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第一話『神は言っている、気がした…。化け物を倒し、美少女を救えと』

プルルル…プルルル…




目覚ましが鳴ってから三十分、耳元で鳴るやかましい時計に気が付く。




「えーいうるさい!」




ポチッっとボタンを押したが、誰一人クレームをつけずに目覚ましが三十分間も鳴り続いていたのは


この壁の薄いアパートのおかげで奇跡といっていいだろう。




寝起きの髪はギザギザだった、物に例えるならウニのギザギザ、ハリセンボンのぷくぷく状態、それくらいにギザギザに跳ね上がっている。




「はあ、今冬だってのに…」




寝起きの体をフラフラとさせ、台所で黒髪を隅々まで濡らす、流石に極寒の寒さの中の水は耐え切るのが精一杯だ。ドライヤーで急いで髪を乾かし、さっきまでギザギザに突っ張っていた髪もいつも通りのナチュラルヘアーに変身、耳元の髪以外は…。




ナチュラルヘアーは皆と同じナチュラルヘアーではなく、耳元二箇所の髪がふさふさと立っている状態の事をいう。




「だあああ!!!勢いで直ると思ったのにくそっ!」




頭を抱え涙目になる執行だったが、当然くせ毛を直そうと試みた事は何度もあり、




何度も失敗していた。




彼にとってこのシチュエーションも実は朝の日課のようなものでもあったのだ。








「こんなあほな事やってないで、仕事行くか…今何…!?」








時計の針を見て気づく、どうして三十分も鳴り続いた事には気づいているのに、




遅刻している事には気づいていないのか。








そういえば中学の頃、先生の話を全て聞き流した自分を見て、女子に天然だねと言われて笑われた事が何回かあった、当時は褒められたと勘違いして照れていたが今になって気づく。




天然は天然でもただの天然バカとして皆からは笑われていたのだと。








「くそお!!!」








こうして天然バカの僕こと、執行遠矢(しぎょうとおや)の一日が始まった。








時刻は八時二十分、本来は八時には着かないと遅刻として扱われる事になっている。




更に怖かったので遅刻をするという報告の電話一本すらしないでいる状況に陥っていた。








これで十八歳とかならまだ可愛いもんだと少し注意されるだけで終わるだろう、しかし残念な事に僕は二十七歳だ…。








雑居ビルの三階までゆっくりと階段を上り、覚悟を決めたところでドアを開けて慎重に部屋に入る。




周囲の視線は皆僕に集まり、誰が入ったかを確認すると視線はパソコン画面に戻る。








それは社長も同じだった、ど真ん中の最奥にいる社長は二十三歳、大卒で入社し社長の親が退社すると共に社長になり、わずか一年にして不況だった会社を黒字経営にしたエリートだ。








一方の僕は、高卒入社して九年も経つのに平社員のまま、文句を言いたかったが、社内の僕の評価は、遅刻はするし、仕事は遅い、とても文句なんて言える立場ではなかった。




席に座ると同時に「またですか。」と若社長の呆れた一言、生憎僕の席は社長のすぐ近くにあった。








「すみません、うちの母さんが具合悪そうにしてたもんで…」








「それなら仕方ありませんが、遅刻する時はちゃんと電話はして下さい」




咄嗟に思いついた言い訳も一蹴される、何か返す言葉を考えていたが何も浮かばなかった。








「すみません…」








時刻は十七時、定時退社が規則だったこの会社では次々と社員が部屋から出ていく。残されたのは若社長と僕だけだ。








「仕事まだ終わってないので今日も残ります。」




「そうですか、戸締りは必ず忘れないようにして下さい。それではお先に失礼します」








ガチャっとドアが閉じ、部屋に残っているのは僕一人だった。




僕がこの会社で生き残っているのには訳があった、それは進んで残業をやらせてくれと頼むことだ。もちろん、定時退社出来ればこんな良い環境の職場他にはないだろう。








しかし、皆よりも鈍間な癖して同じ時間に帰るとなればこの会社から消されるのは間違いないだろう。




無言の圧力、僕はそれを感じ取っていた。残業代は当然もらうが、人一倍仕事が遅いので残業しても会社の利益になりはしないだろう。夜中の十時、仕事はようやく終わり、帰宅する事にした。








プシュッと音が鳴り、ビールの栓を開く。








「グビグビグビ…ぷふぁ!」








これで四本目、僕の顔は真っ赤になっていくのが分かる。


つまみのポテチをバリバリとかみ砕く。








「くそお…何で僕だけこんな目に遭わなきゃならねえんだ、ふざけやがってよお…」








誰一人いないワンルームアパートで愚痴をこぼすも、ただ虚しく響いていくだけだった。ポテチをかじり、ビールを飲む。




この動作が続き、五本目の栓を抜いた時は身体はバタリと倒れていた。








「はあ…僕はこんな平凡な生活本当は送りたくなかったんだよ、超能力者になって、




美少女と付き合って、化け物をぶっ倒す、小さい頃からそれを夢見てたってのに何やってんだよ僕は…」












右手を上げ、手のひらをじっと見つめる。




酒の飲みすぎで視界はぼんやりとしていた。視界に映っているのはぼんやり映った手のひら。




その後ろには緑色の眼で、背中まで伸びきったサラサラで綺麗な青髪に、透き通った白色の肌を持つ超美少女。そしてその横にいるのは今朝の自分を見るかのような、ギザギザで橙色の髪を持ち、まるで般若のような形相で睨みつける黒色の眼と緑色の肌をした裸の化け物。




更に体の調子は最高潮になり、視界のぼんやりも一瞬にして消えた、おそらくこれは超能力だ。












神は言っている、気がした…。化け物を倒し、美少女を救えと。



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