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伯爵令嬢の禍福得喪は舞踏会の音楽と共に(46)

 仮装の効果を考えると、三人でビヨンヌ伯爵邸を訪れるのが良いということで、ナターリアはすぐにアーサーに、エスコートは無しでと手紙を書いた。



 カルプ島に滞在中のアーサーに届くのは、速くて四日後。

 すぐに返事をくれても、八日以上かかる。

 もしかしたら、手紙が届く前にアーサーが帰って来る可能性もある。

 バイアール公爵邸にも、手紙は出してある。


 アーサー様は、別のどなたかをエスコートなさるのかしら。


 自分で決めたことなのに気になってしまう。


 アーサーからの返事を待つ間に仮装の準備といつもの社交。


 ゲオルクとコンラートの茶話会のために西の離宮へも訪れた。


 その時は、ミゼルコルド氏が同席してパリシア語での会話になった。

『ムッシュー・ローエとはお親しいのかしら?』

 同席していたレディ・エマがミゼルコルド氏に問いかけた。

 ミゼルコルド氏もローエ氏も言語に関わる仕事をしている。

 知り合いでないほうがおかしいのだが、ミゼルコルド氏から、ローエ氏の話題が出なかった。それに疑問を持ったが故の、レディ・エマの発言だった。


『パリーシャ大学では、少々交流がありましたが、彼が大学で助教授になる前に、私はアンゲリアに渡りましたから』

『ローエ氏は昨年からロンディウムに来ていらっしゃいましたが、こちらでは一度も?』

 同じパリシア人、同胞なのだからこちらに来てからの方が交流が深まるのではとナターリアは思っていたが、そういうものでもないらしい。

『彼も私もなにぶん忙しくて。彼はロンディウム博物図書館で、私は、王宮へ伺う時以外は、オックスブリッジにおりますから。ビヨンヌ伯爵の園遊会で久々の再会になります』


 そうえば、ミゼルコルド氏は見学会にもいらっしゃらなかった。

 古代エギュプト、神聖文字には興味がおありでないのでしょうか?


『私は、古ブリュー語と古パリーシャ語についての研究をしていますから、少し専門がちがいます。ロンディウム博物図書館のモレス氏とはたびたびお話させていただいておりますが、ムッシュ・ローエとは何故か、どの会合でもお目にかかれないのです』

 彼は、シャルマンですから。ミゼルコルド氏は少しばかり含むように話す。

『男同士の付き合いより、女性といる方が脳が活性化すると、パリーシャ大学の教授に言ったそうです』

『僕もその意見には賛成です。レディ方がいると、気持ちがしゃんとしますから』

 どうとったのか、コンラートは、レディ・エマとパーシー家の二人の令嬢に生真面目な顔で言った。

 席にいる淑女達は苦笑をする。

 男女の機微にもうそれほど疎くはないからだ。

『さようですね。美は人の心に喜びを与えますから』

 けれど、そんなことをさらりと言う、ミゼルコルド氏もなかなかのシャルマンである。


『みながどんな仮装をするのか、私も楽しみにしている。けれど、いつもより美しくなったあなた方が判らないかもしれぬな。その時はそっと名前を教えて欲しい』

 ゲオルクにまで、感化されたように、言うことがシャルマンめいている。


『判らないからこそ、面白いのでしてよ』

 レディ・エマはいたずらっぽく人差し指を唇に立てた。


 話は、そのまま前世紀パリシアで開催された、有名な仮装舞踏会についてとなった。



 それから、五日の後、アーサーからの返事が届いた。


 "エスコートできないのは残念だけれど、君を見つける楽しみがあるね。

 うまく見つけられたら、何かご褒美をくれる?口づけを十回というのはどうかな?

 もちろん、純情な君だから、頬にしてくれれば良いよ"


 ここにもシャルマンがいますわ。


 緩む頬に気がつかず、ナターリアはアーサーの手紙を他の人に読まれないように、そっと仕舞いこんだ。

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