第8話 ギルドからのお誘い
遅くなってすみません……。
今日はギルドに行く。というのも、なぜかギルドマスターに呼ばれているのだ。
…いや、ほんとになんで?なんかやらかした?
「失礼しまーす…」
緊張しながらギルドマスター室に入ると、ムキムキのおじさんがいた。
「おお、君がリナーテか。俺はギルドマスターをしている、ムデンタっつー者だ、」
「よろしくお願いします。…で、なんで私はここに呼ばれたんですか?」
本題に入ってもらわないと。
「それなんだが…頼む!ギルドで飲食店をやってくれないか!」
なんで?ほんとになんで?
「何でですか?」
「実はな、料理ができる冒険者にギルドで飲食店をやってもらってたんだが、その冒険者がフナテーユにやられてな。」
すみません。フナテーユって何ですか。
「あ、フナテーユとは、魚の形をした、肉食の魔物です」
げ、魔物か。でも魚か。美味しいのかな?
「そこで、信仰祭で人気が高かったお前を呼んだんだ」
「あ、リナーテさん、シチューごちそうさまでした。美味しかったです」
「良かったです」
やっぱりほめてもらえるのはうれしいな。
「くっ、俺も食いたかった…。」
あはは、食べられなかったんですね…。
「話戻しますけど、ちゃんとお給料、出ますか?」
「ああ、もちろんだ。材料費もギルドが負担するぞ」
まあ、それならいいか。
「わかりました。飲食店、やりましょう。」
「ほんとかっ!助かる!」
ムデンタさんがたちあがり、ずいっと顔を近づけてくる。
ちょっ、近い…。
「そ、その前に!お二人に見てもらいたいものがあって!誰にも言わないで下さいね。絶対ですよ」
2人が頷いたのを見て、私は夕食の買い出しも兼ねてスーパーを開く。
「え…。」
「な、なんだこれは!?見たことがないぞ……」
「私のスキル、スーパーです。ここでは異世界の物が買えます。」
「「いっ、異世界!?」」
あー、いきなり言われても、信じられないかな?ま、実物見れば信じてもらえるか。
「あ、あと、私と朱里、異世界人です。だから、黒髪なんですよ」
「ぶっ」
「…。」
「ま、とりあえず入りません?」
「そ、そうだな…」
私とムデンタさん、ザルアさんの三人で店内へ。
「いらっしゃいませー」
店員が暖かく(?)迎えてくれる。ムデンタさん達は並んでいる品物にポカンとしている。
今日の夕御飯は朱里が食べたいと言った鯛のお刺身。カスミもいるのでちょっと多めにブロックを買っておく。
「リナーテさん、これ何ですか?かわいいです」
見たことない物にザルアさんが少し興奮気味に聞いてくる。
ザルアさんが指差しているのは、パンコーナーにあるイチゴ味のチョコがかかったドーナツだ。
「それは『ドーナツ』です。甘くて美味しいですよ」
「ドーナツ…。一つ買って良いですか?もちろん自費で」
「いいですよ。このかごに入れといてください」
「ありがとうございます」
ザルアさんが目を輝かせて周りを見渡す。
「…なるほど、これは、ほかに言ってはならないな」
「でしょう?言わないでくださいね、約束ですよ?」
「もちろんだ。」
分かってくれたようで何より。
「リナーテ、これは、何だ?いいにおいだ」
ムデンタさんが気になっているのはカレーの試食。
…いや、カスミに続いてお前もかよ!
おっと、お前なんて言ってはいけないね。
「今家にありますけど。昼食、ご馳走しましょうか?」
「いいのか!」
「良いんですか!」
結局は、ムデンタさんとザルアさんを家に招くことになった。
「ただいまー」
家に帰ると、カスミと朱里が出迎えてくれた。
「お帰り、リナーテ!で、その人誰?」
そうか、カスミはムデンタさんとは初対面だよね。
「こちら、冒険者ギルドマスターのムデンタさん。あ、朱里、お刺身買って来たよ」
「やったー!早く食べよう!お腹減ったー」
「あ、お二人共、どうぞ、上がって下さい」
「「おじゃまします…」」
さて、早速昼食だ。朱里がお腹減ったと言っているので、お刺身から準備することにした。
パックから出して、薄く切っていく。
このくらいは上手にできるんだよ、えっへん。
…嘘です、できないことはないけど、めっちゃ下手です。
まあ、頑張って練習するしかないんだろうけどさ。
私がぎこちない手で刺身を作っている横で、カスミがカレーの鍋を温めている。
なんと!カスミが手伝ってくれるようになったのだ!家で家事をこなす私の代わりに、カスミと朱里で任務に行って、稼いで来てくれるのがとても助かる。
「あ、そうだ。朱里、ムデンタさんとザルアさんにお茶をお出しして」
「うん!」
さすがにお茶は出した方が良いよね。でも、朱里めっちゃええ子やん。助かる~。(二回目。)
「リナーテ、カレー出来たよ」
「こっちも、お刺身出来た」
カレーと刺身をテーブルに置く。
「「「「「いただきます」」」」」
それを合図に一斉に皆が食べ始める。
「ほう、これがカレーか。美味いな」
「ほんとですねぇ。ピリッと辛くて美味しいです!あ、この朱里さんが食べているのは何ですか?」
「これはねぇ、お刺身だよ!お魚なの」
「へえ、魚なんですね、これ!初めて見ました。ひとつもらっても良いですか?」
「うん!」
そして、ムデンタさんとザルアさんは、カレーと刺身を堪能して帰って行った。
いいねぇ、この雰囲気。この幸せが、ずっと、続くといいな。
その日の夜。ムデンタとザルア、そしてこの地を治めている、アポーロ伯爵は、冒険者ギルドギルドマスター室に集まっていた。
「あの貴重な人材は失いたくないですね。」
「うむ、土地を治める者としても、あの少女は確保しておきたいな。いきなり起こった魔物の増加、そして現れた、黒髪の少女。何か関係があるのか?」
「分からないですな。だか、関係ないとも言い切れない。」
「ほう、何か、知っているのか?洗いざらいしゃべれ」
ムデンタは迷っていた。伯爵には嘘をつきたくない。だが、リナーテたちとの約束がある。だが――――――――。
「…いえ、何も存じません。」
ムデンタは、約束を優先させた。
「そうか。だか、あの少女は逃がすなよ。」
「…はい」
ツーゼさんの名前の由来は交通安全です。