挙に出る必要もないんだから。

 彼の英邁さを信じましょう!


 前世では、頼まれなくてもその英邁さを見せつけて私を追い込んでくれた。

 今世では都合よく英邁になってくれてもいいでしょう。



 ……という話し合いの下、今まさに決行される王太子に直訴作戦。


 成否はそのまま王太子の判断にゆだねられる。

 頼むから素直に「うん」と頷いてほしいわ。


 それでも最悪の事態を想定し、私は上手いこと位置取りをしておく。

 テーブルの傍で……あった、ちょうどいい塩梅の食事用ナイフがあったわ。


 アデリーナ嬢との距離感もいい感じ。


 できれば人の顔をこの手で切り裂くなんてことしたくない。前世での罪を贖うためにまた罪を犯すなんて……皮肉ね。


 それを実行するかどうかも王太子の返答次第。


 今も雲上人らしい高邁な表情で、恋人たちの訴えに耳を傾ける。


「私はずっと以前からアデリーナ嬢に恋焦がれておりました。しかし三男という立場の弱さで踏み出せずにいました。そのせいで王太子妃選びが始まる今日まで何もできなかった」

「でも私たちはお互いを諦められないのです。王太子様に対し失礼であることはわかっています。でもお父様を納得させるには王太子様のお口添えが必要なのです!」


 揃って頭を下げる恋人たち。


 夜会はこの突発事によって困惑に包まれた。

 未来の王太子妃を選出する場であるはずが、大きく展開が歪もうとしている。戸惑うのも仕方ないわね。


 この混乱をどう治めるかも王太子……未来の国王の資質の問われどころよ。


 すんなり二人を許してさっさと丸く収めるのもよし。是非そうしてほしいわ。

 そんな私の期待に王太子様はどう応えるのか。


「キミたちの望みは、無条件で叶えられない」


 それが王太子の回答。

 それを聞いて心臓が凍る。


「キミたちの互いを愛する気持ちは伝わった。しかし王太子妃選びの会場で断りもなく、個人的な感情を王族に訴え出すのは礼儀に反すると言わざるを得ない」


 それもまた正論で、周囲の参列者もその考えになびく空気が生まれる。


 私たちにとっては悪い流れだわ。

 これはもう、最後の手段を発動するしかない?


 既に手に持っていたナイフに力がこもった、その瞬間……。


「貴族が礼を押し退け我を通そうとするなら。それに見合った決意と能力が必要だ。ベレトくん、キミもシレビトン侯爵家に連なる者なら与えられるだけの立場に甘んじるべきではない」

「と、言いますと……!?」

「奇しくもアデリーナ嬢は今、私の婚約者候補の一人となっている。二人の男が、一人のレディを巡って奪い合うなら、決着をつける方法は一つしかない」


 何これ? 予想してない流れだわ?

 王太子は何をしようとしているの?


「決闘だ。ベレトくん、キミとオレでアデリーナ嬢を巡って戦おうではないか。勝った者が麗しき美女を我が手にできるのだ」


 はぁッ!?

 何を言い出すのあの王子は!?


 優雅な夜会が、熾烈な決闘場に早変わり!?


「どうした怖気づいたのか? シレビトン侯爵家の三兄弟はいずれも一騎当千の強者と聞く。慕う女性のためにこそ、まさしくその力の振るいどころではないのかね?」

「わかりました」


 ええッ!? 彼も乗った!?

 男ってどうしてそうすぐにケンカしたがるの!?


「元々無礼は承知の上、私はどんなことがあろうとアデリーナと添い遂げたい。その障害となるのなら王太子殿下……お手向かいさせていただきます!」


 なんかそう言うことになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私はこれを期待していませんでした! 続きがどうなるのか気になります! (読み書きは翻訳機をご利用ください。わかりにくかったらすみません)
[良い点] 貴族の決闘ということは魔法合戦となるのか エスカレートを自重して剣技とかになるのか はたまた
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