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儚き王'sの想いかな  作者: 千園参
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第5話 他者認めずは自者認め得ず

 太陽が昇り、世界が橙色に染まると、街は目を覚ます。

 朝が来たと目を覚ます。

「ちょっと飲み過ぎちゃったかな」

 そう言って目を覚ましたのは柳桜だった。

 大きな屋敷の中を彷徨い、一階の洗面所で顔を洗って食堂へと足を運ぶ。

 すると、

「おはようございます」

 と、七子が朝御飯の準備をして待ち構えていた。

「七子ちゃん、いつもありがとうね。感謝しても仕切れないよ。ていうか、しんどくないの? 七子ちゃんもそれなりに飲んでたよね?」

「はい、多少の気怠さはありますが、問題ありません」

「そっか、無理しないでね」

「お心遣い感謝致します」

 そう言って出来上がった料理を柳桜の前に並べる。

 並べられた目玉焼きとベーコン、サラダに豆腐、味噌汁に白ご飯と、意外にも和食派な花の王であった。

「今日は確か、巫女の仕事が入ってたよね?」

「はい」

「だよね」

 花の王は魔王が悪意を一手に引き受けるよりも前から、巫女として魔払いやお清めを行って、人々の悪き心が広まらぬよう努めてきた。

 しかし、だがしかし、そんな、こんな、あんな、どんな、花の王の献身的な巫女業をしても、抑えることのできなかった2年前の魔族暴走は、やはり魔王の尽力なくしてその鎮静化は成せなかったと言えるだろう。



 引き続き夜兎が暇を暇していると、魔王城に風が、突風が、竜巻が、旋風が、暴風が、吹き荒れた。吹き乱れた。吹き散らした。

「おい、部屋の中で風を起こすなよ、嵐音(らんね)

「ご、ごめんなさい、お兄様・・・」

 気弱で小柄で陰気な雰囲気を醸し出しているのは、夜兎の妹の嵐音であった。

 嵐音が風を纏っているのは、何を隠そう彼女もまた王だからに他ならない。

「まだ上手く風を操れなくて・・・」

「いや、そんなに暗くなるなよ。ただでさえ暗い魔王城が取り返しのつかないくらい暗くなるだろ」

「ごめんなさいごめんなさい・・・」

「だから、謝るなよ……」

「うん・・・」

「それでお前は何しに来たんだ?」

「お兄様に会いたくて・・・。ダメだったかな・・・? やっぱり嵐音なんかが来ても喜ばないよね・・・? 邪魔だよね・・・? 帰るね・・・」

「いやいやいや、何勝手に自分で答え導き出して帰ろうとしてんだよ。待てよ」

「え、いていいの・・・?」

「当たり前だろ、お前はオレの妹なんだからさ。ちょっと待ってろよ、おもてなし用のなんかがどっかにあるはずだからさ」

 夜兎はどこだったかな? と、魔王城の中を捜索する。

 捜索すること数分---

「紅茶とコーヒー、引っ越し祝いにもらったのがあった。どっちがいい? あと、チョコレートもあるぞ」

「じゃあ、紅茶がいい・・・」

「わかった、すぐに入れてきてやるからな」

 夜兎と嵐音は血の繋がりのある兄妹ではない。

 嵐音は夜兎が孤独に耐えかねて、自分の力の一部を分け与えることで生み出した新米の王。

 なので、それなので、これなので、あれなので、どれなので、嵐音はまだ力を使いこなせないのであった。

「ほら、紅茶入ったぞ」

「ありがとう・・・。お兄様、大好きだよ・・・」

「オレもさ、お前はオレの自慢の妹だよ」

「んふふ・・・」

 嵐音は嬉しそうに紅茶を口に含んだ。紅茶を飲んだ。

「お兄様、魔王は慣れた?」

「全然慣れないなー。魔王たっても、ただの暇人だしなー。暇王だな、魔王だけに」

「・・・」

「………」

 2人はチョコレートを齧った。

「そういやあ、勇者連合会とかって奴らがオレの命を狙ってるらしいって話を昨日、楽維から聞いたんだった」

「そうなの・・・?」

「ああ、嘘か本当か知らんがな。でも、用心しておくことに越したことはないしさ、お前はオレのたった1人の妹だから、魔王の妹として狙われるかもしれないから気をつけろよ?」

「お兄様の命を狙う不届者は私が壊滅させるよ・・・?」

「やめろやめろ、そういう怖いことはやめろ」

「でも、お兄様・・・」

「頼むからやめてくれ」

「うん、わかったよ・・・」

 嵐音は渋々、了承した素振りを、身振りを、手振りを、見せた。

「しっかし、本当に厄介だな、魔王ってのも。魔王になってから良いことないぞお」

「やっぱり今からでも辞退した方がいいんじゃ・・・」

「いや、辞退はできない。皆が平和に暮らすためにも、魔王はこの世界に必要なんだ、多分」

「多分・・・」

「多分………」

 言葉を濁しながら、お茶を濁しながら、夜兎は魔王になった日のことを思い出していた。




 2年前---

「こんなことになって本当にすまない」

 青い髪の女性が夜兎に誠心誠意を込めて謝罪する。

「いいっていいって、オレにしかできないことなんだろ? だったら、引き受けるさ」

「だが、本当にいいのか? 魔王になるということはいつかお前は………」

「人から疎まれる存在になるって言うんだろ?」

「そうだ、お前ほど人を愛している王はいない。そんなお前が人から疎まれるなんて、私は見ていられない。今からでも遅くはない、魔王になるのを取り下げるべきだ」

「おいおい、それが人を導く神様の発言かよ? 神様は一個人に肩入れしちゃダメなんだろ? 神様、アンタが言うようにオレはこの世界と、そこに住まう人が好きだ。だから、どういう形であれオレは皆の力になってあげたいんだ。今のオレにはそれができる。だったら、やる以外の答えが見つからないよ」

「夜兎……。お前は優し過ぎる。いつかその優しさがお前を苦しめないことを私は切に願うよ」

「へへっ。んじゃあ、ちょっくら魔王になってくるよ」

「幸運を祈る」

「おう」

 このコーヒーと紅茶、チョコレートはその神様からもらった物であった。

「他者認めずは自者認め得ず」

これはかなりシンプル。

人のことを認めることができない器の小さい者は、結局、自分自身も誰も認めてくれてはいない。

他者を認めるからこそ、自分を前に進めることができる。

認めなければ、人は認めてはくれない。

ギブアンドテイクなのである。

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