表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/120

伯爵令嬢の禍福得喪は舞踏会の音楽と共に(37)

「殿下、ご招待いただくことは光栄でございます。しかしながら」

 ナターリアがやや大きな声で言いかけた時、コンラートがミフィーユの腕を解いてこちらに来た。


「ナターリア姉様は、僕と会うのが嬉しくないの?」

「コンラート、ミフィーユ嬢のエスコートを続けなさい」

 ゲオルクが無作法な弟を叱る。すぐに引き下がると思いきや、コンラートはクロヴィスに命じた。

「イングラム子爵、僕に代わってミフィーユ嬢のエスコートを」

「心得ました。ユア・ハイネス」

 空いたミフィーユの手を、思いのほか馴れた手つきでクロヴィスが取った。

「ごめんなさい。オナラブル・ミフィーユ。しばらくクロヴィスの相手をしてあげて」

「承知しました」

 ミフィーユの返事を聞くと、コンラートが挑発するように顎を上げて、ゲオルクを見上げた。

 ゲオルクは、弟に対してどうするか決めかねているようにコンラートを見下ろす。


「申し訳ありません。レディ・ナターリア。茶話会への出席、毎回の出席は私が強く望んだことです」

 いきなりコンラートがその場に膝をついた。

「レディの気持ちや予定を考慮せず、乳兄弟の気安さゆえ、お誘いいたしました。ただ、レディ・ナターリアとイングラム子爵の二人がいると僕、私は、何事にも勇気をもって臨めるのです」

 コンラートがひたとナターリアを見つめて言う。

「それは、わが未熟さゆえではありますが、どうか、今しばらくの間、お許しくださらないでしょうか?」

 立派な言葉の後に、コンラートの唇が“おねがい”と動いた。

 誘うような、甘えるような眼差し。


「コンラートは利発だが、まだ子供だ。大人に囲まれての茶話会に、慣れ親しんだ二人が共にいてくれると心強いらしい。離れて育ったせいか、私はあれの望みに弱い」

 ゲオルクがため息をつくように弟に味方をした。

「わかりました。ゲオルク殿下。コンラート殿下」

 ナターリアが言ったとたん、コンラートの顔が笑み崩れた。

「ありがとう。ナターリア姉様」

 ぱっと立ち上がってコンラートはナターリアの空いている方の手を両手で包み込むようにして、口づけをする。

 ナターリアは子供の頃のように叱りつけようとして、慌てて口を噤んだ。

「ごめんなさい」

 コンラートが手を離してあやまる。

「殿下は本当に、まだまだ子供なのですわね」

 姉としての口調でナターリアは嘆息した。

「コンラート、今回は許すが、ミフィーユ嬢に正しく償うように」

 ゲオルクは自分の命を退けた事の許しと、ミフィーユにした無礼についての償いを口にした。

「承知しました」

 コンラートがしおらしげに礼をした。再び、ミフィーユの手を取ると彼女に微笑んだ。

「お詫びに、私から、花をお届けしますね。それでお許しいただけますか?」

「もちろんですわ、コンラート殿下」

 ミフィーユの声は心持ち上ずって響いた。


 その様子を見守っていたナターリアにゲオルクが小さく呟く。

「許せ、先ほども言ったが、私はあれに弱い」

 いえ、それは私も同じとナターリアは(かぶり)をふる。


 ゲオルク殿下の思し召しではなかったのですわね。


 ナターリアは胸を撫で下ろしたが、何故か別のざわつきを覚えた。


「だが、そなたの言うことにも一理ある。次の茶話会には、今まで出席した者も、二人ほど招待しよう」

 ゲオルクがナターリアの意を汲んでくれた。


 それならば、ナターリア達だけが、二度、三度と招待を受けるわけではなくなる。

 最初に約束した形にも近づく。


「ご高配、ありがとうございます」

 感謝を示すナターリアにゲオルクは笑いを含んだような声をだす。

「わがシャヘラザードに強請(ねだ)られては、な」

 今度は、ゲオルクが彼女をアラビアンナイトの姫に例えた。

 いや、彼女は姫ではない。王の妻なのだと思い至り、ナターリアの身がわずかに震えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