ウイングスパン②
翌日の放課後。私とユキちゃんコウタくん、それと椿一也の4人で集まっていました。四つの机を合わせて私の向かいがユキちゃん、隣がコウタくん斜めに椿一也がいました。
「いいの? 放課後に教室使って?」
「うん、先生に言ったら6時に戸締りするからそれまでだったらいいってさ、2時間近くあるからインスト——じゃないや、ルール説明しても余裕あるよ」
「今回も街コロをやんのか?」
「いや、今回はこれ。てってれー」自分で効果音をいれながら取り出したのは正方形の箱でした。青地に真ん中に描かれている白とオレンジの体毛に、尻尾の長い鳥が描かれていました。
「タイランチョウ?」
「おっ、流石。エンビタイランチョウだっけな。このゲームは鳥が主役のゲームなんだ」
そう言いながら箱を開けると、椿一也は次々に小さなコマや鳥の巣箱? みたいな物を並べていきました。それから一人に一枚ずつボードを配り、また何枚かカードを配りました。
「お前この後、ちょっと驚くぞ」小声でコウタくんが言いました。
「え?」
「皆さんは鳥類愛好家です。学者なのか写真家なのかはたまた普通の会社員なのか、それは分かりませんが、この度鳥獣保護区を任せられることになりました。決して広い保護区とはいえませんが、餌を用意し鳥を集め、その鳥の力を借りながら鳥類の楽園を築きましょう。そしてあなた以外にも何名か鳥獣保護区を任せられた人がいるようです。彼らは同志であるとともにライバルでもあります。どうせならナンバーワンを目指してもいいんじゃないでしょうか」
まるで奇術師の如くうやうやしく一礼する椿一也。顔をあげるとあのへらへらとした顔に戻っていました。ていうか今のは説明書にでも書いてあるんでしょうか?
「それじゃルールの前にカードの見方を説明するね。それじゃ適当に……これだ。シロエリガラス。一番左上のマークがこの鳥が住める場所だね。ボードを見ると3列のマスがあるでしょ? こいつは真ん中に住めるってことだね」
ボードには緑色の木のマークと黄色い林のマーク、それから青い水辺のマークが描かれていた。ひとつのマークにつき5マスこのマークの鳥は5匹までってことですかね。
「その下に描いてあるのがこの鳥を出すのに必要な餌だね。ネズミとあと2つ、この5色のマークはなんでもいいからね。餌はネズミの他に木の実、虫、魚、麦で全部で5個ね。羽のマークの横の数字が勝利点。その下が巣の形、さらにその下が卵をおける数だね。それで右端にあるのがこのゲームのタイトルにもなってるウイングスパン。翼をバサッと広げた時の大きさなんだって」
「そうすると、このシロエリガラスは112センチもあるってことか」
確かに大きい、日本のカラスよりずっと大きいんじゃないでしょうか?
「そういうことだね。七五三の時の七歳の女の子の平均身長と同じだね」
「いや、だからなんなんですかあなたのその豆知識キャラは」
「レジ袋のMサイズと三角コーンを足した大きさと同じだね」
「いや、そんなんいりません」
椿一也はコホンと咳払いすると説明を続けました。それぞれ鳥には効果があり、簡単に分けて3種類があるそうです。カードを出した時、土地の効果を使った起動時、それから自分以外が何かをした
時だそうです。
「それでこのゲームで僕が一番気に入っているのは同じカードがないことなんだ。それで全部のカードにその鳥のフレーバーテキスト。豆知識が書いてあるんだ」
「へ~こんなにカードがいっぱいあるのに凄いね。ちなみにこの子は……チワワ?」
ユキちゃんはカードを片手に首をかしげました。
「あ? なんだよチワワって」
「いや、チワワ砂漠に生息してるって書いてあって」
初めて聞きました。チワワだらけの砂漠を思わず想像してしまいました。もうほとんどドッグランです。
「チワワ州にある砂漠だね。みんなご存知の犬のチワワはここが……ごめんなさい噓です」
「はい?」何言ってんでしょうこの人。
「豆知識言わなくちゃいけない流れになってしまったので、プレッシャーに耐えきれずに噓をついてしまいました」
「なんで勝手に自分でやり始めたことでプレッシャー感じてるんですか」
「うう、僕は楽しませようと……」
ん? あれ? 口に出てた? なんででしょうこの人相手だと本音が許可を取らずに出て行ってしまいます。
「まあいいや、それじゃルール説明ね。みんなには8個のマーカーを配るね。自分のターンになったらこのマーカーを鳥カードのプレイか、ここの3列の木か林か水辺のどこかに置いてね。鳥カードのプレイはさっき言った通りに餌をあげて鳥を出すだけ。同じ列にカードを出す場合は2匹目3匹目は1個、4匹目……5羽目は2個の卵も支払ってね」
途中で単位が気になったみたいです。
「それで木に置いたときは餌を貰って、林は卵を産んで、水辺はカードを引けるからね。そんでカードを置いてない一番左側のマークを処理してね。こんな風に林に1羽いる時は卵を2つ貰って餌を1個払えばもう1個卵を貰えるからね。それで起動時って書いてる鳥の効果も発動するよ。右側からこのチワワ砂漠に生息してるっていうシロエリガラスは……他の鳥が持ってる卵を1個使って好きな餌を2個貰える……と、強いな。引けた人はラッキーだね」