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街コロ③

 コウタは家から電話があったみたいで、片付けを私たち2人に任せて帰っていった。椿くんは片付けをしているその横顔もどこか楽しそうだ。本当にボードゲームが好きなんだな。ふと目が合う。すると椿くんはニッと歯をだして笑った。

「お、笑ったね」

 椿くんのその言葉で自分も笑っていたのに気が付く。

「それにしても、最後のユキちゃんのターンはすごかったね。あと一歩だったんだけどね」

「ありがとう。とっても楽しかった」

 その返事に思わず笑みが含まれるのが自分でも分かった。結局、私は勝つことはできなかった。あの時のサイコロの出目は7。自分が勝つわけでもなく、誰かを勝たせる訳でもない中途半端な出目だった。それでもやれることをやり切った達成感のような物が熱く胸にいるような気がした。

「それと……分かった気がする。椿くんが言いたかったこと」

 そう言うと片付け終わった街コロのふたをゆっくりとしめて正面に向き直った。幼さの残る顔立ちだけど、そこには優しさと凛々しさがあった。

「ユキちゃんはさ自分が何もできないなんて言ってたけどさ、そんなことない……っていうかそんなことのままじゃないに決まってるんだよ。店番だって最初はできなかっただろうし、いまさっきやってたこれもそうだよ。最初の小さい麦畑とパン屋だけの街じゃ電波塔を建てることなんてできないけど、今できることを少しずつ積み重ねていけば電波塔どころか空港だって作れる。きっとユキちゃんのお父さんはそれを伝えたかった……っていうのはちょっと飛躍しすぎかな。なんか気恥ずかしくなってきちゃった忘れて」

 照れたように笑う椿くんの横顔は少しお父さんに似ている気もした。

「もしかしたらお父さんは確かにそこまで考えてこれを買ってくれた訳じゃないかも。けど椿くんの言葉とこのゲームで元気付けようとしてくれたのは本当でしょ。今の私にはそれだけで充分過ぎるくらい……ねえ、なんで椿くんはボードゲームが好きなの?」

「面白いから。これに尽きるけど、聞きたいのは理由だよね。俺はテレビゲームもするけど、それと違うのはやっぱり人が見えることかな」

「見える?」

「うん、でも実際にって意味じゃなくて、その人の考え方とかって感じかな」

 ふと自分が少し前に考えていたことを思い出す。確かにそうだ。コウタは勝ちに少しでも早く向かって、椿くんは勝てる算段をたててた。私はなんだろ? 他の人から見たらわかるものなのかな。

「ユキちゃんは手探りだからプレイの癖はまだ分かんないけど周りをよく見てるね。俺がどうやって勝とうか気付くのも早かったし、自分がどうしたら勝てるのかを考えてたね。それって結構すごいことだよ」

 また笑って椿くんは言った。私は気を遣われてる気がするから褒められるのが苦手だ。けど、椿くんの言葉はすっと私の中に入ってきた。それは多分、椿くんの好きから生まれた言葉だからだと思う。

「また……遊んでくれる?」

「お、そんなこと言ったら、嫌だって言っても付き合わせちゃうからね」

 私の不安を丸ごと包んでしまう無邪気な優しさ。ああ、そうだ昔はこんな風にみんなで笑ってたな。よく、かくれんぼしたり、誰かの家でゲームをしたり、勉強をしたりもした。だけど、いつの間にかみんな別々の方を向いていた。コウタと遊んだのも凄く久しぶりだ。

「次は私が勝つからね」

 何が変わった訳じゃない。ただボードゲームをやっただけだ。それでも、明日がいつもよりも楽しみになった。

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