街コロ①
「よし、二人ともボードゲーム初心者みたいだしこれをやろう」
椿くんが机の上に置いたのはデフォルメされた山や家が描かれた青い箱だった。
「街コロ?」
「そう、これいいゲームなんだよ、俺のお気に入り。準備するからちょっと待ってねー」
「あ、ならちょっと俺、電話してくるからちょっと席外してもいいか?」
「オッケー、任せといてよ」
すると、コウタはポケットからケータイを取り出し表に出て行ってしまった。また二人きりになってしまった。
「ユキちゃんはさ、休みの日とかはいつもなにしてんの?」
椿くんが準備をしながら聞いてきた。
「えと、私は、宿題やって店番とか……」
「真面目なんだね」
「いえ、その私は、なんにも出来ないだけなんです。小さい頃はよくコウタとテレビゲームをやったりもしたんですけど、私、なにやってもダメで、対戦ゲームだと相手にならなくて、協力するゲームだといつも足を引っ張ってコウタを怒らせてました。だから、ゲームってあんまり得意じゃなくて……あ、ごめんなさい。これからやるのにそんなこと言ったらダメですよね」
「いや、いーよ。でも、なんでこのゲームがここにあるのか分かった気がする」
「え? それってどういう?」
そう聞こうとすると襖を開けてコウタが戻ってきた。テーブルに会い向かいに座る私たちの間に腰を下ろした。
「悪い。待たせたな」
「いやいや、それじゃあルールを説明するからね」
テーブルの真ん中には15種類のカードが並べられている。箱に描かれた山や家と同じタッチでコンビニやカフェが描かれていて可愛い。それとはまた別に4枚工事中のマークが描かれたカードと、麦畑とパン屋のカード、それとお金なのかな? 丸いチップが3枚、それぞれみんなの前に置いてある。
椿くんはゴホンとひとつ咳払いをして、芝居がかった喋り方で説明を始めた。
「皆さんはある街の町長です。ですが、まだまだ発展途上。広大な土地を有していながら、街には少しばかりの麦畑とパン屋が一軒あるのみ。それはそれで穏やかで素晴らしい街とも言えるでしょうが、このゲームでは経済的な発展を成すことを成功とします。駅を用意し利便性を高め、ショッピングモールを作り地元経済を活性化させ、遊園地を誘致し観光客を呼び込み、大きな電波塔を建てることによりこの街の存在を大きく知らしめる。それがこのゲームの目的です」
かわいい見た目に反してなかなか難しそうな内容だ。こんなの私にできるのかな。すると、私が難しい顔をしていたのか椿くんはフォローするように付け加えた。
「あはは、ごめんね。ボードゲームの説明書ってこんな感じで書いてあること多くてやってみたくなっちゃっただけなんだ。簡単にいうとお金を稼いで自分の街に建物をたくさん建てようってだけ、お金を稼ぐにはこれ」
椿くんはわきに置いてあったサイコロをつまみ上げると、それをボールでも扱うように手元ではねさせる。
「このゲームは1人ずつ順番に進んでいくんだけど、自分の番になったらまずサイコロを振ってもらいます。サイコロを振ったらカードの上に数字が書いてあるから、その出目の効果が発動しますよっと、お、ちょうど2だ。この場合パン屋の効果が発動して、1コイン貰える」
手元のパン屋を確認すると2~3と書かれている。麦畑は1を出すとか……あれ?
「おい、麦畑おかしくないか? パン屋は2でも3でもいいのにこいつは1じゃないとダメなのか?」
「お、鋭いね。カードはこの後説明するランドマーク以外だと赤、青、緑、紫の4種類で、それぞれ発動のタイミングや制限があるんだ。青のカードは自分が出しても誰が出しても効果が発動する。緑のカードは自分が出した時だけ、赤いカードは他の人が出した時だけ。紫のカードは自分が出した時だけに発動して同じカードは2枚以上持てないから注意してね。それと地味に重要なのがカードの発動の順番ね。赤の次に青緑、その次に紫が発動するから覚えといてね」
真ん中にならんでいるカードに目を向けると、赤いカードのカフェの効果は3を出したら1コインあげなくちゃいけない効果か。
「このカフェでお金がない時はどうなるんですか?」
「借金のシステムはないからそこは無銭飲食でオッケー。ないものは払えないと開き直っていいよ」
思わず笑ってしまう。この人はまだ説明しているだけなのに凄く楽しそうだ。でもそっか、だから順番が重要な訳だ。
「そんで次はお買い物だね。真ん中にあるカードを自分の左下に書かれているコインを払って好きなのを1枚だけ買える。買ったカードは自分の前に置いてね。さっき言った事と被るけど、同じカードは何枚でも買えるけど、紫のカードは同じカードは買えないからね。それでこっからが最重要。買い物をする代わりにコインを払って自分のランドマークを建設できる。完成させたランドマークの効果が使えるようになるよ。そして4枚のランドマーク全てを完成させた人の勝ちだ」
なるほど、この4枚か……ってあれ?
「あ、あの」
「ん? 質問?」
「いや、あのこのランドマークのカード高すぎじゃないですか? この電波塔なんて22コインって無理な気が……」
「そう見えるかもね。でもやってみれば分かると思うよ」
椿くんは鼻を鳴らして笑った。そして私の忘れられないゲームが始まった。