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伯爵令嬢の禍福得喪は舞踏会の音楽と共に(48)

 夏の太陽が、雲の間から顔をだす。

 ロンディウムの空は、気まぐれなことで有名だ。

 突然、泣き出すこともたびたびある。けれど、すぐに泣き止むので、男性で傘を持つ人は少ない。

 一日の天気が変わりやすく、霧雨が多いので、傘は不向きなのだ。


 淑女は日傘を持つのが日常的なので、ドレスを汚したくないのもあって傘をさす。


 パークを行く無蓋馬車は少なかった。


 少し湿ったドレス。

 曇天なのに馬車を走らせたのは、もしかしたら、アーサーがパークで乗馬をしているかもしれないと思ったから。

 彼は昨日、ロンディウムに戻っていた。


 アーサーはロンディウムにいるときは、かなり頻繁に、朝方のパークで馬を走らせる。

 けれど、今朝は姿を見せなかった。

 きっと開催されるビヨンヌ伯爵の仮装園遊会の準備に余念がないのだ。


「屋敷へ戻ります」

 御者に命じる。

 濡れた緑の木の葉はアーサーの瞳を連想させた。


 パークから帰ってきたナターリアは、整えられた浴室に向かう。

 壁はえんじの花が散った白いタイル。部屋の角には、天使の指先から水が流れ出ている。

 お湯をつくる大釜にも優美な飾りが施されていた。大釜から汲み上げられた湯が、浴槽に張られている。

 ナターリアは泡立てられたシャボンの中にゆっくりと身を沈めた。


 アーサーに会えず、少し落ち込んだ気持ちを切り替え、仮装園遊会について考える。


 皆様、どんな衣裳を着ていらしゃるのかしら。


 王家のしつらえは、すでに流布されていた。

 いつものことだが、他の出席者が王家の方々と同じにならないように、おおっぴらではないが、どのような衣裳かリークされるのだ。



 メイドのルチアが髪に湯を注ぐ。 

 遠いインディアの植物、シシカイと最近手に入れたブルーロータスの精油で作った洗髪用の液体でルチアが丁寧に髪を洗ってくれる。シャボンのように泡は立たないが、頭がさっぱりとする。

ルチアが着るモスリンの浴室用のローブが濡れて体の線を浮かび上がらせていた。

「お熱くはございませんか?」

「ちょうど良いわ」


 洗髪が終わると、ナターリアはしばらく眼を瞑った。

 マデリンが考案したドレスと仮面。

 それを見た母のケイトリンは自分で、どのようなドレスにするか決めたのにも関わらず「わたくしもマデリンに創ってもらう」と大騒ぎした。

 結局、マデリンがケイトリン考案のドレスに少し手を加えた。

 クロヴィスの仮装は斬新だ。

 弟の仮装を考えて、ナターリアはくすりと笑った。



 眼を開けて、ナターリアは軽く布で体をこする。使用人に体も洗わせる貴婦人もいるらしいが、ナターリアはこれは自分で行う。

 浴槽から出ると、別の容器に用意されていた湯でシャボンを落とす。


 ローブを羽織って、外に出れば、メアリーアン達、メイドが待っていた。

 差し出されるぬるめのお茶で喉を潤し、爪を整えてもらう。それから専用の階段を使って、二階に上がった。


 時間はもうしばらくある。

 ナターリアは部屋で少し寛ぐことにした。


 テーブルの上には今朝アーサーから届けられたカードと花。

 そして、小さな貝殻。


 アーサーはカルプ島に行くと必ず、貝殻をひとつ贈ってくれる。


 Seashell. Seashell.

 Do you know how he spent on the island?


 Seashell. Seashell.

 Can you tell me his secret?


 けれど、貝殻は沈黙を守るばかり。


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