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伯爵令嬢の禍福得喪は舞踏会の音楽と共に(33)

 ロンディウム博物図書館から理事会へ提出された推薦状は全部で19通。


 ナターリア達が選んだ十人は、全て含まれている。

 それはナターリアの選定が間違っていないことを意味するが、これだけ固まってしまうとかえって厄介だ。

 ナターリア、クロヴィスを含む十二名を見学会の参加者に推したのはアーサーとタジネット侯爵だ。

 何らかの手心を加えさせたのではないかと邪推されかねない。


 もう少し多いかと思ったのだがな


 タジネット侯爵は、心の中で呟く。


 タジネット侯爵は、ナターリア達が連れてきた内、半分は評価に満たず、また、30人ほどは推薦文が届くと想定していた。


「学者殿達の採点が厳しすぎるようですな」

 タジネット侯爵は推薦文の一枚をテーブルに置いた。

「もう、十名ほど、追加をしてもらいましょう」


「いや、それはどうですかな」

 意外な人物から反対の声が上がった。

 ソールズ伯爵だ。

 彼はビヨンヌ伯爵と大変親しい。

「ニコラス・ジャン・ローエ博士は、パリーシャ大学でも、採点に関しては、たいそう辛口だったと聞いたことがあります。しかし、判定の水準をあえて下げる必要がありますか。それとも、タジネット候は具体的な誰かが念頭におありですかな」

 ソールズ伯爵は、意味ありげな視線を一同に投げた。

 まるで、タジネットの意中の人物が、推薦されていないから、人数を増やしたいのだと言うように。


 タジネット侯爵は彼の発言に苦笑をもって応えた。

 彼はタジネット侯爵の知己であるアンソニー・ランフォードのことを指しているのだと判ったからだ。

 ランフォードはタジネット侯爵の地領の大地主の次男であり、オックスブリッジに通う学生だ。

 見学会には参加をしていたが、彼は政界を目指しており、知識を広げるより、顔を広げるのを目的としていた。


 王太子との面談はアンソニーには願ってもないだろうが、タジネット侯爵の見るところ、性質はそう悪くはないが、日和見的なところがあり、王宮にはあまり近づけたくない男だった。


「女性が半数近くになりますので、もう少し男を増やせれば良いと思いましてね」

 タジネット侯爵はあくまでバランスの問題だと主張する。

「かのレディ・ミランダのご夫君とは思えぬ発言ですな。この結果はご婦人方が発奮した成果ではないですか」

 ソールズ伯爵が揶揄(やゆ)を込めて発言した。

 彼は、どうでも、この人数で行きたいらしい。タジネット侯爵はもう一度、対象者の名を頭の中で確認した。


 ミダルトン子爵令嬢ミフィーユ。彼女の姉、シオドラは、ソールズ伯爵の長男に嫁いでいた。

 いわば、義理の姪が候補になっている。

 そういえば、オックスブリッジのパーシー教授はパブリックスクール時には監督生に選ばれており、隣に座る副理事のアルフォード伯爵から、パーシ教授のファグを務めたと聞いたことがある。


 寄宿学校の寮には一つの寮につき、下級生を指導する監督生が数人置かれる。

 監督生には、ファグと呼ばれる下級生が監督生の世話をする。

 ファグは従者のように、監督生のためにお茶を入れたり、靴を磨いたりして監督生に仕える。

 時には、階級が下の者が上の階級に属する人物を指導し、自分の身の回りの世話をさせることもある。


 パブリックスクールのファグ制度は批判もあるが、年齢や身分を越えた絆を生むことも多い。

 グリニッジ家はロンディウムでも由緒あるバソロミュー教会とその孤児院と病院の支援者である。

 ウェインテッド家のグレイシーは若年ながら、詩作で名高い。

 ユージェニー・フロリッツは、二人の学者があえて優劣をつけるならば、第一席は彼女だと書いてきた。

 アルトブラン家のエマ、コンラート殿下の乳兄弟であるゴールディア家の二人は言わずもがなだ。


 タジネット侯爵はここまで一言も発言していないアーサーに視線を送る。

 ナターリアが親類の縁故を知っていて、参加者を意図して選んだのではないだろうが、アーサーは知っていたに違いない。


「聞き及びますに、ゲオルク殿下、コンラート殿下はレディ・エマと共にいた方々とロンディウム博物図書館で話が弾んでおられたとか。その方々がこうして選ばれている。流石に、タジネット侯爵らの推薦した人物と感服しております」

 副理事のアルフォード伯爵が、さも感心した(てい)で言う。


 残りの理事も十九名で問題がないとの態度だ。

 見学会に集められた若者の多くは、理事らが推薦した。つまりは、そういうことなのだろう。


「では、問題ないということで、この19名のレポートをゲオルク王太子殿下の元へお届けしましょう」

 沈黙を守るバイアール公爵を見据えながら、タジネット侯爵は会合を締めくくった。




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