インフェルノ①
ある日、事件が起きた。椿が転校してきたのも事件だが、それ故に起きてしまった事件ともいえる。
「甘いものは譲れません」
「勝負で決めるしかないでしょ」
事件はその日の朝に遡る。
登校している途中に偶然椿とあって一緒に登校していた。椿は塀の上にいる親子の猫を見やると、ふと思い出したように言った。
「そう言えばさ、もう一人年下の子もこの学校に通ってるんでしょ? 僕まだ会ってないんだけど、どうしたの?」
「ヒマワリのことか、あいつの父ちゃんがアメリカで仕事してんだよ。それで父ちゃんが時間が取れるのが今のタイミングくらいしかなくて、お前が引っ越してくる2、3日前に会いにいってんだってよ」
「へー、じゃあ帰国子女だね」
「お前の帰国子女のハードル低くね?」
「その帰国子女から昨日の夜連絡がありましたよ」
俺と椿の間に割って入ってきたのはユズだった。手にもっているスマホの画面はラインのトークが開かれている。ユズのアイコンはフクロウで、ヒマワリはそのまま花のヒマワリをアイコンにしている。
「なんか、お土産だけ先に学校に送ったそうです。今日の昼くらいまでには届くらしいですよ。甘い物だと嬉しいですね」
「お前がそう言うだろうから多分甘い物だと思うぞ。ユキもいるし」
「あー、この前びっくりしたよ。以外と大食いキャラなんだよね。何気なく好きな食べ物聞いたら、びっくりするくらい羅列してきたよ」
そんな話をしながら登校し、授業を受ける。すると、ユズが言っていた通り昼休み前に学校にダンボールが届いた。それを4人で囲んで開封式になった。
「ダンボールは以外と普通なんだな。エアメールみたくなんか歯磨き粉みたいな配色なのかと思ったんだけど」
「ちなみにエアメールのあの色は万国郵便連合が出来た当時にフランスが世界のトップだったから、フランスの国旗からあの色なんだよ。ダンボールについて豆知識は何にもないです」
「それどうしてもいれたかったんですか」
「いいから早く開けてみようよ」
ユキはそう言ってダンボールのテープにボールペンを刺して封を開ける。中には予想通り大箱の菓子が沢山入っていた。それにしてもアメリカンサイズなのかスゲー大きい。日本のスーパーでも見かけるオレオは洗濯洗剤みたいだ。
「どれから食べよっか」
ユキは箱の中にある菓子を目をキラキラさせて一通り出す。ふと、端っこの方にあるカップケーキが目に入った。ノートかなにかの切れ端にカタカナでファーストフードと書かれていて、右端には名前の代わりにヒマワリの絵が描かれていた。
「ファーストフード?」
「先に食べてってことですかね。ファーストイートとかの方がいいと思いますけど、まあそれも合ってるのか分かりませんけど」
「うーん、正確にはイートファーストかな? ヒマワリちゃんが言うんだしこれからにしよっか」
言うが早いか箱を開けると、これまた大きなカップケーキが三つ入っていた。色も凄い、一つは卵っぽい薄黄色の色だが、ひとつは真っ赤、もう一つは真っ黒だ。
「流石アメリカ。日本人の発想にはない色使いだね。青いのもすごいけど、赤い方も消防車くらい真っ赤だもんね」
「少なくとも、食べ物の例えで車の名前は出てきませんね。それで、誰がどれを食べますか?」
そうして今に至る。
「最初から僕の分は入ってないだろうし、別に僕は——」
「勝負で決めるしかないでしょ」
椿は遠慮する様子を見せていたが、ユキらしからぬ好戦的な発言を聞くと、自分のバッグをゴソゴソとあさりに戻った。