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儚き王'sの想いかな  作者: 千園参
6/10

第6話 努力実らすは、己の努力ほど

「私ね、そろそろ行かないと・・・」

「そっか、今日はわざわざ来てくれてありがとな」

「ううん、私がお兄様に会いたかったの・・・」

「気を付けてな」

「うん・・・」

 嵐音は魔王城に大風を吹くかせて、飛び立っていった。飛び去っていった。

「魔王城で風を起こすなよ……」

 そんな、こんな、あんな、どんな、夜兎の気持ちは嵐音には届かない。




「これで今日の仕事は終わりかな?」

 お祓いの業務を終えた柳桜は、ふうと一息ついた。

「はい、お疲れ様でした」

「巫女の仕事も楽じゃないね」

「しかし、どうして花の王は代々、巫女業を担っているのですか?」

「気になる?」

「はい」

「私も気になる」

「ということは、つまり柳桜様も存じ上げないということですか?」

「うん」

「…………」

 七子は無言でメガネをクイと上げる。

「でも、実際、他の王様たちはどれくらい自分の役割をわかっているのかな? 案外、デモ行進している人たちが言うように、王様って必要ないのかもしれないね」

 悲観するわけでもなく、卑下するわけでもなく、ただ、ただただ、純粋に、素直に、柳桜は微笑んでいる。

「私は………!!」

 と、七子はそこまで言って口を固く、硬く、堅く、閉ざした。

「私は、何?」

「いえ、なんでもありません」

「ふふっ、それじゃあ、帰りましょうか」

「はい。私は柳桜様には、、ずっと花の王でいて欲しい……」

 七子のそんな呟きは、気持ちは、柳桜には届かない。



 2人が花の都に帰ってくると、お屋敷前に人影を見た。見つけた。見かけた。見受けた。見据えた。

「あなたは?」

「見つけた」

 こちらが見つけたと思いきや、どうやら見つけられてしまったのは逆で、逆に、反対に、真逆に、柳桜の方だったようだ。

 男がその一言を発したその瞬間、この瞬間、あの瞬間、どの瞬間、何とも言い難い、形容し難い、寒気を柳桜は覚えた。

「貴方は何者ですか?」

「俺? 俺は誰でもいいよ」

「?」

「無礼者、この方がどなたかわかってのことか!」

 七子が男に問う。

「もちろん知っているさ、花の王」

「貴様、花の王と知っての非礼か! 許さん!」

「七子ちゃん、待って!」

 激怒する七子を制止する柳桜。

「貴方の目的は何?」

「花の王、貴方様の命」

「どうして私の命を狙うの? そしてもう一度訊くわ、貴方は誰?」

「人核の党、、って言えばわかるか?」

「人核の党。まだ残党が残っていたなんてね」

「俺たちは死なない! お前たち王が1人残らず死ぬまで、消し炭になるまで、消し飛ぶまで、滅びるまで、滅び去るまで、消え去るまで、俺たちは何度でも立ち上がる!!! 俺たちこそが人類を導く正義だ!!!!!」

 そう語る怪しげな、いかにも怪しげな、明らかに怪しげな、あからさまに怪しげな、怪しさしかない、怪しさ以外何もない、怪しさの塊のような、怪しさの集合体のような、怪しいこの男の言う、人核の党とは何か。


 遡ること魔王誕生よりも2年前のこと---

 まだ魔王という明確な悪が存在しなかった世界において、怒りの矛先が王たちに向かうことがあった。

 それが形を成し、群れを成し、王はこの世界に不要だという信念のもとに、《人核の党》が創立されることとなった。

 しかし、だがしかし、王を不要だと考える者たちと人核の党は王たちの中では差別化されており、王たちの間で人核の党は過激派組織として名を通していた。

 過激派と呼ばれるのもそのはずで、このはずで、あのはずで、どのはずで、人核の党は今、柳桜の目の前にいる男と同じように、思い立ったが吉日精神であり、それがいかなる非常識であろうとも、それがいかなる非礼であろうとも、それがいかなる犯罪行為であろうとも、行動に移してきたのだ。

