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儚き王'sの想いかな  作者: 千園参
3/10

第3話 井の中の蛙、大海を知る術がない

 お風呂を終えた2人は身支度を整える。

「ふうー、いいお湯だったね」

「…………」

「もー、機嫌直して。ねっ?」

「もう二度とこのようなことはしませんか?」

「それは約束できぬな」

「………!!!」

「ごめんごめん、冗談だから!」

 ドライヤーで髪を乾かしながら、ドライヤーの風に髪を靡かせながら、柳桜は七子のご機嫌取りに必死になっていた。



「さて、お洒落もしたし、そろそろ行こっか」

「はい」

 お洒落をした柳桜と、先ほどと、さっきまでと、なんら変わらない、何も変わらない、どこも変わらない、何一つ変わらない、スーツ姿の七子の姿がそこにはあった。

 予め予約しておいたレストランに入る。

「お待ちしておりました」

 身なりのかなり整えられた、清潔感のある制服店員が、この場合はウェイトレスと言った方が雰囲気があるかもしれない。

 ウェイトレスがお待ちしてくれていた。

「恋莉ちゃんで予約入ってるのかな?」

「はい、恋莉様でご予約頂いております」

「あと、多分、予約は2人で入ってたと思うんだけど、1人追加でも大丈夫かな?」

「問題ありませんよ」

 ウェイトレスは誰かに確認することもなく、笑顔で即答する。

「よかった、ありがとう」

「いえ、それではお席へご案内させていただきます」

 ご案内された個室席には既に恋莉の姿があった。

 彼女の印象は柳桜と同じように可愛らしい見た目の中にどこか悪戯っ子ぽさを感じさせる。

「おっすー! 柳桜、元気にしてた?」

「恋莉ちゃん! 久しぶりー! いつ以来だっけ?」

 あまりにも人間らしい会話に、あまりにも人間味ある会話に、七子はこの人達は本当にこの世界を維持する王なのだろうかと、拍子抜けしてしまう。

「あれだよ、あれあれ、あれなんだっけ? 四王女子会の時以来じゃない?」

「ああー、あったね、そんなことも」

冬仙(とうせん)が店員にブチギレたのが懐かしいわ」

「あはは、あれは私も驚いたよ」

「だよな。柳桜、ドン引きしてたもんな」

「そんなに引いてないと思うんだけどなぁ」

 恋莉は男勝りな口調で話を次から次へと休む暇もなく展開していく。

 話がひと段落しそうというところで、恋莉と七子の目が合う。

「おっ、七子も久しぶりだな! 元気にしてたか?」

「ご無沙汰しております。はい、おかげさまで」

「そっかそっか、そりゃあいいことだな。まぁ飲みもんでも頼もうぜ。悪いけど、私は先に飲ませてもらってんだよね」

「そうみたいだね」

 既にカラになりかけているビールジャッキに柳桜は目を向けた。目をやった。

「私はじゃあ、、、」

 柳桜が注文をしようとすると、

「ビールだろ? ビールだよな!?」

 恋莉が横槍を入れてきた。

「ええ……私、ビールはあんまり得意じゃないんだけどなあ……」

「飲み会と言ったらビールだろ! なぁ七子!」

「はい」

 七子は意外にも恋莉の言うことに忠実であった。

 というよりも、恋莉を怒らせるとどうなるかわかったものではないため、上手く合わせているというのが、その実のようだ。

「もー、七子ちゃんまで……。わかった、ビールね」

 呆れたように柳桜も、恋莉に合わせている七子も、中ジョッキをカラにした恋莉も、ビールを注文するのだった。




「んで? どうなのよ、最近」

「えー、何が?」

「何がじゃねぇよ、トボけんなよ。夜兎だよ夜兎! 夜兎とは上手くいってんのかよ!?」

「あー、うーん、ちょっと微妙かな?」

「なんだよ、つまんねぇなぁ! 早くくっついちまえよ!」

「も、もうやめてよー」

 キャラになくモジモジとする柳桜。

 そこにグイグイと土足で踏み込んでいく恋莉。

 あまり酒が強くない七子。

 3人の姿がそこにはあった。ここにはあった。どこにはあった。

「何言ってんだよ、早く告って付き合っちまわねぇと、取られちまうかもしんねぇぞ?」

「うーん」

「まぁそれはねぇか」

 自分の言葉をすぐさま自分の言葉で否定した。

「前は良かったんだけど、なんで魔王なんかになっちまったかねぇ」

「うーん、きっと夜兎には夜兎の考えがあるんだよ」

「考えって、あんな間抜けヅラの男に考えなんてあるのかよ?」

「あるんだよ絶対に」

 柳桜は夜兎を信じて疑わない。

「おうおう、さすが正妻は違うねぇ」

 と、恋莉が茶化すとガタンッと、カタンッと、ガシャンッと、カシャンッと、七子は物音を立てた。

 物音を受けて柳桜はすぐに七子の心情を、心理状態を察した。

「ごめん、今、七子ちゃんには夜兎の話は禁句なんだよね……」

 ヒソヒソと、イソイソと、ゴソゴソと、コソコソと、ヨソヨソと、恋莉に耳打ちで伝える。

「え、なにそれ、超面白いじゃねぇかよ」

「面白くないよ!」

「なに? もしかして、花の王とその従者で夜兎を取り合ってるとか!?」

「そんなわけないでしょっ!?」

「んだよ、つまんねーな。もっと恋愛要素をよこせよ」

 チンピラかよと。



「もー、私の話はいいのっ。それより恋莉はどうなの?」

「どうなのって何がだよ?」

「今度は私が返そう、トボけんなよと」

「んだよ!?」

「狙ってるんでしょ? 学の王のこと」

「おまっ!? その話はやめろぉおおお!!」

 こうして、そうして、ああして、どうして、女の子たちの夜は更けていくのだった。

「井の中の蛙、大海を知る術がない」

本当は《井の中の蛙、大海を知らず。されど空の深さを知る》と続きますが、よく《井の中の蛙、大海を知らず》で区切って悪口に使う人がいますよね?

仮にその意味に合わせるとするならば、そもそもあんなにも深い井戸の中から蛙の力で大海を探しにいくのが、かなり困難。

郷に入れば郷に従えというように、井の中の郷があったはず。

それもなかなか蔑ろにできないよね?

多分、田舎から上京してミュージシャンや芸能人になるくらい勇気いる。

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