ウイングスパン④
「それじゃ、私の番ですねミズイロアメリカムシクイでボーナスカードを2枚引いてどっちかを貰います」
片方は「先見の明のある指導者」ゲーム終了時に手札が多いほど得点になるカードこれはダメだ。さっき引いたカードをいれても2枚。しかも出す予定です。もう1枚は「森林官」森にのみ住む鳥カードの数か、あれ? いままでの子も今から出そうとしている子も森だけだ。
「よし、こっちにします」
「お、さてはいいカードを引いたね。思わぬところでいつの間にか鳥が勝手に協力してたりするから、コンボが決まって楽しいよね」
「それじゃ次は私の番ね。えっとねー」
何気なく椿一也が言った言葉で、自分が楽しんでいることに気が付きました。周りを見回すとみんなが楽しそうでした。そうか、分かました。昔みたいになりたいなんて考える必要なんてありませんでした。今が楽しい。それは間違いない。だったら楽しめばいいんです。
「ふっふっふー。ふが6つ」
「いや、3つだったぞ」
「僕はかなり順調だよ。さあ、僕に勝てるかな。矢口さん」
椿一也が得意気に笑いながらこちらに手をクイクイと招いて挑発してきます。
「ユズでいいですよ。私もかなり順調ですよ。カズヤ」
麦のコストと卵を2個ずつ払って、最後の森のエリアに鳥カードをプレイしました。
「おっ、イスカだ。でも勝利点はせいぜい6だし、卵を使ってるから実質4点だし、卵を産むのと大して……さっきボーナスカード引いてたっけ、ちょっとまってえーっと、あのカード引かれてると、マズイような気が」
余裕そうな顔が崩れました。手応えありです。
点数計算をすると、私が89点。ユキちゃんが83点。コウタくんが82点。カズヤが75点でした。
「いや、気持ちは1位だったんだけどね」
「最後にイスカを出さなくてもカズヤには負けませんでしたね」
「私は悔しい。最後のイスカで実質12点なんでしょ? 惜しかったなー」
「俺はお前らにカード引かせるんじゃなかったよ。欲張ったなー。正直なんの意味もなかったし」
プレイを振り返りながら、わいわいと盛り上がりました。
翌日。カズヤはまた鳥の集まる広場にいました。地べたにあぐらをかいて左右に首を振っています。
「イスカはいましたか?」
「うーん。珍しい鳥なんだね。なかなか会えないよ。そもそも本当にここにイスカが来るの?」
「来ますよ。私もここで見たことあります」
振り向かずに応えるカズヤの横に私も腰を下ろしました。残暑を少しの間忘れさせる風が吹き抜けました。ふと近くの木の枝に目をやると、褐色の体と白黒の頭の模様が目立つヤマガラがいました。
「あっ、あっちあっちヤマガラがいますよ。結構人懐っこい鳥ですよ」
「本当に? おーいおいでー」
「流石に野生ですからね。来てはくれませんね」
ヤマガラは羽を繕うと、ニーニーと鳴きながら飛んでいきました。その姿を二人で見送り、私はスクールバッグから水筒からお茶を注ぎ、カズヤに渡しました。
「おっ、気が利くー。おっ、紅茶だ。この香りは……アールグレイかな」
「緑茶です」
ケラケラと笑うカズヤ。私も一緒に笑います。
それからやってくる鳥の解説を私がして、カズヤが冗談や豆知識をいったりして、のんびりと時間が過ぎていきます。その日はやはりイスカは見れず、二人肩を並べて帰途につきました。
「せんせー。イスカはいつくるんですかねー」
「待ってればそのうち見れますよ。見つかるまで付き合ってあげますよ。その代わりにまたボードゲームに誘ってください。また勝たせてもらいますから」
言えた。言えた。緊張した。ちょっと強引な流れだったかな。なんだか気恥ずかしくてカズヤの顔が見れません。
「おー、言ったね両方ともばっちり付き合ってもらうよ。それにしてもユズちゃんがボードゲームを好きになるきっかけになったのがウイングスパンってちょっと出来過ぎだね」
笑うカズヤの顔を見て、私も自然と笑みがこぼれます。私はカズヤにひとつ隠し事をすることに決めました。イスカが冬の渡り鳥だということです。
「好きになるのにきっかけは重要じゃありませんもんね」
「ん? ああ、そうだね。俺はボードゲームから鳥を、ユズちゃんは鳥からボードゲームをだね」
まだまだ日の長い夕方の道を、二人で歩いていきます。
まだまだ、冬は来ません。