 人核の党による被害を被った王も少なくない。

 これらを踏まえ、それらを踏まえ、あれらを踏まえ、どれらを踏まえ、王たちは決断する。

「危険分子は排除せねばなるまい。被害が我らだけなら構うまい。しかし、奴らは一般市民諸共、我らを抹殺しようとしている。このままでは我らに巻き込まれた一般市民にも多くの被害が出る可能性がある。そうなる前に」

 と。

 この世界に存在する全ての、無数の王がとてつもなく長い超長方形のテーブルに、一堂に会し行う王の会議キングテーブルにおいて可決され、人核の党は王たちの手で壊滅したのだった。



「やられたらやり返すのが、人間のサガだ! だから、今度は俺がお前を犯す!!」

「………」

 男は柳桜と七子の顔を確認しつつ、ポケットからナイフのような物を取り出した。

 そうして、こうして、どうして、ああして、ナイフのような物を勢いよく右手で振りかぶると、ナイフは蛇腹のようにその頭身を伸ばし、生き物のような奇怪な動きで柳桜に向かってくる。

「七子ちゃん、危ないから私の後ろにいてね」

「ですが、」

「大丈夫だから」

 ナイフが柳桜へと向けられたその一瞬、七子にそう声をかけ、ナイフが直撃するかの刹那にしても、柳桜は避ける素振りを見せなかった。躱す素振りを見せなかった。

 彼女がそうしなかったのは、そうする必要がなかったから、避ける必要がなかったから、躱す必要がなかったから、彼女はそうしなかった。彼女は避けなかった。彼女は躱さなかった。

 避けるよりも先に、躱すよりも先に、彼女のまわりに展開された花吹雪が、ナイフの刀身を弾き飛ばしたからだ。

「チッ!」

「どうしたの? さっきまでの余裕はなくなった?」

「クソアマが、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

 再び男がナイフを振るおうとする。

 だが、今度は振るわせない。

 柳桜は男がナイフを振るうよりも速く、花吹雪で男の身体を切り刻んだ。

 男はその場に、この場に、あの場に、どの場に、倒れ込む。

「くそ………」

「七子ちゃん、警察を呼んで」

「わ、わかりました!」

 七子は慌ててスマートフォンで警察に電話をかける。

 その(かん)に、この(あいだ)に、どの()に、柳桜は男に尋ねた。

「貴方たちの親玉は誰? どこにいるの?」

「俺が教えると思うか? 教えるくらいなら、死を選ぶね」

 男はポケットから手榴弾を取り出し、躊躇することなく栓を抜いた。

「七子ちゃん!! 危ない!!!」

「えっ……」

 辺り一帯が、一面が、爆音と爆風と爆裂に飲み込まれた。

「努力実らすは、己の努力ほど」

サッカー、かの有名なメッシ選手もこう言ったとされています。

「努力すれば報われる? そうじゃないだろ、報われるまで努力するんだ」

しかし、だがしかし、努力は目に見えない。目に見えてわかりやすく結果を表してはくれない。

故に誰かと競うことで人は己の努力を証明し続けてきた。

受験、仕事、出世、スポーツ、芸術、その他諸々と。

当然、努力の程度は人によって違う。

努力しない人が受験のために努力をしたならば、珍しく努力をした、となるかもしれない。

また努力に慣れている人ならば、まだまだ、まだまだまだまだ、と、己を限界まで引き出そうとするかもしれない。

ただ勝負は必ずしも努力に力を貸さないのが、運命の悪戯。

勝負は時の運という言葉があるように、努力した人でも何か別の要因で負けてしまうことも容易にある。

だから、なので、人はこう思う。

努力なんて無駄、努力は程々であとは運、努力したって結局は運、あとは運次第、最初から才能が違う、センスなかった、初めから無理だった、ついてなかった、と。

では、運を味方にする努力をしたことはあるだろうか?

神様すらも勝たせてあげたい、味方してあげたい、そう思わせる努力こそ本当の努力なのか?????

いや、違うな。

努力とは言葉で説明できるほど安いものではない。

だからこそ、努力は人々において永遠の課題なのだ。

私は「努力する」ということが、人生で一番難しいと思う。

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